ウチの艦隊は今のトコ、旗艦ガナドール号と、キャラック級、ナオ級、それぞれ一隻ずつで編成されている。
旗艦ガナドール号はウチの提督サルヴァドルが乗り、水と食料を積んだナオ級は、新米航海士のアフメット・グラニエが操っている。
そいでもって、キャラック級には。
「…で、なんでお前がこの船にいるんだ?」
黒い肌をしたサルヴァドルの補佐役が、不機嫌そうにオレを見る。
「そりゃあ、大センパイの操船技術を是非見習いたいと。」
「ああそうかい、そいつは光栄だな。」
アルジェ海賊の大先輩、お頭の信頼も厚い、ホーレス・デスタルデのおっさんは、オレから視線を外して操舵輪を回転させた。
このホーレス・デスタルデって男についてオレが知ってること。
一つ、今のアルジェ海賊の中で古参だってこと。
二つ、サルヴァドルを赤ん坊の頃から養育してるくらい、お頭からの信頼も厚いってこと。もっとも、あの赤髭のお人に「人を信頼する」ってことができりゃ、の話だけど。
三つ、船を操るウデも、戦いのウデも、アルジェのダンナ方四人衆に劣りはしないくらい優秀だってこと。
四つ。だのに、未だに「サルヴァドルのお守り」扱いでしかないってこと。
三つ目についてはもう納得してる。サルヴァドルみたいな「王子さま」が率いる艦隊が、何だかんだ言って破綻せずに順調に動いてるのには、このホーレスのおっさんの力が大きいだろう。つまり、十分てめえの艦隊を率いることが出来るくらいの男だ。
だが、力量即ち、提督、とはいかない。つまりはこのおっさんは、自分が人の上に立ちたいってえ野望や野心が欠けてるんだろう。まあ、サルヴァドルの「お母さん」だから仕方ないね。まったく、実に立派で甘えがいのあるお母さんだよ、まっ黒な肌した超大柄の、な。
まあともかく、このおっさんは律義で誠実なことは折り紙つきだ。間違っても、サルヴァドルにお頭からの離反を勧めるような真似はしねえだろうし、サルヴァドルにそんな魔が差したとしたら、死んでも止めるような男だ。だとすると、お頭はサルヴァドルの何をそんなに危ぶんでるんだか。
まったく分からない。
が、お頭の命令は絶対だ。
「…」
おっさんは、オレの顔を不審気に見やる。
「あっ、悪イ、ちょっと考えごとしてたもんでね。」
「お前でも口に出さずに考え事が出来るんだな。」
おっさんは無愛想にオレを一瞥した。
「ひどいねえ、お…ホーレスさん、オレのこと、どうして嫌うんだい?何にもしちゃいないじゃないか。」
「ああ、何もしちゃいない…『まだ』な。」
たく、このおっさんはどこまでオレが嫌いなんだか。
「あっ、そういや聞きたかったんだがよ、ホーレスさん。さっきのセウタの酒場の話なんだが、提督の態度、ありゃ何だい?」
「…」
おっさんは、不機嫌そうな顔になった。
「セウタの『奇蹟の紅玉亭』のアンナはよ、ああ見えてなかなかスゴ腕の情報通なんだぜ?」
「ああ、まあそれは認める。酒場娘ってのは、船乗り達からいつも生の情報を得てるからな、俺達でも聞いた事がねえようなとんでもなく重要な事を知ってる場合もあるさ。」
「だろ?確かに、口が軽いくせに肝心な情報は宝石積んで見せねえと喋らねえシャバいトコもあるがよ。」
「お前のレコか?」
「ご想像にお任せするよ。ホーレスさんの好みかい?…おっと、そうだった、提督の話だよ。アンナへの提督の態度、ありゃ何だい?提督は赤毛の女が嫌いなのかい?」
「別に赤毛の女が嫌いな訳じゃあない。」
「じゃ、良く喋る女がイヤなのか?確かにアンナはよく喋るがよ、いやでも、アンナが喋り出す前から提督、何かヘンだったな。ああ、積極的に来る女は嫌い!!」
「別に積極的に口説きに来る女だから嫌いって訳でもねえ。口説かれるのはお嫌いだろうがな。」
「…分かんねえな、降参するよホーレスさん。タネ明かししてくれ。」
オレが両手を上げて見せると、おっさんは渋い顔して言った。
「若は、女が駄目なんだ。」
「…」
オレは、何度かまばたきした。
「若は昔から女がからきし駄目なんだ。」
「…」
オレはもう一度まばたきした。
「普通に宿のおかみさんに口きいてたりした気がするけどな。」
オレは、自分でも本題からズレたと分かる返答を返した。
「も少し限定するとな、若くて色気のある姉ちゃんが特に駄目なんだ。で、まともに口きいたり、目ぇ合わせたり出来ねえんだ。」
「若くて色気のある…ね…」
オレはもう一度だけまばたきして、ようやく舌が動く状態になった。
「おいおい、若くて色気のある姉ちゃんなんて、オレたち海賊が酒と並んでいっちばん好物にしてるシロモノじゃねえか!?それがダメ?何かい?若くて色っぺー姉ちゃんに手ごめにされたことでもあるのかい、提督はっ!?」
「ある訳ないだろ。」
おっさんは苦々しく言った。
「じゃ何かい?女じゃなくて男の方がいい人なのか?まあ確かに、男にしちゃ整いすぎる顔してるから、それくらいが丁度良いかもしんないけどよ。」
「それも違う、馬鹿が。」
バカ呼ばわりされちまったよ。
「別にいいだろ。若が女が苦手で何も困る事なんかねえ。海賊稼業に支障がねえなら、それで問題無しだ。」
「ま、確かに敵船の船長がすげえベッピンの姉ちゃんでもない限り支障はないけどな。そのためにゃ、赤毛の女海賊カタリーナ・エランツォと遭遇しないように気をつけないとね。」
オレはまくし立てたが、おっさんは面白くもなさそうな顔して黙ったまんまだ。
やれやれ、オレは喋りは得意だってのに、このおっさんは聞きもしねえ。やり難いおっさんだぜ。
「ん?…おいおい、ってコトは提督はまだ女を知らないのかよ。」
「ともかく、俺の若に必要もなく女も近付けるな。」
おっさんは重々しく宣言し、オレとの会話を打ち切った。
まったく、アルジェ海賊ってのは女っ気のない海賊団だぜ。
お頭始め、な。
だからジョカみてえなのがのさばっちまうんだ。
オレはそう言ってやりたかったが、おっさんをこれ以上刺激するのも良くねえと思い、止めておいた。
2010/4/10
どうやらウチのリオーノは、ジョカが相当嫌いなようです。
キライって言うほどゲームでは関わって…ああ(一人納得)。
ネタバレプレイ日記&感想
戻
次
目次
公式設定で「女性が苦手」とされているサルヴァドル。事実は苦手どころか、会話が出来ない、目も合わせられないと「女性恐怖症」に近いと思われます。
結局、サルヴァドルはどうして女性恐怖症なのか?これはゲームでは明かされないまま、ショック療法で治っちゃうわけです。ホント、何が起こったんだろう?