救世主の名を持つ悪魔殺しの物語

5-4 ミランダ・ヴェルテが語る話









「えっへへー、大冒険家ミランダ・ヴェルテさまの伝説も順調に築き上げられてるわねっ♪」

ジュリアーノ教授にアーサー王の聖杯を報告して、アタシは大得意だった。


「順調…どこが?」

なのに、トニオってばげっそりした顔でそんなこと言うんだもん。


「『どこが?』って何よ。こないだのエジプトのスフィンクス発見だって順調に済ませたし、今回に至っては、『あの』『伝説の』『アーサー王の』『聖杯』よっ!?発見したのよっ!?『アタシ』がっ!!」

アタシが力いっぱい訴えると、トニオはげえっそりした顔で答える。


「あのさミランダ、ジュリアーノ教授も言ってたけどあの聖杯はいわゆる『イエスさまの血を受けた聖杯』じゃなくて、あとの時代に作られたニセモノだってば。」

「ぐっ…いいじゃない、本物の聖杯じゃなくたって、珍しいものには違いないんだから。」


「うん、珍しいことは否定しないけどさ。ボクたちのあの航海がどこをどう表現したら『順調』になるのさ!?海賊には襲われかけるわ、霧で港が見えなくなってあやうく餓死するところだったわ、流氷に船が覆われて凍死しかけるわ、思ったより目的地が遠くて壊血病で水夫はバタバタ倒れて行くわっ!!」

「ぐぐっ…でもちゃんと聖杯は見つかったもん。結果オーライってやつよっ!!」

「ああ、もうっ!!ミランダはいつもそうなんだからっ!!ムボーすぎるんだよ、無・謀っ!!今まで上手くいってたからと言って、次も上手くいくとは限らないんだからねっ!!」

「ああんもうっ!!トニオはいっつもうるさいのよっ!!」

アタシは、トニオの茶色の長い髪をひっぱってやった。


「い、痛い、痛いって。やめてよーミランダ。」

「やめてほしかったら、黙りなさい。」

「もー…」

トニオは、恨めしそうな顔でアタシを見た。


「ミランダってば昔っから、口で言い負けると暴力に訴えるんだからー。」

「女に腕力で負けるトニオが悪いのよ。」

「暴力はんたーい。」

ほんと、トニオにはケンカで負ける気がしない。どうしてこんなにひ弱なんだろ、トニオってば。


「こんな所でトニオと喋っててもラチが明かないわ。次の冒険にしゅっぱーつっ!!」

アタシは、体の中にエネルギーが満ち溢れて仕方なかった。

冒険したい、冒険したい。

…ピエトロさまに逢いたいっ♪


「走らないでよ、ミランダー…」




「待って…よ…ミランダ。そんなに急がなくても…」

アタシが出港所に入ると、トニオがぜいぜい息を切らせてそう言った。


「なに言ってるの。冒険家たるもの、行動は機敏にしなきゃ。」

アタシはかっこ良く決めたかったのに、


「冒険家には慎重さも必要なんだよ。」

トニオが余計なことを言う。


「ミランダも、もう少し慎重に…」

「ちょっと、トニオ!それじゃ、アタシがそそっかしいみたいじゃないっ!!失礼しちゃうわねっ!!」

アタシが「機敏」に行動しようとしたちょうどその時に、なんかが目の前にいた。


どーっしーん

大きな音がした。


「いったーい!何よぉっ!!」

アタシは思わずしりもちを着いちゃってた。

ああヤダヤダ、未来の大冒険家たるこのミランダ・ヴェルテさまが、出港所でしりもちなんて、カッコ悪い。


「今のってどう見てもミランダが悪いよ。前見てなかったじゃないか。」

「…そう言われれば、そうね。」

ホントだ。

前見てなかったのはアタシだったわ。

てか、ぶつかったのはトニオじゃないし、ぶつかった人に謝らなきゃ。


アタシはそう思って、アタシのぶつかった人を見た。

黒髪の若い男の人。


「ごめんなさい。」

アタシはそう言って、深々とあたまを下げたわ。

10、数えるくらい、深々と。

で、あたまを上げてその人を見た。

黒髪の若い男の人、あ、美形だって思った瞬間、その人はアタシから目を背けた。


ムカっ!!

黒髪の人は、黒いおっきな男の人の方を向いちゃったきり、アタシの方を見ようともしない。


ムカムカっ!!

アタシ、礼儀知らずは嫌いなのよ。


「ねえってば!」

アタシはそう言いながら、黒髪の人と黒いおっきな人との間に割り込んだ。

黒髪の人を見上げて睨んでやろうとしたのに、黒髪の人ったら、アタシから目を逸らすのよ、失礼しちゃうわ。

いくら美形でもコレはダメよっ!!


「ちょっと、せっかく人が謝ってるのにその態度は何よ!」

アタシがもっと怒鳴ってやろうとしたら、トニオがアタシとその人の間に割り込んできた。


「トニオ、ジャマしない…」

「ミランダ、ミランダ、ちょっと…」

そして、黒いおっきな男の人の方をチラ見して、目配せする。


あ、確かにちょっと…どころじゃない怖そうな人かも。


「でも、悪いことは悪いのよっ!!人に謝罪されたら

『どういたしまして、お気になさらずに。』

って会釈のひとつもするのがスジってもんでしょっ!?」

「ミランダってばぁ…」

トニオが半泣きになる。

もう、いつもこうなんだから、トニオってば。


「おう、姉ちゃん…」

後ろから、低い声が聞こえた。


「何よ。」

アタシは振り向いた。

デカっ!!

間近で見るとやっぱり大きいわ、この黒い男の人。

筋肉とかすっごい盛り上がってるし、ぜったい強いわ。

あ、この人ってあの黒髪の人の仲間か何かかしら?

だわよね…うーん、ちょっとマズったかな?


「あーあ、だから言ったのに…」

トニオは4分の3泣きくらいの声で言う。

ま、いいわ。最悪、トニオを押しつけてその間に逃げちゃえば…


「な、何よっ!!アタシは悪いことを悪いってゆっただけなんだからねっ!」

毅然、と言ったつもりだったんだけど、ちょっと声が震えちゃった。


黒い大きな男の人は、顔をしかめた。

よおし、トニオを前に突き出して…


「すまねえ。」

黒い人は、そう言って軽く頭を下げた。


「何よ…え?」

アタシは、トニオの腕を掴みかけたまま、反応に困った。

今この人「すまねえ」って…


「うちの提督、女が苦手でな。」

「はあ。」

提督…「提督」って、誰のこと?


「だまれ、ホーレス!」

黒髪の男の人が、ちっちゃく怒った。

え?もしかしてこの人が「提督」?

アタシとそんなに変わらなさそうなのに。

アタシは、黒髪の男の人をじっくりと見詰めた。


「…」

黒髪の人は、アタシから目を逸らすと、なんか猛獣にでも出会ったみたいにジリジリとアタシから離れた。


「よ、よし、行くぞ!」

そして、ぱっと走り去った。


「あっ、ちょっと提督!」

黒い大きな男の人は、驚いたようにその人の後を追っかた。


「おっと、手間取らせたな。見たところ船旅のようだが、気をつけなよ。」

アタシたちに声をかけると、その人もそのまま港に駆けこんじゃった。


「…何だったのかしら?」

そう言うアタシの横で、トニオがへなへなと腰を落とした。





2010/4/18



今回の語り手:ミランダ・ヴェルテ
…ジェノヴァの冒険娘。金髪の巻き毛に空色の瞳の美少女(のはず)。冒険野郎ピエトロ・コンティー(2の主人公の一人)にプロポーズされたと 派手に勘違い した挙句、 アタシも冒険家になってピエトロさま♪を追うのよっ!! という 壮大な無鉄砲計画 を立て、ホントに冒険家になってしまった恐るべき16の娘。ズブの素人のわりに、直感力の高さはプロの冒険家ピエトロを越える。1の子分(専用副官)は幼馴染のトニオ・ロッシ。サルヴァドルと同じく外伝の主人公の一人。初心者用キャラだが、ある意味、無茶っぷりは海賊サルヴァドルの上を行く。属性(このゲームでは登場キャラに「善」「中立」「悪」の性格づけがある)は「善」…だけど、ホントに善か?いろいろ疑いたくなるけど、魅力96は美人海賊カタリーナをも超える。

以上が公式設定(かなり私見入ってるけど)
まあ『大航海時代』に歴史的にどうとかいうツッコミを入れるのはヤボってもんとはいえ、16歳の女の子をあんな軽い理由で冒険の旅に出すなよ、親っ!!
と言いたくなります。(カタリーナは軍人だし、周囲の反対を押し切ってるし、何より復讐のためだしなあ。)
いや、でもミランダシナリオ好きですけど。ミランダも好きですけど。




ネタバレプレイ日記&感想

   

目次









































どうでもいい話。
ミランダ(Miranda)という名は、シェイクスピアの
『テンペスト』(『あらし』とも言う) のヒロインの名でありまして、多分、シェイクスピアの造名(シェイクスピアが作り出した名)であろうと言われています。
この外伝の開始は1525年。シェイクスピアの生年は(諸説あるけど)1564年
ミランダの両親のネーミングセンスは、かの大文豪を越えたようです。

さらにどうでもいい話。
サルヴァドルという名が「救世主(つまりキリスト)」を意味するとは何度も言っていますが、ミランダという名の意味するところはラテン語で 「賞賛されるべき立派な人物」 だそうです。
主人公ふたり揃って、かなり気合い入った立派な名前してますね、外伝。

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