救世主の名を持つ悪魔殺しの物語

5-5 トニオ・ロッシが語る話









ボクってとても不運だと思う。


たくさんいるきょうだいの下から2番目で、昔からいろいろとないがしろにされてたし、

要領が悪くて何をしても最後には失敗しちゃうし、

ミランダとは幼馴染だし、

商船学校だって別に何も悪いことしてないのに濡れ衣きせられてクビになっちゃうし、

ミランダにまんまと乗せられて子分にされちゃうし、

しかも、ミランダの超ムボーな冒険に同伴させられちゃうし。


こう考えくると、ボクの不運には大きくミランダが関わってきてる気がする。




「ああ…どうしてボクはミランダと関わっちゃったんだろう…」

「なんか言った?トニオ?」

ミランダが操舵輪を得意げに回しながら振り向いた。


ミランダは、一見するととっても可愛い。

ふわふわした金髪の巻き毛に、明るい空の色した瞳。

黙ってにこにこしてれば、とびきりの美少女で通るはずなんだよな。


「さあてっと、アフリカ大陸に出発しますかっ!」

「ミランダ、なにカラベル・ラティーナで暴風域に突っ込もうとしてるのっ!!」

「暴風域?ああ、嵐が来るのね。へーきへーき、大冒険家ミランダ・ヴェルテさまの手腕を信じなさい。」

「信じるも何も、ミランダ、まだ嵐に遭遇したことないよねっ!?」

「だーいじょーぶ♪誰だって最初ははじめてよっ♪」

「ああ…」

ボクは頭痛とめまいにいっぺんに襲われた。


ミランダは昔からこうなんだ。

じっとしてにこにこしてればお人形さんみたいなのに、絶対にじっとしてないんだ。

そして、いつも何かとんでもないことしでかして、それにいつもボクを巻き込むんだもんっ!!


「もー、トニオってば貧血?ひ弱なんだから。」

ミランダは、操舵輪をくるりと回す。


「おもかじいっぱ…あれ?」

ミランダは、手をかざした。




ぼっがーんっ!!

耳がおかしくなりそうな大きな音がした。


「ちょ…何よっ!!」

ボクは、聞き覚えのある音に鳥肌が立つ。


「た、大砲だよ。」

「あら、アタシの出港を祝ってくれるのね。祝砲なんて気が利いてるわ。」

「そんなワケないじゃんっ!!」


ぼっがーんっ!!

もう一発、さっきより大きな音がした。


「…なんか、ものすごーくイヤな予感がするんだけど…ああ…目の前が暗くなってきた気がする…」

「バカトニオっ!!気がする、じゃなくて、事実近付いてんのよっ!!」


船はみるみる近づいて…は来なかったけど、どちらにしろ、ボクたちが逃げるようなスキはなかった。




「お前が、ミランダだなッ。停船せよッ!」

大型船、てかキャラックだ、から声がした。


「大人しく聖杯を渡せッ!」

意外な声がかかる。


「…聖杯?」

「あ、アレだよミランダ。ジュリアーノ教授が、聖杯を探してる人は、ボクたち以外にも色んな人に、ヤバそうな人にだって頼んだって言ってたじゃないか。」

「ヤバそうな人って、トニオ、まさか海賊にも頼んじゃってたの?うっそー。」


「さもなくば攻撃するッ!」

「いったい何?なんで?どうしてこうなるの?」

混乱するミランダの前に、ボクは立つ。

ほら、やっぱりボクは男だから、こういう場合は女の子を庇わないと。

あーでもボクも怖いよー。

でも、足がガクガクしても、やっぱりここは男のボクが…


「この海賊ヤコブ・ワルウェイクを甘く見るなよ。」

あれ?


「…海賊ヤコブ?」

ボクはその名前に聞き覚えがあった。


「知り合いなの?」

「ううん、でも名前は知ってる。…地中海で最…」

「うっそー、最強?」

「ううん、最『弱』。」

「へっ?」

「最『弱』って評判なんだ。」

ボクの言葉に、ミランダがとても不思議そうな顔をした。


「何それ?海賊のくせに弱いのっ?」

ミランダはヤコブに聞かせるつもりはなかったようだけど、ミランダのその声はバッチリ向こうに聞こえたらしい。


「うるさいッ!弱いって言うなッ!」

怒鳴られた。


「だって、フツー、海賊って強いでしょ?強いから海賊なんじゃないの?どーして弱いのに海賊してんのよ、アンタ。」

「あ…ああ、ミランダ?ソコは深く詮索しちゃいけないトコだと思うんだけど…ほら、人にはいろんな事情があるってゆうか…」

「うるさいうるさーいッ!!」

やっぱり、触れちゃいけないツボだったみたいだった。


「いいからおとなしく聖杯を渡せッ!」

ヤコブの声に、その部下らしい海賊の声で初白星がどーとか続いた。

で、ヤコブが怒った。

なんか、コントみたいな掛け合いが続いて、ボクとミランダの緊張感をだだ下げた。


「そっちの事情は知らないけど、聖杯はもうないわよ。ジュリアーノ教授に渡しちゃったもの。」

「ええー、ウソをつくなッ!!」

ヤコブがショックを受ける声がしたけど、ボクはその次の瞬間に別のショックを受けてた。


「ミランダ、あれを見て!どこかの艦隊が接近してくる!…大変、別の海賊みたいだよ!」

「えーっ、うそ!アタシたち、どうなっちゃうの?」

ボクとミランダが、えらいこっちゃえらいこっちゃと大騒ぎしている間にも、新しい海賊船は滑るような動きでヤコブの船に近づいた。

ヤコブもボクらじゃなくて注意がそちらに向いた。


「こいつは僕の獲物だッ!手を出さないでもらおうッ!」

ヤコブの台詞に、船と船を接絃する大音響が答えた。


「トニオ、アレ…」

「うん、あれ…」


「ああ、お前の獲物とやらに手を出す気はない。」

声が響いた。

若い声だ。


「ただし、オレの獲物はお前だ。遠慮なく攻撃させてもらうぜっ!!総員、攻撃開始!!」

その声が響くと同時に、鬨の声が上がった。

ヤコブの船に真っ先に突っ込んだのは、長く黒い髪をした人だった。




「海賊どうしで戦い始めちゃったね。」

ボクらはあぜんとしながら、しばらくそれを見守った。

だって、あんまりにいろいろ想定外の出来事だったんだもの。


「見てる場合じゃないわよっ!!」

ごいんっ!!

ミランダの拳がボクの頭に入った。


「ちょっとミランダ、痛いじゃないか。だいたいミランダは海賊より凶暴で…」

「バカトニオ、見てないで、このスキにこの海域を離脱しないとっ!!」

「ああっ、そうだった!!」

ボクとミランダは、急いで船員に指示を出した。


「さ、行くわよ、全速前進…」

うわっ!!

と新しい海賊たちらしい声が上がった。


「…もしかして、もう勝負ついちゃったの?」

「…早っ。」

ボクたちは、ほんとのほんとに

あぜん
としてしまったのだった。





2010/4/24



今回の語り手:トニオ・ロッシ
…ジェノヴァの幸薄い18歳美少年。茶色の長髪に、明らかに華奢そうな顔立ち。ミランダとは幼馴染で、ジェノヴァの酒場娘である姉のマチルダ含め、家族ぐるみの付き合い。頭は良いが要領と運が悪く、せっかく入学した商船学校を放校され、ジェノヴァに戻ってきたところをミランダに捕獲されて子分にされ、無謀な冒険の旅に付き合うことになってしまった。さすが商船学校に通っていただけあって、航海術は確か。知識力も高く、実はうでっぷし(剣術)もミランダより高い…が、たぶん彼がミランダに勝てることは一生ないだろう。あと、実は勇気も割と高い。本気を出せばやれる子。
…だけど、運が低い。OPで某イベントを起こすと、ほとんど0に近くなる。属性(このゲームでは登場キャラに「善」「中立」「悪」の性格づけがある)は「善」。ミランダ編のヒロインは、カチュアパでも、もちろんミランダでもなく、実はこのトニオである。

以上が公式設定(かなり私見入ってるけど)
まあ『大航海時代』に歴史的にどうとかいうツッコミを入れるのはヤボってもんとはいえ、16歳の女の子をよく17歳(一番危険なお年頃)の男の子と一緒に航海に出したな、ミランダ両親、と思います。何かあったらどうするつもりだったんだろう…
まあ、そんな心配をしようという気にならないくらい 乙女男子 ですが(PC版のミランダ編ラストイラは笑った)。
ミランダシナリオが好きな理由の一つとして、トニオが好きだからという理由が挙げられます、はい。




付けたり話

   

目次









































どうでもいい話再び。
トニオという名はアントニオ(Antonio)の略称です。で、そのアントニオという名の語源は諸説あれど 不祥 という意味である説もあるそうな。
とりあえず、このトニオにひっじょーに相応しいネーミングでした(外伝のネーミングセンスはいろいろ笑える。どこまで狙ってるんだろう)

さらにどうでもいい話。
DQサイトの毒屋聖堂騎士アントニオは、身内からは「トニオ」と呼ばれてます。もちろん、このゲームのこのトニオくんを踏まえてます。そこから、聖堂騎士アントニオは身内の女性には頭が上がらないという設定が出てきました。

さらに限りなくどうでも良い話ですが、駄文を制作しているべにいものパソコンは「とにお」と打つと「アントニオ」と出力されるように登録されています。

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