「どう見る?」
ロドリゲスの言葉に、ゴンザレスは金塊を数える手を止める。
「何が」という言葉は、この兄弟の間には不要だ。
共に母の胎内からこの世に出て来てから、常に人生を共にしてきた双子であるから。
「俺は見所有りと見たね。」
ゴンザレスは、念入りに金塊をもう一度数え直す。
「赤髭の旦那から会計任されてから、数えきれないくらいの海賊を見てきたな。」
「ああ。」
「俺たちの『海の流儀』を聞きはしたが、一度も俺たちから取り立てを受けないまま海の藻屑になった奴。縛り首になって港の入口に吊るされてた奴、俺たちが取り立てに行くたびに上納金納めるどころか、テメェたちの船のやりくりに手いっぱいでまともに払えねえ奴、そうさ、ごまんといた。」
ゴンザレスは、金塊を指で弾いた。
彼の耳には心地よいお宝の音がした。
「それと比べて、サルヴァドルさんは遥かに上だって事か。」
ロドリゲスが口にすると、ゴンザレスは青いターバンを巻いた頭で頷いた。
「確かにな。初めての取り立てでここまで上納金を納めた奴はちょっといねえ。」
「そうさ、ここ最近の奴じゃ、ジョカくらいなもんさ。」
「でロドリゲス、お前はサルヴァドルさんはジョカを越えると見るか?」
ゴンザレスの言葉に、ロドリゲスは笑う。
「ジョカは…別格だ。」
「へえ、そりゃまた。」
「考えても見ろよ、ゴンザレス。17やそこらでもうベテラーノだぜ?そりゃ確かに赤髭の旦那の『贔屓』もあるがな、ジョカと戦う船はそんなことで手加減しちゃくれねえだろ?だのにジョカは勝ち続けて、今やバリエンテを除いたら一番の稼ぎ頭だ。いや、バリエンテでもトレボールの旦那なんぞより遥かに腕が立つ。そのうち、アルジェ四天王の構成員も変わるだろうさ。」
ロドリゲスの言葉に、ゴンザレスは首をひねる。
「赤髭の旦那は、ジョカに後を継がせる気か?」
ロドリゲスは、僅かに顔色を変える。
「穏やかじゃねえな、ゴンザレス。」
「だがロドリゲス、首領の息子だからって、サルヴァドルさんが順当に後を継ぐとは限らない。海賊は腕のある奴が上に立つ。もし、万が一、赤髭の旦那方に何かありゃ、若い世代で一番なのがジョカなのは衆目が認める所だろ。」
「赤髭の旦那は確かにジョカを可愛がってるが、それでも旦那の息子はサルヴァドルさんだ。サルヴァドルさんに腕を上げさせて、ジョカがそれを補佐するって形を目指していなさるんじゃないのか?今だって、赤髭の旦那が首領で、黒髭の旦那が副首領って形でうまく運んでる。」
ロドリゲスの言葉に、ゴンザレスは反駁した。
「甘い事言ってんじゃねえぞ、ロドリゲス。あのジョカが、自分より力量の劣る奴の下について大人しくしてるようなタマかよ。あれは赤髭の旦那だから飼い慣らせてる男だ。」
「…」
ロドリゲスは黙ったまま、金貨を指で弾いた。
心地よい音が、沈黙の中響いた。
「赤髭の旦那のお考えが読めんな。」
ゴンザレスが沈黙を破った。
「自分亡き後、自分の息子の喉笛を喰い破るに違いない、力と野心を持った男をわざわざ育てるなんて。」
ロドリゲスは呟き、ゴンザレスに言う。
「お前はサルヴァドルを『見所有り』と言ったな。お前はどうなんだ?サルヴァドルさんが将来、ジョカすらも超えるだけの可能性を秘めてると思うか?」
「…今のままじゃ、無理だな。」
ゴンザレスは否定した。
「じゃあ、どうなればいいと見るんだ?」
「そりゃあ…地獄を見なきゃな。」
ゴンザレスはあっさりとそう言った。
ロドリゲスも頷く。
「確かにな、海賊稼業してる奴に甘さは不要、どころか有害だ。箱入り育ちのあのお人には、相当キツい地獄が必要かもしれねえな。」
二人は顔を見合わせた。
しばらく空を眺めていた二人は、ジョカの船とすれ違った事に気付いた。
「ジブラルタル海峡に向かってるか?」
「イスパニアの船が新大陸から戻って来てるってネタがある。銀でも積んでるかもな。」
「ああ、ジョカはそれを狙ってるか。巧く襲撃すれば、大層な儲けだな。」
「ま、ジョカを追い掛けるのは、一度アルジェに戻って赤髭の旦那に上納金をお納めしてからでも遅くはないさ。」
「確かにな。大儲けしてセウタあたりでどんちゃん騒ぎしてる所に乗り込んで行けばいい。」
「そうと決まりゃ、進路は変更なしのアルジェだ。」
アルジェ海賊の会計係の双子は、船員にそう指示すると、片方は再び金を数え、もう片方は律義に帳簿を見直し始めた。
2010/4/28
今回の語り手:ビゴール兄弟
…アルジェ海賊の会計係の双子の兄弟。確かに顔は似ているが、ターバンで見分けなきゃならないほどそっくりというわけでもない。ゴンザレス(青ターバン)とロドリゲス(紫ターバン)のどちらが兄かは不明。自分達で
「だてに赤髭の旦那に取り立て任されてるわけじゃありやせんからね。どこに行こうと、必ず取り立てに伺いやすんで」
と言うだけあって、マジでジパングだろうが太平洋の孤島だろうが押しかけて来て、サルヴァドルの貴重な所持金をその度に半分吸い上げて行く。戦闘イベントなどには関わらないためステータスは持たないが、どこにいてもサルヴァドルたちの所在を知る情報力と、所在地まで追いかけてくる機動力と、そしてラストバトルでのアレを総合するに、海賊としての力量も相当なものであろうと思われる。
以上が公式設定。個人的には、海賊敬語の割に、けっこう慇懃無礼感があるところが好き。ラストバトルでのアレは、ネットで見つけてさっそく試してみたが
「さすが光栄、こんなところに隠しイベントかっ」
と唸らされた。
「ラストバトルでのアレ」って何?ネタバレでもいいから知りたい人へ
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目次
サルヴァドル編でラスボスのあの人とのラストバトルで戦線離脱すると、このビゴール兄弟に
まんまとブチ殺されてゲームオーバー
という、隠しイベントが見れます。強制イベントなので抗う術なく殺されますが、無茶な強さでもいいので、戦ってみたかったです。(ラスボスより強かったらどうしよう)
しかし、追手なのがオズワルドでもトレボールでもなく(しかし、トレボールに強制イベントで殺されるのも屈辱だな)、このビゴール兄弟なのは…実はこの兄弟はアルジェ四天王より強いということなのでしょうか?