救世主の名を持つ悪魔殺しの物語

5-9 セウタのアンナが語る話









「ヒマそうね。」

そう言いながら、レベッカ・ガートランドはわたしのお店に大股で入ってきた。

まあ「わたしのお店」っていったって、わたしが持ってるわけじゃなく、わたしが雇われてるんだけど。

でも「わたしで持ってる」のは本当。

このセウタの「奇蹟の紅玉亭」は、この酒場娘アンナさまの魅力で持ってるんだから。


「ヒマとは失礼ね。」

「だって、マスターすらいないじゃない。」

「あのおじいちゃんは最近、疲れやすいのよ。」

「で、アニー、あなたがマスター代わりって訳ね。」

「いいじゃない、そのうち『代わり』って文字がわたしの肩書きから取れる日も近いのよ、ベッキー。」

彼女がわたしを愛称の「アニー」で呼んだから、わたしも彼女を愛称の「ベッキー」で呼ぶ。


「それはいいわね。あなたの夢が叶ったら、この店をこの『ガートランドの奥さま』の行きつけのお店にご指名してあげるわ。」

ベッキーはカウンター席に座ると、金貨を置いていつものお酒を頼んだ。


ベッキーが、頭のサークレットを

コツ

コツ

と指で弾く。


わたしはそれが、ベッキーが何かを考えている時の癖だと知ってる。


「何悩んでるの?」

わたしがお酒を差し出しながら聞くと、ベッキーはどうして分かったんだって顔をした。

わたしが理由を説明すると、ベッキーは笑う。


「そういやそうよね。もうあなたとの付き合いも長いもの。」

「そうよ、わたし、女友だちは男よりも大切にする主義なの。だから、あなたのことだってよく分かるのよ。」

「さっすが、女の鑑ね。」




ベッキーとの出会いはもう何年か前。

荒くれに襲われかけたわたしがベッキーに助けてもらったってのが縁の始まり。

こぉんな美女を助けてくれる素晴らしく腕の立つ人なぁんて、恋の始まりのお定まりの展開だった。

荒くれたちを軽く片付けてしまった凄い腕。

長身。

ランタンに照らされた燻された色の銀髪に、きれいな顔。

鋭い銅色をした瞳。

こりゃもう惚れちゃうしかないって心の準備をしたら、あなた、大丈夫?って女の声で返ってきたから、ちょっとゲンメツしちゃったけど。

でもおかげでわたしには強くて素敵な友だちが出来たってワケ。




「で、悩み事は?」

「アニー、儲かる話、ない?」

ベッキーの答えは、いつもと同じだった。


「ないわ。」

わたしが答えると、ベッキーは今度はテーブルを指で叩いた。


「ああんもう、どうしてこの世には高額の賞金のかかった海賊がこんなに少ないのかしらっ!!」

「そりゃ、海がそんなに高額の賞金首だらけの危ない場所だったら、誰も海に出られないからじゃないの?」

わたしの返事は、「高額の賞金首専門のスゴ腕の賞金稼ぎ」レベッカ・ガートランドさまにはお気に召さなかったみたい。


「あーあ、あたしってばいつになったら『ガートランドの奥さま』になれるのかしら。」

そしてベッキーはいつもみたいに、豊かな領地に純朴な領民たち、そして小奇麗なお城を持ち、いい男に囲まれた「ガートランドの奥さま」になる夢を語った。


「…で、そのためには稼がなきゃ、ダメね。」

ベッキーはいつものように自分で結論をそうつけた。


「で、高額の賞金首の話、ウワサでいいからないの?」

ベッキーの銅色の瞳が期待に輝く。


「だからないってば。」

わたしがそう答えると、ベッキーは銀髪の前髪をイライラと触った。


「まー、あなたがないって言うんだから、ホントにいなんだろうけどー…」

剣ダコで堅そうな手が、「苛々」って文字でも書きそうに動いた。


ふう。

ベッキーは手を動かすのを止めると、コップの酒を一息に呑んだ。


「ま、いいわ。じゃ、なんか面白そうな話とかない、アニー?」

それならあるって答えると、ベッキーは興味有りって顔になった。

やったわ、わたしも話したくてうずうずしてたの。


「あのね、こないだ、トモダチ経由である海賊と知り合いになったの?」

「海賊?賞金額はいくら!?」

ベッキーの目が途端に輝いた。


「期待に添えなくて悪いけど、まだまだ駆け出しの若い子よ。」

「なあんだ。」

ベッキーが露骨にガッカリした。


「でもね、ツヤッツヤの長い黒髪しててね。王子さまみたいに、すっごいキレイ可愛いの。」

「海賊なのに?」

「そう、海賊なのに。夜の海の色した瞳も、宝石みたいでね。もうっ、見た目スッゴい好みなのよっ!!」

わたしは熱を入れて言ったんだけど、ベッキーの反応は薄い。


「で?その話のなにが面白いわけ?」

「もー、ナマで見たら絶対にあなただって惚れるのにー。」

「悪いけど、年下のオトコに興味ないの。」

「えー、年下いいじゃない?お肌ぷりっぷりだし…あ、そうだわ、面白い話の続きね。でその黒髪の海賊クンなんだけど、このわたしが直々に口説いたのに、ぜんっぜん反応ナイのよ。」

「年上のオンナが嫌いなんじゃないの?」

「えっえー、わたしそんなにトシじゃないもんっ!!」

「だから話の続き。」

「ああ、そうだったわ。ま、ともかくその海賊クンに海賊ヤコブの話を教えてあげたのよ。」

「何、その話。あたし聞いてないわよ。」

「あらそうだっけ?」

「トモダチ甲斐のない人ね、アニー。美味しい話は先にあたしに教えてくれるのが友情ってモンでしょ?」

「ゴメンゴメン、賞金首じゃなかったからアタマから飛んでたわ。次は真っ先に教えたげるからカンベンしてよ。えーっと、まったく話が進まないわね。まともかく、海賊ヤコブを倒して大儲けしたらしいのね。そしたらね、わたしにお礼の宝石を持ってきてくれたってわけ。し・か・もっ♪真珠のブレスレット!!」

「その海賊のお兄さんが律義なオトコであることは認めるわ。でも、今のところ、まったく面白くないんだけど?」

「そうそう、ここまでは前フリ。ホントに面白いのはここからなのよ。たいがいの男だったら、宝石渡すついでにわたしに口説き文句の一つ二つ、調子のったヤツならキスの一つも勝手にするし、もっとチョーシ乗った男なら、わたしのこのお胸サマとか触ったりしていくじゃない?」

「まあね。」

「なのにー、あの海賊クンったら、わたしに目すら合せないのよー。んでもって、カウンターのわたしのところに近づくのに、

『ジリジリジリ』

って、獲物に近づく猟師か、はたまた、決闘前みたいな歩調で来るの。もうっ、わたしは真珠の腕輪を待ってるって言うのに。」

「とりあえず、真珠の腕輪が相当欲しかったみたいね、アニー。」

「あったり前じゃない、宝石はわたしの主食なんだからっ♪」

「その海賊のお兄さん、あなたに食われると思ったんじゃないの?」

「えー、ひどーい。わたしはお礼に

『ちゅっ♪』

ってしてあげるつもりだったのよ。そしたら、わたしの射程範囲に入ってカウンターに腕輪を置いた瞬間、スッゴイ勢いで飛び退って酒場の入口まで離れてから

『あ、アンナ。こないだの情報の礼だ。』

って聞こえるんだか聞こえないんだかギリギリの声で言って、そのまま出ていっちゃったのよ。笑えない?」

「確かにちょっと面白いお兄さんね、海賊なのに。」

わたしの渾身のネタは、ちょいウケだった。ちょっとガッカリ。絶対面白かったのに。


「ねー、わたしは話したんだから、今度はあなたが話してよベッキー。こないだ会ってから何してたの?」

「戦場の話なんて、血なまぐさいだけで面白くないわよ、アニー。」

「え?戦争?この辺りで戦争なんて…」

「ああ、オスマン・トルコが海賊たちと…」

ベッキーの気になる話をかき消すように、どやどやという効果音と一緒にたくさんの水夫たちが入ってきた。


「残念、お仕事に戻らなきゃね、アニー。」

ベッキーに言われなくても、そうしなきゃならない。


「ゆっくりしてってね。」

わたしはベッキーにもう一杯飲み物を渡した。


「ありがとう、邪魔にならないように隅っこで呑んでるわ。」

ベッキーは

ちら
と水夫たちに視線を向ける。


「海賊みたいね。」

そして、独り言を呟いた。





2010/5/5



ヤコブイベントの後に、「やっぱりアンナに宝石でお礼くらいはしなさい」とホーレスとリオーノに言われたはいいけど、ものすごく怖かったので上の話のようになってしまったサルヴァドルでありました。

今回の語り手:セウタのアンナ
…セウタの酒場娘。この酒場娘というのは、世界各国の港の酒場にいて、主人公たちの貢いだ金額に応じて、船の居場所を教えてくれる女性たちのことである。普通は主人公の国籍の首都には必ず酒場娘がいるが、この外伝の元ゲームである『大航海時代2』の主人公の一人カタリーナは女性である&すぐに祖国に反逆して海賊になることから、イスパニアの首都セビリアには酒場娘がおらず、その代わりにすぐ近く(船で半日〜1日程度)のセウタには彼女がいる訳である。このセウタはジブラルタル海峡に位置しており、海賊をするには最適な位置にあるため、誰でプレイしてもこのセウタのアンナと仲良くなる可能性は高い。
赤毛で巨乳(PC版イラより)。好物は宝石だが、性格が多弁で冷淡なため、なかなか船の調査を引き受けてくれない。の割に、宝石が好きな事だの、自分の年齢はいくつだのと言った、プレイヤーにはなんの実利もないことだけはよく喋ってくれる。
賞金稼ぎのレベッカとは友人で、将来の夢は金を貯めて自分の店をもつことである。あと、美形が好き。ラテン系だけあって、アプローチも積極的である。
ついでに「セウタの」アンナと言っているのは、ストックホルムにもアンナ名の酒場娘がいるから。あちらは金髪でキツそうな顔の割に、無口で親切とセウタのアンナとは逆の性格をしている。
以上が公式設定。
取説にも記載がある(リオーノと同格)の割に、途中でイベントと絡まなくなってしまうのが寂しい。
あと、頭の弱い尻軽に書かれることが多い(攻略本では)気がする。まあ赤毛は愛と情熱の印ですから。




プレイ感想

   

目次









































個人的な感想ですが、この「酒場娘」というシロモノは、攻略本でも大々的に取り上げられている割に 実用価値がとても低い ものだと思われます。
酒場娘は親しくなると、「艦隊情報(どこの国籍の船がどこにいるか)」を調査して教えてくれるのですが、そんなもん、首都の近くに張っとけばそのうち出てくるし(イタリア戦艦隊は張ってたってどうせ首都から出てこないし)、海賊はチュニスとアルジェの間をうろうろしてりゃ出てくるし、わざわざ教えてもらってもあんまり役に立たない。
で結局酒場娘の存在価値はといえば、貢いでちゅーしてもらう為 になるわけです、はい。
サルヴァドル編でも、分捕った宝石や宝飾品を持って、全世界の酒場娘たちを口説きに回りましたよ。いやあ… サルヴァドルにとっちゃ、拷問みたいな旅だった でしょうけどね。

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