救世主の名を持つ悪魔殺しの物語

6-1 ギャビン・フィッシャーが語る話









これが、「順調な海賊」って典型だと思う。




「提督ー、ピンと来たぜ。あいつらいい荷持ってやがる。」

アンソニー・ジェンソンが叫ぶ。


「ロンドンの近くで、しかもロンドンから出て来た船です。そして喫水が深くない。積荷は羊毛ではないでしょうか?」

アフメット・グラニエが大真面目な顔で解説する。


「地中海に戻るんだ、丁度いいじゃねェか。羊毛はイベリア半島で高く売れるぜェ。」

アル・ファシがコメントに付け加える。


「どうだい提督、船員も大して多くない。こいつはカモだと思うね、オレは。」

リオーノ・アバンチュラが提督に促す。

ホーレス・デスタルデの旦那は、黙って操舵輪を敵船に向けて回した。


「そうだな。行きがけの駄賃だ。総員、戦闘配置っ!!持ち場に着けっ!!」

そして、俺たちのサルヴァドル提督が叫んだ。




「今日のボロ儲けに、乾杯っ!!」

リスボンの酒場、紅鯨亭で、俺たちは祝杯を上げる。


「つまりは…チョロいな。」

ラム酒がいい感じで回った提督が、得意そうに言う。


「まったくだ、それも提督が強いからさ。こんな、酒に弱いくせにな。」

「オレは酒に弱くないぞ、リオーノっ。」

「全くだ、提督は酒に弱くない。」

アンソニーが妙に強く頷く。

そういや、こいつが提督の船に乗るようになったのは提督に酒に呑み負けたからだったか。


「提督は顔に出ちまうんですよ。真っ赤ですぜ。」

アル・ファシがからかう。

提督は不愉快そうに顔を押さえる。


「だって、それはオレのせいじゃない。」

小さく口を尖らせる提督に、ホーレスの旦那がやれやれと首をふる。


「まったく、若はいつまでも大人におなりでくれやせんから…」

「ホーレス、オレをいつまでもガキ扱いするんじゃないっ。」

提督は、ラムの入ったマグでテープルを叩いた。


「オレは海賊、しかも、もうゲテロ(戦士)だぞ?」

「そうそう、ウチの提督は海賊になってからこんなに早く、ゲテロの地位を得たのさ。ゲテロだぜ、ゲテロ?この分じゃ、すぐにヴェテラーノ(猛者)、ゆくゆくはバリエンテだって遠くない。いつまでも子ども扱いしちゃ失礼ってもんだぜ、オッサン?」

「誰がオッサンだっ!!」

定番の会話を繰り返す二人。

がまあ、どちらも本気で怒ってる訳じゃあないし、すぐにみんなも機嫌良く飲み出す。

もちろん、俺もだ。

俺はこのサルヴァドル提督に心酔してる。

この方が、泣く子も黙るアルジェ海賊の一員だったってのは…まあ、アレだが、まさに乗りかかった船ってヤツだ。

どこまでも付いて行くさ。




俺たちが気持ちよく飲んで、そろそろ宿に戻ろうって時だった。


「提督、ちょいと提督、起きておくんなせえ。」

「…なんだ、ファン。」

小太りの航海士、ファン・コーサが酒場に入ってきた。

こいつは元はイスパニア商船隊の船長で、俺たちがこいつも加わった船団を襲った時に、仲間に加わった。

大した技能を持っている訳じゃあないが、船乗りとしての腕は確かな奴だが、酒が飲めないんで宿に先に行ってたんだが。


「何が大変なんだ、ファン。」

俺が聞くと、ファンは大袈裟な身振りでこう言った。


「いえね、おいらが出港所で補給をしようとしたら、そこの兄さんがこう言う訳ですよ。

『こんなときにあまりお勧めできませんが。』

って。そう言われたら、気になるじゃあありやせんか、ねえ?」

ファンの言葉に、コーネリウス・ショーテンと、アロンソ・メンドーサが頷いた。

こいつらも最近、ウチの艦隊に加わったばかりで、まだ海賊稼業に慣れてない。


「焦らされるのは好きじゃない、で、何だって言うんだ?」

提督が問うと、ファンは答えた。


「アルジェ海賊が、何かしでかすって話が広まってるそうでさ。で、おいらもビックリって寸法で…」

「何だって!?」

リオーノも驚いた顔をする。

こいつもアルジェ海賊の筈だが、提督と、そしてホーレスの旦那の顔も見るに、何も知らされていない様だ。


「ちょうどリスボンに居るんだ、アルジェに戻ってみませんか、提督?」

「…だが、お…お頭はオレに、戻るなって…」

「若、じゃない提督。お頭は『一人前の海賊としてそれなりの成果をあげるまでは』戻るなとおっしゃったんです。でしたら、もう戻ってもいい筈ですぜ。」

提督は、ホーレスの旦那の言葉に頷いた。


「確かにな。お頭が何か起こすんだとしたら、こんな所でチョロい奴を相手にしてられない。明朝、アルジェに向けて出航する。」

「よし、そう来なくっちゃ。」

半分寝こけてた奴らも、周りの雰囲気に口々にそう叫んだ。


俺の視界の端で、ファン・コーサが少しばかり、唇の端を歪めた。





2010/6/13



名声競争イベント開始。

現時点でのサルヴァドル艦隊メンバー(加入順)

サルヴァドル・レイス…提督。アルジェの海賊王子。女恐怖症。

ホーレス・デスタルデ…副長。サルヴァドルの守役、というよりお守、もっというとお母さん。でも老練かつ人望厚い海賊。今の時点でもやっぱり、サルヴァドルよりよっぽど艦隊の運営に適している。

アル・ファシ…会計長。トリポリで借金を取り立てられたついでに強制加入させられた。商品の強制値切りが得意。ホーレスには頭が上がらない。自称:敬虔なムスリム。オスマン人。意外と情に脆い所有り。

アフメット・グラニエ…アレキサンドリアで「船と商売の勉強をするには実地訓練が一番」とアル・ファシに説き伏せら(騙さ)れ、加入。生真面目な性格。会計技能取得を目指している。敬虔なムスリム。オスマン人だが、どうやら東欧との混血であるらしい。

アンソニー・ジェンソン…首席航海士。通称「直感のアンソニー」で、悪い事態の予知が得意。アテネでサルヴァドルに飲み負けて加入。元イングランド海軍下級士官。口癖は「ピンと来たぜ。」

ギャビン・フィッシャー…元、腕利きの船大工。後海賊。サルヴァドル艦隊をカモだと思ったのが運の尽き、逆に叩きのめされてサルヴァドルに心酔してしまった。酒に弱く、しかも絡み酒。シラフの時は善良な人。アンソニーとは船大工の時からの知り合い。

リオーノ・アバンチュラ…アルジェ海賊。ハイレディンから「サルヴァドルの補佐役」という名目で送り込まれた。実質は補佐役半分、監視役半分。明るくお喋り好きで女好きな伊達男だが、海賊としての腕は確か。

ファン・コーサ…イスパニア人。商船隊で働いていたところをサルヴァドル艦隊に襲われ、加入する。有能な船乗り。

コーネリウス・ショーテン…アムステルダムの航海士。

アロンソ・メンドーサ…ポルトガル人の航海士。

これでようやく航海士が10人になった。




当時における「17歳」という存在

   

目次









































結論:立派な成人。

前近代における年齢は、1.5倍くらいすると現代感覚に近い気がします。つまり、17歳は25-6歳。うん、立派な成人でしょ?
まあ、社会においてはまだまだ青二才扱いされ、まだ結婚していない人が多い年でもあります、つまり、この時代のサルヴァドルはそのくらいの年齢な訳です。
さらに、当時において17歳の船乗りと言えば、もう操船技術などはマスターしている年であります。
もっと言うと、17-18世紀の海賊の平均年齢は27歳だとか(現代感覚で言うと40歳。意外と老けてる)
40超えて現役の海賊やってる輩はほとんどいない…とのことなので(目端の利くごく少数の人間はカタギになり、不運だったり、ドン臭かったり、カタギの世界についていけないクレイジーな奴はそれまでに死んでいる)。
じゃあどうして今回のタイトルが「少年海賊という存在」なのかと言うと、この話のサルヴァドルは、現実世界的に「17歳」だからです。
つまり、男子高校生。
ジョカなんかは、前近代的な「17歳」のつもりで書いてます。だから、サルヴァドルはジョカとタメのくせに、ガキっぽいんですね。

だから何だというお話ですが、設定トークでした。

P.S. だとしたら、開始してすぐに40になってしまうホーレスはどうなるんだろう…

何より、開始してちょっとしたらすぐに70を超え、タイムオーバーギリギリまで航海すると四捨五入して100になる、ロッコは…

ま、ロッコは別格ですよね?

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