救世主の名を持つ悪魔殺しの物語

6-2 オズワルド・レミントンが語る話









目を上げると、ロドリゲス・ビゴールが立っていた。

「サルヴァドルに連絡はついたのかね?」

「ええ、オズワルドの旦那。見事なくらい順調に。なんせ、こちとらがセビリヤにいる時にまんまと向こうがやって来やしたからね。もう到着しやしたよ。」

「それは重畳。」

私は、海図を取り上げる。


「作戦会議を取り行おう、首領と副首領、そして幹部達を集めてくれ給え。」

「へえ。」

私が命じたのに、ロドリゲスは動かない。

万事に迅速なこの男には珍しい事だという顔を私がすると同時に、ロドリゲスが口を開いた。


「いえ、ジョカの名を出さなかったと思いやしてね。」

「…確かにな。」

私が視線をロドリゲスに合わせると、ロドリゲスは紫のターバンを巻いた頭を一振りした。


「いえね、今回のウルグ・アリ戦は『若いのに任せる』ってぇお頭のお言葉でしたから、てっきり、ジョカの事だと思っていたんでさ。」

ロドリゲスの台詞は、私から言葉を引き出すためのものだと分かったが、私は応える。


「違うね、首領の言葉の意味は『若くて強いのに任せる』という事だよ。」

「そうでしたかい、あっしはてっきりジョカの事だと思いやしてね。いやいや、あっしやゴンザレスだけでなく、トレボールの旦那もそう思いこんでいやしたぜ。」

「そうかね、さぞや五月蠅かった事だろうね。」

「ええ、

『お頭はジョカをおれ達と同じバリエンテにするつもりかっ!!』

って、大荒れでしたさ。」

「まったく、困った男だ。」

私は、ロドリゲスの言う、トレボールの大騒ぎがあまりに鮮明に脳裏に浮かんだので、ついつい苦笑してしまった。

あのような男は、組織に一人は必要だと理性では理解するが、感情ではどうあっても好ましいとは思えない。


「なに、ジョカもこの港に居るのだ。あの耳聡い男なら、呼ばずともやって来るだろう。」

「ま、トーゴの旦那がお声をおかけになるでしょうしね。」

自分で話題をふっておきながら、ロドリゲスは自分で回収した。


「で、何が言いたいのかね?」

「いえね、オズワルドの旦那は、サルヴァドルさんとジョカ、どちらに期待していなさるかと思いやして。」

ロドリゲスが興味深そうな顔をしたが、私は答えた。


「何、私は若いの全てに期待しているよ。」




イングランド海軍将校から、アルジェ海賊に、世間的には「落ちぶれて」から何年経ったか。

私も軍人としては、いや、「海賊」としては随分年を取ってしまった。

しかし、時は私だけでなく万人に平等に流れる。

深紅の巨人、海賊王ハイレディン・レイスにも、確実に老いの影は忍び寄っている筈だ。

そして、ハイレディンが年を取るに従って、ひそやかに「その後」の事が語られ始めている。

曰く「アルジェ海賊を継ぐのは誰か」と。


れっきとした後継者であるはずの息子、サルヴァドルがあるのにそう語られるのは、ジョカ・ダ・シルバという男がいるからだ。

未だ年若いと言うのに、有能すぎ、そして、存在感があり過ぎる。

本来なら、このような男は真っ先に警戒され、そして消されるものかもしれないが、

「ああ…」

「…だから、な。」

その言葉と、小さな笑いと共に、その危惧は笑い捨てられる。


だが、笑い捨てた者たちも、ジョカの前でそう笑うだけの度胸はないのだ。

そうして、ある者たちはすでに、露骨にジョカに媚び始めている…


「ジョカ・ダ・シルバ、か…」

さて、私はどうしていくべきか。




「オズワルド、どうした?」

ドアを開ける音と同時に、威勢と感じの良い声が響いた。


「トーゴ、君かね。ノックくらいし給え。」

「はっはっは、すまねえな。ま、気にするな。」

トーゴ・グリマーニは、茶色の巻き毛と大きな腹を同時に揺らして笑った。


「いや、作戦会議だって聞いたのに、当のお前さんはいねえ。開けてみりゃ灯りもねえ薄暗い部屋で何やら考え事だ。」

「私は参謀なのでね、考える事が仕事だ。それに、思索には暗闇が相応しいものだ。」

「ほう、で、何をお考えだい、ウチの参謀ドノはよ。」

「…」


海賊の枕詞に相応しい、残忍という言葉とも、狡猾という言葉とも、また狂気という言葉とも遠い、トーゴ・グリマーニというこの人好きのする男が、何故に海賊という生き方を選んだか、私は知らない。

だがこの男は、アルジェ海賊のバリエンテに相応しい男であると同時に、信頼に値する男でもあると、私は知っている。

また同時に、ジョカ・ダ・シルバの能力を、首領の次に認めた男でもあると、知っている。


「今回の作戦だ。」

私は思う。この男はジョカをどうしたいのかと。


「参謀は大変だな。」

サルヴァドルではなくジョカを盛りたてて、自分はナンバー2の位置に就きたいのか。


「ま、ともかくお前さんのことだ、とうにお頭には伝えてあるんだろう。ともかく行こうぜ。」

人好きのする笑みを浮かべるこの男を、さてどこまで私に近づけたものか。




アジトの暗い通路に、我々のものでない松明が煌めいた。


「おお、いいところに来た、サルヴァドル。」

黒い髪をした、少年にもまだ見紛う、アルジェ海賊の「正当な」後継ぎ。


「これから作戦会議だ。早くしろよ。」




さて。

私は、サルヴァドルとジョカ、どちらに加担したものか。





2010/7/4



名声競争イベント開始中。

今回の語り手:オズワルド・レミントン …アルジェ海賊四人衆の一人、44歳と最年長。測量、会計、砲術技能の持ち主(仲間にしたいっ!!)。この海賊団の参謀的存在だけあって、知識92を誇る上に、戦闘技能も高い。元はイングランド海軍士官だが、何があったのかアルジェ海賊になった。SS版PS版では貴族的な容貌(前歴があれだけあって、イギリス紳士風)だが、PC版ではワイルドで「ああ、士官崩れの海賊だもんな」と思わせてくれる。
悪属性(このゲームでは登場キャラに「善」「中立」「悪」の性格づけがある)は当然のように「悪」…だけど、ゲーム中では特に悪属性が目立つエピソードは残していない。年齢的にはオットー・スピノーラと16違いなので、元はオットーの上官だったとか、いろいろエピソードのつけようがある筈なのに、気付いたらゲームに出てこなくなった。ある意味、4人衆の中で最も印象が薄い人。

以上が公式設定(かなり私見入ってるけど)
もしかしたら、彼に関するイベントはいろいろ削除されてしまったのかもしれない。
シャルークとのアレのあと、彼も刺客になっていたのかもしれない。
しかしまあ…も少し出番があっても良かったと思うんだよ!!
という訳で、この話では少しでも出番を増やしたいと思います。


オズワルドの喋り方

   

目次









































オズワルド・レミントンは会話パターンが「海賊」&「丁寧形」なので(おそらくオズワルドだけだと思われるけど)、酒場で話しかけると
「私に気安く話しかけないでほしいな」
と、気取った感じで応答してくれます(の割に、酒おごったら喜んで飲んでくれますが)。
ゲームでもあまり喋りませんが、参謀だし、イギリス人だし、海軍将校崩れだし、ってんで、ちょっと気取った&小難しい理屈こねる喋り方にしてみました。

お前は本当に海賊か?
って感じにもなりましたが。

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