救世主の名を持つ悪魔殺しの物語

6-3 トレボール・エスティブラが語る話









「いいか、よく聞け。今回は対シャルークの前哨戦だ。」

アイディン副首領の声に、サルヴァドルが頬を紅潮させた。




ここは、アルジェ海賊であるおれ達の地下アジト。

今は作戦会議中で、お頭にアイディン副首領、そしておれ達バリエンテが皆集まっている。


「二手に分かれて作戦を展開する。一方は、シャルークの片腕であるウルグ・アリの艦隊を攻撃する。そして、もう一方はウルグの援軍にやってくるオスマン艦隊の合流を阻止する。」

「ウルグ・アリをつぶす役目、オレにやらせてくれ。そいつを沈めればいいんだろ?」

副首領に最後まで言わせず、サルヴァドルが勢い込んだ。

元から坊ちゃま育ちらしく、世間知らずのくせに自信家だったが、それが更に増した気がする。

きっと、ゲテロ(戦士)になったのが得意で仕方ねえんだろ。

ったく、お頭の息子だから甘やかされて、特別扱いされてるってのが分かってないと見える、困った坊ちゃまだ。


「いや。」

お頭が口を開くと、それだけで場が静まった。

サルヴァドルも口を噤み、お頭の言葉の続きを待つ。


「ウルグ・アリ討伐を任せるには条件がある。」

「条件?」

サルヴァドルの問いに、副首領が代わって答えた。


「お前と、そしてジョカ、どちらが多く艦船を襲撃したかで勝負を決める。」

「ジョカ!?」

サルヴァドルの不満そうな声に、お頭の声が被さった。


「海賊として腕の立つ方にこの仕事を任せるという事だ。」

「ちょっと待ってくれ!!」

サルヴァドルが声を上げた。


「オレでいいじゃないか…むしろ、オレじゃ信用できないって言うのか、親父!?」

ったく、駄々っ子かよ。

と、そう思ったのはおれだけじゃないらしい。

副首領が間に入ろうという素振りを見せた所で、別の声が分けて入った。


「俺はかまわないぜ。」

「ジョカ…」

サルヴァドルの紺色の目が、あからさまに不快そうになったが、ジョカは気にもとめねえようにして、サルヴァドルのまん前に立ち塞がるようにして足を止める。


「腕に自信があるなら問題ねえだろ?」

年は同じだが、ジョカの方が明らかにタッパもありゃ、肩幅もデカい。

何より、海賊としてのキャリアが段違いだ。


「俺には絶対負けないって言ったのは、嘘だったのかい、サルヴァドル?」

上から眺め落されるあからさまな挑発の目に、サルヴァドルが歯を噛みしめた。


あとちょっとでもほっときゃ、会議の場であってもサルヴァドルが刃物を抜きそうな緊張だったが、お頭が軽く手を振ると、ジョカはサルヴァドルから少し距離を置いた。


「今より期間は2ヶ月。より多くの艦隊を襲撃した方にウルグ・アリ討伐の任を命ずる。」

お頭の声は、いつも重い。

サルヴァドルもジョカも、その声には無条件で従わせられた。


「競争期間が終了したら速やかにアルジェに戻るように。戻らない場合は逃亡したとみなし、今回の作戦からは無条件で外す。以上だ。」

副首領が付け加えると、ジョカは不敵に笑った。


「楽しみだな、サルヴァドル。お手並み拝見させてもらうぜ。」

そう言い残すと、ジョカはすぐに立ち去った。

「誰が負けるかっ!!」

サルヴァドルの吐き捨てるような言葉が、その背を叩いた。




「結局、想像通りの場面になったな。」

アルジェの酒場で、おれはトーゴとゴス相手に言った。


黙って頷くゴス、もっともこいつはいつも黙って頷いてるだけなんだが、そして、苦笑するトーゴ。


「まったくジョカは相変わらず…あいつも、サルヴァドルは後輩なんだから、もちっと大人な態度示してもいいだろうになあ。」

ゴスは黙って頷いた。


「年は同じだからな。」

ゴスはまたもや黙って頷いた。


「ま、分かりやすくていい勝負だ。艦隊襲撃する腕の立つ方に艦隊襲撃を任せる。これほど分かりやすい勝負もない。」

「だがな、艦隊を沈めた数で勝負ってんなら、戦艦隊と勝負するよりゃも、商船隊をまとめて叩き潰す方が効率が良くないか?」

「ま、そこはビゴール兄弟あたりが監視してんだろ。いくら数が多いったって、相手がカラベル・ラティーナじゃあ大した評価はしねえさ。何せ相手はウルグ・アリだ、最低でもフランダース、いや、ガレオン、いやいや、ガレアスあたりを率いて来るに違いない。」

「ガレアス…」

ヴェネツィアン・ガレアス。

おれだって率いたことのねえ海の要塞か。

ったく、戦うのがおれでなくて良かったぜ。あんなの相手にしちまったら、命がいくつあっても足りねえよ。


「2ヶ月か、短い…」

ゴスもしつこく黙って頷いた。


「で、どうなんだ?どっちが勝つと思う?賭けようぜ。」

おれが口にするとすぐに、ゴスが金貨を卓の上に投げた。


「ジョカ。」

「早っ…」

トーゴは面白そうにゴスに尋ねる。


「理由は?」

「腕が違う。」

ゴスは短くそう断言した。


「だと、さ。でトレボール、お前さんは?」

「…おれもジョカだ。」

ジョカは気に食わねえが、賭けともなりゃ話は別だ。

サルヴァドルじゃあ勝負にならねえだろう。


「やれやれ、これじゃあ賭けにならねえよ。」

トーゴは大袈裟に両手を上げてみせると、自分も金貨を卓の上に投げた。


「俺はサルヴァドルだ。」

「サルヴァドル?」

おれが言うのと同時に、ゴスが今度は首を左右に振った。


「なんだ、賭けにならねえからってワリを食ってくれたのか、お人好しだな。」

「それも、ある。」

トーゴは意味ありげに笑った。


「なんだ『も』って。」

「いや、サルヴァドルが勝つんじゃないかと思ってるって事だ、割と本気でな。」

ゴスは理解できないとでも言いたげに、首を左右に振り続ける。


「理解できねえな。てか、お前はジョカを可愛がってんだろ?」

「ジョカの事は買ってるさ。それに、俺はあいつが好きだしな。だが、サルヴァドルの事だって買ってるぜ。だから、これはサルヴァドルの可能性に賭ける金って事さ。」

トーゴは酒を飲み干すと、付け加えた。


「あ、だが賭け率は1:10で頼むぜ。」





2010/7/8



名声競争イベント開始。

実はこのイベントはトーゴが最後に喋るイベントでもあります。
せっかくいいキャラなのに、出番少ないなあ、トーゴ。


ゴスは喋らないことにしてみた

   

目次









































アルジェ4人衆のゴス・ダッカードは「無口な大男」設定らしいので、喋らない設定にしてみました。

でも、リアクションないと小説だといるかいないかすら分からないので、リアクションだけつけてみたら、それはそれで可愛くなりました。

ま、トーゴもトレボールもよく喋るので、一人くらいこんなのでもいいかな?

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