救世主の名を持つ悪魔殺しの物語

6-4 アルジェの宿屋「亜麻色亭」の女将オルダが語る話









「出航だっ!!ジョカの野郎に目に物見せてやるっ!!」

サルヴァドルさんは、うちの宿の扉を叩き壊さんばかりの勢いで飛びこんでくるなりそう叫びました。


「…」

サルヴァドルさんの船の航海士さんたちも、唖然とした顔でサルヴァドルさんを見るばかりです。


「まあまあ、若…じゃなかった、提督。状況を説明しないと、こいつらも分かりゃしやせんぜ。」

ホーレスさんがそう言って、相変わらず興奮状態のサルヴァドルさんの代わりに説明しました。


「はあ、艦隊を沈める、ねえ…」

太った男の人、ファンさんと言いましたかしら、が、気のない返事を真っ先にしました。


「何なんだ、やる気ないのかっ!?」

サルヴァドルさんの叫びに、黒髪の日焼けした航海士さん、確かギャビンさんと言ったかしら、が、あると叫びます。

続いて、航海士さんたちの叫び声が続きました。


「ってコトだ。受けて立とうぜ、提督。」

オレンジの髪をした瀟洒な男の人、リオーノ・アバンチュラさんがそう言って、サルヴァドルさんの肩を叩きました。


「オレがついてるぜっ!!」

「ああリオーノ。もちろんだっ!!」


盛り上がるみなさんの少し後ろで、ターバンを被った人、アルさんと言いましたけれど、が呟きます。

「ってことだ。」


それに対して、赤い髪をしたアフメットさんが、特に表情を変えずに、

「積荷はここで売ってしまって、船員を補充しないといけませんね。あと、水と食料と…」

と、手元で計算を始めます。


「ああ…散財だ…元取れんのか?」

アルさんが大袈裟に天を仰ぎました。




「世話になったな、オルダ。これは宿賃だ。」

サルヴァドルさんは出際に金貨で支払いをしましたが、更に何かを袋から取り出します。


「で、これも。」

薄い木箱に入った何かを手渡されます。


「開けて、よろしいんですか?」

「もちろん。」


木箱の中に入っていたのは、白銀に輝く櫛でした。


「…」

「プレゼントだ、オルダ。」

「…」

わたしは、白銀の櫛を灯りに透かしました。

紛うことなき、白銀です。


「…頂けません。」

「えっ?」

サルヴァドルさんが、非常に困った顔になりました。


「何で?女ってこういうアクセサリーが好きなもんじゃないのか?」

サルヴァドルさんは困った顔のまま、ホーレスさんを振り向きます。


「いえ、アクセサリーはそりゃ好きですよ、そりゃ女ですから…でも…」

「若、じゃなくて提督、オルダの好みには合わないのかもしれませんぜ。」

「何だ、アンナみたいに宝石が良かったのか。じゃあ…」

「いえいえいえっ!!問題はそこじゃなくでですねっ…その…頂けませんよ、こんな高価なもの。」

サルヴァドルさんは、ホッとした顔になりました。


「気にするなよ、オルダ。安心してくれ、金なんか払ってないぞ。敵船から分捕ったシロモンだ。」

「若、そういう事は言わねえもんですぜ。」

「あ、そっか。えっと…その、アレだ、オルダにはせんべつも貰ったし。」

わたしは、サルヴァドルさんが海賊として旗揚げする時に差し上げた、サルヴァドルさんの赤い髪留めに目をやります。

強い日差しに晒されているだろうに、さすがセリカ製、色褪せていません。


「別にお返しを期待したわけじゃありませんから。」

「オレは借りを作るのがキライなんだよっ!!」


ぷいっ

サルヴァドルさんは横を向きます。

何と言うか、そんな表情は昔のまんまで、何だかホッとします。


「まあまあ若…オルダ、せっかくの若の気持ちなんだ、受け取ってくれ。」

「はあ、まあそこまで仰るんなら…でも、かえって気を使わせて申し訳ないと言うか…」

「…」

サルヴァドルさんが面白くなさそうな顔をしているのと、ホーレスさんが気遣わしげな顔をしているのに気付きましたから、わたしは笑顔で言い添えます。


「もちろん、とっても嬉しいんですよ。」

サルヴァドルさんが、照れた笑みを浮かべました。


「じゃあ、また持ってくるからな。」

サルヴァドルさんは足取り軽く、扉から出て行きました。


「いえね、だからあんまり高価なものを頂くのは…ああ…」

サルヴァドルさんの耳には決して入らなかった呟きを、ホーレスさんは聞いてくれました。


「ま、若の好意なんだから、次も受け取ってやっておくれよ。可愛いお人だろ?」

「ええまあ、嬉しいんですよ、本当に。でもですねえ、サルヴァドルさん、他に差し上げるべき人がいなさったりしないんですか?」

「それが、相変わらずでなあ…」

ホーレスさんが苦笑いします。

ああ、サルヴァドルさんの女性恐怖症はまだ治っていないようです。

せっかく美青年なのに、もったいないことです。


「ああ、言い忘れてしまいました。ホーレスさん、サルヴァドルさんに『くれぐれもお気をつけて』と。」

わたしは、ホーレスさんにそう伝言しました。




「オルダ、そろそろ晩飯の仕込みを…」

うちの人が、わたしの髪に挿した白銀の櫛に目をとめたのに気付いたので、わたしは先に言いました。


「サルヴァドルさんに頂いたの。わたしが差し上げたせんべつのお返しですって。」

「律義な海賊だなあ…」

うちの人がそれだけしか言わないので、わたしは付け加えてみました。


「あなた、女房が若い男の人に高価なプレゼントを貰ったりして、妬きません?」

「何で?餞別返しだろ?」

「ま、そうですけど…」

まったく、男の人ってのは女ごころが分からないものですね。女はいくつになっても、ちやほやされたり、ちょっと嫉妬されたりするのが嬉しいものなのに。


「もういいですよ。わたしはとうに男に縁のないオバサンですからね。別に高価なプレゼント貰ったって、亭主が心配するようなことじゃ…」

「いや、おれの女房はたとえ黄金の城を貰ったって、不誠実な真似はしないって知ってるからだよ。」

「…」

うちの人は、ちょっとだけ照れくさそうな顔をしました。


「さ、晩飯の仕込みをするぞっ!!今日はジョカさんトコのが派手に飲み食いかるらしいからな、ウチも稼ぎ時ってことさ。気張ってくぞ、オルダ。」

「はい、あなた。」

わたしは返事をして、頂いた白銀の櫛をそっと木箱にしまい直しました。





2010/7/15



リオーノの
「受けて立とうぜ、提督。俺がついてるぜ。」
を書きたかった回なのに、ついつい脇の話がメインになってしまった。




アクセサリーはどうしてこんなに高いのか?

   

目次









































このゲームで酒場女にプレゼント出来る贈答品ですが、一番安い服飾品の「絹のリボン」で金貨1000枚。その次に安い、今回登場した「白銀の櫛」は金貨3000枚です。更に宝石ともなると天井知らずに高価な代物です。
航海士の給料は、一番安くて金貨10枚。ギャビンやラウルはこの給料で雇えますから、彼らは酒場娘に一番安いプレゼントを買おうとしたら、10年近くかかってしまうわけです。
海賊してたらアクセサリーはただで奪えますから、船乗り達が海賊になりたがる気持ちも分かろうと言うものです。
そして、酒場娘たちってばせいぜい「これはお礼よ、ちゅっ」で、船が買える金額の宝石を貢がせる訳で…そりゃ、酒場娘のレベルも高いわ。

どうでもいいことですが、べにいもは今までこのゲームをプレイして、ほとんどアクセサリーを買った事がありません(船襲ってたらいくらでも手に入るから)。
サルヴァドルシナリオでもたくさん手に入るので、気前よくプレゼントしては、「これはお礼よ、ちゅっ」をされてました。
他の男ならともかく、サルヴァドルには拷問だったでしょう(笑)

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