救世主の名を持つ悪魔殺しの物語

7-1 サルヴァドル・レイスが語る話









「クソっ!!ショボい艦隊ばっかりだっ!!」

オレが吐き捨てると、ホーレスがたしなめ顔になる。


「若、じゃなくて提督。勝ったんですから素直に喜びやしょうや。」

「商船隊ごときに勝てて喜べるかっ。」

気に食わない。




「提督、バス3隻とキャラックを拿捕しました。どこかに寄港して売却しましょう。」

アフメットが言うと、オレより先にホーレスが応と答えた。


「ここからじゃ、バレンシアが近いね。提督、バレンシアでいいかい?」

「ああ、クソ、どこでもいい。」


「提督、バレンシアならおいらの庭みたいなもんです。キャラックを任せてくれたら先導しやすぜ。」

「ああ、もういちいちオレに聞くな。好きにしろ、ファン。」

「へいへい、好きにしまっさ。」

ホーレスが気遣わしげな顔になる。


「あのですね、提督…」

「分かってる、オレが提督だからちゃんと差配しろってんだろ?分かってる分かってるっ!!ギャビン、アンソニー、あとアフメット、バスの船長を任せる。」

「…」

ホーレスは、結局オレには何も言わないまま、主舵を握った。




ジョカとの艦隊襲撃競争を親父に命じられて、1か月。

艦隊を沈めまくる競争なのに、オレの艦隊はあんまり成果が上がってない。


ホーレスのせいだ。

オレは手あたり次第艦隊を襲いまくろうと言ったのに、そんなことをしたら各国から目をつけられてエラいことになるから控えろだの、だったらニコシア海賊を襲撃してやると言ったら、いきなりシャルークと正面衝突する気ですがだの、いちいち五月蠅いからだ。

結局、手近なイタリア艦隊を主として襲撃することになったが、イタリア商船隊はともかくショボい。

沈めるのはラクでも、これじゃジョカにゃ勝てやしない。

だからオレはイタリアの戦艦隊を相手にしようと言うのに、ホーレスは、イタリア戦艦隊はドーリアだのバルバリーゴだの歴戦の勇士が多いから危険ですとか、


「ああクソっ!!オレは海賊だから、危険でナンボのもんだろがっ!!」

「提督、艦影が見えるぜ。」

リオーノが言って、オレに望遠鏡を差し出した。


「イスパニアの戦艦隊か…艦影は5隻。」

「戦艦隊にしちゃ小編成だね。距離を取って移動すりゃ、攻撃はしかけて来ないんじゃ…」

「行き崖の駄賃だ。襲う。」

「…は?」

「イスパニア戦艦隊に舵を取れっ!!攻撃する、全員、戦闘準備っ!!他船にも信号を送れ!!」

オレが叫ぶと、リオーノは戦闘準備にかその場を離れたが、代わりにホーレスがオレの側に戻ってきた。


「提督、この艦隊編成で戦闘なさるおつもりですかい?」

「そうだ、悪いか?」

「ええ、拿捕した船を売っ払ってからにしやしょうぜ。」

「時間がかかるだろ。もう期限まで時間がないんだぞ?」

「時間はないかもしれやせんが、売ってからにしやしょう。」

「ホーレス、相手はたった5隻だぞ!?」

「たった5隻でも戦艦隊です。甘くみちゃいけやせんぜ、若。危険です。」

「海賊ってのは危険を冒してナンボの商売だろ!?」

「危険を冒してナンボの稼業であることは否定しやせんが、好き好んで危ない目に遭うこたありやせんよ、若…」

「若じゃない、オレは提督で、そしてこの艦隊に命令するのはオレだっ!!オレの命令に逆らう気かっ!?」

ホーレスは、困惑した顔になった。

ホーレスのこんな顔はいつも見てる。

そして、この後に続く台詞はいつも同じだ。


「提督のおっしゃる通りに。」




ざわめきが聞こえる。

「提督、キャラックの様子がおかしいぜ。」

アル・ファシが指さした先のキャラックは、確かに進路がおかしい。


「キャラック?」

「船長はファン・コーサですぜ、提督。そして…ありゃ、間違いねえですぜ、命令に従ってねえ…」

「逃亡かっ!!」

オレはキャラックの向かう先を見詰める。

この戦闘から、いや、オレのこの艦隊から逃げ去ろうとしていた。


「追うぞっ!!オレのガナドールから逃げ切れると思うなよっ!!」

旗艦の新ガナドールは、ラ・レアル級。キャラックなんか目じゃない船足を持ってる。

追いつけないはずが…


「無茶言わないでくれよ、提督。バス級の船じゃあ、このガナドールの速さにゃついてけねえよ。ファンを追って、バスを置いてく気かい?イスパニア戦艦隊にフクロにされちまうよ。」

「…クソっ…このままあのデブを見逃せってのかっ!?」

オレは航海士を見渡す。

コーネリウスとアロンソが、不安そうな顔でオレを見、オレと視線が合うとそれを不自然に外した。


「…クソっ…」

見逃すしかない。

あのクソデブを追い掛ける方法は今はない。


「…ホーレス、命令を変更する。ファンの逃亡は放置し、イスパニア艦隊と戦闘する。バス船は敵船と接触させず、戦闘はガナドール号一隻で行う。」

「承知でさ。長引くと危険だ、旗艦に総員で突っ込みやしょう。」

「総員、戦闘態勢継続っ!!」

オレは叫んでから、思いっきり歯を食いしばった。




畜生、ファン・コーサのクソ野郎っ!!

絶対に、次会ったらブチ殺してやるっ!!





2010/7/23



今回、サルヴァドルは「クソ」が多いです。
サルヴァドルは海賊のくせに(まあ海賊「王子」だからですが)、ゲームでは口調は下品ではないのですが、まあ…高校生くらいの男の子だしね。




バス級は使えません

   

目次









































このページ でもさんざ語られていますが、 バスは本当に使えない です。

遅いし、動かすのに人いっぱい要るし、物はのっけらんないし、拿捕しても安いしっ!!

まあ、イタリアしか使ってないのが救いですが(まさか自分で買って使った人はいないよね?)、しかし、商船隊ならともかく、たまに戦艦隊とかがバス使ってたりするのを見ると、人ごとながら
「大丈夫かね、貴国は?」
と心配したくなります。

という訳で、今回はバスの疫病神ぶりをクローズ・アップしてみました。
ま、一番悪いのはサルヴァドルなんですけどね。

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