「積荷を運び入れろ!!使用可能な船は拿捕、ギャビン、アンソニー、船長を任せる。破損した船は放棄!!怪我人の回収は終わったか!?」
ホーレスのダンナは的確に指示を出し、獲物を回収する。
「おおっと、獲物はチーズですね。これなら近場で売り捌けますぜ、ダンナ。」
「だな。パルマに戻る。若が心配だ。」
ホーレスのダンナは厳しい顔を崩さずにそう答える。
「パルマに引き上げだッ!!野郎ども、面舵いっぱーいっ!!」
オレもそう答えた。
オレは戦利品のチーズをちょいと抱えて、ついでにワインの瓶も抱えて、更にてめえ用にミント茶も持って、船長室の戸を叩いた。
「ダンナ、呑まねえんですかい?」
ホーレスのダンナは、ちょいと顔を上げる。
「せっかくの戦勝祝いなのに、顔出しただけじゃあ景気もつきませんぜ。ささ、まあ一杯。」
オレはワインを杯に注いだ。
「お前、自分は呑まねえ癖にな。」
ホーレスのダンナは苦笑したが、杯は手に取った。
「じゃあ、ま、ダンナの勝利に乾杯!」
ホーレスのダンナは、一息に杯を傾けた。
「ほうら、やっぱり呑みたかったくせに。」
「勧められた酒を呑まねえのは、海賊の礼儀に反するんだよ。」
そして、杯を軽く指で弾く。
「ついでに、酒をチビチビ呑むのもな。」
杯はきれいに飲み干されてた。
「しっかし、ダンナはいい腕してやすね。」
チーズを切り分けながらオレが言うと、ホーレスのダンナは苦笑いした。
「煽てたって何も出んぞ。」
「おだててるワケでも、ヨイショでもねえさ。船を操る技術も、人を動かす力も、判断力も。ダンナは一流の海賊でさ。」
「俺くらいの海賊なら、アルジェにゃゴロゴロいるさ。」
俺はただの下っ端だよ、艦隊率いた経験もねえ。ダンナはそう続けたが、オレにはどうも納得がいかなかった。
「ダンナはそう言いやすがね、オレにはどうも信じられやせんね。そりゃアルジェ海賊は地中海でも最強の海賊ですけど、だからってダンナ級の海賊がそうそう転がってるとは思えやせんね。ダンナは十っ分、幹部級の実力者だと、オレは思うんですがね。」
「過大評価しすぎだ。俺はただの下っ端で、若のお守に過ぎねえよ。」
「…思ってたんですがね、ダンナ級のお人が『お守』する提督って、もしや…」
どうやらオレに、ミント茶が回ったらしい。
「海賊王ハイレディン・レイスの…」
「…」
ダンナは笑う。
「何だ、今さら気付いたのか。」
「…マジですかい。」
「詐欺師のくせに、思ったより目端が効かなかったな。」
「…てか、それならそうと早く言って下せえよ。」
「仕方なかろう。若が広言するなと仰るんだからな。」
そしてホーレスのダンナは、提督は親の七光扱いと、子ども扱いを何より嫌うんだ、と続けた。
「ダンナが一番、してやせんかね?」
「何をだ?」
「いや…」
オレはホーレスのダンナを下手に刺激したくなかったので、言葉を濁した。
「いかがですかい、もう一杯?」
オレは答えを聞く前に、ワインで杯を満たした。
だがダンナは、今度は手を伸ばさない。
「…若の事が心配で、酒が喉を通らんのだ。」
そして、強面のダンナらしからぬ弱気な言葉を吐いた。
「そんな…そりゃ軽くねえケガにゃ違いなかろうでしょうけど、命に関わるケガじゃあねえでしょ?」
「若にあんな怪我させちまうなんて、お頭に申し訳ねえ…」
「いや…」
幸いなコトに?海賊王ハイレディンと面識がねえから憶測でしかねえが、泣く子も黙る海賊赤髯が、息子を海賊にしといて怪我させたくねえと考えてるとは思えねえ。
もっともオレはホーレスのダンナを刺激したくねえから、口には出さなかったが。
ダンナは、多分無意識でなんだろう、ワインを一息で飲み干すと(もちろんオレは「喉を通らねえんじゃなかったんですかい?」なんて余計な口は利かねえよ)
、大きな溜息をついた。
オレにゃ本当に、ミント茶が回り過ぎたんだろう。
「ダンナにとっちゃ、提督は大事な大事な“我が子”なんですね。」
ついつい、余計な口をきいちまった。
「…アル・ファシ。」
その声にドスが効いてたので、オレはちいと背筋が寒くなる。
「若は…俺が赤ん坊の頃からお育てしてるんだ。」
「…へえ。」
ちょいと予想外の返答だった。
「大事なお方だ。そうさ、大事な大事なお方だ。だから若にだけは、もう辛い思いはしてもらいたかねえんだ。」
「へえ…」
オレは思う。
だったら、海賊なんぞにしちゃあいけねェんじゃねェかな?
ま、そりゃ、どこの家にもいろんな事情はあると思うけどよ。
もちろん、オレのヤキはそこまで回っちゃいなかったから、口には出さなかったけどよ。
「…」
「…」
オレとホーレスのダンナはしばらく沈黙した。
オレとしちゃ、そこまで気まずくもねェ沈黙だったんが、ホーレスのダンナの苦々しい顔からするに、ダンナにとっちゃそうでなかったようだ。
「アル・ファシ、で、今回の稼ぎでツケは払えそうか?」
ダンナは苦い顔のまんま、そう聞いた。
「あ、ああ、ええ勿論でさ。」
で、主計長として付け加える。
「でも、払った後にゃスッカラカンにゃ違いはねェですぜ?」
「分かっとる!!」
ダンナが一喝したから、オレはとっとと退散することにした。
翌朝。
ホーレスのダンナはオレの顔を見るなり、空になったワインの瓶を軽く投げつけた。
「ま、美味いワインだった。」
そんな言葉と一緒に、な。
2010/8/3
べにいも的にはホーレスはサルヴァドルといると「苦労性の、子どもに甘いお母さん」なのですが、サルヴァドルがいないと割と普通に男らしい人なのです。
ホーレスの能力値
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目次
ホーレスの能力値は、
統率88 航海術84 知識78 直観72 勇気90 剣技93 魅力71
と、非常に高いです。
加えて、測量も砲術も所持と、アルジェのバリエンテ四人衆に決して劣りません(てか、アイディン・レイスにもそれほど劣らない)、むしろ勝ってます。
なのに、彼のアルジェ海賊での地位は「若のお守」。
これには、ホーレスの謙虚で誠実で善良な
海賊らしからぬ
人柄が大きく関わって来ていると思われます…というのが、今回のお話でした。