「遅かったな、サルヴァドル。逃げ出したかと思ったぜ。」
アルジェのアジトに足を踏み入れるなり、ジョカが軽口のようにそう言った。
軽口に見せかけちゃいるが、悪意もたっぷり含まれてることくらい、オレにも分かる。
クソ。
どうしてこいつは、いつもこうやってオレをからかおうとするんだ。
オレは、苛々が出そうになる表情を押さえつけるために、大きく息をした。
「ご苦労だった、サルヴァドル。」
トーゴがオレとジョカの間に歩み寄ると、軽くオレの肩を叩いた。
ジョカはそのままオレから視線を外し、椅子に悠然と腰掛ける親父の方に目を向ける。
オレもそうする。
オレの視線を受けていることには気付いているのに、親父はオレに視線もくれない。
今に始まったことじゃない。
親父はいつも、オレの親父として存在するのじゃなく、海賊王ハイレディン・レイスとして存在してるんだ。
「両者揃ったな。」
叔父貴の塩辛声に、みんなの視線が一斉にそこに集まった。
「では、ジョカとサルヴァドルの艦船襲撃競争結果を発表する。」
叔父貴の声に、オレは歯を食いしばる。
オレはジョカに負けた。
完敗だ。
叔父貴に結果を報告される前から分かってた。
あいつは強いのに、オレは怪我なんかして途中から勝負を投げざるを得なかった。
勝てるはずがない。
そして、勝てなかった原因は、オレだ。
紛うことなき、オレの失策だ。
だから、オレは歯を食いしばる。
弱いヤツが悪いんだ。
だから、この結果はオレが背負わなきゃならない。
「そういうわけだ、サルヴァドル。」
ジョカの声が、オレに向けられた。
「俺の勝ちだな。」
分かり切った事実を、殊更、確認するように繰り返す。
だが、オレはここで怒りを出すわけにゃいかない。
だって、オレが弱かったんだから。
オレが負けたんだから。
だからオレは、出来得る限りの平静を装う。
「ウルグ・アリはいただきだ。」
出来た筈だ、きっと。
「サルヴァドル。」
親父の声がした。
ジョカも表情を引き締める。
「お前にはオスマン艦隊の攻撃を命ずる。オズワルド、説明してやれ。」
親父の言葉には、何の温かみもない。
今に始まったことじゃないけど。
「東地中海の海賊、シャルークの元に配下のウルグ・アリが合流する。ウルグとオスマン艦隊、これが集結すれば、シャルークが地中海一の海賊になる。」
オズワルドの言葉も、冷たいくらい事務的だった。
オレは頷く。
「我々はこれを阻止する為、ウルグがこの海域に現れる前にケリを付ける。サルヴァドル、君はオスマン艦隊を潰せ。ウルグ・アリはジョカに任せる。」
「いずれにしろ両艦隊の所在は分かっていない。まずは、敵の居場所を探し出せ。但し、ウルグとオスマン艦隊が動き出すのは2ヶ月後という確かな情報は入っている。それまでに奴らの動きを探り、任務を完了すること。いいな。」
親父の言葉に、オレとジョカは大きく返答した。
そしてジョカは、オレに意味ありげな視線を一つだけくれると、大股で出て行った。
アジトの入口に戻ると、満面に「心配」と書いた顔のホーレスと、思惑顔のリオーノが待っていた。
オレはホーレスたちに、受けた命令を伝えた。
「いよいよですね、提督。」
ホーレスが少し緊張した顔でそう言う。
オレは頷き、そした答えた。
「ああ、いよいよだ。オレはもう失敗なんかしない。もちろん負けやしない。受けた命令がオスマン艦隊を叩き潰すことなら、誰も文句をつけられないくらい完璧に任務を果たしてやる!!」
「さっすが提督、オレの見込んだお人だぜ。そうさ、その意気だぜ。」
ホーレスより先に、リオーノが明るい口調でそう言った。
「ええ、提督の仰る通りです。しかし、居場所もわからない艦隊にどうやって攻撃を仕掛けやす?」
ホーレスはリオーノの方を向いて少し渋い顔をしてから、付け加えた。
「提督、こういう時は…」
リオーノが、さらに明るい口調でオレに言う。
「セウタの酒場だな?アンナ…に、聞けば何か知ってるかもしれない。」
「その通り!」
リオーノの明るい相槌が打たれる。
「…でも、やっぱりアンナに聞くのか?」
「情報通の酒場女を甘く見ちゃダメですよ。ささ、セウタへ急ぎましょ。」
「アンナに…」
オレは、あの赤毛の女に会うのは心からイヤだったが、仕方がない。
オスマン艦隊を見つけて叩き潰すためだ。
ああ、でもイヤだな、女と喋るなんて。
いやいや、でももう一度ドジ踏むわけにはいかない。
親父は失敗したヤツは許さない男だ。
「今度は、絶対に負けないからな。」
「ええ、提督なら勝ちますよ。」
リオーノが言った。
ホーレスはなぜか、とっても渋い顔でそれを見ていた。
2010/8/3
うちのサルヴァドルはワガママ王子ではありますが、
「勝った奴が正義」「弱い奴は悪」
という価値観は物心つく前から叩きこまれているので、負けたことに対しては四の五の言う子ではありません。
ついでに言うと、ジョカのことは嫌いですが、だからと言って甘く見てもいません。
そういうのは、いくらホーレスとはいえ、きちんと教育しています(だって、海賊稼業だと命に関わりますからね。)
みんなの年齢
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目次
このシリーズの年齢は、まあゲームに準拠したいなぁと思いながら、テキトーに捏造しています(特に一般航海士とか)。
で、ジョカの年齢ですが、べにいもはサルヴァドルの
「あいつはオレと年だって変わらない」
という台詞を信じて
同い年
設定にしましたが、こないだゲームで確認したところ、
4つ上だったーッ!!
ということが判明しました。
おい、サルヴァドル!!
17と21は、
年は変わるよッ!!(10代と20代の違いは大きいと思う)
うん、そうだと思ってた。
いくらジョカが若くて有能でも、17はないって思ってた(でも確認はしなかった)。
サルヴァドルはまだ少年体型なのに(細い)、ジョカの筋肉はしっかり「大人の男の人」だよね、と思ってた。
がまあ、今さらなんで、この話では同い年設定でいきます。
ちなみに、女賞金稼ぎレベッカはサルヴァドルより3つ上。これは想定通りでした。
だとすると、ホントはジョカより年下な訳ですが、
この話では、年上設定
でいきます。