救世主の名を持つ悪魔殺しの物語

8-1 サルヴァドル・レイスが語る話









「遅かったな、サルヴァドル。逃げ出したかと思ったぜ。」

アルジェのアジトに足を踏み入れるなり、ジョカが軽口のようにそう言った。

軽口に見せかけちゃいるが、悪意もたっぷり含まれてることくらい、オレにも分かる。

クソ。

どうしてこいつは、いつもこうやってオレをからかおうとするんだ。


オレは、苛々が出そうになる表情を押さえつけるために、大きく息をした。


「ご苦労だった、サルヴァドル。」

トーゴがオレとジョカの間に歩み寄ると、軽くオレの肩を叩いた。

ジョカはそのままオレから視線を外し、椅子に悠然と腰掛ける親父の方に目を向ける。

オレもそうする。

オレの視線を受けていることには気付いているのに、親父はオレに視線もくれない。


今に始まったことじゃない。

親父はいつも、オレの親父として存在するのじゃなく、海賊王ハイレディン・レイスとして存在してるんだ。




「両者揃ったな。」

叔父貴の塩辛声に、みんなの視線が一斉にそこに集まった。


「では、ジョカとサルヴァドルの艦船襲撃競争結果を発表する。」

叔父貴の声に、オレは歯を食いしばる。




オレはジョカに負けた。

完敗だ。

叔父貴に結果を報告される前から分かってた。

あいつは強いのに、オレは怪我なんかして途中から勝負を投げざるを得なかった。

勝てるはずがない。

そして、勝てなかった原因は、オレだ。

紛うことなき、オレの失策だ。

だから、オレは歯を食いしばる。

弱いヤツが悪いんだ。

だから、この結果はオレが背負わなきゃならない。




「そういうわけだ、サルヴァドル。」

ジョカの声が、オレに向けられた。


「俺の勝ちだな。」

分かり切った事実を、殊更、確認するように繰り返す。

だが、オレはここで怒りを出すわけにゃいかない。

だって、オレが弱かったんだから。

オレが負けたんだから。


だからオレは、出来得る限りの平静を装う。


「ウルグ・アリはいただきだ。」

出来た筈だ、きっと。




「サルヴァドル。」

親父の声がした。

ジョカも表情を引き締める。


「お前にはオスマン艦隊の攻撃を命ずる。オズワルド、説明してやれ。」

親父の言葉には、何の温かみもない。

今に始まったことじゃないけど。


「東地中海の海賊、シャルークの元に配下のウルグ・アリが合流する。ウルグとオスマン艦隊、これが集結すれば、シャルークが地中海一の海賊になる。」

オズワルドの言葉も、冷たいくらい事務的だった。

オレは頷く。


「我々はこれを阻止する為、ウルグがこの海域に現れる前にケリを付ける。サルヴァドル、君はオスマン艦隊を潰せ。ウルグ・アリはジョカに任せる。」

「いずれにしろ両艦隊の所在は分かっていない。まずは、敵の居場所を探し出せ。但し、ウルグとオスマン艦隊が動き出すのは2ヶ月後という確かな情報は入っている。それまでに奴らの動きを探り、任務を完了すること。いいな。」

親父の言葉に、オレとジョカは大きく返答した。

そしてジョカは、オレに意味ありげな視線を一つだけくれると、大股で出て行った。




アジトの入口に戻ると、満面に「心配」と書いた顔のホーレスと、思惑顔のリオーノが待っていた。

オレはホーレスたちに、受けた命令を伝えた。


「いよいよですね、提督。」

ホーレスが少し緊張した顔でそう言う。

オレは頷き、そした答えた。


「ああ、いよいよだ。オレはもう失敗なんかしない。もちろん負けやしない。受けた命令がオスマン艦隊を叩き潰すことなら、誰も文句をつけられないくらい完璧に任務を果たしてやる!!」

「さっすが提督、オレの見込んだお人だぜ。そうさ、その意気だぜ。」

ホーレスより先に、リオーノが明るい口調でそう言った。


「ええ、提督の仰る通りです。しかし、居場所もわからない艦隊にどうやって攻撃を仕掛けやす?」

ホーレスはリオーノの方を向いて少し渋い顔をしてから、付け加えた。


「提督、こういう時は…」

リオーノが、さらに明るい口調でオレに言う。


「セウタの酒場だな?アンナ…に、聞けば何か知ってるかもしれない。」

「その通り!」

リオーノの明るい相槌が打たれる。


「…でも、やっぱりアンナに聞くのか?」

「情報通の酒場女を甘く見ちゃダメですよ。ささ、セウタへ急ぎましょ。」

「アンナに…」

オレは、あの赤毛の女に会うのは心からイヤだったが、仕方がない。

オスマン艦隊を見つけて叩き潰すためだ。

ああ、でもイヤだな、女と喋るなんて。

いやいや、でももう一度ドジ踏むわけにはいかない。

親父は失敗したヤツは許さない男だ。


「今度は、絶対に負けないからな。」

「ええ、提督なら勝ちますよ。」

リオーノが言った。


ホーレスはなぜか、とっても渋い顔でそれを見ていた。





2010/8/3



うちのサルヴァドルはワガママ王子ではありますが、
「勝った奴が正義」「弱い奴は悪」
という価値観は物心つく前から叩きこまれているので、負けたことに対しては四の五の言う子ではありません。

ついでに言うと、ジョカのことは嫌いですが、だからと言って甘く見てもいません。
そういうのは、いくらホーレスとはいえ、きちんと教育しています(だって、海賊稼業だと命に関わりますからね。)




みんなの年齢

   

目次









































このシリーズの年齢は、まあゲームに準拠したいなぁと思いながら、テキトーに捏造しています(特に一般航海士とか)。

で、ジョカの年齢ですが、べにいもはサルヴァドルの
「あいつはオレと年だって変わらない」
という台詞を信じて 同い年 設定にしましたが、こないだゲームで確認したところ、 4つ上だったーッ!! ということが判明しました。

おい、サルヴァドル!!
17と21は、 年は変わるよッ!!(10代と20代の違いは大きいと思う)

うん、そうだと思ってた。
いくらジョカが若くて有能でも、17はないって思ってた(でも確認はしなかった)。
サルヴァドルはまだ少年体型なのに(細い)、ジョカの筋肉はしっかり「大人の男の人」だよね、と思ってた。
がまあ、今さらなんで、この話では同い年設定でいきます。

ちなみに、女賞金稼ぎレベッカはサルヴァドルより3つ上。これは想定通りでした。
だとすると、ホントはジョカより年下な訳ですが、 この話では、年上設定 でいきます。

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