「アニー、金貨20万なのよ。」
ベッキーが、ものっスゴく怖い顔で笑って言う。
「ちょ…何がどうしたのよ、いきなり?てか、スッゴい怖いんだけど。」
わたしは、けっこう本気で怖かったからそう言ったんだけど、ベッキーには通じなかったみたい。
「金貨20万なのよ。分かる?この儲け話!?」
「ちょ、ちょっと!!もう少しわたしに分かるように説明してよ。一体全体、金貨20万がどうしたって言うのよ?」
ふっふふふふ。
ベッキーは低い声で楽しそうに笑うと、金貨20万枚の賞金首ウルグ・アリの居場所を突き止めたって話してくれた。
「ウルグ・アリ?聞いたことはあるわ、海賊でしょ?」
「そうよっ、その金貨20万枚さんが、北欧にいるのよっ!!これが笑わないでいられるっ!?」
「…あなたにとっては、何でもかんでも賞金に換算されちゃうのね。でも、ウルグ・アリってオスマン系の海賊じゃないの?なんで北欧なんかにいるのかしら?」
「知らないわよ。北欧美人でも狩り集めて、スルタンのハレムにでも送り込むんじゃない?どーっだっていいわ、そんなコト。賞金額に比べれば些細なことよ。」
「どーだっていい…かしらねえ?まあ、セウタで暴れられるよりゃ百万倍マシなんだけど。じゃ、今から北欧に行くの?でも、北欧ったって広いじゃない?」
「ふふふ、このレベッカ・ガートランドさまの情報網ナメんじゃないわよ。行きゃあ居場所くらい突き止めてやるわよ。待ってなさいよ、金貨20万!!」
どーやら、このテンションのベッキーに何言ってもムダらしいわ。
「分かったわ、気をつけてね。そして、お土産よろしく。」
「もっちろんよッ!!宝石を一つかみだって持って帰って来てあげるわッ!!」
「きゃー、ベッキー素敵ー♪結婚してー♪」
「…あなた、あたしのいない間に、宝石くれるって言う男にフラフラついて行っちゃダメだからね。」
「ひどーい、何よ、人のこと、お子ちゃまみたいに。はいはい、いい子で待ってるわ、ベッキー。」
「そう、じゃあ待ってるついでに一つ頼みたいんだけど。」
ベッキーは少し声を低めた。
「『ニコシアの竜王』について、調べといてくんない?」
「…」
わたしは、「ニコシアの竜王」こと、マホメッド・シャルークについて思いを巡らす。
西地中海を押さえるアルジェ海賊と対立する、東地中海の海賊の元締め。
海賊王ハイレディン・レイスと戦う力を持つとされる、唯一の男。
「…まさかベッキー、あなた、『竜王』と…」
いくらなんでも、相手が悪くない?
わたしはそう言いたかったんだけど、ベッキーは涼しい顔だった。
「も・ち・ろ・ん、報酬はお土産とは別で払うわよ。いくらトモダチとは言え、仕事のことはキッチリしないとね。」
「…」
「しーんぱいしないで。あたしを誰だと思ってるの?それに、それはまた後の話よ。そう、金貨20万をブチ殺したあとの、ね♪」
ベッキーは、金貨20万、じゃなくてウルグ・アリに負けるなんて、砂粒ほども思ってないみたい。
「そりゃベッキーは強いけどね、相手も凶悪な海賊よ?」
「そうよ、相手は凶悪な海賊よ。海賊が怖くて賞金稼ぎやってられっっての!!」
ベッキーは、惚れ直しちゃうくらい男前に叫ぶと、金貨を置いて、あたしに軽く投げキスして、酒場を出て行っちゃった。
「あーあ。」
ベッキーのことは心配だけど、まあ、ベッキーだから大丈夫かな?
でも、ホントに残念だわ、ベッキーが男じゃなくて。
男だったら、本気でお嫁さんになってやるのに。
そうよ、最近、ホントいい男がいなくてやってらんないわ。
カラン
酒場の入り口にかけたベルが鳴った。
「いらっしゃい…」
自動的に営業スマイルになったわたしの目に映ったのは、黒髪の美少年だった。
「来てくれて嬉しいわ、おにいさん♪」
わたしは、語尾に目一杯ハートマークをつけて、黒髪の美少年海賊こと、サルヴァドルさんにウインクした。
「…」
なのに、どーしてわたしから目を逸らして、下がっちゃうのかしらっっ!!
って思ってると(もちろん、表情はスマイルのまんまよ?プロだもの、わたしも)、オレンジの髪が、提督はほんとに、とか言いながらサルヴァドルさんとわたしの間に入ってきた。
「アンナ、ちょいと聞きたいことがあるんだが。」
いきなり本題。
なに、この事務的なカンカク。
ま、元カレだからなんだろうけど。
え?
そうよ、元カレよ、リオーノは。
最初会ったのは、いつだったっけ?
忘れちゃったわ。付き合い始めたのがなんでだったのかも覚えてない。
きっと、気前が良かったからね。
あの時のリオーノは、今と変わらずお喋りで、愛想が良くて、そして気前も良かった。
この若さでどっからお金が出てんだろうって羽振りを示して、そして、決して心を曝してないんだろうお仲間を連れていた。
口には決して出さなかったけど、いつも、誰かに追われてるって油断ない目をしてた。
そして。
久しぶりに顔を出したリオーノは、前と変わらず、お喋りで、愛想が良くて、今度は嬉しそうに可愛い海賊さんを連れてて、
でも、前より一層、心の奥底を隠してる目をしていた。
もう追われちゃいないみたいなのに、この人が隠さなきゃいけないものって、何なのかしら。
ま、聞いても絶対に答えないことは分かってるんだけど。
「オスマン艦隊が東地中海へ向かってくるらしいんだ。どこから来るか知らないか?」
リオーノは、そんなわたしの心の中を知ってか知らずか、聞きたいことだけ聞いてくる。
「うーん、その話は聞いたことがないわね。」
だからわたしも、「馴染みのお客さんに相応しい対応」をしてやる。
意地悪じゃないのよ、ホントに知らないだけ。
「そうか、アンナでもだめか…」
でもまあ、元カレだからも少しだけ、気合いれてあげようかしら。
「そうね…でもさっき来たお客さんだったら詳しいかもしれない。」
わたしが言うと、リオーノの顔が少し輝く。
「お客?」
「ええ、船で旅をしながら地図を作っている人らしいわ。何か知ってるんじゃないかしら。しばらくこの港にいるって言ってたけど。」
「提督、良かったね。どうやら分かりそうだぜ。ありがとよ、アンナ。いつもすまねえな」
リオーノは、まず黒髪の可愛い海賊さんに嬉しそうに声をかけてから、とってつけたようにあたしに礼を言う。
で。
「愛してるぜ。」
そして、わたしが自分の何だったかようやく思い出しように、とってつけたようにそう言って、ウインクした。
「お礼と愛情は、宝石で示してね♪」
ちょっと、嫉妬、かな?
リオーノの「今の大事な人」に。
2010/8/3
サルヴァドルがなんであんなにリオーノ大好きかも分かりませんが、リオーノがなんであんなにサルヴァドル大好きかもイマイチ分かりません。
でもまあ、「両想い」であることは痛いくらい伝わってくる…そんな二人がとても好きです。
もし、サルヴァドルがジョカとの競争に勝っていたら
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目次
勝ってたら、サルヴァドルがウルグ・アリと戦います。で、どこからともなくレベッカが
艦隊を率いて
現れ、加勢という名の妨害をしてくれます。(てか、自分がウルグ・アリを狩ろうとしてくれます。もちろん、レベッカに狩られちゃったら任務は失敗です)
ねえレベッカ、君はどこからガレオンなんて探して来たの?
そんだけの金があるなら、シャイロック銀行に預けときゃ、賞金稼ぎなんかしなくても一生食うには困らないんじゃないか、そんな気がしてならないイベントでした。