救世主の名を持つ悪魔殺しの物語

8-5 ホーレス・デスタルデが語る話









オレの若は大人になった、と思う。


戦闘になっても、我先に飛びこまなくなった。

全体の状況を見て、指示を出して、必要な場所に入るようになった。

艦隊の運用も、船の襲撃の仕方も、落ち着きと冷静さが出てきた。


高い授業料払った甲斐があった。

これなら、たまには負けるのも悪くないかもしれん。

もちろん、命に関わらん範囲でな。




「ホーレス、もう2ヵ月だな。」

2代目ガナドールの船首から、俺と若はアルギン島を見やる。

オスマン艦隊が、もうやって来る。


「艦影確認っ!!総員戦闘準備っ!!」

若は昔から目が良い。




ガナドール号は、滑るようにオスマン艦隊に近づいて行く。

相手はガレオン3隻、フランダース7隻って所か。

フクロにされちゃ不味いので、いつものように旗艦に一撃戦法を取る。

フランダースの数は多いが、敵の旗艦は恐らくガレオン。

動きの鈍重なガレオン相手には、この快速のガナドールなら十分対処できる。


「提督…」

若は船首に立ち、見る間に近づいて行く敵船を見詰めている。


「…また、戦闘開始と一緒に突っ込むんですかい?」

「当り前だ。」

「…この間ので、一番槍は懲りなさったかと思いやしたが。」

若は真剣な面持ちのまま答える。


「確かに、いつでもバカみたいに突っ込む必要はないと学んだ。高い授業料だったけどな。」

「ええ、提督の役目は命令を下すことでさ。実際の戦闘はアッシらがするもんです。提督は少し後方に下がって…」

「違うな。」

若は否定した。


「オレの仕事は命令することだ、それは間違いない。ただ、その命令に従う人間がいなけりゃ話にならない。違うか?」

「何をおっしゃいやす。提督の命令に従わない奴なんて…」

「…いた。だからオレは高い授業料払う羽目になっちまったんだ。」

若は僅かに唇を噛んだ。ファン・コーサに拿捕した船を乗り逃げされてから負傷し、ジョカとの競争に敗北するまでの一連のことは、まだまだ若の中では消化されちゃあいないんだろう。


「ですが、結局みんな提督に付いてきてやすよ。」

「それも違う。あの時、みんながオレから離れて行かなかったのは…」

若は一瞬、間を置く。


「お前がいたからでしかない。」

若が、あんまり悔しそうな口調だったから、俺はすぐにその言葉を否定した。


「いえ、アッシは…」

「オレをあんまり子ども扱いするなよ。そのくらいは分かってる、いや、あの時ベッドで横になりながら身に染みて分かった。親父のつけた副官がお前でなかったら、オレが負傷して艦隊を指揮できなくなった時点でみんないなくなってたさ。みんなを食わせられない海賊に用はないってな。」

「…」

「オレはまだ、海賊としてお前に敵わない。」

「若、そんなことは…」

「ほら、また『若』だ。お前だって内心ではそう思ってるんだ。オレがまだまだガキんちょだって。」

「…」

若は、だが、そこで怒りの表情は示さなかった。


「だからオレは、示さなきゃならない。オレがただのガキじゃなく、提督に相応しい器だってことをな。そこらの商船隊相手じゃ、航海士や水夫に戦闘任せて後ろで声張り上げてリゃいいだろう。だが、今回はオスマンの戦艦隊だ。新大陸帰りで疲労してるとは言え、強大な戦艦隊だ。」

若はそこで言葉を切り、そして俺の目を強く見詰めた。


「後ろでキャンキャン言ってるガキの命令を誰が聞く?強い敵相手に先陣を切るのは、提督としてのオレの務めだ。」

「…ご立派な見識です、提督。」




甲板に居並んだ航海士と水夫に、若は叱咤する。


「いいかっ!!東地中海のシャルークの元にオスマン艦隊が合流するのを阻止するため、ここであの艦隊を叩き潰すのが戦闘目的だ。」

若は、シミターを振り上げる。


「オレは…いや、オレたちはもう敗北しないっ!!オレたちの艦隊は最強だ。その誇りをもって戦えっ!!」

若の濃紺の瞳が、荒い青色に輝いた。

鯨波がそれに応えた。

若もご立派になられた…俺はついつい、目頭が熱くなっちまうのを感じた。




「突撃ーっ!!」

裂帛の気合の声が、黒い風になって敵陣に飛びこんで行った。





2010/8/7



Q「サルヴァドルは本当に大人になってるんですか?相変わらずやんちゃで、人の話を聞かず、口のききかたを知らないんですけど?」

A「ホーレスの目から見たら成長してるんです。」

というわけで、今回のホーレスの目から見た提督 は、なかなか殊勝なこと言ってます。
この反省がいつまで続くやら。


ゲームでは、アルギン島で補給完了して出てくるオスマン艦隊を襲撃するのですが、普通に考えて、補給のために島にやって来るのがわかってんなら、そっちを襲撃した方がチョロいと思うのです。なんで、この話ではそうしました。




オスマン艦隊ムスタファ・デステ

   

目次









































オスマン艦隊ムスタファ・デステの能力値(統率、航海術、知識、直観、勇気、剣技、魅力の順)

42歳 航海レベル21 戦闘レベル28 47 74 58 83 55 96 54 測量 砲術

ウルグ・アリ
42歳 航海レベル21 戦闘レベル28 52 79 62 88 60 74 59 測量 砲術


ムスタァ・デステの方が戦闘力高いじゃん!!(特に剣技)
なんで親父は、わざわざ名声競争で勝った方に、弱い方を当てたのが気になります。(ちなみに船舶の構成は一緒)

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