救世主の名を持つ悪魔殺しの物語

9-2 セウタのアンナが語る話









「金貨…金貨20万枚ーっ!!」

だむっ!!

ベッキーがジョッキをカウンターに叩きつけた。

もう何杯目だか忘れたけど、わたしはそれにお酒を注いであげる。

ダメだわ、もう何言ってもムダ。

かんっぜんに金の亡者モードになってる。

ちょっと早いし危険だけど、こりゃ頼まれてた情報をさっさと教えるに如くは無し、ってヤツね。


「どうどう…じゃなかった、はいはい、『ニコシアの竜王』について教えてあげるから、ウルグ・アリのことはあきらめなさい。」

「竜王っ!?」

ベッキーはすぐに復活したけど、でもすぐにカウンターにべたんと伏せちゃう。


「どうしたのよ、ベッキー。竜王よ、竜王。あなた、竜王の情報知りたがってたでしょ?」

「…ダメよ、アニー。あたし、あなたに払える金がないもの。」

そしてベッキーはカウンターに伏せながら、それもこれも全部、ぜぇんぶ、あのクソったれのせいだ、クソクソクソ、次あのツラ見たら顔面とドテっ腹と…5か所は風穴開けてやる、とか、さんざ悪態をついた。


「…いいのよ、ベッキー。わたしとあなたの仲でしょ?」

「アニー。でもあたし、お土産すら渡せないのよ?」

「気にしないで、そんなのツケで構わないわ。そのうち倍返しで貰うから。」

「アニー!!さすが持つべきものは女友だちだわ。」

「そうよ、わたしこれでも男よりは女友だちを優先させる、気持ちの良い女なの。」

「ゴメンねー、アニー。」

「いいの、気にしないで、友だちでしょ?大金が入ったら3倍返しで返してくれればいいだけよ。」

ああ、わたしって何て友だち甲斐のあるいい女なのかしら。

というわけで、わたしはベッキーに、ニコシアの竜王についての話を教えてあげた。


「金貨120万枚っ♪」

ベッキーは一瞬で元気になった。


「金貨20万枚の6倍っ♪ステキよアニー、それだけの大金があれば、あたし、あんたに店だって買ってあげられちゃうわっ♪」

「きゃー、ベッキー素敵ー、太っ腹ー♪結婚してー♪」

「だからアニー、あんた、来る男来る男にその台詞言ってないでしょうね?ダメよ、口約束なんて当てにならないんだから。もちろん、あたしを除いてね。」

「分かってるわ、ベッキー。わたしだってそこまであなたにしてもらおうと思わないわ。いいの、借りなんてお金が出来た時に5倍返しで返してくれればいいだけ。」

「…でも、さすがに金貨120万枚を狙うにはちょいと情報が足りな過ぎるわね。」

「あなたって本当に、全ての賞金首は賞金でしかないのね。でも、言っといて何だけどやっぱり危険よ。ニコシアの竜王マホメッド・シャルークと言えば、アルジェの海賊王ハイレディン・レイスと並ぶ凶悪な海賊よ。もっとも、今回のウルグ・アリがアルジェ海賊に倒されちゃったトコ見ると、やっぱり赤髭ハイレディンの方が強いのかしら。ま、ジョカさんみたいな強い海賊も配下にいることだし…」

「ジョーカーっ!?」

「ひいっ!!」

ベッキーがあんまりスゴい形相になっちゃったもんだから、あたしはうっかり悲鳴をあげちゃった。


「ジョカっ!!ジョカって、ジョカ・ダ・シルバのことよねっ!?アニーっ!!そのクソ野郎の名前出すってコトは、覚悟は決めたってコトねっ!?」

「ちょ、ちょちょちょっと待って!なんの覚悟か分かんないし。いいから落ち着いてアニー、トモダチじゃない?えーっ…ちょっと待ってね?もしかして、さっきからずっと言ってる『あのクソったれ』って、もしかして、ジョカ・ダ・シルバの…」

「あーっ!!その名前聞くだけで耳が腐るわっ!!ってかアニー、なんであのクソったれのこと知ってるのよ!?」

「そりゃ知ってるわよ、こないだ、『あなたのおかげ』で関わり合いになったもの。ついでに、昨日だって呑みに来たし…」

「ぬわんですてぇっ!!」

みししっ!!

ベッキーが力いっぱいカウンターを叩きつけるその勢いで、カウンターがきしんだ。

ウソでしょ?

確かに新しくないけど、それでもこれ、海の男の乱暴さに何十年も耐えてきたシロモノよ?


ともかく、がんばってベッキーを宥め空かしながら事情を聞いたところ、わたしの予想したとおりだった。

ベッキーが倒そうとしてたウルグ・アリは、ジョカが倒しちゃってたってワケ。

そういや昨日も、戦勝の先祝いだとか言ってたっけ。


「どこっ!?どこ行ったの?あのクソったれ!!」

「え、そりゃアルジェに戻ったんじゃないの?」

「そうっ!」

「ちょ…まさか、アルジェに乗り込もうってんじゃないでしょうねっ!?あそこはアルジェ海賊の本拠地よ!!バカな真似はやめてー!!」

ともかく、ものすごくがんばってベッキーを宥め空かし、わたしはベッキーを思いとどまらせることに成功した。


「…あのクソったれが、次にどこに向こうか、分かる?」

いきなり穏やかになった笑みがスッゴい怖いベッキー。


「えーっとぉ、アルジェで戦勝報告したら、オランでパーっと遊ぶって言ってたわよ。ほら、あそこ歓楽街だから。」

「そう、オランね。そう…」

ベッキーは、金貨をカウンターの上に置いた。


「色々ありがとうね。借りは10倍にして返すつもりよ。あと、次こそ『素敵なおみやげ』を用意して来るから。楽しみにしててね。」

「…お土産は宝石にしてね。」

頼むから、生首とか止めてね、とわたしは言いたかった。




「ふう…ベッキーってばホント昔っから血なまぐさくて困るわ。」

ベッキーの相手してるうちに、客も切れちゃったみたい。


「マスター、今日はもうカンバンする?」

この「奇蹟の紅玉亭」のおじいちゃんマスターはあいまいに頷いて、よろよろと戸締りに向かった。

あたしも店内を片付ける。

あー、結局、今日はもうからなかった。

ま、昨日ジョカさんがお金使ってってくれたからよかったけど。

でもあの人、かの悪名高いウルグ・アリを倒しちゃうくらい強かったのね、若くてカッコいいのに意外だわ。


「アンナ、プレゼントじゃよ。」

マスターが小さな箱を差し出した。


「えー、マスターから?」

「いんや、こないだからちょくちょく顔出しとるサルヴァドルさんからじゃ。」

「えー、来てたの―?言ってくれれば良かったのにぃ。」

箱の中には、孔雀石で出来たセンスのいい宝石箱が一つ。


「きゃー、嬉しーい♪お兄さん、サイコー!!」

手紙もなんにもついてないあたり、クールでいいわぁ。

てか、アルジェ海賊ってどの人も気前良くてサイコー!!


「あの奇麗な坊ちゃんもアルジェ海賊なんじゃのう。」

「あらホント?ジョカさんと一緒なのね。あ、そういえばオスマン艦隊がどうとか…」

「アルジェ海賊とニコシア海賊が、正面衝突するのも、そろそろなのかのう…」

「…」

そうなったら、あのジョカさんと黒髪のお兄さんも、シャルークと戦うのかしら?

そして、ベッキーも。




やだわ、みんな死んでほしくない。





2010/8/9



ジョカは美人には優しいです。
そして美人には気前が良いです。
正しく「男」ですね。
あの、じゃあレベッカは何だと?




女性キャラが酒場娘にプレゼントすると?

   

目次









































2の紅一点カタリーナは、酒場娘にプレゼントをして親密になることは可能ですが、男キャラのように
「これはお礼よ、チュッ♪」
がないので(当り前ですが)、面白くないです。

外伝になるとそこらへん考慮されて、初めて行くと
「あら、ずいぶん可愛いお客さんね」
と言われ、二回目以降は
「いつも元気ね」
と明らかお姉さん口調(確かに、最年少のルチアより年下だし)で言われ、年齢を聞くと
「…歳だけど、それがどうかしたの?」
と言われ(男キャラだと「あなたにだけ教えるわ、―歳よ」ともったいぶった言い方をされる)、有効度Maxでプレゼントすると、
「嬉しい♪宝ものにするわ♪」
と言われます。

何回でも言ってくれますが、絹のリボンごときを(しかも何本も)宝物にされてもなぁ…と思うので、プレゼントのし甲斐はイマイチです。

やっぱりチューだよね!?

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