「金貨…金貨20万枚ーっ!!」
だむっ!!
ベッキーがジョッキをカウンターに叩きつけた。
もう何杯目だか忘れたけど、わたしはそれにお酒を注いであげる。
ダメだわ、もう何言ってもムダ。
かんっぜんに金の亡者モードになってる。
ちょっと早いし危険だけど、こりゃ頼まれてた情報をさっさと教えるに如くは無し、ってヤツね。
「どうどう…じゃなかった、はいはい、『ニコシアの竜王』について教えてあげるから、ウルグ・アリのことはあきらめなさい。」
「竜王っ!?」
ベッキーはすぐに復活したけど、でもすぐにカウンターにべたんと伏せちゃう。
「どうしたのよ、ベッキー。竜王よ、竜王。あなた、竜王の情報知りたがってたでしょ?」
「…ダメよ、アニー。あたし、あなたに払える金がないもの。」
そしてベッキーはカウンターに伏せながら、それもこれも全部、ぜぇんぶ、あのクソったれのせいだ、クソクソクソ、次あのツラ見たら顔面とドテっ腹と…5か所は風穴開けてやる、とか、さんざ悪態をついた。
「…いいのよ、ベッキー。わたしとあなたの仲でしょ?」
「アニー。でもあたし、お土産すら渡せないのよ?」
「気にしないで、そんなのツケで構わないわ。そのうち倍返しで貰うから。」
「アニー!!さすが持つべきものは女友だちだわ。」
「そうよ、わたしこれでも男よりは女友だちを優先させる、気持ちの良い女なの。」
「ゴメンねー、アニー。」
「いいの、気にしないで、友だちでしょ?大金が入ったら3倍返しで返してくれればいいだけよ。」
ああ、わたしって何て友だち甲斐のあるいい女なのかしら。
というわけで、わたしはベッキーに、ニコシアの竜王についての話を教えてあげた。
「金貨120万枚っ♪」
ベッキーは一瞬で元気になった。
「金貨20万枚の6倍っ♪ステキよアニー、それだけの大金があれば、あたし、あんたに店だって買ってあげられちゃうわっ♪」
「きゃー、ベッキー素敵ー、太っ腹ー♪結婚してー♪」
「だからアニー、あんた、来る男来る男にその台詞言ってないでしょうね?ダメよ、口約束なんて当てにならないんだから。もちろん、あたしを除いてね。」
「分かってるわ、ベッキー。わたしだってそこまであなたにしてもらおうと思わないわ。いいの、借りなんてお金が出来た時に5倍返しで返してくれればいいだけ。」
「…でも、さすがに金貨120万枚を狙うにはちょいと情報が足りな過ぎるわね。」
「あなたって本当に、全ての賞金首は賞金でしかないのね。でも、言っといて何だけどやっぱり危険よ。ニコシアの竜王マホメッド・シャルークと言えば、アルジェの海賊王ハイレディン・レイスと並ぶ凶悪な海賊よ。もっとも、今回のウルグ・アリがアルジェ海賊に倒されちゃったトコ見ると、やっぱり赤髭ハイレディンの方が強いのかしら。ま、ジョカさんみたいな強い海賊も配下にいることだし…」
「ジョーカーっ!?」
「ひいっ!!」
ベッキーがあんまりスゴい形相になっちゃったもんだから、あたしはうっかり悲鳴をあげちゃった。
「ジョカっ!!ジョカって、ジョカ・ダ・シルバのことよねっ!?アニーっ!!そのクソ野郎の名前出すってコトは、覚悟は決めたってコトねっ!?」
「ちょ、ちょちょちょっと待って!なんの覚悟か分かんないし。いいから落ち着いてアニー、トモダチじゃない?えーっ…ちょっと待ってね?もしかして、さっきからずっと言ってる『あのクソったれ』って、もしかして、ジョカ・ダ・シルバの…」
「あーっ!!その名前聞くだけで耳が腐るわっ!!ってかアニー、なんであのクソったれのこと知ってるのよ!?」
「そりゃ知ってるわよ、こないだ、『あなたのおかげ』で関わり合いになったもの。ついでに、昨日だって呑みに来たし…」
「ぬわんですてぇっ!!」
みししっ!!
ベッキーが力いっぱいカウンターを叩きつけるその勢いで、カウンターがきしんだ。
ウソでしょ?
確かに新しくないけど、それでもこれ、海の男の乱暴さに何十年も耐えてきたシロモノよ?
ともかく、がんばってベッキーを宥め空かしながら事情を聞いたところ、わたしの予想したとおりだった。
ベッキーが倒そうとしてたウルグ・アリは、ジョカが倒しちゃってたってワケ。
そういや昨日も、戦勝の先祝いだとか言ってたっけ。
「どこっ!?どこ行ったの?あのクソったれ!!」
「え、そりゃアルジェに戻ったんじゃないの?」
「そうっ!」
「ちょ…まさか、アルジェに乗り込もうってんじゃないでしょうねっ!?あそこはアルジェ海賊の本拠地よ!!バカな真似はやめてー!!」
ともかく、ものすごくがんばってベッキーを宥め空かし、わたしはベッキーを思いとどまらせることに成功した。
「…あのクソったれが、次にどこに向こうか、分かる?」
いきなり穏やかになった笑みがスッゴい怖いベッキー。
「えーっとぉ、アルジェで戦勝報告したら、オランでパーっと遊ぶって言ってたわよ。ほら、あそこ歓楽街だから。」
「そう、オランね。そう…」
ベッキーは、金貨をカウンターの上に置いた。
「色々ありがとうね。借りは10倍にして返すつもりよ。あと、次こそ『素敵なおみやげ』を用意して来るから。楽しみにしててね。」
「…お土産は宝石にしてね。」
頼むから、生首とか止めてね、とわたしは言いたかった。
「ふう…ベッキーってばホント昔っから血なまぐさくて困るわ。」
ベッキーの相手してるうちに、客も切れちゃったみたい。
「マスター、今日はもうカンバンする?」
この「奇蹟の紅玉亭」のおじいちゃんマスターはあいまいに頷いて、よろよろと戸締りに向かった。
あたしも店内を片付ける。
あー、結局、今日はもうからなかった。
ま、昨日ジョカさんがお金使ってってくれたからよかったけど。
でもあの人、かの悪名高いウルグ・アリを倒しちゃうくらい強かったのね、若くてカッコいいのに意外だわ。
「アンナ、プレゼントじゃよ。」
マスターが小さな箱を差し出した。
「えー、マスターから?」
「いんや、こないだからちょくちょく顔出しとるサルヴァドルさんからじゃ。」
「えー、来てたの―?言ってくれれば良かったのにぃ。」
箱の中には、孔雀石で出来たセンスのいい宝石箱が一つ。
「きゃー、嬉しーい♪お兄さん、サイコー!!」
手紙もなんにもついてないあたり、クールでいいわぁ。
てか、アルジェ海賊ってどの人も気前良くてサイコー!!
「あの奇麗な坊ちゃんもアルジェ海賊なんじゃのう。」
「あらホント?ジョカさんと一緒なのね。あ、そういえばオスマン艦隊がどうとか…」
「アルジェ海賊とニコシア海賊が、正面衝突するのも、そろそろなのかのう…」
「…」
そうなったら、あのジョカさんと黒髪のお兄さんも、シャルークと戦うのかしら?
そして、ベッキーも。
やだわ、みんな死んでほしくない。
2010/8/9
ジョカは美人には優しいです。
そして美人には気前が良いです。
正しく「男」ですね。
あの、じゃあレベッカは何だと?
女性キャラが酒場娘にプレゼントすると?
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目次
2の紅一点カタリーナは、酒場娘にプレゼントをして親密になることは可能ですが、男キャラのように
「これはお礼よ、チュッ♪」
がないので(当り前ですが)、面白くないです。
外伝になるとそこらへん考慮されて、初めて行くと
「あら、ずいぶん可愛いお客さんね」
と言われ、二回目以降は
「いつも元気ね」
と明らかお姉さん口調(確かに、最年少のルチアより年下だし)で言われ、年齢を聞くと
「…歳だけど、それがどうかしたの?」
と言われ(男キャラだと「あなたにだけ教えるわ、―歳よ」ともったいぶった言い方をされる)、有効度Maxでプレゼントすると、
「嬉しい♪宝ものにするわ♪」
と言われます。
何回でも言ってくれますが、絹のリボンごときを(しかも何本も)宝物にされてもなぁ…と思うので、プレゼントのし甲斐はイマイチです。
やっぱりチューだよね!?