救世主の名を持つ悪魔殺しの物語

9-4 ホーレス・デスタルデが語る話









酒場に入った瞬間、アンソニーじゃあないが「ピン」と来た。

残念ながら、「嫌な予感」の方だ。

何故かと言うに、中じゃあ先にジョカが飲んでて、目敏く若の姿を見つけたからだ。


「ようサルヴァドル。オスマン艦隊の方もうまくいったようだな。」

ジョカは近寄る。


「ありがとよ、お前が邪魔者を引き受けてくれたおかげで、心置きなくウルグと戦えた。」

そして、オレの若の肩に馴れ馴れしく手を置く。


「礼を言うぜ。これからもよろしくな。」

若にしちゃ我慢した方だと思う。


「…お前なんかのために戦ったわけじゃない!」

最初は抑えたが、語尾は怒りの声になった。


「おっと威勢のいい。怖え、怖え。」

ジョカは余裕たっぷりの笑みで大袈裟に驚いてみせたが、すぐにこう付け加えた。


「まあ、その勢いでがんばってくれ。せいぜい、俺の足を引っぱらないようにな。」

「何様のつもりだっ!!」

「わ、若、抜いちゃいけやせんよ、抜いちゃ。」

もっとも、若が抜かねえんなら俺が拳であの若造に思い知らせてやりたいが。


ジョカはまだまだ余裕たっぷりだ。

「もっとも、シャルーク戦に出ないなら、話は別だ。俺はバリエンテとして任務を全うするだけだ。」

「…バリエンテ?」

若より先に、俺の口を突いちまう。


「ああ、知らなかったのか?俺はバリエンテになったのさ。今回の功績でな。これで俺も誇り高きアルジェの英雄の一員だ。」

「くっ…」

これは驚いた。

確かに、腕の良さにかけちゃ四人衆の旦那方にも負けちゃいねえが、この若さで、もうバリエンテか。


「ま、せいぜいお頑張りなよ、王子さま?」

ジョカはまたもやオレの若の肩に馴れ馴れしく手を置く。


「…変な呼び方はやめろ。オレは海賊で、自分の力でゲレロになった…」

ジョカはオレの若の顎に手をやる。


「…相変わらず、キレーな顔だな、サルヴァドル。海賊の、しかもゲレロとは到底思えねえぜ。」

「手を放せ、ジョカ。」

「相変わらず、可愛くない所が可愛いな。」

「かわいいなんて、やめろ!オレはガキじゃないっ!」

「へえ…相変わらず童貞のくせに、もうガキじゃねえって?」

若の拳が唸った。

もっとも予測してたらしいジョカは身をかわしたが。


「怒るトコ見ると、図星みてえだな。」

「お前っ!!」

こいつは不味い。

このままじゃ激しく血を見ると、俺が割って入ろうとした時だった。


「相変わらず仲良しだな、お前ら。」

「トーゴ…」

トーゴの旦那が俺より先に割って入った。


「誰がこいつなんかと仲良くするかっ!!」

叫ぶ若を軽くいなし、トーゴの旦那はジョカの肩を掴んで押し下げる。


「ま、酒とケンカは海賊の華だ。せいぜい楽しめ…と言いたいところだがな。そういう苛め方は良くない。」

「トーゴ、オレは黙っていじめられる気なんかないからなっ!!」

「まあまあ、激昂するのはよせ。」

トーゴの旦那は、若の肩に両手を置いた。


「いいか、サルヴァドル。」

「…ああ?」

「誰にだって、未経験の時はある。」

「…は?」

勢いを削がれた若に、トーゴの旦那は諄々と解き明かすように語った。


「サルヴァドル、未経験者が経験者になろうって時は、なかなか不安がいっぱいなもんだが、気にし過ぎちゃならん。最初は誰だって緊張するんだ。」

「え?何の話だ、トーゴ。」

「俺だって初めての時は…アレは16だったか、あんときゃ緊張と興奮でエラいことになっててな。」

「だからトーゴ、それは何の話…」

「挿れるまで保つか怪しいもんだった!!」

「す、すいやせん、トーゴの旦那。貴重なお話、ありがとうございやした。さ、若、行きやすよっ!!」

俺は強引に若をひっつかんで酒場の出口へと向かった。


「引っぱるな、ホーレス。トーゴ、『いれる』って、何が…」




で。

「足を引っ張るなだと!?ジョカのヤツ…」

酒場から離れた路地で、オレの若は改めて怒っていらした。


「しかし、ジョカの野郎がバリエンテねえ。」

呟き。


「シャルーク戦は精鋭部隊で行われるんだろうな。すると出るのはバリエンテの海賊だ。真のアルジェ海賊の称号を持つ者だけが、シャルーク戦に参戦出来るってわけかい。」

「じゃあオレはどうなるんだ?」

「そりゃ提督、今のままじゃシャルーク戦にゃお留守番さ。」

「冗談じゃないっ!!ジョカにばっか良い目見せてたまるかっ!!オレもなるぞ、バリエンテにっ!!」

覇気に満ち満ちた瞳の若を見て、俺は心強いより先に不安になる。


バリエンテ

アレは「英雄」なんて美しい字面のモンじゃない。


「…提督、あっしは今のままでも十分満足ですぜ。そんなのに行かなくても…」

「何言ってんだオッサン、シャルークはオレたちの宿敵だぜ?これほど倒しがいのある相手はいねえ。ジョカが戦ってるのを指をくわえて見てろって言うのか?」

「今度の戦いは今までとは違う!バリエンテがどういうものか、お前には分かっとらんのだ!」

そうだ、若も、そしてこいつも分かってない。

バリエンテがどういうものか。


「オレはバリエンテになる。そしてシャルークを倒しに行くさ、あいつが行くならな。」

「提督…」

オレは、若を見詰める。

あんなにお小さかった、赤髭のお頭に抱えられて俺の手元にいらっしゃった若が、いつの間にかこんなに大きく。

それは嬉しい反面、どうしようもなく不安で…


「…ところでオレンジ頭、お前、いつの間にここにいるんだ?」

オレンジ頭は、悪びれない顔で言う。


「やだなあオッサン、オレは酒場からいたじゃないか。もうボケたのかい?」

「誰がオッサンだっ!!…酒場からいたと言うことは…」

「『いつから』いたんだ?」

若が真剣な目をして聞く。


「…いやあ、はは『かわいいなんて、やめろ!オレはガキじゃないっ!』って提督が言った辺りからですよ。」

「…」

提督は、恨みがましい目でリオーノを見詰める。


「聞いてたな。」

「ははははは…まあ。」

オレンジ頭は俺を見上げた。


「まあ、別にいいんじゃないかとオレは思いますけどね。ほら、アレですよ、別に艦隊指揮に関わるもんじゃないしさ。ねえ、ホーレスさん?」

「ああ、もちろんでさ、提督。別に女なんか知らなくたって、海賊の腕となんら直結するこったねえです。ジョカの言う事なんて気にするこたありやせんぜ。」


ふるふるふる

ああ、まずい。

この雰囲気は、若が激怒する寸前だ。


「リオーノ、ここらに近い歓楽街はどこがある?」

妙に無感情な声で、若が聞く。


「歓楽街?そうだね、オランの街辺りは一大歓楽街だよ。」

「出航するぞ。」

「へえ…どこへ?」

「オランに決まってるだろ!!女買いに行くぞっ!!」

「…へえ。」




ああ、本当に、オレの若は…。





2010/8/9



ジョカの「童貞」とサルヴァドルの「女買いに行くぞっ!!」
この台詞が書きたかった回。サルヴァドルは周囲が海賊だらけで、海賊と言えば飲む打つ買う だから、耳年増であることは間違いないと思うのですが…ウチの提督は全然そうじゃないですね。
きっとホーレスが(以下略)




「え?提督はそうなんですかっ?」

   

目次









































そりゃそうでしょ!?
女恐怖症なのに女性経験あるのも嫌だな、じゃあ男が相手でも良いじゃん?いや、そんな腐的展開は認めない!! だって提督は清純派だからっ!!
ゲームでも、前半までは清い体だと信じています。その後は知りませんが。

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