酒場に入った瞬間、アンソニーじゃあないが「ピン」と来た。
残念ながら、「嫌な予感」の方だ。
何故かと言うに、中じゃあ先にジョカが飲んでて、目敏く若の姿を見つけたからだ。
「ようサルヴァドル。オスマン艦隊の方もうまくいったようだな。」
ジョカは近寄る。
「ありがとよ、お前が邪魔者を引き受けてくれたおかげで、心置きなくウルグと戦えた。」
そして、オレの若の肩に馴れ馴れしく手を置く。
「礼を言うぜ。これからもよろしくな。」
若にしちゃ我慢した方だと思う。
「…お前なんかのために戦ったわけじゃない!」
最初は抑えたが、語尾は怒りの声になった。
「おっと威勢のいい。怖え、怖え。」
ジョカは余裕たっぷりの笑みで大袈裟に驚いてみせたが、すぐにこう付け加えた。
「まあ、その勢いでがんばってくれ。せいぜい、俺の足を引っぱらないようにな。」
「何様のつもりだっ!!」
「わ、若、抜いちゃいけやせんよ、抜いちゃ。」
もっとも、若が抜かねえんなら俺が拳であの若造に思い知らせてやりたいが。
ジョカはまだまだ余裕たっぷりだ。
「もっとも、シャルーク戦に出ないなら、話は別だ。俺はバリエンテとして任務を全うするだけだ。」
「…バリエンテ?」
若より先に、俺の口を突いちまう。
「ああ、知らなかったのか?俺はバリエンテになったのさ。今回の功績でな。これで俺も誇り高きアルジェの英雄の一員だ。」
「くっ…」
これは驚いた。
確かに、腕の良さにかけちゃ四人衆の旦那方にも負けちゃいねえが、この若さで、もうバリエンテか。
「ま、せいぜいお頑張りなよ、王子さま?」
ジョカはまたもやオレの若の肩に馴れ馴れしく手を置く。
「…変な呼び方はやめろ。オレは海賊で、自分の力でゲレロになった…」
ジョカはオレの若の顎に手をやる。
「…相変わらず、キレーな顔だな、サルヴァドル。海賊の、しかもゲレロとは到底思えねえぜ。」
「手を放せ、ジョカ。」
「相変わらず、可愛くない所が可愛いな。」
「かわいいなんて、やめろ!オレはガキじゃないっ!」
「へえ…相変わらず童貞のくせに、もうガキじゃねえって?」
若の拳が唸った。
もっとも予測してたらしいジョカは身をかわしたが。
「怒るトコ見ると、図星みてえだな。」
「お前っ!!」
こいつは不味い。
このままじゃ激しく血を見ると、俺が割って入ろうとした時だった。
「相変わらず仲良しだな、お前ら。」
「トーゴ…」
トーゴの旦那が俺より先に割って入った。
「誰がこいつなんかと仲良くするかっ!!」
叫ぶ若を軽くいなし、トーゴの旦那はジョカの肩を掴んで押し下げる。
「ま、酒とケンカは海賊の華だ。せいぜい楽しめ…と言いたいところだがな。そういう苛め方は良くない。」
「トーゴ、オレは黙っていじめられる気なんかないからなっ!!」
「まあまあ、激昂するのはよせ。」
トーゴの旦那は、若の肩に両手を置いた。
「いいか、サルヴァドル。」
「…ああ?」
「誰にだって、未経験の時はある。」
「…は?」
勢いを削がれた若に、トーゴの旦那は諄々と解き明かすように語った。
「サルヴァドル、未経験者が経験者になろうって時は、なかなか不安がいっぱいなもんだが、気にし過ぎちゃならん。最初は誰だって緊張するんだ。」
「え?何の話だ、トーゴ。」
「俺だって初めての時は…アレは16だったか、あんときゃ緊張と興奮でエラいことになっててな。」
「だからトーゴ、それは何の話…」
「挿れるまで保つか怪しいもんだった!!」
「す、すいやせん、トーゴの旦那。貴重なお話、ありがとうございやした。さ、若、行きやすよっ!!」
俺は強引に若をひっつかんで酒場の出口へと向かった。
「引っぱるな、ホーレス。トーゴ、『いれる』って、何が…」
で。
「足を引っ張るなだと!?ジョカのヤツ…」
酒場から離れた路地で、オレの若は改めて怒っていらした。
「しかし、ジョカの野郎がバリエンテねえ。」
呟き。
「シャルーク戦は精鋭部隊で行われるんだろうな。すると出るのはバリエンテの海賊だ。真のアルジェ海賊の称号を持つ者だけが、シャルーク戦に参戦出来るってわけかい。」
「じゃあオレはどうなるんだ?」
「そりゃ提督、今のままじゃシャルーク戦にゃお留守番さ。」
「冗談じゃないっ!!ジョカにばっか良い目見せてたまるかっ!!オレもなるぞ、バリエンテにっ!!」
覇気に満ち満ちた瞳の若を見て、俺は心強いより先に不安になる。
バリエンテ
アレは「英雄」なんて美しい字面のモンじゃない。
「…提督、あっしは今のままでも十分満足ですぜ。そんなのに行かなくても…」
「何言ってんだオッサン、シャルークはオレたちの宿敵だぜ?これほど倒しがいのある相手はいねえ。ジョカが戦ってるのを指をくわえて見てろって言うのか?」
「今度の戦いは今までとは違う!バリエンテがどういうものか、お前には分かっとらんのだ!」
そうだ、若も、そしてこいつも分かってない。
バリエンテがどういうものか。
「オレはバリエンテになる。そしてシャルークを倒しに行くさ、あいつが行くならな。」
「提督…」
オレは、若を見詰める。
あんなにお小さかった、赤髭のお頭に抱えられて俺の手元にいらっしゃった若が、いつの間にかこんなに大きく。
それは嬉しい反面、どうしようもなく不安で…
「…ところでオレンジ頭、お前、いつの間にここにいるんだ?」
オレンジ頭は、悪びれない顔で言う。
「やだなあオッサン、オレは酒場からいたじゃないか。もうボケたのかい?」
「誰がオッサンだっ!!…酒場からいたと言うことは…」
「『いつから』いたんだ?」
若が真剣な目をして聞く。
「…いやあ、はは『かわいいなんて、やめろ!オレはガキじゃないっ!』って提督が言った辺りからですよ。」
「…」
提督は、恨みがましい目でリオーノを見詰める。
「聞いてたな。」
「ははははは…まあ。」
オレンジ頭は俺を見上げた。
「まあ、別にいいんじゃないかとオレは思いますけどね。ほら、アレですよ、別に艦隊指揮に関わるもんじゃないしさ。ねえ、ホーレスさん?」
「ああ、もちろんでさ、提督。別に女なんか知らなくたって、海賊の腕となんら直結するこったねえです。ジョカの言う事なんて気にするこたありやせんぜ。」
ふるふるふる
ああ、まずい。
この雰囲気は、若が激怒する寸前だ。
「リオーノ、ここらに近い歓楽街はどこがある?」
妙に無感情な声で、若が聞く。
「歓楽街?そうだね、オランの街辺りは一大歓楽街だよ。」
「出航するぞ。」
「へえ…どこへ?」
「オランに決まってるだろ!!女買いに行くぞっ!!」
「…へえ。」
ああ、本当に、オレの若は…。
2010/8/9
ジョカの「童貞」とサルヴァドルの「女買いに行くぞっ!!」
この台詞が書きたかった回。サルヴァドルは周囲が海賊だらけで、海賊と言えば飲む打つ買う
だから、耳年増であることは間違いないと思うのですが…ウチの提督は全然そうじゃないですね。
きっとホーレスが(以下略)
「え?提督はそうなんですかっ?」
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そりゃそうでしょ!?
女恐怖症なのに女性経験あるのも嫌だな、じゃあ男が相手でも良いじゃん?いや、そんな腐的展開は認めない!!
だって提督は清純派だからっ!!
ゲームでも、前半までは清い体だと信じています。その後は知りませんが。