七つの大罪ー傲慢編




拙サイトがブログサイトであった自分から数えてはや一年。ほとんどの閲覧者の方はこの「七つの大罪」シリーズなんてあったことを忘れ去り、だが、ごく一部の奇特な方は待って下さっていたらしい「傲慢編」ついに上梓でありますっ!!

その前に、このシリーズを読み返して、ククールがいかに成長していったか、思い返してやって下さいな。









傲慢の罪ねえ…」

ゼシカは荒野に歩を進めながら呟いた。



「なんですかねえ…人様の兄貴のことをアッシがとやかく言うのもどうかと思いヤスが、そもそもあのお人は ゴーマンが制服着て歩いてるような人 じゃありやせんか、ねえ、アニキ?」

ヤンガスの問いかけに、エイタスも頷く。

「そうだよね、僕たちなんてあの人と全て合わせてもほんの十数時間くらいしか接点がないのに、 あの人が傲慢でなかったところなんて、数秒も見てない もんね。」




エイタスは、後ろを歩く銀髪の青年を振り返る。



「ねえククール、君はあの人は いっそ死にたくなるくらい長い月日を共にしてきた じゃない? せっかくの機会だからさ、 とびきり面白いそんなエピソード とか、話してよ。」




「なんだよエイタス。前は、オレが兄貴の話するだけで またかっ!! ってカオ、露骨にしてたくせによ…」

銀髪の青年は、やれやれと言いたげに大仰に首を振ったが、




「ま…話してやるか。 せっかくの機会だしよ。」




ククールは、聖地の大きな門を見上げると、口を開いた。
















「兄貴はさ…オディロ院長が本当に大好きだったんだ…」

「あんな 血の色まで目と同じ色そうな生物 にも、人を好きになる気持ちがあったのね…」

「ゼシカの嬢ちゃん、そんくらいあの院長が偉大な方だったってコトでガスよ…」


「でさ… そもそも独占欲の強すぎる人 だから、けっこう院長べったりでさ…院長の前では、 あり得ないくらい良い子 なワケよ。」


「そうなんだ… 意外と可愛い所もあったんだね…」

エイタスはほほ笑むと続けた。


「それをしているのが あの長身であのガタイでおデコがMな聖堂騎士団長 だと考えると、 かなりサブい光景 だけどね。」



「そう言ってやるなよ…兄貴だって 一応人の子なんだから、 いつもいつも気取ってなんかいられないさ。」

ククールは穏やかにエイタスを窘めた。


「はは、ゴメンゴメン、それで?」

「でも、やっぱ兄貴だからさ。それ以外のトコでは やりたい放題 なワケよ。それで団員たちはいつも泣かされてたワケだけど、特にオレは…ほら、やっぱりアレだからさ、 限りなく虐待に近い仕打ち を受けてて…」

「ククール、 一応ツッコミを入れる けど、君へのあの仕打ちは、 虐待に近い、じゃなくて、間違いなく虐待 だったんだよ?」


「ははは、まあな。」

ククールは、 事もなげに笑い飛ば した。




「それでさ…でも、オレはそれでも兄貴が大好きだったんだよ。だってあの人は、オレのたった一人の家族なんだものな…だから、オレは 兄弟ってきっとこんなものなんだ と思って…」

「ククール、 一応ツッコミを入れる けど、 普通のお兄さんは、実の弟を憎むあまり煉獄島に放り込んだりはしない のよ?」


「ははは、そうかもな。」

ククールは、 またもや事もなげに笑い飛ば した。




「…て、特に誰に愚痴ったりもしなかったんだ。」

「ククール、 一応ツッコミを入れる でガスが、 愚痴るどころか、法廷に訴え出るべき仕業 でヤスよ?」


「ははは、そこまでしてもよかったかな。」

ククールは、 更に事もなげに笑い飛ば すと、続けた。









「けど…やっぱオディロ院長は、 兄貴にベタベタに甘い けど、それはそれとして聖者様だからさ。見るトコは見てたワケよ。オレへの仕打ちが、さすがにあんまりだと思って、ある日、兄貴とオレを院長の部屋へ呼び出したんだ。」









「マルチェロや…お前はククールをいじめているそうだね。」

「いえ、院長そんな…」

(とても穏やかで、とても慈悲深い瞳で見つめながら) マルチェロや…兄弟は仲良くせねばならないよ。良いかね?」

「は…」

「ククールや…マルチェロもそう言っておる。 お前は兄を許すことができる かね?」



許すも何も、 兄貴を恨んじゃいなかった し、オレは黙って頷いた。


そしたら院長は今度は兄貴の方を向いて言ったんだ。




「さ、マルチェロや。ククールに謝りなさい。そして、 これからは仲良くすると誓いなさい。」

兄貴は院長に、 とびきり良い子な笑顔 で、

「はい、オディロ院長。」

って、いっそ ハートマークが付きそうな声 で返事をすると、




「ククールすまない、これからは良き兄であるよう努力する。」

って、 めっちゃ誠実そうな声 で言ったんだ。









「ナニ?その… 限りなく信用ならない科白は!」

ゼシカは、我が事のように不快そうに口にした。


「ククール… はやくオチが聞きたい な。」

エイタスが急かした。











院長の部屋を出てすぐだった。

兄貴はオレを 肩を掴んで強制的に人気のない裏庭まで連れて行く と、 さっき院長に返答した声から4オクターブくらい低い声 でオレに言ったんだ。



「ククール…どうしてくれるつもりだ?」


ナニが?

オレがそう問い返す暇もなく、兄貴は続けたんだ。


「貴様のせいで院長に叱られてしまったではないかっ!!」











「さすがマルチェロさん… 僕らの期待をまあったく裏切らない科白 だね?」

爽やかに笑ってエイタスが言う。


「アニキのおっしゃる通りでガスね。 三歳児でも予想できたオチ でガスなあ。いやあしかし、 期待を裏切らない展開の気持ちいいこと。 まったく…アッシもオッサンでガスなあ。」











オレは兄貴に反論したんだ。

だってオレ、院長に告げ口したわけじゃないもんって。

そしたら兄貴はオレに、 世界の理を乱した者に対する憎しみを満面にたたえた表情 で言ったんだ。


「貴様が院長のお耳に入らんようにいびられておかんからだ、この痴れ者がっ!!」



ほら、 オレも若かったから さ。うっかり反論しちまったワケよ。

なんだよ兄貴、そんなの…空が青いのも、海が青いのも、大地が草木に覆われているのも、みんなオレのせいみたいな言い方!

ってさ…そしたら、やっぱり返って来たわけよ。



「何を今更たわけたことをっ!!空が青いのも、海が青いのも、大地が草木に覆われているのも、日が東から昇るのも、そして西に沈むのも、この世に魔物が生息しているのも、あらゆる不幸が存在するのも、みんなみんな貴様のせいに決まっているだろうがッ!!この愚か者!!そして、地上に存在する価値のないロクデナシめっ!!貴様など生まれてこなければ良かったのだ!!!!」













エイタスもヤンガスもゼシカも、みんな、みぃんな、 初夏の風のように爽やかな笑みを湛えた顔 で、ククールを見つめた。







大聖堂の大きな扉が、音を立てて開かれた。



一同は無言で中に入り、 ノーマイクなのに無駄に大音量な演説 をバックミュージックに聞く。




ゼシカが軽やかな足取りでククールに近づくと、言った。



「みんな言いたい事なんだけど、あたしが代表して言わせてもらうね。」

「ああゼシカ、レイディの発言なら大歓迎さ。」

「ソレって“傲慢”って言うより、単なる子供のワガママよねっ!?」




ククールは、 その美貌で優しくも穏やかに微笑む と、演説台の上を見上げた。







「……だが 私は違う。尊き血など、私には一滴たりとも流れてはいない。そんなものに、意味なぞない。だが 私はここにいる。自らの手でこの場所に立つ権利をつかみ取ったのだ!私に従え!無能な王を 玉座から追い払い、今こそ!!新しい王を選ぶべきとき!!!!」




「この科白ほどじゃなかったけどな…」






「……さあ、選ぶがいい。我に従うか さもなくば……そこにいる侵入者のように、殺されるかだ!!!!」






聖堂騎士たちが、その声と共に襲い掛かる。


エイタスが、神鳥の声の導くがままに、神鳥のたましいを手にした。








「あんたと一緒に旅をするようになってから…長いようで、短かったわね。」

ゼシカが呟く。


「いや、長かったでガスよ…ククールが成長するのに十分なくらいは、でガスが。」

ヤンガスが答えるともなく、答える。


エイタスは、共に宙を舞うククールに、囁いた。

「実は最初から、君のお兄さんとはこうなるんだろうなって気がしてた…って言ったら、言い過ぎかな?」


短い空の旅はすぐに終わった。



「……これはこれは……いいだろう。どうあっても私の前に立ちふさがると言うのならば、手始めに貴様に、この手で引導を渡してやろう!!」


真摯な面持ちで剣を構えたエイタスの後ろから、声がした。




「オレも実は、そんな気がしてた気がする…」




続いてエイタスの耳に聞こえる、レイピアが鞘走る音。






「なにせ… 七つの大罪 を全て成し遂げちまった兄貴だから…さ…」




エイタスは、小さく頷くと剣を振りかざした。





終る


2007/6/11




このオチは決めていました。「ぜったいゴルドのあの演説を傲慢編のオチに使おう」って。だって…アレくらいゴーマンカマした科白はありませんよ?ねえっ!?
という訳で、ククールが成長し、いっこうに成長しないマルチェロに対峙するところで終っ…てもいいのですが、本シリーズをご愛読の方にはきっとご不満もあろうと思いますので、一応その後もつけてみました。




そして(警告:いい話で終わりたい人は、見てはなりません) inserted by FC2 system