七つの大罪ーそして




七つの大罪のその後です。

一応警告しておきますが、「傲慢編」で止めといた方がいいと思いますよ、絶対。

え、それでも読むの?仕方ないなあ…



















兄貴を見つけた…

そんな短い言葉と、その居場所を記しただけの手紙をエイタスが受け取ったのは、暗黒神ラプソーンを倒した旅の記憶も薄れていくほど、穏やかな日々がやってきてからだった。


早速、ヤンガスとゼシカと共に、地図に記された場所にたどり着いたエイタスを迎えたのは、 沈鬱な面持ち のククールだった。




「二階からイ…いえ…マルチェロは…」

遠慮がちに問うゼシカに、ククールは黙って、とある建物を指差した。






「ククールお兄ちゃんのお友達?」

建物の中に入った一同は、 天使のような笑顔の子供たち に取り囲まれた。



「ああ…そうだよ…」

力なく返答するククールに、子どもたちは嬉しげに言う。



「分かった、せんせえに会いに来たんだね。」

「“先生”?一体誰の…」

問いかけたヤンガスの言葉を遮るようにして




「これはこれは…懐かしいお顔が。」

艶のある響きの良いバリトン が聞こえた。








出された、質素だが口に優しいお茶を居心地悪げに一同がすする中、 かつてあれだけ万事に怒りまくっていた 男とは思えないほどの 穏やかな笑み を湛えたマルチェロは語った。



「粗末なものしか出せず、申し訳ない。なにせこのように人目を忍ぶ中での孤児院経営なものでね、 美食などとは程遠い 生活なのだ…」


そういうマルチェロが身にまとうのは、かつての 禁欲の象徴のくせにやたらといろいろエロっちい聖堂騎士団長の制服 などではもちろんなく、体の線の出ない修道服であった。




「ふふ…かつてはマイエラ修道院長として、 悪事に手を染めてまで大金を動かしていた 私だが、今では100Gという金ですら、ほとんど目にすることがない…そんな質素極まる生活だが、私の心は平安そのものだ。まあ、子どもたちが相手だ。確かに、 かつての多忙さとはまた違った多忙さ はあるが…」




マルチェロはそう言って、 聖者のように優しい面持ち で、子どもたちを見つめた。






「私やククールをはじめとする孤児たちを愛しまれていたオディロ院長のお気持ちが、今となって少しだけは分かったような気がする。かつては 自らの生まれを呪い、あらゆる権威に嫉妬していた 私が、もはや一滴もそのような気にならん…やはり、 天使のような子どもたち に囲まれていると、 心が和やかになる ものなのか、な…」







あまりに居心地が悪すぎ て、言葉も出せない一同を尻目に、マルチェロは 兄としての慈愛に満ち満ちた瞳 でククールを見つめた。






「せっかくみなさまが集まってくれたのだ。ここで聞いてもらいたいことがある…他でもない、私とククールのことだ。みなさまもご存じのとおり、私は自らの生まれを呪う余り、 罪もない弟にひどいことをしてしまった。 そして、みなさまもククールともども殺さんとした…いや、 今更許してくれなどといえる義理ではない のだ、気のすむようにしてくれればいい。ただ…」




「せんせえにひどいことしないでっ!!」

いつの間にやら話に子供たちが割り込んできた。


「せんせえは、お父さんやお母さんがいないあたしたちに、すごくやさしくしてくれるんだよ?」

「そうだよ、せんせえはきっと“せいじゃさま”なんだ。だって、こんなにいい人なんだもん!!」

「だからククールお兄ちゃん、お兄ちゃんのおともだちの人、せんせえにひどいことしないで!!」


真剣な瞳で取り囲む子供たち。

マルチェロは、ククールに 一滴の偽りすら混じらぬ澄んだ瞳 で語る。



「言えた義理ではないのだが、私を失えば、この子たちがまたもや路頭に迷う。…私が犯した罪は、我が一生をかけて償おう。だから…ひとまず私を赦してはくれないか?」

かつての 女神をも超越したような尊大さ はどこへやら、 謙虚と誠実極まりない言葉 に…




だが一同は、 言葉にしてはならない違和感 を覚えたのだった。








「別にあんたをどうこうしようとは思ってねぇよ、兄貴…」

絞り出したようなククールの声に、マルチェロは イヤミの一欠けらもない微笑み を浮かべ、その手をとろうとした。






「触るなっ!!」

ククールは、即座にその手を払いのけた。




「ククールお兄ちゃん…」

子どもたちの、いっそ咎めるような視線を受けても、ククールの硬い表情は和らがなかった。





「ククール…」

心から悲しげな緑の瞳 で、マルチェロは続ける。



「…やはり、私のことを赦せはしない…」



「アンタがオレにした事とか、そーゆーコトはどーでもいいんだ!!ただ、ただオレは…」

ククールは、ふるふると肩を震わせ、言葉を続けようとしたが、遂に耐えきれなくなったのだろう。その大理石の彫像のような端正な頬に、涙が流れた。




慌てて拭おうとするマルチェロの手を再び振り払い、ククールは魂からの叫びを発した。






「違うんだ…違うんだよ… こんなに善良で聖者様みたいな兄貴は、オレの兄貴じゃないんだああっ!!!!!!」





そして ただひたすら号泣する ククールをただ見つめる 今の科白の意味をまるきり理解できていないマルチェロ と子供たちを尻目に、エイタスたちは互いに顔を見合わせ、 生暖かい笑み を浮かべながら、それぞれ同じ事を思い浮かべた。






分かるよククール…こんな 悪意の欠片もない マルチェロなんて 間違いなく、マルチェロじゃないよね?




本当に終っちゃう


2007/6/11




…一年もかけて連載してきたのに、 こんなオチですいません(土下座)

いつぞやの後書きでも書いたように、この話は ククールの成長物語 なので、アホブラコンのククールが、兄の精神的支配を脱してオトナになってゆき、そして兄を打倒する…前回の「傲慢編」で終わるのが、一番正しいあり方であったのは、重々承知しております。

おりますが…よく考えてみれば、このシリーズは「アホノーマル」に分類されているので、つまりこのお話を読む読者諸姉は アホダメブラコンククを期待 こそすれ、立派でお利口なククなんて一欠けらも期待してないだろうな、と思い、このオチをひっつけました。
でもね、べにいもも思うんですよ。知勇に才色まで(笑)兼備しているマルチェロでも、 性格まで円満だったら絶対誰も好きにならない って…

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