蒼く貞潔なる者
いろいろと妄想設定つきです。
さらにマルチェロが女性を拷問するお話です。不快で気色悪い表現が多々ありますのでご注意下さい。
女の裸体は、奇妙に引き伸ばされた形で固定されていた。
女の口から吐き出された血反吐が、換気の悪い室内に充満し、湿気により繁茂した黴の臭いとあいまって、鼻腔に不快極まる責め苦を与える。
「そろそろ、女神の慈悲を乞う気になったか?」
マルチェロの問いに、女は薄ら笑った。
とうに乾きかけた赤黒い血片が、暗色の口紅のように、こぶりで形のよい女の唇をかたどる。
「なんの慈悲よ…?」
そして女は、引き伸ばされ、とうに粉砕された、奇妙に長い肋を震わせて笑い声をあげた。
「いい加減にしろ、女っ!!」
マルチェロの怒号が狭い異端審問室内に反響した。
「貴様は異端の暗黒神を信仰し、あまつさえその生贄に無垢な赤ん坊や幼児を誘拐し、惨殺したのだぞっ!?その罪を女神に悔いようとは思わんのかっ!?」
女の奇妙に長くなった胴に、マルチェロは何度も鞭を振り下ろした。
白い裸身に、何本もの鞭のあとが刻まれる。
女は身もだえした。
マルチェロたち聖堂騎士が仕えるのは、聖地ゴルドにその壮麗な姿を留める女神である。
あくまで汚れのない清純さ、至高の美貌、永遠の慈愛。
聖地の女神像は、かつて地上に姿を現した姿をそのまま神域の技で写し取ったといわれる見事な姿であり、人目でもその姿を見たものを魅了するのだ。
事実、マルチェロもかつての聖地巡礼でその姿を見、柄にもなく呼吸をとめるほどの感嘆の念に覆われたものであった。
だが。
異端の説。
この女をはじめとする異端の輩が奉じる、不快極まりない異端の説がある。
「女神は暗黒神を孕んでいる」
異端者どもは言う。
「ゴルドの女神の腹の中には暗黒神が宿っておられる。暗黒神がはやくこの世に生み出されるように、わ れわれは『栄養』を送っているのだ。赤ん坊や子どもの肉は消化がいいから、妊婦向きの食事になるだろ う?」
「清純なる女神が孕むものか。」
狂疾なる異端者どもは答える。
「疑うなら、ゴルドの女神の腹を割いてみろ。」
「ウフフフフフ…自分の赤ん坊にご飯を食べさせてもらって怒る母親はいないわよ…」
女の青い瞳は、狂気を孕んではいたが、異様なまでに澄み切っていた。
マイエラ修道院の地下のこの異端審問室にて。
マルチェロは幾人の異端者を拷問にかけ、改悛を迫っただろうか。
「罪を認め、女神に慈悲を請えば、絞殺してから火刑にかけてやれるのだぞ。」
異端者は火刑と、教会法で決まっている。
そもそもこの暗黒神崇拝の異端は、嬰児誘拐や幼児殺害をほとんど必ず伴っているため、これ以下の量刑はありえないのである。
だが、一応の暗黙の規定として、改悛したものは生きながら火に焼かれるという措置だけは免れさせてやることになっている。事実、苛烈な拷問と生きながらの火あぶりの恐怖に異端を捨てた者もけっして少なくはなかった。
だがそれでも、己の狂気と共に生きながら火に焼かれ、そして死して地獄の業火に焼かれようとする輩の数も、少なくはない数なのである。
女は、固定された頭をわずかに起こし、マルチェロを見上げた。
長い金髪が揺れる。
美女、であろう。
少なくとも、第一印象では、貞潔な農家の主婦にしか見えなかった。
事の起こりは、ある農夫の訴えであった。
ウチの赤ん坊がいなくなった…
血相を変えた農夫の訴えは、実は彼のものだけではなかった。近隣の村々からもう何軒か、同じ訴えがマイエラ修道院に届いていたのである。
異端者が関与している可能性が高い。
オディロ院長の判断の元、聖堂騎士団の副団長であるマルチェロは現地に派遣され、調査をはじめた。
この金髪の女は、涙を流しながら
「はやく、ウチの子を見つけてください…」
と訴えてきたのだ。
その姿は、子どもを失った若い母親の姿以外の何者でもなかった。
調査を進め、異端者が“宴”と呼ばれる会合に使用したとされる山中の洞窟をとうとう発見し、急襲したさいにマルチェロたち騎士団員が見たものは
ニンゲンの子ども…だった、モノ を料理している楽しげな村の女達の姿
であった。それも、一人や二人ではない…
あまりの事実に騎士達が呆然としている中、この金髪の女は落ち着き払ってなにやら黒いものを取り出すと、洞窟の奥に向かい、放り投げた。
マルチェロはとっさの判断で、退避命令を下し、微笑を浮かべる女をひきずって洞窟の入り口まで駆けた。
轟音
女が投げたのは、火薬球のようなものであったらしい。
異端者の痕跡は、破壊された。
全てが済んだ。
農夫と女の間の赤ん坊は、女が言うには「暗黒神の朝食」にされていたらしい。
訴えてきた農夫は、全てをマルチェロが聞かせてやった後も、妻である金髪の女がにこやかに事実を口にしてやった後も、呆然とした表情で、
「信じられない…」
と
「かみさま…」
を繰り返すばかりだった。
「なぜ改悛しないっ!?」
鞭の手を止め、マルチェロは、もううんざりするほど繰り返した問いをまた繰り返す。
「暗黒神がこの世に生れ落ちたその時には、暗黒の世界とこの世界が再びひとつになるのよ…」
恍惚とした口調で、女は答える。
マルチェロは、怒りのあまり歯を音がしそうなほどに強くかみ締めた。
「異端者がっ!!われらが慈愛深き女神を愚弄する異端者がっ!!」
再び鞭をとったマルチェロの背後で、かちゃり、という音が鳴った。
「誰…だ…」
必死で怒りを押し殺して振り向くと、
「聖堂騎士団員ククール、騎士団長殿の伝言を持参いたしました。」
銀髪の青年が立っていた。
「…言え。」
銀髪の青年への不快感で、怒りが僅かに相殺されたマルチェロは、ぶっきらぼうに言った。
「聖堂騎士団副団長マルチェロ、オディロ院長と私が戻るまでに、異端者の尋問及び改悛を終えておくように。ちなみに、修道院への帰還は三日後になる予定。」
青年が、更に散文的な口調で伝言を読み上げる。
「チッ…院長のお供というお気楽な身分で、無茶をおっしゃるな、団長殿は!」
団長は、サヴェッラ大聖堂で法王に謁見するオディロ院長の“護衛”として、修道院には不在であった。
もっとも、いない方がむしろ手間が省けるとマルチェロは思っていた。
名家に生まれ、見てくれも悪くなく、剣の腕もそこそこ立つが、団長のとりえといえばそれだけで、修道院の実務のほとんどは今ではマルチェロが取り仕切っているといっても過言ではない。
今回の件でも、危険でやっかいな異端審問はマルチェロに体よく押し付け、自分はなんの危険もない大聖堂巡礼に出かけたような男である。
「今のお言葉は、団長に伝言申し上げた方がよろしいですか?副団長殿。」
慇懃無礼な言葉を投げ、笑みさえ端正な顔に浮かべた銀髪の青年に、マルチェロは鋭い視線を投げかける。
「戯言がすぎるぞ、ククール。」
「はいはい、副団長殿。…しかし、団長殿の拷問でもまだ“改悛”しないんですか?この女。」
一見、華奢な美人なのに。
とまで付け加え、青年は全裸の女を眺めた。
「…まだ拷問が甘いらしい。」
独り言のように呟くと、マルチェロは装置に手を伸ばした。
この拷問器具は、ぐるりとまわすことによって、人体を引き伸ばすことの出来るものである。当然、限界をこえて引き伸ばされた肉体は、骨は砕け、内臓は引きちぎられる。とはいえ、殺してしまっては元も子もない為、ぎりぎりの限度を見極めねばならない。
ぎりぎり
不吉な音が小さく響き、
ぎしゅり
新たな骨が砕ける音がした。
「女!!女神への慈悲を請え!!呪われし妄語を頭から追い払え。このままでは、地上の炎は息絶えるまでお前の皮膚を焼き、内蔵を炙る。だが!!堕ちた先での地獄の業火は、お前の魂までも焼き、その苦痛は絶えることがないのだぞっ!?」
ぎしゅり
新たな骨の砕ける音がした。
ぽたり
小さな音が聞こえた気がした。
ぽたり
今度は確かに目に見えた。
血ではない。
汗でもない。
尿でもない。
それは、白かった。
「…」
銀髪の青年の目が、訴えるようにマルチェロに向けられた。
「…?」
青年は、女の胸部を目で示した。
白いしずくが、胸をつたい、女の腹をつたい、そして地面に落ちていた。
女の乳首から、
かつてはわが子に乳を含ませたに違いない、幾分色の濃い乳首から、
白い母乳がこぼれだし、滴り落ちていた。
異端者のニンゲンから。
赤ん坊殺しの女から。
わが子を殺して煮た母親から。
子を育てるための母乳が、零れるほど湧き出している。
マルチェロは、耐え難いほどの嫌悪感と不快感に苛まれながらも、その胸から目を離すことが出来なかった。
声
女は声を上げた。
それは甘い喘ぎ声。
そしてそれはだんだん激しくなり、しまいには、獣の唸り声のような叫びになっていった。
女の叫びには、言葉が混じっていた。
あんこくしん…さま…あ…あたしが…あたしがあなたをはらんであげる…
あたし…あたしがあなたをうんであげる…
ゴル…ド…の…クソばいだ…なんかじゃなく…あたしが…あたしが…
あたし…の…ここ…は…あんなおんなより…イイわ…よ…
延々と続く、忌まわしく卑猥な言葉に、マルチェロは限界を超えて女の体を引き伸ばした。
女の喘ぎ声は、それでも途切れない。
「お、おい…あに…副団長…それじゃ…死…」
ぽたり
ぽたり
と母乳はさらに滴り、女の体は蠕動した。
「……っ!!!?」
マルチェロの下半身に、焼け付くような感覚が走った。
しばしの思考停止の後、それが忌まわしい身体感覚だと悟ったマルチェロは、拷問室を駆け出ていた。
「…出て行け…」
団員宿舎の一室。そこは副団長である彼と他の団員との相部屋であり、当然中には他の団員もいたわけだが、マルチェロは訳も言わずに気迫で追い出した。
鍵をかけると、マルチェロはすぐさま上半身のものを全て剥いだ。
「女神よ…我が罪をお許しください…」
女神に一旦跪くと、自戒用の鞭をとり、マルチェロは自分の背に振り下ろした。
分からない。
鞭を何度も背に叩きつけ、自らに苦痛を与えながら、マルチェロは自問した。
異端の徒の女に、赤ん坊殺しの女に、我が子を暗黒神のいけにえに捧げた女に、
「私は欲情したのかっ!?」
マルチェロは聖堂騎士になってより、一度もわが身の純潔を汚したことはない。
そもそも、汚れ無き女神に仕える騎士は、その身も清純でなければならないと修道院の戒律では定められている。もちろん、戒律を守らずにドニの歓楽街で遊び呆けているような許しがたい騎士も、さきほどの銀髪の青年はじめ何人もいるが、彼は自己にも他人にも、そんな軟弱さを許しはしなかった。
当然、修道院内ではこびっている男色行為に加担したこともなく、自らを慰めるような不純な行為も行った事はない。騎士たるものは、自己の欲望を完全に抑制できる、童貞聖者でなければならないと考えているからである。
自戒の鞭を振り下ろしながら、だが、マルチェロの脳裏に浮かぶのは色の濃い乳首であり、そこから女の白い乳房を滴りおちる乳であった。
自戒の鞭を皮膚が裂けるばかりに強く振り下ろしながら、だが、マルチェロの耳に響くのは、女の絶頂の叫びとも、子を産む際にあげる絶叫ともつかない声であった。
自らの内部から這い寄る劣情をはねのけようと、マルチェロはゴルドの女神の清純な微笑で脳裏を占めようとした。
ゴルドで唄われる、女神への賛歌で頭を満たそうとした。
頭の中で、女神像が邪悪で淫猥な笑みを浮かべ、淫らな嬌声を発した。
脳裏が真っ白になったような感覚の後、マルチェロは自らの肉体が、劣情に敗北したことを知った。
マルチェロは鞭を放り、再び女神の前にひざまずいた。
「女神よ…清純な女神よ…わたしはあなたへの信仰を劣情で汚しました…女神よ…どうぞお許しください…」
穏やかな笑みを浮かべた女神像へ、マルチェロは誓った。
「この償いに、私は、地上に正義を遍く広めるために、いかなる不名誉も忍び、いかなる苦難も乗り越える事を誓います…そう、いかなる手段を用いても…わが身がいかなる罪で彩られようとも…」
その晩、聖堂騎士団員及び修道士は、異端審問室に近寄ることを、副団長の名において禁じられた。
三日後。
「病死…?」
団長は、副団長マルチェロに対し問うた。
「はい。異端者の女は、女神の御名と慈悲にのっとった、改悛を呼びかける説教の途中で、病死いたしました。」
「マルチェロ、貴君の報告では、女は健康体だったとあるが?」
「一見健康体に見えましたが、密かに潜伏していた伝染病に罹患していたと小官は考えます。報告書は訂正いたします。」
「死体は?」
「ですから、伝染病の疑いがあるため、早急に火葬にいたしました。」
団長は舌打ちし、自分よりはるかに若い副団長の、端正だが感情の浮かばない顔を見上げた。
「異端者は改悛させぬと、法王庁への外聞が…」
「ではお次は、団長殿がご尋問下さい。小官もぜひ、団長殿の博学にして慈愛あふれ、異端者の心をもゆさぶる改悛の為の説教を拝聴いたしたく…」
「もう良い、下がれマルチェロ。」
一分の隙も、乱れもない優雅にして完璧な辞去の挨拶を済ませると、マルチェロは団長室から出、その扉にむかって冷たく呟いた。
「あなたに女神の御心と正義の執行はご無理なようだな、団長殿…」
まあいい、そろそろ調査の結果が届く頃だろう。聖堂騎士団長殿の、聖堂騎士としてふさわしくない不行跡の証拠の数々がな…
廊下に飾られた女神像へ、そっと目礼し、マルチェロは扉の前を去っていった。
地下にはまた、新たな異端者が捕らえられて来ているのである…。
終
電波で童貞なマル兄のお話。
「なんでこれがシリアスなのー?ギャグじゃないのー?」
ギャグでがす、だからなんでやんすか?
個人的には、少なくともオディロ院長が殺されるまでは、彼は信仰心は厚い人だったと思います。まあ、それでも電波に走ってしまうのは…彼がそーゆー人だから仕方ないでしょう。
ところで、個人的な設定では、こん時マル兄は二十六七…それまでいっぺんも自慰をしたことがないとか、夢精をしたことがないって、すごい自制心だよね。思わず感激するよ、自分で書いててなんだけど。
あの世界における「異端」ってなんやねん?ということについての個人的な設定は、考察で書いてみました。
今回は『ベルセルク』を目指してみました…分かんない?あっそう…(ションボリ)