牛頭馬肉




元拍手話。
「羊頭狗肉」の間違いでは在りません、あの話は元々は「牛頭馬肉」が正しいのです。

ちなみに、拙サイトの主人公の名前は“エイタス”です。











ワシこと、トロデーンの正統な王であるハズのトロデは、事もあろうに爬虫類のような姿に変えられ、可愛いミーティアは、美しいとはいえ馬畜生に姿を変えられ、そして何千もの従者を引き連れていたはずの身が、たった四人の従者しか引き連れず、御者兼雑用係兼錬金釜おじさんをしておる。


おのれっ!!!にっくきドルマゲスめっ!!!!


まあ、ここで怒っても仕方はあるまい。

全てはワシの不徳の致すところじゃ。



「オイ、オッサン。いくら春うららかとはいえ、寝んなよ。」

「か、仮にもトロデーン国王たるワシを捕まえて、オッサンとは無礼なっ!!」

まったく。

たった四人しかいないワシの従者どもは、エイタスを除いて、どいつもこいつも無礼じゃわい。


「ふぁーあ、でも確かにこんだけあったかいと眠くなるよな。」

アホみたいな真っ赤な聖堂騎士の制服に身を包んだ、アホのくせにいやに美形な従者4ことククールは、欠伸をしてもなお美麗なその顔を、手で拭った。


「そーいやこの時期は、いっつも礼拝の最中に眠くなったモンだぜ…思わずお祈りの文句唱えながら寝そうになったりな…」


「そうよっ!!」

「え?」

いきなり従者3が、何か思い出したように叫んだ。



ワシの従者3ことゼシカは、その顔を、その髪と同じ色に染めると、ククールに詰め寄った。


「アンタねっ、責任とりなさいよっ!!」

「は?」


ククールは、いきなりの言葉に目を白黒させたが、すぐにキザ男の面目躍如か、ゼシカの手をいやに慣れなれしげに取った。


「ハニー。君の心を奪い去ってしまった、オレの美しさが犯した盗みの罪は心から謝罪するよ。でも、このオレの麗しさは、いと畏き女神さまがオレに下さったものだから、どうしようもないんだよね。ああ、女神よ、オレは貴女の慈愛の御心をお疑いします。女神さま、貴女はオレに心ならずも罪を犯させました…」


ばしっ

ゼシカはその手を払いのけると、叫んだ。


「アンタじゃなくて、アンタのいた聖堂騎士団のことよっ!!」

「は?…ああ、あに…団長どのに拷問にかけられそーになったコト?いや、ンなコト言われたって、拷問はあの人の趣味みたいなモンだから、オレに責任とれって言われてもな…」

「あいつでもなくてっ!!」

ゼシカは、


びしいっ

とククールに指を突きつけると、叫んだ。


「船着場の女の子が言ってたでしょ?

『修道院の治安と院長様の命をお守りしているのが聖堂騎士団なの。強くて頭もよくてエリートでしかも“超イケメンぞろい”!』

って!!」

「いや…

『言ってたでしょ?』

って、オレに言われても…」

「あたしだって女の子だから、期待してたのよ…“イケメンパラダイス”っ!!なのに…いざ行ってみたら、図体でっかいヤローばっかで、イケメンなんてどこ探してもいないじゃないっ!!!?この期待を裏切られた乙女の傷心、どう責任とってくれるのよっ!!!!!!」




ポカーン

ククールは呆気にとられた。




いや、ワシも呆気にとられた。

ゼシカが未だにこんなコトを根に持っとったとは。


うーむ…確かにワシも、“美女の園”と言われてしもうたら、期待してしまうかもしれん。

期待とは常に裏切られるものじゃが…ナニが“ぴっちぴっちのギャルばかり”じゃ、おのれ、あのオヤジめ…


じゃが漢たるもの、それでも期待が現実であることを信じて行動するしかないのじゃ!!



コホン

まあ、そんなコトはどうでも良い。


ククールはようやく気を取り直したようじゃった。



「いや…つーかあの噂はオレが流したワケじゃないし…第一、このオレが、絶世の美青年のこのオレがいるんだから、それだけで十分じゃん、なっ?」

「それは“ぞろい”って言わないでしょ、ぞろいってっ!!それなら正しく“イケメン単品”って言いなさいよっ!!」

「ンな、飯屋の注文みてーな。つーか、ウチの団長どのだって男前じゃん?ほら、ゴルドの宿屋のオバサンも“いい男”って言ってたじゃん?」

「デコいじゃないっ!!」

ゼシカは本気で怒ったようじゃった。


「いいじゃねーかデコくたってよっ!!」

そして、ついにククールも怒りモードに入ったようじゃった。




どたん

馬車の中では、仮眠中のヤンガスが盛大な寝返りを打っておった。

エイタスが潰されんか、心配じゃのう。



「違うのよっ!!デコとイケメンは並立しないのっ!!あたしが期待していたイケメンは、サーベルト兄さんみたいな人なのっ!!」

「君のサーベルト兄さんがどんなツラしてたかは知らねーけど、ぜったい、オレの兄貴の方が男前だって!!そりゃデコは広いけど、デコ広い人はアタマ良いって言うじゃんっ!!兄貴はアタマいいんだよっ!!だから悪いことばっか出来るんじゃねーかっ!!」

「サーベルト兄さんは頭いいけど、デコは広くないし、みんなから慕われる善良なイケメンだったわよっ!!アタマの良さとデコを一緒にしないでっ!!」


「…」

ワシはツッコミを入れるのもバカバカしくなって、二人の口論を黙って聞いておった。


春の陽気はうららかで、鳥は鳴き交わし、蝶は楽しげに舞い踊る。

風は柔らかに吹き、遠くの波のさざめきが聞こえるような気もするわい…こいつらの口論さえなければのう。



いやあ…平和じゃのう。




はあはあ

二人はようやく、自分たちの口論の不毛さに気付いたのじゃろう。

どちらともなく怒鳴るのを止めると、それでもゼシカは恨めしげに口にした。



「まあ、アンタと二階からイヤミはまあ“イケメン”と認めるとして、ついでに外にも何人かイケメンがいると認めるとして…それでも、やっぱり“イケメン揃い”って言うのは、看板に偽りあり過ぎなのは認めるでしょ?」

ククールも、頷く。

「うん、なんつーか、ガタイはいいけど“イケメン”は違うよな、イケメンは。それはオレも認める。」

「何よ、意外と素直じゃない。」

「オレは、君みたいな素敵なレイディ相手には、従順なのさっ。」

さっきまで超ブラコントークをしていた男とも思えん口調で、ククールは気障っぽく返答した。



「でも…だとしたらあの船着場の女の子の言ってたウワサは、いったいドコから来たものなのかしら?」

「さあ、少なくともオレが聖堂騎士になった頃にゃ、もういろんなトコで言われてたぜ。」

「つまり、アンタが原因じゃないワケね。」

「ま、オレみてェな世界レベルの美青年を実際見たら、

『ああ、ウワサは本当だった』

ってみんな信じちまったろうけどな。」


「まあ、聖堂騎士は基本、良家の子弟しかなれなかったんでしょ?だったら“エリート”なのはそうなんでしょうね。」

「おう。それにそりゃ騎士だから剣の腕は立つし、僧侶でもあるから学問も出来るさ。でねーと礼拝出来ねーもん。」

「元は儀杖兵だってコトだから、見栄えは良くなきゃいけなかったのよね?」

「だから聖堂騎士の制服はスタイリッシュだし、それにみんなデカいだろ?」

「デカいのは認めるわ。でも、デカい=イケメン、じゃないじゃない?」


うーん

二人は考え込んだ。




「誰かが意図的に流したってコトは考えられない?」

ゼシカが言った。


「意図的?」

「ほら、マイエラ修道院って、聖堂騎士しかウリがないんでしょ?」

「いや、ゼシカ。いちおー、あそこって世界三大聖地の一つだから、それがウリなんだけど…」

「けど、ゴルドだったら女神さまだし、サヴェッラだったらあの壮麗な大聖堂だけど、マイエラって特に見るものないじゃない?」

「…それは認める。」

「だったら、それこそほら、あのイヤミあたりが『イケメン揃いの聖堂騎士団』ってウワサ流して、お布施を集めようとしたとも考えられるでしょ?ねっ!?」

「いくらあの銭ゲバ団長とはいえ、そこまでして金を集めるか…いや、しかしあの団長どのならやりかねんかも…でもさ、ゼシカ。いくら看板なんて大げさなモンとはいえ、一人もイケメンがいなかったら巡礼のコだって怒るだろ?オレが騎士になる前だったら、いったい誰が想定された“イケメン”なのさ?言っとくけど、あの団長どのは自分で自分を“イケメン”とは言わないぞ!?いくらなんでも。」

「うーん…この説はソコがネックなのよねー」


ククールとゼシカは二人して頭を抱えこんだのじゃ。




いやあ…まったくアホな討論じゃったが、この旅が幸いにも一人の死者もなしに終わったときには、こんな会話こそ得がたい宝のような思い出になっておるのかもしれん。


うんうんうん

頷くワシに、大きなカゲが差し込んだ。




見上げると…





「魔物じゃあーっ!!!!」


ワシが叫ぶと同時に、ゼシカの放った火球が、とうにその魔物に命中しておった。



「もうっ、トロデ王ってば反応が遅いわよ。」

「何をっ…」

反論しようとしたワシの横を、風のようなレイピアの一閃が駆け抜けた。

「ま、カエルだから仕方ないさ、許してあげなよハニー。」


ううむ、言われ方はムカつくが、アレだけアホな会話をしていても魔物の気配を察知していたとは、こやつらは真の冒険者じゃ。


「トロデ王、お怪我は?」

そして、我が忠実な従者のエイタスが、剣を手にして馬車を降りてくる。


「アニキ、オッサンは頼んだでガス。」




…ふうむ、やっぱり我が従者どもは、いろいろ無礼じゃが、頼りにはなるかもしれんわい。


ワシは、大軍を叱咤するように、叫んだ。

「ゆけい、我が従者たちよっ!!邪悪な魔物を蹴散らすのじゃっ!!」


「誰が従者だっっ!!」×3

返ってきたのは、そんな三者ハモった声と、エイタスの苦笑じゃった。









サヴェッラにて。


「あーあ…また『イケメン揃いの聖堂騎士』の話をされたよ。俺がイケメンじゃないって、そりゃ大きなお世話だ。」

聖堂騎士の一人がぼやく。


「へへっ悪ィな。オレみてーな“イケメン”が隣にいたからよ。」

聖堂騎士の制服が微妙に不似合いな騎士が、返す。

かく言うその男も、かなりチンピラ臭いその容姿は“イケメン”というのが憚られる。


「ま、それはともかくとして。」

「なんだよ、オレ、イケメンじゃん?」

不服そうな同僚の発言を軽く流して、聖堂騎士は続けた。


「あの迷惑なウワサはどこから流れたんだろう。我々聖堂騎士は、剣を以って女神に仕える身だから、容姿は評価には関係ないのに。」

そうして、日々の激務に加えての不愉快な言葉を思い出し、軽くため息をついたのだった。










十数年ほど昔。

サヴェッラの、いと高き法王の館において。



「まあーったく、オディロの阿呆めが。」

いと高き法王聖下は、慈愛深いはずのその身に相応しからぬ口調で、三大聖地の一つ、マイエラの、大修道院長猊下を“阿呆”呼ばわりした。


「あのジジバカめ。マルチェロ、マルチェロ言い過ぎじゃ。もう二十歳にもならんとする聖堂騎士を捕まえて

『あの子は本当に可愛い可愛い』

と来たモンじゃ…いい加減にせんかいっ!!」


ぶつぶつ

いとも畏き法王の愚痴を、黙って聞いていた法王主席秘書官のニノ司教は、慇懃な口調で返した。


「しかしまあ聖下、オディロ猊下の御年から考えましたら、そのマルチェロとかいう聖堂騎士など、頑是無い幼児のようなもの。

『可愛い』

と言ってしまっても仕方ありますまい。」


「そうではあるが、ニノよ。仮にも“神の剣”聖堂騎士じゃぞ?

『褒めるなら“エリートで腕が立って学問もある”と言わんかい!!』

とワシが法王として、公正たるよう求めたらじゃのう。何を勘違いしたのかバカジジイめ。

『おお、もちろん、聖堂騎士たちはみんなワシの息子か孫のようなものじゃ。みんなもちろん可愛いものじゃぞ。みんなとても頑張り屋さんじゃからの。“エリートで腕が立って学問もあり、しかも可愛い”』

と来たもんじゃっ!!あやつは聖堂騎士団を、幼稚園かなにかと勘違いしとるっ!!」









法王主席秘書官のニノ司教はその職務を全うすると、まだ三十路ながら既に中年太りの兆候の有る体躯で、階段を下った。


「あら、ニノ司教さま。なんだかお疲れのご様子。」

代々このサヴェッラに仕える、高位聖職者など見慣れた侍女が、気さくとも無礼ともつかない口調で声をかける。


ニノは、侍女の毎度の口調を咎めるのは面倒だったが、くさくさした気分を誰かに話しておくのも悪くはないと考え、彼女に話した。



「知っておるか?」

「は?何がでしょう?」

「マイエラの聖堂騎士はの、“エリートで腕が立って学問もあり、しかもかわいい”のじゃぞ?」

「?」


さらりと立ち去ったニノ司教を見送り、侍女は、幾度か目にした、小山のような聖堂騎士たちを脳裏に思い浮かべ、そして司教が口にした“かわいい”という単語との不似合いから、その言葉を脳内で“かっこいい”に変換し、理解した。




そして、しばらくして。

新しい聖堂騎士団長が就任の挨拶に来ることになり、新米の侍女が彼女に、聖堂騎士とはどのような者たちかと問うた時、彼女は答えたのだった。


「エリートで腕が立って学問もあり、しかもカッコいいのよ。」

新米の侍女は、若い娘らしく目を輝かせ、こう返したのだった。



「強くて頭もよくてエリートでしかも超イケメンぞろいなんですね、ステキっ!!」




かくして、ここに一つ、無垢にして迷惑な誤解が誕生し、噂となって広まったのであった。








2008/5/4




DQ8ブレイヤーの、誰もが一度はツッコんだはずの船着場の娘のあの一言
「イケメン揃いの聖堂騎士団」
いざ行ってみると、そりゃ中身はナイスバディだろうが、むさ苦しい男の園…ホント、船着場なんてマイエラのすぐ目と鼻の先なのに、どうしてあの彼女はあんな無責任な噂を丸呑みしてるんだか。

しかし、いささかホストクラブめいた所ではあるので、実のところマルチェロ団長御自らが、ハッピを着た兄ちゃん宜しく
「いいコばっかだよ、いいコ」
って、言い歩いてるのかもしれない。

そんなマルチェロは嫌だっ!!




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