「そんな、ひどい」
駆け落ち相手に前フリ無しという、史上空前の駆け落ちを企てたミーティア姫は、事のあまりの重大さと突然さに、さすがに即座に駆け落ちに
「はい」
とは言いかねたエイタスにそう言って、彼の全ての反論を封じた。
まあ、こうなったら今さらどうしようもないワケで…あたしたちは、全力でチャゴス王子とミーティア姫の結婚式…になるはずだったサヴェッラ大聖堂の厳重な警備を斬り抜けた。
「はっはっは、こりゃ全世界を敵に回しちまった気分だな。」
ヤケみたいに明るく叫ぶククール。
「気分じゃなくて、敵に回したんでガショう。」
意外と冷静なヤンガス。
「いやいや、たとえ全世界に女神さまにレティスに、竜神だって敵に回そうが、アッシはいつまでもアニキのお傍にありやすぜ。」
もちろん、そう付け加えることは忘れないけど。
「…ミーティア姫、その花嫁衣装、そろそろ脱ぐ?」
あたしの問いに、ミーティア姫はかぶりを振る。
「いいえ、もう少しだけ…」
エイタスに寄り添った彼女はとても幸せそうで、
そして
寄り添われたエイタスは嬉しそう…ではありながら、かなり複雑そうな顔をしていた。
そうよね。
いきなり駆け落ち告白だもんね。
せめてもうちょっと前に言っといてくれれば心の準備も出来たろうに、ぶっつけだものね。
そりゃ、いくら冷静なエイタスだって、困るわよね。
「はっはっは、ラブい新婚さんだな。ま、エイタスがいつものまんまのカッコってのがアレだけどよ。」
ククールは茶化すように言って、
「で、こっからどうするワケ?」
と、いきなり真顔になった。
「…」
沈黙。
誰も視線を上げない。
ククールが視線を一同に回すけど、みんな視線を下げっぱなし。
うん、どうすんだろ?
本当に、エラいことになっちゃった。
まあ、チャゴスはともかく、クラビウス王も大激怒でしょうね。
息子の結婚式、めちゃくちゃにされたんだもの。
いくら相手がチャゴスだったから、だとはいえ、フツーの親だったら怒るわよね。
しかもあの王さま、名君だけどスゴい親バカだし。
ククールが、意地悪そうな顔をする。
「なんだよ、誰も先のコト考えてねーの?じゃ、オレが教えてやろーか?いっちばん“無難“に物事を解決する方法ってヤツ。」
知ってる。
ククールがこんな表情してなんか言う時って、ド級の皮肉ブチかましたい時なのよ。
ったく、どっかの誰かとやっぱり兄弟なんだから、ムカつく。
「ほう、それはぜひ教えて欲しいでガス、ね、アニキ。」
なのにヤンガスが、人を疑う事を知らない目をして聞く。
エイタスが返答につまって、苦笑を浮かべる。
「じゃあ、教えて…」
「ミーティアは知っていますわ、その“無難”な解決方法を。」
いっちばん意外な人が声をあげた。
「…へえ…」
ククールは意外そうな顔をしたけど、それでもまた意地悪そうな微笑みを浮かべて聞く。
「じゃあ、我らが麗しの姫君。ぜひぜひ我らにその神のごときお知恵をご下賜たまわりたく。」
と、ヘンに気取って言う。
「あら、とても簡単なことですわ。駆け落ちではなく、エイタスに誘拐されたことにすれば良いのです。」
あたしは唖然とした。
「そうすれば事の後始末はとてもカンタンかつ無難ですわ。ミーティアは被害者ですもの。“犯人”を突き出せばよいのです、生きてか、死んでか、どちらかで。」
そしてミーティアはにっこり笑い
「ね、エイタス?」
と、朗らかな声で呼びかけた。
えげつな
言い出した当人のククールでさえ、そんな表情を浮かべたまま硬直した。
ククールが同じことを言ったんだったら間違いなく、その場で斧を振り上げたはずのヤンガスでさえ、何と言って良いか困り切ったまま、凍りついてた。
そして、エイタスは。
困った微笑みのまま、完全に時間ごと、止まっていた。
「…そんな、ひどい。」
長すぎる硬直は、エイタスのその一言でようやく破られた。
「あんまりな解決方法ですよ、姫ー。」
でも、エイタスの口調がとても明るかったので、みんなはようやく反応を取り戻し、口ぐちに笑った。
「だよなー、かなりキツいネタだよな。」
「そーそー、あたし本気で想像しちゃったわよー。」
「ははは…ホントでガス…」
でも、ヤンガスだけがけっこう本気でぷるぷると怒りを堪えていたのは、みんな気付かないフリで流す。
「あら。でも“一番無難な方法”はきっとそれですことよ。」
ミーティアは無邪気な…でも真顔で、人差指をその華奢なあごにあてて言う。
正直、あたしはひやひやした。
「無難とおっしゃるから、みなさま、無難に済ませたいのかと思いましたのに。」
あたしのひやひやが、結構本気で冷や汗になりつつあった(だってヤンガスはかなり本気でミーティアに怒りを向けてたもの)ところで、
「つかさ、もう無難とかで済むレベルじゃねーだろ。満場の元で駆け落ちだぜっ!?」
とうとうククールが、真面目にマトモに怒り出した。
うん、知ってる。
こいつ、ヘンなトコで意外とモラリストなのよね。
「ええ、存じておりますわ。」
ミーティアの春風のように微笑んで、さらりとククールの怒りを受け流した。
「ですから、難はたくさんあっても“みんなが幸せになれる方法“を考えようと思います。」
「…」
あ、ククールが黙らされた。
「でも、どうやって?」
ミーティアは、澄んだ泉のような瞳であたしを見て、
「ミーティアたちは、サザンビークの方々のことをたくさん存じ上げていますことよ。」
と、邪気無く微笑んだ。
「キョーカツ、キた。」
ククールは小さく呟き、
「どっかの誰かみてー。うわ、緑の目の奴はみんなそーなのか?」
と、更に小さく付け加えた。
「ミーティアは、みんなが幸せになれることを望みますけれど…でも、」
そして、白い手袋をはめた両手で、エイタスの頬を挟んだ。
「世界中の誰よりももっと、エイタスに幸せでいて欲しいのです。」
ほう
溜息が聞こえた。
ヤンガスのだった。
「…僕の幸せは…」
エイタスはミーティアの手を取った。
「いつでも君と共にあるよ、ミーティア。」
うん、
うん
うん
カッコいいっ!!!
「じゃ、姫サマ、“難の多い“道を歩んで行きますかっ。」
ククールが言う。
「そうよ、みんながいるんだから何とかなるわよ。ね、姫さま?」
あたしも言う。
「アニキの幸せの為なら何だってしやすぜ、姫さん。」
ヤンガスが、少しクセのある言い方で言う。
「まあ、皆さん。ミーティアとお呼びくだされば幸いですわ。ね、エイタス?」
エイタスはようやく、いつものように微笑んだ。
うん、彼は彼なりに、心に整理をつけてたんだと思うわ。
「じゃあみんな、ミーティアの、悪鬼羅刹も怖気を振るう修羅の道へのご同道を、このエイタスと共にお願いいたします。」
そして、大げさにお芝居みたいにお辞儀をする。
「アッシらが通った道は屍が山と積まれてもっ!!」
「血池山河が残るだけでもっ!!」
「万民に恐怖と絶望を振りまくことになってもっ!!」
ミーティアはあたしたちの言葉を聞いて、ちょっとスネた。
「そんな、ひどい。」
でも、すぐに弾けるような笑顔になったのだった。
終
2009/6/13
一言要約「メテオストライク」
ミーティアの名前の由来はメテオらしいですが、拙サイトの彼女の破壊力がどんどん増してて書いてて怖いです。
最強で最凶の女王として、この地上に破壊の爪痕を残さないかと気がかりです…やっぱ、悪魔の目は緑色ってのが…(ブツブツ)
拙サイトの主人公がマルチェロとも意外と上手く付き合えそうなのは、彼が「人を立てる」のが上手だからじゃないかな、と思います。
ワガママなトロデ王も上手いこと丸めこめる彼の事、「女性統治者の配偶者」という難しい役どころも巧いことこなす彼の事、あの傍若無人なマルチェロのサポートだって出来るうえに、うまくすると手綱だってとれるかもしれません(基本立てるけど、暴走しそうになったら制御するという形で)。
ククール「という訳で、オレと一緒に聖堂騎士にならないかっ!?」
エイタス「いや、僕もう就職決まってるから。」
ククール「そこを何とかっ!!」
とか。
いやでもね、通常EDのあの駆け落ちは、彼だってかなりビビったと思うよ?人生どころか、政情を動かす大事件なのに、前フリナシの拒否不可だもん。18歳には重すぎる選択肢だよね…
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