ゆうしゃってなんだろう

元拍手話。
竜神王サマが書いてみたかったので書きました。












「こんにちは、竜神王さま。」

にこやかにほほ笑む赤いバンダナの青年を見て、竜神王は端麗な面持ちにわずかに疑問の色を浮かべた。


「我が試練を受けにきたか?エイタスよ。」

エイタスは、困った顔になる。


「一人でですか?」

竜神王が見れば、確かにいつもは行動を共にしている仲間たちは誰一人いない。


「勇者なれば、そのような行動もあろう。」

その言葉は涼やかな面持ちで発せされたので、どういう意図をもってのものか、エイタスにもよく分らなかった。




「遊びに来たんです。いいですよね、たまには。」

そしてエイタスは、バスケットを取り出した。


「チーズもらったんで、サンドイッチにしたんです。食べません?」

ひどくにこやかに、エイタスは勧めた。




勧められたサンドイッチを手に取りながらも、竜神王は露骨に困惑の表情になった。


「中身はチーズ以外にもいくつかありますけど。」

竜神王はしかし、そのまま。


「サンドイッチお嫌いですか?」

「…食したことがない。」

「…」

エイタスは、すこし沈黙し、


「美味しいですよ、なにせ、僕の手作りだから。」

と、満面の笑顔で断言した。




もきゅもきゅ

と、ひどくかみしめるような表情でサンドイッチを口にする竜神王。


「…どうです?」

「…」

「美味しくないですか?」

「…」

「コメントだけでももらえないと、不安なんですけど。」

「…今まで経験したことのない触感だ。」

「…」

エイタスは「サンドイッチにそんな感想を述べる人を初めて見た」と言いたげな顔をした。


「サンドイッチをそんなに珍しがられるなんて…竜神王さまって、普段は何を食べてるんですか?」

「さて、若いころは様々なものを食したが、今となっては、かような珍奇なものも含め、ほとんど食さずとも生きていられる。」

「サンドイッチって、そんなに珍しいですか?」

竜神王は、表情をほとんど動かさずに、


「少なくとも、勇者の手作り料理など、地上の人の子の世界でも珍しかろう。」

と言った。




「…その『勇者』っていうの、良く分らないんです。」

エイタスは唐突に言った。


「なんだか分らないうちに、僕はその『勇者』っていうのにされちゃってるんです。なんなんでしょうね、『勇者』。最初はドルマゲスとの戦いの時に、茨の呪いが効かなかったコト…まあ、元をただせばトロデーンで一人だけ無事だったってのもあるんですけど。なんかそれから、『勇者』とか言いだす人が出てきて、増えてきて…。何だか僕が読んだ冒険譚ではだいたい、『勇者』って、なんか特別な運命に選ばれたりしているわけなんですけど、僕はただのトロデーンの兵士なんですよ。…って言ってたら、この里に来て、父はサザンビークの王子さまで、母はこの里の人でって分かって。なんか…みんなも

『やっぱり』

とか言うんです。言うんですけど…でもなんかおかしいですよね?この世に王子さまだの王族だのは、たくさんとまでは言わなくても幾人もいる訳だし、この里の人はみんな竜神族です。そして、茨の呪いが効かなかったのは、単に忘却の呪いがかけられていただけで。」

エイタスは竜神王の長身を見上げた。


「一つ一つ考えたら、そりゃ珍しくはあるかもしれないけれど、特に何の特別もないのに、ね。」




「遊びにきた、とは即ち、相談の事だったか、エイタスよ。」

「…平たく言うと、そうかもしれません。竜神王さまっていう、僕の知っている中で一番『選ばれた』に近い方だったら、答えてくれるかな、と。」


「竜神族と人の子との混血は、強靭な力を生みだすようだ。」

竜神王はひどく簡潔に答えた。


「人の子は、その力を『選ばれた』と表現したいのだろう。」

さらに簡潔に結論を述べる。


「…あんまり、僕の疑問への答えじゃないですね。」

竜神王はわずかに心外そうな面持ちになる。

「これ以上ないほど簡潔にして明快な回答であったが?」

「うーんなんて言うか…その…」

エイタスは、心外そうな顔のまま、言葉を濁した。




「なるほど、慰めを欲したか。ならばそう言え。」

「…肯定しかねるお言葉ですね。でも…まあそうです。なんか僕、自分が良く分らないっていうか…リーダーとして自分なりにがんばって来たのに、自分とはまるで関係ないことで感心されたりして、ちょっと心外って言うか…やっぱり良く分りませんけど、ちょっとみんなと喋りたくないんです。」

竜神王は、無表情に頷いた。


「選ばれたという言葉に頷きかねるなら、『勇者』という言葉を単に『勇気ある者』と解せば良い。」

「勇気…勇気あるかな、僕。」

ひどく後ろ向きなエイタス。


「人の子が何を勇気の誉れとするかは定かには知らぬが、少なくとも汝の父エルトリオは『勇者』であったろう。人の子が超え得ぬはずのあの道を越えて参ったのだからな。」

「…」




「…今さら恨みつらみは言いませんけど…」

そう言いつつも、少し恨みがましいエイタスに、


「人の子との恋は許されぬ。ウィニアを連れ戻すが良いか、との進言に、応と答えたは我よ。そして、頑是ない幼子の記憶を奪って地上に追放するが良いか、との進言に、応と答えたも、我よ。好きなだけ恨むが良い。」

竜神王は表情も変えずに答える。


「恨めと言われても、恨めませんよ。」

「グルーノは後悔していたが、我は判断を誤っていたとは思っておらぬ。思ってはおらぬが、また、汝の父エルトリオの行動は『勇者』に値するとも思っておる。」

竜神王は問う。


「エイタスよ、汝は汝の父の行動を否とするか?」

「いいえ。僕は、結局それが報われなかったにせよ、命がけで母を愛した父の行動は、誇りに思います。」




「ふむ。」

竜神王は頷く。


「ならば、汝もまた『勇者』を名乗ってよかろう。」

エイタスは不思議そうな表情になる。


「なんでそういう結論になるんですか?」

竜神王は、更に不思議そうな面持ちになった。


「数奇な定めに引き裂かれた恋人の為に命を賭けている、という点では、エルトリオも汝も変わるまい。エルトリオが『勇者』に値するなら、汝もまた『勇者』に値しよう。」

「…」

エイタスは少しため息をついた。


「…けど、好きな人のために命をかけられる人間は、きっとたくさんいますよ。」

「ならば、それらすべてが『勇者』で良かろう。何かこの世に独りでなければならぬ理由があるか?」

「ああ…」

エイタスは大きくため息をついた。









「ですよねー。」

エイタスは、にっこりほほえんだ。


「いいですよね、たくさんいて。僕、なんか微妙に思いあがってましたね、多分。」

「ほう、我の慰めは効いたか。それは重畳。」

「なんか、そこまで露骨に言われると素直に頷きかねます。」

「では、なんと言って欲しいのだ?汝の欲する言葉を言うが?」

「…もういいです、けっこう元気出ましたから。」

エイタスは、バスケットに残ったサンドイッチのうち、一つを竜神王に差し出し、もう一つをぱくついた。


「もう帰ります。」

「もう帰るのか。」

竜神王は、それとだけ言って、サンドイッチを口にした。




「次は試練を受けにくるか?」

「はい、剣が欲しいので。」

「では来い…サンドイッチを持ってな。」

「気にいってもらえたんですか、僕の手料理。」

「生まれて初めて食したが…不味くはない。」

「また微妙な褒め言葉ですね。」

「次は美味に感じるやもしれん。」

「…持ってくるのはいいんですけど、試練の前に食べるんですか?後ですか?」

「前後で味が変わるのか?」

「いや、変わりませんけど…はいはい、分かりました。美味しいチーズサンドをメインに、腕をふるいます。」

「ふむ、期待している。…そして、汝の命をかけるに値する者にもよろしくな。」

「また唐突に…」

エイタスの言葉に、竜神王は天を指した。


「唐突ではない。今日は引き裂かれた恋人たちの夜なのだ。」

指した先には、うっすらと乳のような川が悠久の空を流れていた。








2009/7/27




実は七夕話が書きたかったのに、竜神王さまが出てきて勇者とかエイタスが言い始めたので、コンセプトが変わってしまってラストがとってつけた感じになったけど、 テーマは愛

DQ8の主人公は、選ばれた感がものすごく薄い主人公ですよね(呪いが効かないってことしかない)出生の秘密も通常ストーリーでは分からないし、勇者スキル所持のただの男の子って感じがします。
でもだからこそ、ひとりの男の子としてミーティアと駆け落ちする通常EDが好きです。(ミーティアに強引に駆け落ちをせがまれたという見方もできますが)
そして、一人の男の子としてマルチェロに対峙できる彼がとても好きです。ククールへの気持は憎悪でゆがんでしまってますが、マルチェロが主人公をどう評価しているか聞きたかったなあ…

さて。ペル4の柳崎瑛汰くんとエイタスくんは微妙にリンクしているのですが、向こうを書いてこっちも書くと、主人公の口調がごっちゃになって困ります。向こうは敬語が基本ですが、かなり慇懃無礼な敬語なのでこちらのピュアなエイタスには真似させたくないと思いつつ、わりとなれなれしい感じになっちゃったような気が…

と言いつつ、向こうの瑛汰の友だちとの会話口調も、エイタスにひきずられて、男子高校生ととしては柔らかすぎるかな?

キャラのかき分けは難しいです。






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