兄貴と祈りの奇跡との微妙な不整合について
前略、聖堂騎士団員トマーゾは、剣技に長けているのはもちろん、学問もバツグン、顔も良い上に、聖堂騎士なのに魔法に長けているマルチェロに、同じ年ながら尊敬の念を抱いていた。
トマーゾ「しかし、なのにまだあいつ、なんか修行とか行ってどっか行っちゃったしな…一体あれ以上、なにを修行する必要がある…うわっ!!マルチェロ!?その返り血はなに?」
マルチェロ「(不愉快そうに眉間に皺を寄せながら)ベホイミが習得出来ん…何故だ!?ザラキはあれほど容易に習得出来たと言うにっ!!」
トマーゾ「まあいいから(と雑巾を取って来て)その服の返り血を取れよ。つか、むしろ風呂に入って来い。洗濯は俺がしておくから…」
マルチェロ「なぜだ!?まだ私の修練が足りんというのか?魔物の百匹斬りではまだ足りぬと、女神よ、貴女はそう思し召しか!?」
トマーゾ「…どうしてベホイミを習得するのに、魔物を殺戮する必要があるんだ?」
なーんて言ってるうちに、修道院に怪我人が運び込まれてくる。どうやら仕事中に魔物に襲われた樵らしい。
たまたま回復呪文を唱えられる他のお坊さんは出払い中。
トマーゾ「大変だ、呪文を唱えて回復させないと(と駆け寄る)」
うんうん唸る樵の横で、心配そうにその手を握るその妻と子。
トマーゾ「奥さん、お嬢ちゃん、心配しないで下さい。女神様は慈悲深い方。きっと治りますよ(笑顔で)いと高き、いと畏き、いと慈悲深き女神よ。貴女の愛し子の一人が、今、傷の痛みに苦しみ、そして、その妻と子も心配に心を痛めております。どうか、どうかそのお慈悲を以て、彼の者に癒しの奇跡を給いたまえっ!!」
ぱあああっというホイミよりなお強い、優しい光と共に、樵の傷は塞がった。
樵の妻「ああっ、騎士さまっ!!」
樵の娘「お父さん、お父さんが治ったっ!!」
樵「騎士さま…貴方のおかげですっ!!」
トマーゾ「いえ、全ては女神の御慈悲の故です。」
樵一家は、何度も礼を言いつつ、去っていった。
トマーゾ「(爽やかに清々しい気持ちで)まさか俺にベホイミが使えるなんて…やはり、
回復呪文は小さな奇跡。女神を信じる力と、家族の必死の祈りが、俺に更に強い力を
…うわっ!!(ものすごい負の眼力を受けて、思わずすくみあがる)」
マルチェロ「…(ものすごい眼力を発しながら)」
トマーゾ「(1ターンが経過したので元に戻り)マルチェロ?」
マルチェロ「
私より先に
ベホイミが使えるようになって、そんなに嬉しいか?」
トマーゾ「え…?いや、別にそういう事じゃなくて…」
マルチェロ「(トマーゾの言葉を遮り)要らぬっ!!私にお為ごかし等不要だっ!!分かっているぞ、トマーゾっ!!貴様は私を憐れみ、そして密かな軽蔑の念すら抱いているに違いないっ!!自分が易々と会得したベホイミを、私がまだ使えんとなっ!!」
トマーゾ「いや、俺、まったくそんな事は…」
マルチェロ「(聞いてない)ふふふふふ…女神よ、貴女が私に奇跡を示されぬのは、私が悪魔の子だからか!?メイドの庶子に過ぎないからかっ!?」
トマーゾ「あの、そんなこと言ったら、俺もそうなんだけど…」
マルチェロ「(まるで聞く耳持たない)ふふふふふ…血が、生まれが、それほど尊いか…だがっ!!そのようなものに屈する私ではないっ!!トマーゾっ!!」
トマーゾ「はい!?」
マルチェロ「今回は貴様に一歩先んじる事を許したがなっ!!私がこの程度で負けを認めると思うなよっ!!
私は必ずベホイミを習得してみせるっ!!(と、返り血をそのままにして走り去る)」
トマーゾ「ねえ?俺はいつお前と勝負してたの?てゆーか、どこ行くんだ?マルチェロー、おーい!?」
そして一週間後。
全身を血に染めて
戻ってきたマルチェロは、
ベホイミが使えるようになっていた
んだってさ。
けど、マイエラ周辺ではしばらく、
いたるところで魔物の無残なしかばねを転がっている
のが見られたらしいよ。
オディロ院長は、マルチェロの無断失踪をとがめはしなかったけど、トマーゾを呼んでこう言ったんだってさ。
オディロ院長「のうトマーゾや。
マルチェロとこれからも仲良くしてあげて
くれんかのう?」
トマーゾ「…」
トマーゾはカナーリ本気で断りたかったけど、でも、はい、とうなずいて、 それきりベホマの習得は断念したんだってさ。
教訓「目的達成のための手段が間違っていたとしても、強固な信念と精神力と行動力と能力さえあれば、なぜだか目的は達成されてしまう。」
2008/9/15 罪のない魔物たちの冥福をいのりましょう。