ふんぎり




ドルマゲス討伐前夜の甘酸っぱい主ゼシ話。











「結婚するなら、ぜったいにサーベルト兄さん。他の人なんてぜったいイヤっ!!」

そう言い続けてきたあたしだけど、


「ん、でも、エイタスならまあいいかな。」

って"素直なあたし"なら答えると思うんだ。




あたしの大好きなサーベルト兄さんは、もう女神さまのお膝元に行ってしまってこの世にいない。

ううん、この世にいたとしても一緒よ、きょうだいは結婚できないもの。


だから…






「さて、ドルマゲスとの死闘の前に、君の素直な意見をきいておきたい。“この世界で”君がいっちばん“良い男”だと思うのは誰だい、ゼシカ。」

ククールの問いに


「エイタスにきまってるじゃないっ!」

ってつい勢いづいて答えちゃって、そして気まずくなって、あたしは逃げ出してきのだ。





だって、エイタスのことが好きかと問われたら、きっと"素直なあたし"は


「好き」


と、頬を赤らめて答えると思うんだ。




エイタスとは同い年だけど、あたしよりよっぽどオトナで、頼りがいがあって、でも優しくて、気配り上手で、




そして誠実なんだ。










エイタスは、森の中の泉で、ミーティア姫を優しく洗う。

人間の姿をした彼女にはこの間、会った。

ほんの少し呪いが解けた、ほんの少しの時間だったけれど、とてもきれいな女の子。




エイタスは、優しく彼女に声をかける。

彼女は声は出せないけれど、でも、エイタスの目で分かる。

目と目だけで会話できるくらい、二人はとっても"そういう仲"なのだ。




「あ、ゼシカ。」

エイタスがあたしに気付いて声をかける。


「何か用?」

あたしは「ううん」と言おうとして、でもやっぱり


「うん、ちょっとね。いい?」

と言ってみる。


「いいよ。」

エイタスがそう言うと、ミーティア姫は自分から気を利かせて、先にみんなの所へと戻った。




あたしは泉のほとりに腰かける。

エイタスも並んで腰かけた。




「あのね、明日、ドルマゲスと戦いにいく訳じゃない?」

「うん。」

「…不安に思わない?」

エイタスは、黒い瞳で頷く。


「不安だよ。」

エイタスはこんな時に強がらないから好き。


「…だよねっ。」

あたしは強がっちゃうから、こんな風に言ってくれないと、自分の気持ちを肯定出来ない。


「うん、準備は万端なのよ。MPだって満タンだし、カラダの調子もバッチリ。気力も十分よ、兄さんのカタキなんだから、ドルマゲスなんてギッタギタに…」

「頼もしいなあ、ゼシカ。」

でもやっぱり強がっちゃうあたしを、きちんと肯定してくれるエイタスが好き。




サーベルト兄さんも、きっとこんな時はこんな風に言ってくれるだろうから、好き。




「…エイタス、怖くない?」

「いろいろ怖いけど、何が?」

「…ドルマゲスを倒せたとするわね…いえ、絶対倒すんだけどっ!!…その後。」

あたしは力を込めてエイタスを見つめる。




「ドルマゲスを倒したら呪いが解けるって…解けるって本当かって思うと…怖くない?」

エイタスはうつむいて、黒い瞳をぱちぱちさせた。


言葉を選んでる。


だからあたしは待つ。




「解けるよ。」

エイタスは笑顔で言った。


あたしはそんなエイタスの笑顔が好きだけど、でもあまのじゃくだからこう言っちゃう。




「でも、解けないかもしれないんでしょ?解けるって保証はないんでしょ?」

「ドルマゲスを倒しても解けないかもしれないけれど、でも、きっと解けるよ。」


そう、その言葉に根拠なんてない。

けど、なぜか信じさせちゃうエイタスが好き。



「じゃ、解けなかったと仮定するわね。トロデ王も、ミーティア姫もあのまんま。それでもエイタスは…」

「ずっと傍にいるよ。」


あたしに最後まで言わせず、エイタスは断言した。



「魔物の姿でも、馬の姿でも、僕はあの二人が大好きだから、永遠に呪いが解けないって言われても、ずっと傍にいるよ。」

「…」




エイタスは知ってるのかな?

あたしの気持ち。




「あのね、ゼシカ。こんな昔話知ってる?むかしむかしあるところに、とても美しいお姫さまがいました。そして、お姫さまにプロポーズしている熱心な2人がいましたが、ある時、お姫さまは魔女の呪いで顔がめちゃめちゃになってしまいました。1人はすぐさまお姫さまを見捨てて別のお姫さまに乗り換えましたが、もう1人はお姫さまに、それでも愛していると言い続け、心からの献身を捧げました。」


エイタスは、あたしに問う。




「君は、お姫さまを見捨てる男が好き?献身する男が好き?」

「献身する人に決まってるじゃない。てか、あたしがお姫さまでなくても、見捨てる男は燃やすわ。」

「燃やさなくてもいいと思うんだ。」


エイタスは賢いから、あたしの気持ちなんてとうに知ってたんだろうな。

エイタスは優しいから、でも正面きってあたしの気持ちを否定することはしないんだろうな。




うん、好きよ。

そういうところ好き。


胸が苦しくなるくらい、好き。




「あたしがそのお話の続きをつけてあげるわ。」

あたしはにっこり笑う。

だいじょうぶ、あたしは強い子、だから笑える。





「心から愛し合う恋人たちに感激した女神さまは、奇跡を起こしました。そしてお姫さまは前と同じくらい、いえ、前よりもっと美しい姿になりました。それは、青年がお姫さまに捧げた愛ほどの美しさだったのです。そして2人は、心から愛し合ったまま、いつまでも、いつまでも幸せに暮らしました…」 「さすがゼシカ。とってもいい話だね。」




エイタスは褒めてくれた。

サーベルト兄さんみたいに。









「さて、オレが更にそのお話の続きを教えてあげようか。」

エイタスから逃げ去ったあたしに、ククールが声をかけた。


「…何よ。」

涙声になりそうな声を、不機嫌な声で隠す。


「お姫さまに献身した青年には、別のお姫さまも思いを寄せていました。ああ、素直じゃないけど、呪われたお姫さまと同じくらいチャーミングな、赤毛のお姫さまです。」

「…」

あたしはにらんでやったのに、ククールは涼しい顔だ。




「赤毛のお姫さまは青年が好きでしたが、何より、青年のお姫様への献身と誠実さが好きでした。だから、2人の幸せを祝福しました。」

「…」


「で、まあ、赤毛のお姫さまはそこでようやく気付きました。とおっても美形で、まるで女神さまのような銀髪の王子さまが、お姫さまに思いを寄せていたことに。」


ククールは、ウインクした。




「さて、その王子さまはどこにいるでしょう。」

「知らないわよっ!!」


あたしは怒鳴ったのに、ククールは涼しい顔で続けた。



「失恋したばっかの今は気付けなくても仕方ないね。ま、ドルマゲスのおじさんをブッ倒した時に冷静になって観察してごらんよ。その死闘の中、常に君を守り、そして癒した、献身的で誠実な青年よりよっぽどいい男がいるはずだからさ。」




ああ、もう、ウザい。

変にめざとくて、おせっかいで、ずうずうしい。




「守ってくんなんても平気よ。あたし強いんだからっ!!ぜったい、平気よっ!!ドルマゲスなんて小指でっ!!」


ひゅー

ククールは口笛を吹いた。


「ゼシカ怖ぇー。マジ怖ぇー。」


大げさで、変に子どもじみてて。


「ククールなんかキライっ!!」

あたしが叫ぶと、ククールはいきなりしょんぼりした。


「…」

でも謝ってやるのもシャクだから、あたしはその場を立ち去ろうとする。




通りすがり際、ククールは聞えよがしに、呟いた。




「嫌い嫌い…」

「…」


「も、好きのうち。」




あーもうっ!!

ドルマゲスを倒して、サーベルト兄さんのカタキを討って、気分一新したとしても




ぜったい、ククールだけは好きになんないっ!!!!







2009/5/23




一言要約「嫌い嫌いも好きのうち」

主人公に対する愛情が燃え上がってきたので、「主×( )」を書きたい気分なのです。
なので主ゼシ。先にクク主も(ヤン主も)書いたし、このまま網羅していきたい気分もしますが、たぶんここまでです。

ゲームのゼシカもかなり主人公が(少なくとも途中までは)気になっていると思います。まあ、ミーティアと結ばれちゃう結末だけはいかんともしがたいので、失恋しちゃうんですけどね。
べにいもの考えでは、主人公に対する思いは「サーベルト兄さん大好き」の延長線上にあって、ククールへの思いはサーベルトへの思いを自分なりに整理した上にある、と考えています。だから、ドルマゲス戦直前のお話にしました。




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