「インネン」をつける




ククールと主人公、野宿で寝ずの番に当たり…

ククールが加入したばかりの頃のちょっとしたいさかい?





















「ったく、何なんだよ、お前。」

オレがそう言うと、エイタスは聞き返した。


「え、なにが?」

目をくりんとさせて問い返したその仕草がなおさら気に食わなくて、オレは言う。


「お前だよ、おーまーえ。」

そしてオレは指をつきつける。


「…僕?」

その声は、とうに声変わり済ませてるはずなのにどっか子どもじみてて高い。


いや、知ってる。

普段こいつは、たぶん意識して穏やかにやさしーく喋ろうとしてっから、こんな声になるんだ。

だから、魔物との戦いの時の声は別人みてーで、いっそドスがきいてるくれーだ。

分かってるけど、オレはエイタスにインネン付けずにはいられねー。




「ったく、マイエラでの一件の時は気付かなかったけどよ、お前、リーダーとして貫禄が足りてねーっての。」

「…はあ。」

怒りもせずに、首をかしげる。




ああ、張り合いねー。

あいつなら、もし面と向かってこんな事言いだす奴がいたら、抜き打ちに斬り倒すかもしんねーのに。




「でも、僕あんまりリーダーの自覚ないし。他にそれっぽい人がいないからやってるだけで。ああ、そうだね。僕が一番年下だしね、この中で。」

そして、小首をかしげたまま、オレに言う。


「じゃあククール、リーダーやる?」

「バァカっ!!」

オレが言い返すと、エイタスは困ったような顔になった。


「だぁれがこんなメンドくせーコトするかよ。」


分かってる。

オレのつけてるのはインネンだ。

何が気に食わないのか、自分でも分からない。




いやウソだ。

分かってる。

一番気に食わねーのは、本当は…




「だよね、面倒だよね、リーダーって。宿代からみんなの装備の配分まで雑用ばっかりだしね。でもまあ、してくれる人がいないと困るし、貫禄が足りないのはガマンしてよ。」

オレのインネンに対して受け流すばっかで、不愉快な顔すらしねーのがよりムカつく。




なんだよ、年下のクセに。

オレが一方的に噛みついてたら、オレのがガキみてーじゃねーか。




ムシされんのが一番ムカつく。

そのくれーなら、

殴られた方がいい。

罵られた方がいい。




オレは、エイタスの顔をつかんで引きよせる。

エイタスはさすがに驚いた顔をした。




「お前って、カワイイ顔してるよな。」

「…はあ?」


「お目めもぱっちりしてっしよ。スカートはいたら"カワイイ女の子"で通るぜ。ちょっと田舎くせーがな。」

ようやくエイタスは嫌な顔をした。


「嬉しくないなあ、それ。僕は男だよ。『かわいい』っていうのは女の子に対する褒め言葉であって…」

「おっ勃ちそうだ。」

「…」

オレの発言の意図を汲みかねた顔で、エイタスはオレを見上げた。




ぱちぱちとはぜる火に照らされた、黒い瞳。

赤いバンダナがアクセントになる黒い髪。

ああ畜生、黒髪ってのがなおさらヤなんだ。




「知らねーの?男相手だっておっ勃つし、そういうコトだって出来るんだぜ?修道院じゃ男ばっかだから珍しくもねーコトなんだ。やり方教えてやろーか?なぁに、寝ずの番で次の奴が起きてくるまではまだ時間があるんだしよ。オレもここんトコ、女とヤってねーんでタマってんだ。」




エイタスが怒ればいい。

オレを殴り倒そうとすりゃいい。


はたまた、いっそオレを軽蔑すりゃいい。


ともかく、「お前なんか失せろ」って言えばいいんだ。




そうすりゃオレだって、院長のかたき討ちとかいう名目も忘れて、あの辛気臭い修道院でもなく、ここでもない、どっかオレだけの場所を探しに行く踏ん切りってのがつくはずなんだ。




オレは思い切ってエイタスを押し伏せた。


「どうだい、キュートなリーダーどの?」

「…」

エイタスは一息ついた。


「おい、エイタス…」

だがエイタスは、オレを見ずに、視線をさらに上に向けた。



「とりあえず、その斧を下してくれないかな、ヤンガス。」

危ないから。


そうエイタスが言ったのを聞いて、オレはその態勢のまま上を向く。




鬼よりなお怖えーツラしたヤンガスが、一瞬でオレのドタマを潰せそうなほど大きく斧をふりかぶった態勢で、


じっ

とオレをにらみつけてた。




「…」

いくらオレだって、コトの重大さくらいは分かる。

エイタスから体をどけると、エイタスはにっこりほほ笑んだ。


「ね、ヤンガス?」

「…アニキのおおせなら、仕方ありやせんが?」

そして、オレにガンつけたまんま、しぶしぶといった手つきで斧を下した。




「まあ、落ち着こうよ。」

その台詞は、オレに言ったのか、ヤンガスに言ったのか分らねー。


「で、ヤンガス。まだ交代には早いのにどうしたの?」

「ションベンでガス。」

「じゃあ行っておいでよ。」

「アニキの危機を見て見ぬふりするくらいなら、ションベンくらい漏らしてやるでガス。」

「危機じゃないし、漏らさなくていいから、まあ。」

「アニキのおおせなら。」

そしてヤンガスは、またガキならションベンチビりそーなガン見してから、ダッシュで草の陰に消えた。









見つめ合う形。




「僕は君が好きだよ。」

唐突にエイタスは言った。

あんまり予想外の台詞に、オレは絶句する。


「そして、君と一緒に旅しているのがとても楽しいよ。」

「…」




何だよ、こいつ。

この言い方はなんだよ?

こんな言い方されたら、オレ、反論すら出来ねーじゃん。




「だから君も僕を好きでいてくれたら、とても嬉しい。」

「…」




あいつなら、絶対にこんな言い方しない。

絶対に。

あいつが反論を封殺するのは、いっつももっと冷たくて、突き放したようなやり方だ。




「頼りない、貫禄もないリーダーだけど、でもこれからもよろしくね。」




こんな風に、手なんて差し出しゃしねーよ。

手なんか差し出す気はこれっぽちもなかったのに、エイタスは強制的にオレの手をつかんで、握った。




とりあえずオレは「負けた」と心の底から思った。







ヤンガスが、ダッシュで戻ってくる。

そしてオレを見る。

エイタスがたしなめるように、ヤンガスを見てから、オレを見る。




オレは視線を避けるように、ヤンガスに言う。




「あーあ、ねみぃー。ヤンガス、代わってくれよ。オレ、眠くてたまんねーんだよ。ほらよ、オレのこの大理石のような美肌にゃ、睡眠不足が大敵なのさ。」 エイタスが頷いたからだろう、ヤンガスも頷いた。




オレがテントに潜り込むと、外から声がした。


「アニキ、アニキが一言『やれ』とおっしゃったなら、漢ヤンガス、一撃で二度と復活できないようにしてやったでヤス。」

まあまあ、とエイタスの声。


「アニキはただでさえかわいらしいお顔をなさっていらっしゃでガス。もし万が一のことがあっておムコに行けなくなっちまったら、アッシは…」

「…僕、そんなに男らしくない顔?」

ちょっとしょげたようなエイタスの声。


「ななな、そんなコトはアッシはまったく。花も実もあるアニキのこと、中身はまったく漢らしいにゃ違いねーでガスが、ただ、アニキの美ボーは、そう可憐な野の花のようだと、いやいや…」

フォローになってねーよ。


「ともかく、アニキがおムコに行けなくなったら、アッシは…だからアッシは、あの優男をさっさと…」

オイオイオイ

汗くせー男泣きが響いた。



「…まあ、大丈夫だよ。」

エイタスが宥める。


「しかし、アニキがおムコに…」

しつけーなあいつ、ネタひっぱり過ぎだっての。

それともアレか、ネタじゃねーのか?



「もし万が一、僕がおムコに行けなくなったら…」

「アッシが責任を取りやすっ!!」

何故か力いっぱいの断言が響いた。



なんでお前が責任とるんだよ、取るならオレだろーが。

オレは心の中でツッコみ、そしてなんだかおかしくなって、ゴロリと寝がえりをうった。











それから。


麗しのゼシカもいるし、この旅に特に不満はねえ。

ああ、エイタスにだって不満はねーよ。

いや、腕が立って、働き者で、そして気配り上手で、オレよりよっぼど“オトナ”な、サイコーのリーダーだよ。





「あー、こんなヘンピなトコにオレがいるなんて、まさに荒野に咲く一輪のバラだな。」

トロデーン近くの荒れ山でそう言ったら、トロデ王に「ワシの領土に何を言うか」と思いっきり怒鳴りつけられた。

ついでに、ゼシカにも「あたしの存在はどうなるの、あたしの存在はっ!」と文句を言われた。


なのに、ヤンガスだけは近くのログハウスをやたらと嬉しそうに覗き込みながら言うのだ。




「こんな、質素だが穏やかな所で暮らせたら良いでガショうなあ。暖っかけー暖炉にかかった鍋、温ったけー食事、そして、可愛いエプロンを着けたアニキがにっこり笑って

『ヤンガス、ご飯出来たよー』

って…」


「…」

さすがのエイタスも返答に詰まったらしく、「聞かなかったふり」でやり過ごそうとしたので、オレはエイタスの耳に囁いてやった。




「心配すんな。万が一、お前が"おムコにいけないカラダ"にされても、オレが責任とってやるよ。」

「ククール…」

エイタスは、真顔になった。




ぼかっ

かなりキョーレツな音がした。




「痛ってーっ!!」

オレは殴ったのがエイタスだと知って、なんだか嬉しくなって、ついでにゼシカに甘えた声で言ってみた。


「ゼシカー、エイタスが花のようなビボーのオレを殴ったー。」


「何があったかは知らないけど…」

「エイタスの兄貴に殴られるとは、アニキに殴られるような不埒をしたでガスなっ?畜生、許せねえっ!!」

「あー、もうっ!!たまには僕にもフツーに怒らせてよっ、ヤンガス!!」

「おおうっ!!アニキがアッシにお怒りの顔を向けていらっしゃるでガスっ!!なんでアニキの怒りを買ったのか解せねーでガスが、アニキがお怒りとありゃ、漢ヤンガス、この腹かっさばいてっ!!」

本気で怒りながら、それでもヤンガスを引きとめようとあたふたしてるエイタスの顔は、ようやく、オレより年下に見えた。






2009/5/22




一言感想「小学生男子の所業」

クク主にしたかったのに、これはもしかしてヤン主か?
しかし、ヤンガスってあんなに主人公にかなりヤバい愛情を示しているのに、ネット上でヤン主を見たことがないのは何故なんだろう?

エストマ部屋のとタイトルが一緒なのはわざとです。
向こうは(まあククールよりいい年こいてるけど)一応、年上に甘えてるけど、こっちは年下に甘えてるんだから始末に負えません。

拙サイトの(ゲーム本編では主人公心理が表れないので分かりませんが)主人公は、ものすごくオトナです。でもまあ、花も恥じらう年頃なんで、あんまり下ネタ連呼されると本気で怒ると思うんだ。




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