空と海と青春と恋する少年たち

元拍手話。
多分、パルミドでのイベントが終わってすぐあたりの、まだ微妙なククールと主人公の間でのお話。





















ゼシカが風邪をひいた。


「…だいじょうぶ…寝てれば治るから。…ゴメンね、迷惑かけて。」

髪といっしょの顔色をして、でも気丈にそういう彼女は、やっぱカワイイ。


「うん、ゆっくりしてなよ。1日や2日遅れたって別になんてことないんだから、心配しないで。」

エイタスはソツなく言う。


「…ありがと、エイタス。」

ゼシカの顔が赤いのは、熱のせいであって、照れたからじゃない。

照れたからじゃねーってのっ!!


「えっと、まず宿の人に言って桶とか借りなきゃね。えーっと、熱さまし熱さまし…あ、何か食べたいものある?」

テキパキと看病モードに入るエイタス。


「…一人で寝てるから…気を使わないで。」

「そんな、僕…」

「いいからっ!!」

ゼシカの語気が強くなった。




「ほーら、お姫さまは騎士さまの看病がお望みだってさ。」

オレはエイタスとゼシカの間に割って入る。


「さあハニー、この超絶美形のオレが寝る間も惜しんで看病して差し上げるぜ?」

「あんたは超要らない。」

あっさり拒絶された。


オレは、オレへの拒絶とエイタスへの拒絶の意味が違う事が分かる。

ウゼーけど。

ほらオレ、百戦錬磨だから。


「ホントいいから。そんなちっちゃい子じゃないんだから、一人で寝れるってば。エイタスも、ククールも、そんな気にしないで…」

エイタスが困った顔をする。

そしたら、ヤンガスが今度は割って入った。


「ご心配なく、エイタスの兄貴。ゼシカの看病はこのアッシが責任を持って務めるでガス。」

「いや、ホントいいって言うか…」

「何言ってんだ。ここはパルミドだぜ?女一人、しかも病人が寝てるなんて、危なっかしくて仕方がねえ。」

「…」

「それとも何か?俺が信用出来ねえってのか?冗談じゃねえ、ククールじゃあるめえし。」

「どーゆーイミだっ!?」

「うむ、ゼシカの危惧ももっともじゃ。よって、このワシも看病して進ぜよう。」

「…」

ゼシカは、熱でじゃなく顔をゆがめて、


「…お願いします、ヤンガス、トロデ王。」

と言った。








オレとエイタスとトロデ王は、ヤンガスから「信用できる」と言われた薬屋に行って、ゼシカの薬を買った。


「…ゼシカに要らないって言われちゃったな。」

エイタスが呟く。


「…別にお前は『要らない』なんて言われてねーじゃん」

オレが言うと、エイタスは困った笑顔になった。


「ま、仕方ないね。時間出来たから、ゼシカが治ったらすぐに出かけられるように準備に費やそう。えっと、まず必要なアイテムの買い出しと、それとお金もきちんとしとかないと。まだ時間があったら、剣と魔法の訓練しようかな。ククール、良ければ付き合って…」

「バカもんっ!!」

トロデ王が大口を開けて怒鳴った。


「えー…スイマセン、僕、なんか怒られること言いましたっけ?」

エイタスが驚いた顔をすると、トロデ王はもっぺん


「バカもんっ!!」

と怒鳴った後、


「いい若いモンが、休日に実用的なコトばっかするんじゃないわいっ!!」

と、続けた。


「…あの、イミが良く…」

「遊んで来んかいっ!!ええかっ!!」

トロデ王はいきなり道端の石ダタミに座り込むと、「青少年の成長に“心行くまで遊ぶ“という行為が如何に不可欠か」を切々と説き、


「ええかっ!!ちゃんと遊ばん子は、ロクな人間にならんのじゃぞっ!!」

とシメた。


その理屈でいくと、どっかの誰かはぜってー“ロクな人間”じゃねーんだろ。

ま、その通りだな、あの勤勉でムダのキライな団長ドノは、さ。



「だって、さ。せっかくご主君の許可が出たんだ、心行くまで遊ぼうぜ。あのショボいカジノでも、まあガマンしてさ。オレの華麗なカードさばきを今度こそ…」

「良い子はお外で遊ぶんじゃいっ!!」

今度はオレが一喝された。










そして、オレとエイタスは海辺にいる。


「まったく、トロデ王ってなんか僕のこと子どもだとか思ってるよねっ。」

そう言いながら、妙にワクワクした表情のエイタス。


「なんでそんな嬉しそーなんだ、エイタス?」

オレは問う。


「え、だって海だよ、海っ!!海キライ?ククール。」

エイタスは、暑苦しそーな(ま、人の事言えねーけど)上着とブーツを脱ぐと、バシャバシャと海の中に入った。


「わー、冷たくて気持ちいいーっ!!」

エイタスはカニを摘み、貝を拾い、プチアーノンのラクガキに見入った。


「…何、ガキみてーに。」

オレはちょっとあきれる。




オレが修道院から“追い出され”てから、ここまでの旅路、エイタスはいつも“良きリーダー”だった。

オレより年下のくせに、冷静で、公平で、気配り上手で…

なんかオレは、あいつのこと引きずっりまくってる自分の方がガキみてーで、エイタスのことがすげー気に食わなかった。




「…ああ、ガキなんだよな。」

でも、改めて、オレはエイタスのことをそう思った。


トロデーンに拾われた孤児で、親なんて顔も知らず、ガキの時から大人の中で育って、イバラの呪いに覆われた城を救うためにトロデ王とミーティア姫と旅立って、ヤンガスなんて山賊上がりの「アニキ」と慕われて…


でも、こいつはまだガキなんだよ。

いくらトロデ王と仲がいいったって、トロデ王は親同然ったって、トロデ王はあいつにとっては「主君」なんだ。

ヤンガスみてえな人生の裏街道歩いてきたオッサンに「アニキ」って慕われて、それに応えるために精一杯立派な兄貴分でいようとして。

明らかにハチャラカなメンバーまとめようって努力して、でもエイタスは…




「ククール、入らないの?」

気付いたらエイタスが、シーメーダの赤ン坊持って傍に立ってた。



「…お前、ソレ、ナニ?」

「なんか、なつかれちゃって。」

「別にいいけど、持って帰るなよ。」

「うん、海にいる間だけにするから、ククールも遊ぼうよ。」




「…仕方ねえ、おにーさんが遊んであげますかっ!!」

オレはブーツを脱いだ。

なんか、急に解放感感じる。

そして、そんな気持ちのまま海に足突っ込む。


「ーっかーっ!!気持ちーっ!!」

「でしょでしょっ!?」

妙に嬉しそうなエイタス(とシーメーダ)


「見てみてククール、なんか謎の生物が…」

「モンスターじゃねーの?」

オレが覗き込むと、




ばしゃっ!!

思いっきり、水をかけられた。



「わーい、ひっかかったっ!!」

ガキンチョみてーに笑うエイタス(と、たぶんはしゃいでるんだろう、触手をぶんぶんするシーメーダ)。


「こ、この野郎ーっ!!」


オレはばしゃばしゃと威嚇しながら歩み寄った。


手でガードするエイタス。


「甘いってのっ!!」

オレはフェイントで、足でひっかけてやった。




「…」

顔だけ出して、オレを見上げるエイタス。


「…コレってあんまりじゃない?」

もしかしたら、さすがに怒ったかもしれない。


「あんまりじゃねーよ。」

オレはそして、続ける。


「お前、ゼシカが自分の事好きなの、知ってっだろ?」

自分でも意外な言葉が続いた。


「…」

ざぶりと音を立てて、エイタスが体を起こした。

バンダナが外れて、髪が落ちかかるのをかきあげる。

こいつ、こうしてるとますます女の子みてーだと、オレは思った。


「だからゼシカってば、お前の看病断ったんだよな?分かってただろ?」

エイタスは黙ってバンダナを絞った。


「ったく、あんな美人に惚れられて何が不満だ、ゼイタク者めっ!!」

ヨユーカマした表情で言えたと思うぜ

…多分、な。


「…僕は、ミーティア姫が好きだから。」

明言しないで、断言した。


「ああ、もちろんゼシカのことが嫌いって訳じゃないんだよ…」

「フン、ガキみてーに。」

ったく、オレ、何ガキみてーに「お前、誰が好きなんだよー」とか詰問してんだろーな。

オレ、「オトナ」なのによ。

修道院で、聖堂騎士として、オレは「オトナ」の経験をたっぷりしてきたはずなのに、な。



オレは、気付くとシーメーダのデカい瞳に見つめられてた。

なんか、いくらモンスターとはいえ、あのツブラな瞳に見つめられると、ドキドキしちまう。

思わず視線をエイタスに戻したら、


「で、ククールはゼシカのことが好き?」

今度はエイタスが、シーメーダに負けねえつぶらな黒い瞳で、そんなガキな質問をしてきた。


「ああ、モチロン大好きさ。あの麗しの赤毛の美女だものな。」

オレはガキじゃない。

「オトナ」さ「オ・ト・ナ」

恋愛はゲームとか割り切れるオトナで、つまり…



「そうなんだ、やっぱり。」

「てか、オレのクールな回答に、そんな邪気のない笑顔とか返すなよ。」

「え、どこがクールだったの?」

「…もっぺん転ばすぞ、てか、押し倒すぞこの野郎。」

「なんでククールってそういう会話が好きなの?それとも修道院ってみんなそうなの?」

なんか、真顔で問われると妙に気恥かしいな。


エイタスは、けど、自分にまとわりついてきたシーメーダに意識を取られて、すぐにその問いは忘れたらしい。




「…楽しいよな、割と。」

「だよね、楽しいよね、たまには。」

オレは空を仰ぐ。

まだまだ日は南中してねーから、まだまだまだまだ、“お外で遊べ”るらしい。


「ところで、食いモンとかは…」

「持って来たよ、お弁当。」

「さっすがリーダー。じゃ、日暮れるまで、今日はもう全力で海を満喫しよーぜっ!!」

「うんっ!!」




青く晴れ渡った空と、碧く澄んだ海とが揃ってんだ。

今日くれー、何もかも忘れて、ガキに戻ってやろう。






2009/10/11




一言感想「クク主に見せかけて、実はノーマルカプ」

ククールも主人公も現代にいたら高校生とか大学生とかいう年頃の男の子なんで、パーティーを離れたらこんな姿も見せあってるんじゃないかと思って書いてみた。
特に主人公は、あのパーティーにいたら「リーダー」でいなきゃならないので、色々ストレス溜まるんだろうなーと思います。そしてそれを時々ガス抜きしてやる優しいトロデ王。
ククールのイベントでの対応といい、トロデ王ってラブリィな外見の割に、きちんと「オトナ」してると思います。

…時に子どもじみてワガママだけどね?




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