朧笑顔




ドルマゲス戦のちょい前くらいの主人公一行の一夜。ウチのククールの特技は、お絵かきです。
激しくノーマルで、一見ククゼシに見えて実は…
ちなみに、拙サイトの主人公の名前は“エイタス”です。











あたしは、宿屋で、泊まりの踊り子だの、宿の娘だの、どっかからひっかけてきた女の子だのに囲まれながら、上機嫌でなんか描いている銀髪の男を見て、つかつかと歩み寄る。




「ククール!!もういい時間でしょ?早く寝なさい!!」
なんか、お母さんみたいな台詞だなって、自分でも思う。




ククールは、青くてとても綺麗な瞳(つっても、さすがにもう見慣れたけど)で、あたしを見上げて言う。
「ダイジョーブだって、ゼシカ♪オレは夜型だから。」

悪びれのない笑顔に、あたしは顔をしかめて、叫んだ。



「いいから寝なさい!!」

あたしは力いっぱい怒ると、ククールが散らかしている紙きれの類をバサバサと床から拾い上げた。





絵。
たくさんの絵。
目の前の女の子たちの、いろんな表情…ほとんどは、可愛かったり、はにかんでいたり、ちょっぴり色っぽかったりする

笑顔




ククールは、絵がとても上手だ。


「修道院は娯楽がねーからさ。暇で暇で。」

規則破りのギャンブルとガールハントの常習犯だった癖に。






あたしがククールが散らかした紙を一生懸命拾い上げていると、ククールが上からなにやら差出した。
反射的に受け取って、目を通す。





「何よ、これえっ!!」
怒ったあたしの顔だった…憎らしいくらい、とってもリアルに描かれている。



「へっへー…」
怒りの形相でククールを見上げると、ククールは悪びれなくガキんちょみたいに笑った。



「バカククール!!」
あたしは、手にした髪ごと、ククールの顔をぶん殴った。



「痛!!」
大仰に叫んで、ベッドにひっくり返ったククールは見ないで、あたしは周りの女の子たちに
「もう遅いから、帰って!!」
と叫んだ。




「…オレの小鳥ちゃんたち♪オレの独占欲の強いハニーが、オレとアツーい一夜を過ごしたくてうずうずしてるから、今夜はゴメンよ♪」
しつこいククールの顔面に、もっぺん軽く肘打ちをお見舞いすると、ククールはもっぺんベッドの上にひっくり返った。


あたしが睨むと、女の子たちは
「じゃあね、ククール。」
と口々に言いながら、帰って言った。






あたしが部屋を片付けようとすると、ククールが後ろから軽く抱きついてきた。
あたしは振り払う。


「なんだよ、オレと熱い夜を過ごしたかったんじゃねーの?」
「もういい加減にしてっ!!明日は早いのよ?」


ククールは、多分、やっぱり子どもみたいにいたずらっぽい表情で言った。



「はいはいはーい、オレが悪かったよハニー。君は怒った顔もキュートだから、ちょっとふざけてみただけなんだってば。」




そして、また紙を一枚取ると、なにやら描きはじめた。











あたしが紙を拾い上げ終わって、部屋を軽く片付け終わった頃だった。




「はい、ゼシカ。題して“赤毛の妖精の微笑”♪」
ククールが紙を一枚差し出した。


そこに描かれていたのは、笑顔。

実物のあたしの笑顔より、三倍増しくらいに魅力的に描かれた笑顔のあたしの似顔絵だった。




うん、自分でも単純だと思うわよ。
思うけど…

やっぱ、嬉しい…




「やだ…美人に描きすぎよ…」
あからさまに照れ隠しな台詞しか出てこない自分の語彙力が恨めしい。



「何言ってんだ、ゼシカ。君の笑顔は、その絵の通り妖精のように魅力的さ。」
それでもって、スラスラと口説き台詞が出てくるククールも恨めしい。



だからあたしは、すかさず伸びてきた手をぺしっとはたき落とした。






「何だよー…つれないなあ。ま、そんなガードの固いトコもステキなんだけどな。」

こいつの口車に乗せられそうになるので、あたしは話題を変えた。



「でも、今あたし全然笑ってなかったのに、よくスラスラ描けるわね。」
あたしは絵が下手だ。だから、そーゆートコはソンケーしちゃう。


「ん?そりゃ、そーさ。オレは自分が絶世の美青年だから、うるわしーモンにゃ敏感なんだ。昔見たモンでも、即座に再現出来っぜ♪」
「すごーい、記憶力いいのね。」
「麗しいモン、限定でな♪だから、君の笑顔だったら何千パターンでも、即座に再現できちゃうぜ♪すごいだろ?こんな男、他にはちょっといないぜ?」
まだしつこく伸びてくる手を、力いっぱい叩き落すと、あたしは立ち上がった。



「お生憎さま、あたしの好みはサーベルト兄さんみたいな、品行方正な人なの!!」

「いつまでもブラコンが治らねーな、ゼシカってば。そんなんじゃ、そのステキな笑顔も持ち腐れだぜ?」

「いーわよ、例えあんたが
『君の笑顔は、ぼくが今まで見た中で一番ステキだよ。』
なーんて百万回言ってくれたとしても、あんたにゃなびかないわよ。」


あたしはそう言ったら、ホントにこいつが

“君の笑顔は、オレが今まで見た中で一番ステキだよ。”

とか言い出すんじゃないかと、半ば期待したけど、ククールはちょっと笑っただけで沈黙してしまった。









やだ、なんか変な事言っちゃったかな。










気まずい沈黙が続く中、




「あ、まだ起きてたんだ、ゼシカ、ククール。」
救世主のようにエイタスが入ってきた。


「あ、うん…ほら、ククールが女の子集めていつまでも騒いでるから…」
これ幸いと、あたしは冗談めかしてククールを示す。

「だってオレ、夜型だもーん♪オレってば、夜のプリンスだから…」
「はいはい、はやく進化して“夜の帝王”になってね。」
エイタスは軽く流すと、あたしに向き直った。


「もういいから早くお休みよ。」
「エイタスは?てか、ヤンガスもどうしたの?」
「ん、トロデ王がいつもの“わしばっか馬車の中でー”病にかかったから、馬車で晩酌に付き合いながら愚痴聞いてるよ。僕もお酒とつまみ取りにきただけだから、すぐ戻る。」

「あたしたちも行こうか?」
「いいよ、どうせ最後にはヤンガスと“拳で語る”とかワケの分からない事言い出して、しっちゃかめっちゃかになるんだから。」
エイタスは優しく笑うと、ククールの方を向いた。



「ま、好きなだけ夜更かししていいけど、明日は予定通り起こすからね。」
「へいへーい。」
やっぱ、エイタスって強い。






エイタスが出て行くと、あたしも自分の部屋に戻ることにした。
「それじゃお休み、ククール。夜更かしもほどほどにするのよ。」
「うん、お休み、ゼシカ。」
そう言いつつも、ククールの意識は、描きかけている絵にすごく集中していた。


















「お早う、ゼシカ。」
気がつくと朝だった。
そして、エイタスが爽やかな笑顔であたしを見下ろしていた。


「ごめんね、女の子の部屋に勝手にあがりこんで。でも、僕一人じゃククールを起こせなさそうでさ。」

「…おはよ、エイタス…」
昨日はトロデ王やヤンガスと、キッツイ酒宴を繰り広げていたハズなのに、どうしてこの人はいっつも爽やかなのかしら。

「…ちょっとだけ待ってね、顔だけ洗うから。」
エイタスは、紳士的に部屋を出る。
つっても、あたしはあんまりいてもいなくても気にしない。



そりゃお母さんは

レイディが、寝起きの顔を人様…ましてや殿方に見られるなど、はしたない!!

って教育をあたしにしてたけど、ぶっちゃけ、男三人と旅してるのに、そんな事一々気にしてるヨユーないし。
どうせ、向うも気にしてないだろうし。

だから、顔を洗ったのは、目を覚ます為だった。








ちょっとだけ髪を整えて部屋から出ると、ククールの部屋に入る。

「…」
せっかくあたしが片付けてあげたのに、部屋の中は紙が散乱していた。





「ククール、起きてよ。もう朝だよ。」
エイタスが優しく声をかけるけど、反応すらない。



「じゃ、よろしく、ゼシカ。」
「うん…こらっ!!ククール!!起きなさいっ!!」

あたしは渾身の力で叫ぶけど…もしかしたら、他のお客さんには迷惑だったかも…ククールはちょっと体を動かしただけだった。


「まったく、早寝早起きの修道院育ちなのに、どうしてこんなに寝起きが悪いのかしら。」
てか、修道院では誰が起こしてたのかしら…あの、二階からイヤミなのかな。




やっぱり起きる気配がないので、あたしはククールの掛け布団をひっぺがした。
勢いで、そのままククールはベッドの下まで転がり落ち、ごん、とかいう割と痛そうな音がした。



「…あと五分…」
それでもククールは眠り続ける。

「すごいね…そこまでして寝るなんて。」
エイタスが、むしろ感心する。
つっても、割と毎朝の恒例行事なんだけどね。この夜型美青年を叩き起こすってのは。






「とりあえず、部屋を片付けましょうか、エイタス。起こしたらどうせチェックアウトしなきゃなんないしね。」
「そだね。」


あたしとエイタスは紙を拾う。
昨日あんだけいろいろ描いてたのに、今度は一体何を夜っぴいて描いてたのかしら。






あたしは気付いて、エイタスに言う。

「ねえエイタス、これって全部おんなじ絵じゃない?」
あたしが示した紙と、エイタスが拾った紙を照らし合わせる。


何十枚とあるけど、構図は全部おんなじ。











すごく優しい笑顔。

とても綺麗な笑顔。



愛情をいっぱいに湛えた笑顔を浮かべた誰かが、画面下の方に向って、優しく手を差し伸べている…



そんな絵だった。



でも、“笑顔”としか言えないのは、顔がないから。
それは本当に素晴らしい笑顔なのに、




顔が、ない。








「これって…聖堂騎士団の制服…だよね?」
エイタスが“笑顔”の服を指差す。


「ホントね。じゃあ、あの騎士団の人なのかしら。」
「だっから、顔くらい分かりそうなモンなのにね。」



絵は、構図は全部おんなじだけど、何枚かは“顔”を描き込もうとした跡があった。


でも、あれだけ精緻に絵を描ける人なのに、それはどうしようもなく巧くいっていないのが、素人目にも分かる。





「…」
「…」
あたしもエイタスも沈黙する。




多分、これは見ちゃいけないものだった…











エイタスは立ち上がると、紙の束をまとめて暖炉に放りこんだ。
「燃やそう。」
あっさりとした口調で言うと、残り火を掻き起こす。





火はあっさりと、紙の束を黒い一塊の灰にしてしまった。










「ククール、もう起きなよ。さもないと、置いてっちゃうよ。」
エイタスは何事もなかったように、地面に転がるククールを起こしにかかった。



「…眠い。」
「いいから起きて。」
さすが男の子だけあって、ククールの長身をひきずり起こすと、ククールはようやく観念して体を起こした。





ぼーっとした目であたりをきょろきょろと見回すククール。


「…紙は?」
エイタスは間髪入れずに答えた。
「燃やしたよ。散らかしてるから、ゴミだと思ったんだけど…違った?」





ククールは、しばらく沈黙してから、答えた。




「ゴミだよ。」

ククールの口調は、とても何気ない“風を装った”口調だった。












「はやくご飯食べちゃいなよ。」
エイタスが言う。
何もなかったような笑顔で言う。



あたし、ホント、エイタスってスゴいと思う。






「オレ、朝飯は食わない主義だから…」
「そんな事言ってると、またお昼ご飯前に『腹減った』っていう羽目になるよ。ね、ゼシカ?」
急に振られて、あたしは少しわたわたしながら答える。


「そうよ、ククール。あんた、美形のクセに食い意地張ってるんだからー!あはは…」
あたしって、ホント、色々ウソつくの下手だ。





「んー…じゃ、食う。」
エイタスはあたしを振り返る。

「ゼシカも一緒に食べておいでよ。僕はもう済ませちゃったから。」
「うん、そうする。」
「ほら、トロデ王がまだ寝ててさ。あの人、やっぱ王様だからか、朝苦手なんだよね。僕、小間使いだった時からあの人起こすのに毎朝苦労してたんだよ。」
エイタスは笑いながら、部屋出る。







「ゼシカ。」
「な、何?」
ククールに話しかけられ、あたしは少し驚く。

「飯行こう、飯。…肉が出るといいな。」
「もう、朝からよく肉食べたくなれるわね。」
「だってオレ、男の子だもん。」

何気ない会話をしながら、あたしはククールの表情を読もうとする。




だけど、その表情からは、あの“笑顔”の人物の顔のように“朧”な感情しか読み取れなかった。






2006/8/23




ククゼシに見せかけて、密かに主ゼシかもしれないけど、更に実は…って話。
うちのククは構ってもらいたがりなので、ゼシカみたいに構ってくれる人が大好きだと思います。
でゼシカは、ブラコンなのでサーベルト兄さんみたいな人が好み♪とか言いつつ、実はククみたいにダメ弟なタイプが好きだと思います。
べにいもは最初は主ゼシかなと思っていたのですが、やっぱゼシカは主人公みたいなクール?な人とは結局合わないんじゃないかと思い、ククゼシ派に鞍替えしました。主人公とゼシカの関係は、「とてもいい、信頼できるお友達」止まりで(笑)
ちなみにうちの年齢は、ククが21の、ゼシカが18で。でも、ククの精神年齢が一番幼いという設定で、ゼシカお母さんとやんちゃククというカプで。
ところで、ククは人のことブラコン言ってる場合じゃないと思います。そろそろ思い切れよ(笑)




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