もう半年近く前から白梅さま頂いていたこのイラスト。気軽に
「話つけさせて下さいねー」
と言ったものの、いっこうに話は付かず…
すぐに出来ないなら、気軽に無責任なこと言わないのっ!!
と自分に言い聞かせて、ようやく今日、筆(キーボード)を取った(叩き始めた)次第です。
「大丈夫かっ!?」
オレの記憶は、その声でようやく再開した。
頭がガンガンする。
それに、クラクラする。
そして、目の前が真っ暗だ。
それもこれも、オレがドン臭いせいといってしまえば、自業自得になる。
ケド、仕方ねーじゃんな?
初陣だもの。
オレみてーな見習い聖堂騎士は、ホントは”初陣”なんて晴れがましいものにはまだ無縁なはずだった。
キホン、見習いは見習いとして、ホンマモンの騎士さまのサポート…って名の使いっパがいいトコなんだ。
だから今日のも、危険のないトコで、聖堂騎士の魔物退治を見物してりゃ済むはずだった。
オレらんトコに、突如魔物が乱入して来なきゃな。
そりゃあもう、大騒ぎ。
人手が足りないってんで、ホンモノの聖堂騎士はほとんどオレたちに付いてなかった。
そんなペーペーのか弱い見習いの中に、モノホンの魔物だぜ?
そりゃあ、傍目から見てりゃ面白えーくれーな大惨事。
”傍目から見てりゃ”な。
モチロン、オレは当事者だからいっそ笑っちゃうくらい大騒ぎさ。
剣は他の見習いたちりゃ使える自信はあったけど、でも実戦は初めて。
腰がひけて、魔物に切りかかるドコじゃねー。
身を守るので精一杯さ。
魔物たちにゃ、
「見習いなんです、手加減してくださいね♪」
なーんて可愛いお願いが通じるわきゃねーし。
オレは、同期が魔物に襲い掛かられて、運の悪い奴は骨を叩き折られ、もっと運の悪い奴は腸ブチ撒けるのを、ただ、横目で見てた。
どれだけ戦った…いや、なんとか身を守ったんだろうな。
永遠に近いようにも感じられたケド、意外と大した時間は経ってなかったのかもしんのねー。
「助けだ、助けが来たぞーっ!!」
誰かの絶叫に、オレは目をそっちに向けた。
そしてその隙に、魔物の一撃を…目に光が飛んだから、ドタマに食らったんだろうな。
そして、ブッ倒れた。
どこかに寝かされてる。
一応、救助されたみてー。
目の前が真っ暗なのは、布かなんかを顔に当てられてんだろ。
でも、腕が折れてんのか、布を取り去りたくても、手が動かねー。
「心配するな、腕は折れてない。」
オレの心を読んだみてーに、返答がきた。
「ただ、血が流れすぎているのに、まだ傷口が塞がっていない。」
てきぱきとした処置。
オレはようやく、オレたちのトコにきた”助け”を率いていたのが誰か。
そして、目の前にいるこの人が誰か理解した。
兄貴っ!!!
オレは叫びたかった。
でも、声が出なかった。
「痛むのか?」
優しい、声。
「待っていろ、すぐ、傷口を塞いでやる。」
優しい、声。
手の感触。
オレを撫でる、優しい手の感触。
傷口に触れる、兄貴の手の感触。
優しい
暖かい
癒しの光。
「心配は無用だ、魔物どもは私が始末した。」
勇気付ける言葉。
「しばらくすれば、救護の修道士たちがやって来る。」
労わりの言葉。
「恥じることはない、君たちは見習いの身ながら立派に戦った。女神の剣に相応しい戦いぶりだった。」
普段の兄貴からは想像も出来ない言葉の数々を受け、オレは理解した。
オレは下手に聡明だから、理解しちまった。
兄貴は、オレが誰だか、まだ理解してない。
顔にかけられた布は、オレの天使のようなビボーを覆い隠しているんだろう。
流れ出した血は、オレの月の光が流れたような銀髪を染めてしまってんだろう。
そしてオレは語れず、声で判別のしようがない。
だからさすがの兄貴も、オレを”ククール”と認識できずに、”初陣で重傷を負った可哀想な見習い騎士”とだけ認識しているんだ。
だから兄貴は、優しい。
あの時と同じだ。
あの時もオレが”不安そうな面持ちをした一人ぼっちの可哀想な孤児”だった時は、兄貴は優しかった。
オレが”ククール”でなきゃ、兄貴は優しくしてくれるのに…
足音が近づく。
オレの勘は言う。
不吉な足音だ、と。
「ククールっ!」
その言葉と同時に、皮膚で感じられるくれー、空気が重くなった。
「ククール、無事だったのか?良かった。」
オレの心中なんて読めるはずもねー、オレら見習い騎士の統括官どのは、ありがたくも迷惑に二度もオレの名前を呼んで、無事を喜んでくれた。
「マルチェロ副団長殿の適切な御援軍のおかげで…」
「当然為すべきことをしたまでだ。」
オレは、上がるようになった手で、眼前の布を払いのけた。
翡翠色の瞳には、もう優しさのかけらすら見えない。
いや、いっそ怒りで凍りつきそうな瞳になっていた。
その怒りの半分は、オレに。
そしてもう半分は、オレがククールだと気づかずに”憎い弟なんぞに”優しさを向けてしまった自分に。
そして兄貴は、もうそんな感情すらオレに見せてくれずに、さっさと踵を返して立ち去ってしまった。
「なんでククールだけ、あんな真っ赤な聖堂騎士の制服を着てるんだ。」
もう見慣れただろうに、まだそんなことをコソコソ言う奴がいる。
そしてあるコト、ねーコト、嘘八百並べ立てるんだ。
暇なんだよな、修道院て、娯楽がねーから。
それこそ、人の噂話で暇潰すしかねーんだよ、つまんねー奴ほど、さ。
マジうぜーから、オレはそいつらのそばまで行ってやる。
そして、驚いてごまかそうとする奴らに、金とれそーなエンジェルスマイルで教えてやるんだ。
「どんな時でも、オレがオレって、分かるよーにさ。」
そいつらはコソコソと逃げ出しながら、でもすぐに聞こえよがしに言うんだ。
自己顕示欲の強い奴
とか
派手すぎ
とか。
一番ムカつくのはコレだな。
違反行動がすぐ分かるように、マルチェロ団長に着せられてるんだ。
「オレが兄貴に見せ付けてんだよ。いつでもどこでも、オレを”誰か”と間違えねーよーにさっ!!」
終
2009/1/19
一言要約「可哀想なククール」
おかしいなあ、割と生意気にしようとしたのに、要約したらいつもと同じククールだぞ?
というわけで白梅さま、長い間お待たせした(わりに白梅さまから頂いたプロットそのままでなんのヒネりもありませんが)「刹那」であります。
ホントに「刹那」だけの優しさ、しかも二回目。
何というか、この兄弟、下手に二人とも覚りが良いのと、意地っ張りなのがが仇になって、いつまでも「どうしようもない関係」という中で、ハツカネズミのようにぐるぐる回っている気がします。
白梅さま、せっかく男前のマルチェロを頂いたのに、ククールはそんな「自分を心から心配する男前の兄貴」の顔は、「刹那」も見ず終いなんですよね、哀れな。
そんな可哀想なククールごと、このお話は捧げたいと思います。毎度ながら、ありがとうございました。
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