運命の奴隷
DQ8が出て五年目に突入したというのに、今さらになって(このサイト始めたころですらもう遅すぎたというに)主姫熱が上がりつつある今日この頃。
というわけで、通常ED時の、駆け落ちを決意したミーティアのお話。
結婚式の控室じゃというに、雰囲気は葬式のようじゃ。 侍女たちの表情も沈み、エイタスは近衛隊長じゃというにこの近くにも上げさせられん。 ワシの可愛いミーティアは、健気にも沈痛な思いを顔に出さず、でも、ただ黙りこんで物思いにふけっていた。 「…席を外してくれんかの。」 ワシが言うと、侍女たちは外に出る。 扉が閉まる音がしたあと、ワシは可愛い可愛いミーティアの手を取った。 「堪えてくれ、姫。」 ミーティアは、そのエメラルドのような瞳をワシに向ける。 絹のような黒髪が、白いドレスにさらさらと落ちかかるその姿は、本当に妖精のようじゃ。 こんなにも美しい可愛い娘を、あのチャゴスなんぞと結婚させねばならんと思うと、ワシの心はチクチク痛む。 「チャゴス王子との縁談は、ワシの母上の代からの悲願なのじゃ。」 ワシは語る。 ワシの母とサザンビークの先の国王の恋が、両国の不和の為に実らなかったということを。 それを気に病んだワシの母が、いつか両国の血筋を一つにするようにと言い置いたことを。 そして、ミーティアの代になってようやく、それが成立するのだということを。 ミーティアは微笑む。 その可憐な微笑みがあまりに寂しげで、ワシの心はズキズキと痛む。 母上の恋を成就して差し上げたい気は息子として山々じゃが、ワシは同時にミーティアの父でもある。 みすみす娘を不幸にするような結婚はさせたくない。 ああ、相手がチャゴスでさえなければのう。 「本当に、本当に堪えておくれ姫や。ワシとてこんな事態にさえならなければ、姫をあのチャゴスなんぞと結婚させたくはなかったのじゃ。ああ、あのドルマゲスさえおらなんだらのう…」 ドルマゲスの… いや、暗黒神の杖のせいと言っておこうか。 あの杖の魔力でワシは魔物の姿にされ、大事な姫は美しいとはいえ馬の姿にされてしもうた。 そして、城は茨の魔力に閉ざされ、トロデーンは魔物の巣窟となり果ててしもうたのじゃ。 いや、ワシの忠実な僕たちの尽力で暗黒神は倒され、トロデーンの呪いは解けた。 じゃが、その復興のためには他国の助力を受けねばならず、チャゴス王子の本質を知ってはいても、今さらこの縁談を破談には出来ぬ相談となってしもうた。 しかも、こちらに弱みがある話のこと、一人娘じゃというに、嫁に出さねばならない。 ああ、辛い。 本当に辛い。 ワシの可愛いミーティアを、みすみす手放さねばならぬ羽目に陥るとは。 「ミーティアよ、ワシら王族は運命の奴隷なのじゃ。運命がワシらを王族に生まれさせなければワシは王ではなく、お前が姫ではないように、ワシらは自らが生まれついた運命から決して逃れることは…」 「お父さま。」 ミーティアのエメラルドの瞳が、 しっか とワシに向けられた。 「お父さま、今までミーティアを育てて下さってありがとうございます。わたくし、お父さまの娘に生まれて本当に良かったですわ。だってお父さまはミーティアを誰よりも愛して下さっているんですもの。」 「…」 ワシは、花嫁から花嫁の父への最後のあいさつをされているのかと思うと、涙が零れそうになる。 「姫や、ワシは…」 「そしてお父さまは、ミーティアをとても立派に育てて下さいましたわ。わたくしが姫として恥ずかしくないように、礼儀作法からはじまって、何もかも、必要な教育を授けてくださいましたもの。」 「おうおう、姫は誰よりも立派な姫じゃ。」 「ええ、わたくしは誰よりも立派な姫ですわ。」 ミーティアのエメラルドの優しく大きな瞳が、強い意志を宿す。 「だってお父さまはミーティアに、誇りを与えて下さいましたもの。お母さまは早くに亡くなってしまいましたし、あの呪いのように他にも辛いこともありましたけれども、お父さまをはじめ、みんながミーティアを愛し、大事にしてくれましたから、ミーティアは決して、自分のある理由を失うことがありませんでした。本当に感謝していますわ。」 ワシはミーティアの強い瞳に、受けとめかねるほどの重さすら感じた。 「お父さまは、ミーティアに自らの意志を持つことの大切さを教えて下さいました。確固たる信念と、それに伴う責任を受けるだけの強さも。お父さまはミーティアに、自ら考えることの大切さも教えて下さいました。お父さまは、ミーティアにとって本当に、本当に立派で大切なお父さまです。ミーティアは世界中で一番すばらしいお父さまを持ちました。」 じゃが、ミーティアの言葉は、父親として、これ以上はないくらい嬉しい言葉じゃった。 ワシは涙が零れるのを感じた。 いやいや、年を取ると涙もろくなってたまらんわい。 「…わたくしは、そんなふうに育てていただいた、お父さまの娘です。」 ミーティアは、 凛 とした瞳で、続けた。 「ですからわたくしは奴隷ではありません。運命の奴隷などではありません。運命を甘受などいたしません。」 「…」 凛とした光を宿した瞳に見据えられて、ワシは言葉を失う。 「わたくし、生まれついた運命と闘いますわ。」 ミーティアが、とんでもないことを言い出したのは分かった。 とても分かった。 非常に分かったのじゃ。 国王としては、止めねばならんことも分かったのじゃ。 「お父さま、応援して下さいませんこと?」 でも愛娘の、強すぎる甘いこの言葉に逆らえん気持ちも、世の父親は分かってくれるじゃろう? 終 一言感想「ミーティア強っ!!」 |