昇華
10万打リクにオリキャラ話を頂いたので、ちょっとリハビリにオリキャラを書きます。
という訳で拙サイトの
悲劇のヒロイン
トマーゾとマルチェロのお話。
俺はとうとう耐えきれなくなって、寝台から跳ね起きる。 昼の訓練は過酷で、何度も吐きそうになった。 ようやく待ち望んだ夜、体はクタクタで休息を欲している。 なのに眠れない。 体内をぐるぐると熱いものが駆け巡っていて。 灯りを灯す。 二人部屋を見回すと、同室のマルチェロがいない。 「…便所か?」 体の中を駆け巡る熱いものは、その「排出」を必要としていると分かる。 分かりはする。 そうしてやろうかと思う。 幸い、五月蠅そうなマルチェロはいない。 灯りが、俺の仕える女神の小像を照らす。 俺は、「衝動」を堪える。 女神像の前に跪き、祈る。 |
「女神よ、我が貞潔を守りたまえ!!」 |
俺は聖堂騎士になるに当たって、わが身の純潔を誓った。 それは生身の女性を相手にする事はもちろん、自らの手で自らを慰めてもいけない。 聖堂騎士とはいえ俺のような若い男は、様々な誘惑から身を守らねばならないし、自らを制する事が修行のひとつと分かってはいる。 いるが、こののたうち回りたくなるような衝動は耐えがたい。 「…」 息をつく。 他の聖堂騎士たちが、「あまりよろしくない方法」や、更には「忌まわしい方法」でこの衝動を「排出」しているのは知っている。 知っているが、俺はそうしたくない。 そういう真似は、聖堂騎士の品位を下げる真似だと思う。 だから俺は剣をとった。 どうせ眠れそうにないのなら、この時間を有効に使った方がいい。 |
空気を斬る風の音がした。 微かに灯る灯りに、碧い影と銀色の剣の閃きが踊る。 姿は見えずとて、この銀色の光で正体は分かるものだ。 「マルチェロ。」 俺が声をかけると、影は姿を消し、閃きは止んだ。 「トマーゾ、この夜中に何をしている。」 それは俺の台詞だという返答は、無駄だと知っているのでしない。 つかつかつか マルチェロの特徴的なブーツの音が近寄る。 「まあ良い、剣を手にしているという事は鍛錬目的ととってやろう。」 同輩であるのに、こうも上からの発言だということも、慣れているので気にしないでおこう。 ギラリ マルチェロの翡翠色の瞳が、俺の手にする灯りに照らされて不敵に見える色に光った。 「…どうした、マルチェロ?」 「一人で鍛錬するにも飽いていたところだ。」 「…はあ?」 「付き合ってやる、来い。」 「はいっ?」 マルチェロの発言がほとんど常に唐突なのには慣れていたが、ここまで唐突だと事実認識に時間がかかる。 だのにマルチェロは、翡翠色の瞳に苛々とした色を見せる。 「…分かった、お手合わせ願うよ、マルチェロ。」 「宜しい、相手してやろう。」 …もう、一々何かを思うまい。。 |
灯る灯りは微か。 マルチェロの姿は半ば以上が闇に紛れ、動かぬ剣は銀色の糸のようにしか見えない。 「行くぞ、トマーゾっ!!」 声と同時に地面を蹴る音。 威勢の良い突きがいきなり迫りくる。 いくらこれが訓練用の剣だとは言っても、この勢いでまともに当たれば、半分は体に穴が開くだろう。 払う。 そして俺も突きを見舞う。 たんっ 一旦間合いを開けた音。 そして、銀色の糸が今度は弧の軌跡を描いた。 「…お前、本当にいつも全力だな。」 制服の上から、しかも刃引きとはいえ、刃が俺の体にしっかりと痣を作ったことはよく分かった。 「ダラダラと生きたいなどと思うものかっ。」 問題はそこじゃ…まあいい。 俺は自分だけ怪我をするのも癪なので、軽いフェイントの後に剣を叩きつけた。 「…」 多分、マルチェロの二の腕には当たった筈だ。 |
気持ちいい 全力で刃を振るうのは気分がいい。 ピリピリとした緊張感が、俺の体を解きほぐす。 あのドロドロとした衝動が、汗となって流れ出ていく実感がある。 |
息をつくと、マルチェロはそれ以上踏み込んでは来なかった。 「…あまり夜更かしをすると、翌日に差し支える、このぐらいにしてやろう。」 だから、お前も同じ状況に…と、いい加減言ってやろうとすると、 「本来ならば、就寝時間にこのような場所を徘徊していることは規則違反と咎めるべき事だが…」 だからさ… 「自らの下劣な欲望を昇華させたのだ、黙認してやろう。」 「…」 俺はマルチェロの顔を覗き込んだ。 額には汗が浮かんでいるというのに涼しい顔だが、こいつも? 尊大な態度なのでたまに忘れそうになるが、俺と同じ年のマルチェロも、俺と同じ衝動に苦しんだとしてもおかしくはない。 こいつも、のたうちたくなるような衝動に耐えかねて、ここで剣を振るっていたに違いない。 「何か言いたげな顔だな、何だ?」 そうだと指摘したら、こいつは何と言うだろうか。 否定するかな。 いやこいつの事だ、いきなり斬りかかって来るかもしれん。 「いや、黙認してくれてありがとう。」 「礼には及ばん。」 尊大な言葉とは裏腹に、マルチェロは顔を綻ばせた。 表情を緩めると、こいつがまだ十代であることを思い出す。 |
井戸で軽く汗を流す。 修道院の早い朝までそれほど時間はないが、ようやく熟睡できそうな気がする。 「マルチェロ。」 上半身を拭うマルチェロに俺は声をかける。 「何だ、トマーゾ。」 「またそのうち、な。」 言ってから、少し馴れ馴れしすぎるかと思う。 マルチェロは馴れられるのを酷く嫌うのだ。 「…」 マルチェロは暫く沈黙しながら上半身を拭い、制服を一部の隙もなく身に纏う。 そして、くるりと俺に向ける。 やはり気を損ねたか。 |
「ああ、また。」 その声に俺が顔を上げると、マルチェロが半分だけ振り返って、独り言のような小さな声でそう言って、 「早く休め。明日もまた任務だ。」 怒ったような顔で、顔を戻したのが見えた。 |
終
2010/2/28
一言要約「マルチェロはツンデレです」 今回はのたうちまわりそうになってますが、トマちゃんは淡泊だと思います。まあどこぞの現代版では5人の子持ちですが。 いざ30の時になったら、別に夜にムラムラきて困るとかがほとんどないんじゃないかなーと思いつつ、じゃあ聖堂騎士たちはどうやって「発散」してるのか気になります。エステバンなんかはまったく気にしてなさそう(でもマルチェロには怒られない程度に)ですが、他のメンツは? カルロたんとか、どうしてるのかなっ!? とか、オリキャラだから好きに設定すりゃいいじゃんと分かりつつも、ちょっと気になります。 マルチェロがいつもより更に偉そうなのは、まだまだガキんちょだからだとトマーゾのように広い心で許してやってください。 |