お茶の時間 at 大王イカ




最近、クラビウス王とか、ベルガラック兄妹とか、脇キャラストーリーばかり頭に浮かぶので、書いてしまうお話。
イカ退治の直後、ゼシカ、兄妹と“きょうだい”について語り合う











人生には、想像もしなかったような出来事がたくさん起こる。




美しいお姫様が美しいけど馬に変えられたりとか、

大好きな兄さんが、道化師に殺されたりとか、

風もないのにマフラーがなびいたりとか、

どう考えても武術の心得もない肥満した王子様が怪物の痛恨の一撃を食らってもピンピンしてるとか、




街中の噴水に、大王イカが出現するとか










「冗っ談じゃねえっ!!なんでこの麗わしの美青年が、イカくさくなんなきゃなんねーんだよっ!!」

なんか誤解を招きそうな台詞を吐いて、その“噴水に出現した大王イカ”に触手で思いっきり締上げられた“美青年”は、ダッシュでホテルの風呂に走って行っちゃった。




で、残されたあたしとエイタスは、“口止め料”として貰った200枚のコインを持って、ちょっと気分転換に遊ぼうっ!!!






…って、気付いたら500枚のコインをスッて、大赤字にヘコんで…



「まあゼシカ。ほら、アレだよ。やっぱり、暗黒神を出現してわいやになってる時に、カジノなんかで遊んでちゃいけないっていう、女神さまの思し召しだって…」

って、エイタスの慰めともつかない慰めを聞いてたら





「まいどのごひいき、まっことにあっりがとーございまーすっ♪」

ってユッケが元気良く登場して



「キミたちのおかげで、ショーバイハンジョーだゾ♪もーかりまっかー?バッチリー!!」

なーんて、ハイテンションに声かけてきた日にゃあたし、



「フォーグさまとユッケさまにバレたらクビ」

だからって“口止め料”渡してきたあの人等の言葉は、実は示し合わせた上での演技なんじゃないかって思ったわけで、



「とゆーワケで、お得意様のキミたち、一緒にお茶でもしないー?美味しいケーキがあるんだよ。裏のレストランで最近始めたスイーツが、けっこう好評で、ベルガラックの新しい観光スポットにしようって…」

「食うっ!!!」

あたしは、カジノでの負けの憤懣を食べることで発散してやろうとしたワケで、お母さんが聞いたら


「なんですか、レイディがはしたなくも…『食う』なんて…『頂きますわ』でしょう、ゼシカっ!!!」

と額に青筋立てそうな返答をしたところで、




「いや、アッシらはその…ちょいと疲れてるんで、先にホテルで休んできやすよ。イカ刺しのツマミで酒でも呑みながら…ねえ、エイタスのアニキ?」

「ああ、そうだね。僕はイカメシとか好きだな。あ、イカリングとかも得意なんだよ。」

「アッシも大好物でガスよ。ガキの頃は、一度でいいから腹いっぱい食いたいと…」


なーんて、微妙にそらぞらしい会話をしながら去って行って、






「…なんでみんな、そんなにイカが好きなの?ベルガラックは海産物はそんな名物じゃないゾ?」

不思議がるから、多分ホントに大王イカ騒ぎの事は知らないんだろうユッケを逆に引きずって、彼女の邸まで行った。
















「また呑みに来たのではないだろうなっ!?」

あたしの顔を見るなりフォーグは叫んだ。


失礼しちゃうわ、花も恥らう年頃の乙女を、酒乱のオッサンみたいに。



「ううん、ゼシカはケーキ食べに来たんだよ、お兄ちゃん。ケーキ持ってきてー。それと紅茶三つー。」

ユッケが答えると、フォーグは頷いて、ソファーに座った。




「それは失敬した。こないだの一件で、カジノを継いで早々、酒代で破産するかと思ったのでな。」

金持ちのクセにオーバーな男ね。微妙なイヤミといい、話し方といい、どっかの誰かを思い出すわ。


まあデコが全然広くないけど、どっかの誰かの弟なら、古傷を感じちゃうかも。





「まあ、それはそれとして。暗黒神が復活したとの噂が流れているのだが、本当かな?」

「ユッケさま、ケーキでございます。」

「ええ、本当よ。ベルガラックはいろんなトコに情報網持ってるって話だから、だいたい想像はついてんでしょ?」

「キャー、ケーキぃ♪ね、ゼシカ、どれがいい?」

「ふむ…やはり本当だったか。この街の外でも魔物が凶暴化しているとの話でな。傭兵を雇って、街の安全を確保せねばならんな。なにせウチみたいな娯楽産業で売っている街は、安心してスッカラカンになれねばならんからな。」

「ユッケさま、ミルクにいたしますか?レモンにいたしますか?」

「そりゃ、大王イカがこんな高台の上に現れるくらいだからね…絶対、増やした方がいいわよ。」

「あたしミルクー!!お兄ちゃんはストレートだよね。ねーねー、ゼシカはー?」

「大王イカ?」

「あ、じゃああたしもミルクで。」

「お兄ちゃんは、いちごのミルフィーユとティラミスとフルーツタルトのどれがいい?あのねー、あたしのオススメは…」


「ええいっ!!世界の存亡のかかっている、真面目な話をしているのだ、ユッケ!!少しは黙らんか。」

「なんだよお兄ちゃん、世界の存亡がかかってたって、今、ケーキは選ばなきゃ。だって、もし世界が滅ぶんだとしたらこれが人生最後のケーキになるわけだから気合入れて選ばなきゃなんないし、滅ばないんだったら、ケーキくらい楽しんで食べればいいじゃん、ね?」


フォーグは、やれやれ、とちょっと大げさに天井を仰いだ。



「毎度ながら、妹よ。お前の論理展開には頭が下がるよ。では、私はフルーツタルトを頂こうか。」

「あ、それはあたしが食べたい。」

「…なら、いちごのミルフィーユでもいいぞ。」

「それもあたしが食べたい。」




「あんたたち兄妹って、血が繋がってるのに、笑えるくらい似てないわね。」

あたしは、コントみたいな会話にちょっと呆れてツッコミを入れてみた。




「血が繋がってるかどうかなんて、知らないゾ。」

ユッケは、結局フォーグと半分こしたフルーツタルトのキウイをつまみながら、ちょっとショッキングな返答をした。




もぐもぐもぐ

でも、ユッケは特に気にした風を見せなかった。




「あたしとお兄ちゃんは、そこの教会の前に一緒に捨てられてたんだもん。だから、ホントはどっちが上かも分かんないし、血が繋がってるかどうかも分かんないゾ。」






「うん、まあ一緒に捨てるくらいだから同じ親が捨てたのだろうという予測はつくが、あくまで予測だからな。顔は似ているという者もいるが…」

ユッケにいちごすらとられたいちごのミルフィーユを食べながら、フォーグが答える。


「一緒の家にいたら、犬だって似てくるよ。アテになんないって、お兄ちゃん。」




さらっと流されるけど、あたしはちょっとコメントに困る。



ほら、やっぱ近くに、異母兄弟の相克とかでドロドロでズルズルでモメてた人がいるとさ、お父さんとお母さんとサーベルト兄さんに愛されて育ったあたしは、ちょっと肩身が狭いワケで。








でも、人が「気にしてない」って言うものを、下手にこっちが気回すのもヘンな感じだしな…




と思いつつ、あたしはちょっと好奇心に負けた。




「ねえ、ギャリングさんとあなたたちは“血の繋がらない”親子なワケじゃない?それって、どんな感じなの?」


あたしの問いに、フォーグとユッケは顔を見合わせた。




「どんな感じもこんな感じも…」

「あたしもお兄ちゃんも、そんな親子しか知らないから、知らないゾ。」


「…そうよね。」




あたしって、なんてバカな質問するんだろう。

当たり前じゃない。




「物心ついた頃には、ユッケが妹で、ギャリングの父が私の父だからな。」

「家族って、そういうものだよ、と思ってる。」



「いやでも、ね。ほら、この世には“家族は血が繋がってなきゃ”とか考える人が多い訳で、そーゆー人は、ほら…」


「ああ、カジノの相続の話か。」

フォーグはやけに、察しが良かった。



「確かに、なにせギャリングの父は七賢者の一人、無敵の男ギャリックの末裔だからな。君たちも竜骨の迷宮の奥で聞いたように、子孫を絶やさぬよう…とかお節介を焼く者も多く…」

「パパはよく、『どうして結婚しないの』って聞かれてたよ。」

「更に言うと『拾った子にカジノを継がせるつもりか』とも、言われていたな。」


やっぱり、そういう会話ってあるのね。

まあウチも財産家だから、全然なかったワケじゃないけど、なにせウチはサーベルト兄さんが長男で、下があたしで、しかも兄さんは超優秀…と、もめるような要素が特になかったものね。




「でも、そしたらパパはいっつも言った人を一睨みして

『俺のカジノで、俺の人生だ。ガタガタ言われる筋合いはねえっ!!』

ってドスの効いた声で答えてたゾ?」

「うむ、そしたら誰もそれ以上は何も言わなかったな。」


ユッケは言う。

「あたしはね、ママがいてもいいなって思ってた。そうパパに言ったら、ぐりぐりーって、頭をされて、それっきりだったゾ。」

「まあ、という訳で私も妹も、だから拾われた子だということで、特に不快な思いをした記憶はない。」

「パパはあたしたちが、世界でいっちばん好きっ!!っていっつも言ってくれたもんね。」




なんだろう。

きっとこの兄妹って、スゴくポジティブなんだろうな。

生活に困った事がないっていうのも大きいんだろうけど、どっちがが少しでも、どっかの誰かみたいな考え方したら、きっとこのカジノの経営だって、スゴくドロドロしただろうし。




それって…


「ギャリングさんって、いいお父さんだったんでしょうね。」

「もちろんっ!!」

ユッケが力いっぱい答えた。



「パパのこと、大好きだゾっ!!」

ちょっと恥ずかしいくらいの、断言だった。




「…こんなものは、主観的な感想なんだがな…」

この年頃の男の子の方が、恥ずかしがり屋なんだろう。

フォーグはちょっともって回った言い方をした。




「私だって、血のつながりがない、という事を気にしたこともあった。だから聞いたことがある。どうして、捨て子の私たちを拾ってくれたのか、父となってくれたのか、と。ギャリングの父は答えたよ

『女と違って、男にとって子どもってのは、ある日突然、目の前に現れるモンだ。だったらそれが、女房の腹から出てこようが、教会の前に捨ててあろうが、たいした違いはねえじゃねえか。』

父は、あまり言葉を飾らない人だったからな。そして、続けた。

『あとは、てめえらで家族になってこうって、意志の問題だよ、意志の。血のつながりがどうとかは、また別の話さ、なあフォーグ。』」













家族に生まれる、んじゃなく、家族になる


あたしは、ククールにプロポーズされてたのに、多分そのことについてちゃんと考えてなかった。




そうよね、夫婦って、どう考えても“家族になる”意志が必要だもんね。







「そーそー、泣いて笑って喧嘩して、お兄ちゃんなんかキライって言って、そしたら家族になるんだよね。」

「おいおい妹よ、私はお前みたいに駄々をこねたりはしていないぞ。」

「なにさー、まんまとあたし達に睡眠薬盛ったくせにー。」

「グッ…まだそのネタを引きずるか。」

「一生、言ってやるもんね。だってお兄ちゃんとは、一生の付き合いだもん。」




兄妹だけど“家族になった”二人の、なんか“いちゃいちゃ”と表現したくなる会話を聞いて、あたしは現実に戻った。




「あんたたち、そのうちそれぞれ結婚するかもしんないでしょ?旦那さんだの、奥さんが妬くわよ。」

カジノの共同経営者なんだから、どっちかがどっか行くわけにもいかないわけで、少なくとも同じ街で過ごすことになるんだから…うわ、あたしならパスだわ。どっかの二階からイヤミを小舅として同居するくらい、イヤ…




「あ、そっか。」

ユッケは今気付いたように、フォーグを見上げると




「じゃお兄ちゃん、あたしと結婚しよう!!」

と言って、いちごミルフィーユのいちごを、


ぱくり

と食べた。




「ななななな…ナニをバカなコトを言うのだ、妹よ。」

割とスカしたイメージのあるフォーグが、お茶をソーサーに零すくらい動揺した。




「だって、お兄ちゃんのお嫁さんと、あたしの未来の旦那さんを焼かせちゃ気の毒じゃない、ねえ?」

「だからって、兄妹は結婚できんっ!!」


「あ、やっぱりダメ?」

「…血が繋がってなかったら、出来る…かな?」



あたしが昔、「サーベルト兄さんとけっこんするー」って駄々をこねたら、神父さんが「血の繋がったきょうだいは結婚できないんだよ」って言った気がする。

つまり、血が繋がってなかったら、いいワケ…かしらね?





「ほら、ゼシカもいいって言ってるゾ。」

「繋がってるか、繋がってないか、分からんだろうが!!」

「そこは一つ“意志”のモンダイで…」

「どうもならんっ!!」




そうよね。

血のつながりが云々は、個人の努力ではどうにもならないもんね。

どっかのデコい人も、確かそんな事を言ってたわ




なんてあたし、さっきからあの青くてムカつく生物のことばっか思うのかしら。


ああクソっ!!ククールが伝染ったんだわっ!!!











「ちぇー…パパが生きてたら、パパのお嫁さんになったのにな。そうしたらあたし、お兄ちゃんのお母さんなんだからね?」

「あー、はいはい。もういい加減にしたまえ、妹よ。客人に正気と我々の仲を邪推されかねない。」


確かに、ユッケっていい子…かどうかも微妙だし、どこまで天然なのか、よく分かんないトコあるわ。

これが所謂“妹キャラ”って奴なのかしら?











ともかく、ティラミスも頂いたことだし…さすが、ベルガラックの新名所にしようってだけあって、とっても美味しかったわ。暗黒神を倒したら、お母さんにおみやげに買って帰ってあげよう…あたしはお暇することにした。




「えー、もう帰っちゃうの?」


「暗黒神を倒さなきゃ。」

“晩御飯の用意しなきゃ”と同じノリだったのが、ユッケに毒された証拠かもしれない。


「カジノ寄って帰ろうよ。今なら、暗黒神出現キャンペーンで、コインがなんと50%ff!!」

暗黒神の出現ですらキャンペーンのネタにしちゃう、その逞しさにあたしはちょっとクラクラした。



「じゃ、暗黒神を倒したら、超破格、75%offにしてね。そしたら寄るわ。」

「うーむ…50%までならともかく、75%までカットすると、経営がな…」

商魂逞しい兄妹はさておいて、あたしはご馳走様を言うと、入口まで出た。






「ね、お兄ちゃんは知らない、“仲良し家族の秘訣”教えてあげよっか?」

追いかけてきたユッケが、お茶目いっぱいの顔で、あたしの耳に囁いた。




「好き嫌いはハッキリ言うコト。キライな時は

『バカカバ、死んじゃえー』

でも、その後はフォローで

『だーい好き、結婚しよー♪』

これでオッケー。お兄ちゃんみたいなツンデレなら、イチコロね。」
















ホテルに戻ると、どんだけしつこく風呂に入ってたのか、まだ銀髪をブローしてるククールが言った。


「あ、ゼシカ、オレの髪、もうイカ臭くねえ?」


「いやククール、女の子に向けて“イカ臭い”の連呼は、いくら親しいとは言え、どうかと思うんだけど…」

紳士なエイタスのフォローが入る。

そうよね、“髪がイカ臭い”って、聞く人が聞いたら、スゴい想像とかされちゃうかもしんないもんね。




すたすたすた

あたしはククールに近寄ると、その髪の匂いを嗅いだ。




ふんわりとした、香料の香り。




「臭くないわよ?」

「マジ?もっとちゃんと臭ってよ。」


あたしは、ちょっとウザくなったので、誰にも聞こえないように、ククールにそっと囁く。





「ね、ラプソーンを倒したら、あんたマルチェロを探すんでしょ、どうせ?」

驚いて振り向くククールにあたしは続ける。


「また喧嘩しないように“仲良し家族の秘訣”教えてあげようか?」

“興味有り”って表情がきらめいたから、あたしは続けてやった。




「好き嫌いはハッキリ言う事。つっても、激しく“ケンカ”したんだから、もうキライの方は十分よね。だから、次は会ったらすぐに叫ぶのよ。

『だーい好き、結婚しよー♪』

これでオッケー。あいつみたいなツンデレなら、イチコロね。」





ククールの長いまつげが、五六回、ぱちぱちされた後。
















「なんだよ、それーっ!!!!!」

壮大な絶叫が響いて、イカ刺しで一杯やっていたヤンガスが、壮大にお酒を吹いた。














ま、いいわよね。


これでしばらくはククールも、髪がイカ臭いとか、頭から消えるだろうし。







2007/8/15




ベルガラックきょうだいが書きたかった話。
つーかユッケに「お兄ちゃん、結婚しよー」と、妹萌えがボッキするような台詞を吐かせたかっただけなのです。

二人とも妙に明るいですが、よく考えるとかなりドロドロしてもおかしくない状況…七賢者の子孫が養父という点では、どこかの青赤兄弟と一緒なのに、ちゃんとケンカしながら仲良くしている二人は偉いと思います。きっと、親御さんのご教育が良かったのでしょう。

さて、ゼシカが教えてあげた“仲良し家族の秘訣”ですが、もしそれが実行された場合、マルチェロはどういう反応を示すでしょうか?

@五秒間沈黙した後、何事もなかったように、しかし全速力でククールの前から消え去る。

A半瞬の後に、グランドクロス。

B「嬉しいよ、ククール。お前からその言葉が聞きたかったのだ。」と、めっさ棒読みで言いながら、レイピアを構える。

Cその他、“とてつもなくおそろしいこと”が起きる。




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