Give Me Chocolate of Love
ついに、ついにっ!!拙サイトでほとんど存在自体を抹殺され続けた“あの人”の語り話ですッ!!
ちなみに、拙サイトの主人公の名前は“エイタス”です。
「なーゼシカ、ひでーじゃん。チョコくんなかったなんてさー。」
「しつこーいっ!!」
ぺしっ!
ゼシカの平手がククールの顔面ど真ん中に飛ぶのじゃが、ククールはひらりと避けた…のじゃが、ゼシカのスピードが速すぎたのか、はたまたわざとなのか、その中指の先がククールの顎をかすった。
「あー痛ー。」
別にさしたる痛さでもないじゃろうに、大げさに顎をさするククール。
「あんたがしつこいからでしょっ!」
そして、平手を飛ばす程のことでもないじゃろうに平手を飛ばしておいて、一人で怒るゼシカ。
いやあ、二人とも若いのう。
なあんてオッサン臭い感想を抱いてしまうワシは、やっぱりもう年なのかのう。
ま、あの小さくて可愛らしかった姫が、もう嫁に行くとか行かんとかいう年頃になったからには、当然じゃろうが。
春うららかな街道。
ワシの最愛の姫は、男二人に諸荷物、それに錬金釜まで載せた馬車を、嫌な顔一つせずに牽引しておった。
次の目的地まで少々強行軍で進まねばならぬワシ等は、体力を温存するために交代で馬車で休みながら行進しておった。
そして今、馬車の中で仮眠をとっておるのは、ワシの従者たるエイタスと、その更に従者であるヤンガスじゃ。
そして、外で歩いておるのはククールとゼシカ。
何?いざ敵が襲ってきたらじゃと?
その時には、魔法が使えるとはいえ非力な二人が足止めしている隙に、主君たるワシが寝こけた従者どもをたたき起こすというナイスな布陣じゃ。
いや、いざとなったらこのワシが、そんじょそこらの剣士より遥かに上のこの腕を披露してやっても良い。
なあに、ワシはこんなナリになってしまったとはいえトロデーンの王であるぞ。ワシに仮眠などいらんわい。王者の責務という奴じゃ。
じゃから安心して休むが良い、エイタス、ヤンガス、カッカッカ…
と、大口を叩いたは良いが、先ほどから魔物の“ま”の字も出てこん。
“ま”の字くらいは出てきたとしても、ゼシカに脅かされて逃げていくような根性ナシばかり。
おかげでワシは、“春眠暁を覚えず”という先人の言葉を体感しつつある…
ハッ、いかんいかん。
ワシの可愛い姫が健気にも歩みを止める事がないというに、父親であり王であるワシが、御者台で居眠りなどとは…
だがしかし、あんまり何もせんと眠ぅなってしまうので、ワシはお邪魔とは知りながらも、若い二人の会話に首を突っ込むことにしたのじゃった。
若い二人の話は、年頃の男女によくある色恋の話になっておった。
ゼシカが、チョコなんて貰い慣れてるんでしょ、と剣突を食らわせれば、ククールはククールで、愛する君から欲しいんだよ、ハニーなんぞと、甘ったるい声で返す。
まったく、最近の若いモンは。
ワシが若かった頃は、男児たるもの、自らからはそんなことは冗談でも口にせんかったもんじゃわい。
そしてゼシカが、どーせ誰にでも言ってるでしょこの遊び人!、と更なる剣突を食らわせば、なんだよつれないなハニー、オレだって本命とそれ以外への台詞くらい変えるさ、とククールが返す。
そんなにガールフレンドに不自由しなくていいわね、一人フッたってすぐに次がいたんでしょ、とゼシカがもっと剣突を返すと、
「オレはそこまで割り切った男じゃねーよ。」
「…なによ…」
おお、なんぞ面白い話になってきおった。
「オレの礼拝の得意先の屋敷がある町で、オレは仕立て屋の可愛い女の子と出合って、付き合った。」
「それって…あんたより綺麗な子?」
“あたしより可愛い?”と聞かんあたりが、素直じゃないのう、ゼシカも。
「…なにせオレは絶世の美青年だから、よ。」
ククールは気障っぽい仕草でわざとらしく前髪をかき上げると、
「でも、ま、中の上くらいには可愛い子だったんだぜ?しかも、働き者で、気立てが良くて…」
少し遠い目をするククールに向けたゼシカの目が険しくなった。
「あーそー、ご馳走様っ!!で!?」
声に棘かあるのが丸分かりなのが、いくら強力な魔法使いとは言っても十八の娘じゃというべきか。
「それに、ふわっふわの巻き毛がとびきりキュートでさ。よく触って感触を楽しんだモンさ。」
ついでに、好きな子をわざと怒らせるような事を言う辺り、ククールも子どもじゃのう。
「なにせ得意先の邸のある町の子だからさ。礼拝さえさっさと済ませりゃ、時間も都合できるし。鬼の団長どのの目が届かないから、よくいちゃいちゃデートしたなあ…」
やれやれ、聖堂騎士というのに。
とは言っても、恋と女の子に憧れるのは若者の特権というものじゃ。
かく言う私も、王位を継ぐ前にはさんざ恋に…
「あーあー、ラブラブでよござんしたね。」
「いーだろ?」
「んでっ!?」
「で、オレは彼女と時間の許す限り一緒にいたんだけどさ、その子ってばなんかいっつも人目を気にするわけよ。んで言うんだ。
『ね、ククール。また見られてる…』
オレは答える。
『君が可愛すぎるから、野郎どもが振り向いていくのさ、マイスイーツ』
彼女は言う。
『違うわ、振り向くのはいっつも女の人よ。』
オレは言う。
『絶世の美青年はツラいな。』
…つーかさ、オレみてえな女神さまが男装したみてーな美青年をつれて歩いてんだから、トーゼン、彼女も得意だと思うじゃん?オレもそう思ったわけよ。なのに、彼女が言うには違うんだな。
『…彼氏の方は美形なのに、彼女の方は大した事ないって思ったんだわ…』」
ククールは、何故だかワシの顔を覗き込んだ。
「いやあ、オレは世界レベルの美青年だからワカンネーけど、きっとトロデ王が馬姫さまの母君と一緒に歩いてたら、世の男どもは、麗しの母君を振り向いて思ってたんだろうな。
『王妃さまの方は美人なのに…』
ってよ。」
「“なのに”とはなんじゃ!?大きなお世話じゃわい!!従者のくせに無礼なッ!!」
オレは従者じゃねーもーん
軽口を叩くククールをぶん殴ってやろうかと思うたが、生憎とククールはとっととワシの手の届かぬトコまで逃げてしもうていた。
「だいたい、姫の母とワシは、スゴいロマンスで結ばれたオシドリ夫婦だったんで有名だったんじゃぞ!?…信じておらんな?のう姫、其方の母はいつもいつも
『あなたの父上は世界で一番ハンサムよ♪』
というておったろ?」
ヒヒン
我が愛娘は、馬になってすら品格の漂う嘶きで、父の言葉を肯定した。
「だいたい、今は魔物の姿じゃが、あの忌々しいドルマゲスめの呪いを受ける前は、トロデーン一、いや、西の大陸一チャーミングな殿方と言われた…」
「いやモチロン、オレの彼女はどっかの“両生類ぽい王様”とは似ても似つかない可愛い女の子だったんだけどさ。でも哀しいかな、ちょいとオレが麗し過ぎてさ。いや、モチロン、オレは彼女をすんげえ可愛いと思ってたから付き合ってたワケだし、そん時は世界で一番彼女が好きだったから、彼女のそんな言葉なんて笑い飛ばしてたんだけどさ…」
「ええい、ワシの発言を無視するとは…」
「んでっ!?」
ワシの正当な抗議は、ゼシカの大声にかき消された。
仕方あるまい。
ワシはオトナじゃから!!
ここはぐっと我慢の子じゃわい。
ククールは、続けた。
「バレンタインの日。まあ、この色男ぶりだから仕方ねーんだけど、オレはお邸の奥様、お嬢様、メイドの娘、洗濯のおばさん、コックのお姉さん…と根こそぎチョコをプレゼントされちまって…まあ、オレってほら、世の女性のナイトだから断れねーじゃん?ついでに町を歩くごとにチョコを貰い倒しちまって、肝心の彼女とのデート場所についた時には、チョコの山を抱えて、だったのさ。」
「あんた、サイテー!」
「仕方ねーじゃん!まさか捨てられねーし…けど、さすがにちょっと気が咎めて、会うなり彼女になんかこう、ぶちぶち言い訳しちまったんだけどさ。彼女ってば、嫌な顔一つしねーの。
『ククールってば、モテるもんねっ♪』
ってサワヤカに言って、そして彼女もチョコをくれた…オレもにっこり笑って受け取って、んでそのままデートに行ったんだ。」
「あたしなら、絶対メラミはカタいのに。そんなケーハクなオトコッ!」
「はは、君なら自分から以外のチョコはぜぇんぶその“恋の炎”で溶かしちまうだろうな…」
「当たり前よ、ホントに好きなら、ムカつくに決まってるじゃない…あんたが好きだなんて一言も言ってないからねッ!!“あたしがその彼女だったら”って、万が一の仮定よッ!!」
はは
ククールは小さく笑うと、ゼシカの言葉を復唱した。
「ああ、『ホントに好きなら』彼女だってムカついたんだろうな…」
ククールの表情が、曇りおった。
「一月後。オレは久々の礼拝任務をあいつから貰って、お返し持参で礼拝に行った。さすがに貰ったからには返さなきゃなんねーじゃん?だから、オレはお邸の奥様、お嬢様、メイドの娘、洗濯のおばさん、コックのお姉さん…と根こそぎお返しをして、そして町に繰り出して、やっぱりお返しを配ってたら…彼女が来た。」
「その“心の広い”彼女は、やっぱりサワヤカな笑顔だったワケ?」
ゼシカの言葉に、ククールは返した。
「ああ、サワヤカな笑顔だったさ。んでほら、やっぱ本命用にはとっておきのお返しを用意してるモンじゃん?で、ちょっと人目につかない場所で渡そうとしたら、彼女は言った。
『ククールくらいモテモテだと、お返しも大変ね。』
オレは、その言葉にどんな裏の意味が隠されてるか知らねーから、無邪気に返したさ。
『だろ?絶世の美青年はツラいね。』
彼女は、ふふっ、って笑って言ったさ。
『本当。ククールくらいカッコいい人と付き合えた、って、きっとこれからも自慢になるわ。』」
「付き合え“た”?」
さすが恋する乙女は目ざといわい。
ククールの微妙な言い回しに、即座に反応しおった。
ククールはちょっと頷いた。
「彼女は、状況が呑みこめてねーオレに笑顔で続けた。
『ほらあたし…この小さな町では可愛い方だと思ってたけど、ククールなんて男の人なのにそんなに綺麗な顔してるもんね。きっとあたしくらいのレベルの子なんて、いくらでも口説けるのよね。だって、ククールってばエリートな聖堂騎士でもあるもの。あたし、もしかしたら本気であなたが好きになってくれたんじゃないかと思ったけど、友達に相談したら、バカじゃない、って言われたわ。そうよね、そんなワケないわよね。』
オレは否定したけど、彼女はオレの言葉を一欠けらも信じなかった。
『ククールはそんなにカッコいいんだもん。あたしの事なんて、どうせ遊びだったんだもんね。』
オレは真剣に否定したけど、彼女は信じようともしなかった。そして、
『だってククールって、聖堂騎士だから“どうせ結婚できない”しね。本気なワケないわよね?ちょっと遊んでみただけだよね?いいの、別に。』
止めの一言。
『だってあたし、遠くの町にお嫁に行くことに決まったから。』
彼女はさばさばした表情で最後に言った。
『一緒にいれてとっても楽しかったわ。今度はもっと綺麗な子を彼女にしてね。』」
ゼシカが息を呑んだ。
「…見苦しく泣き落とし、なーんて出来ねーじゃん?だってオレは“色男”なんだから。だからオレはにっこり笑って言ったさ。
『オレくれーの美形をフッた事は、未来のダンナに自慢してやれよ、マイスイーツ。どこを比べたって、オレの方がいい男に決まってるんだからさ。』
そしてオレは、ばら撒き用のクッキーを彼女に渡した。彼女は
『ありがとう、とっても美味しそう』
つった…それが彼女の最後の言葉。」
いやあ、女の子ってよく分かんない神経してるよな。オレみてーな世界レベルの美男子をわざわざフッて、別の男に乗り換えようってんだから。いや、女の子の結婚願望はそんくれー強いと言うべきかな。いやいや、恋愛のカリスマとしてベンキョーになった出来事つーか…
「ひどいっ!!」
ゼシカの大声が、平和な街道に響き渡った。
「ひどいッ!!ひどいひどいひどすぎるッ!!なによその女ッ!!サイアクよッ!!あたしの目の前にいたら殴ってやるわ、もちろんグーでっ!!」
ゼシカの顔は、その髪より怒りで真っ赤じゃった。
ワシは驚いたが、ククールの顔を見ると、あやつの方がもっと驚いておったわい。
「いやゼシカ、むしろ罪はオレの美しさにあるつーか…」
「先に心変わりしたのはあっちじゃない!?それを、彼氏がブサいとか、カッコいいとか…今更な理屈つけて正当化してんじゃないわよッ!!」
まるで目の前にその娘がいるかのように怒りまくるゼシカに、ワシもククールも圧倒された。
「いや、まあそれはそうなんだけど、確かにオレは聖堂騎士だから、いざ責任とれ、つわれても責任とれねーのは確かだし…」
「そんなのは最初に分かってる事でしょッ!?」
「…はい…」
被害者なのに叱り飛ばされるククール。
「そもそもねえ…どーせ遊びとか、そーゆー言い方するのが気に入らない!!あんたはどうなのよ、あんたはッ!!カッコいい男連れて歩きたかっただけじゃないって、どーして言えるのよ!!結婚したいなら、女らしく
『結婚するからあなたとは付き合えない、別れるわ!!』
って断言して、拳の一二発は甘んじて受けなさいよ、ねえっ!?」
「いや、オレ、いくら酷い別れ方されても、レディーに拳は叩き込めねーし…」
「軟弱なッ!!」
「すんません…」
思わず謝ってしまうククールに、猶も怒りをぶつけようとするゼシカ。
ううむ、ここは主君として、そして、人生の先輩として止めねばなるまい。
「こりゃこりゃゼシカ、そんくらいにせんか。」
「だってトロデ王!?」
かくしてワシは、ゼシカの怒りを収めるために、小一時間は手間をかけさせられたのじゃった。
その夜。
「ほらトロデ王、差し入れ。いくら春とはいえ、まだ夜は寒いからよ。」
ククールが酒とツマミ持参で、町の外に野営するワシを尋ねてきおった。
「おう、さすがワシの従者じゃ。気がきくではないか。」
「誰が従者だよ…ま、昼間の事の礼ってヤツ?オレ一人だったら、ゼシカの怒りの拳を顔面にくらってそうな勢いだったからな。女神さま渾身の芸術作品なこの顔を傷つけたら、ゼシカが地獄堕ちになっちまうトコだったさ…聞いてんのか、おい?」
「おっとっと…ん?なんじゃ?…くうっ、腹に滲みるのう。」
「ちぇっ…どーせ魔物ヅラなトロデ王にゃ、絶世の美青年のオレの高貴な悩みはわかんねーよな。ま、世の中のほとんどのヤローにゃ無縁の悩みだよな。“美形過ぎるから”って理由でフラれるなんてよ。」
「ほれ、お前も呑むか?」
「…言っとくけど、この酒自腹だからな。」
「分かっておる分かっておる、感謝しておる!」
しばし無言で酒を呑んだ後、ワシは言うた。
「自慢じゃないが、ワシは五十数回連続でフラれた事がある。」
「ああ、納得…」
可愛げのない返答じゃが、ワシはオトナのオトコなのでぐっと堪えて続ける。
「五十数回もフラれ続けたが…それでも失恋というのは毎回ツラかった…辛くて辛くて、ワシは毎回涙を零したわい。」
「…オレも…」
ククールも呟いた。
「ドニで自棄酒を呑んで、そこの酒場のバニーに彼女にあげる筈だったお返しをものすごく“何気なく”やって、べろんべろんに酔っ払って帰ったら…はは、聖堂騎士団長どのがお出迎えさ。
『随分遅いお帰りだな、聖堂騎士団員ククール。そして…おやおや、私の鼻はおかしくなったかな?禁欲を女神に誓った聖堂騎士たる君から、安酒の臭いがぷんぷんするのだが?』
へへ…オレも若かったな。それに酒も入ってたしな。オレは鬼の団長どのにこう言い返してた。
『なにせ今日は、オレみてーな恋の達人には一年で一番忙しい日なんでね…』
あいつは、あのデコに不快な皺を寄せて言った。
『誰に口をきいているつもりだ?』
オレは鬱憤を晴らすように言葉を叩きつけた。
『恋の一つも知らねー冷血漢の聖堂騎士団長殿ですよッ!!』
ま、返って来たのはあいつからのモノホンの鉄拳さ。気持ちいいくらい殴り倒された後、オレは文字通り引きずられて、そして地下の異端審問室で、さんざ仕置きを食らった…」
ククールは、思い出したのか顔を伏せた。
「ようやく解放されて、ホイミで傷を癒して…けど、それでも心が痛くて痛くて…オレは眠ることすら出来なかった。ひたすらベッドで寝返りを打って…でも、相部屋だから泣きも出来ねえ。オレはとうとうベッドを抜け出して、夜の庭に出て…そしてそこで一人泣いた…オレはホントに彼女が好きだったのにって…本当に、本当に好きだったのにって…オレのこのキレーな顔がぐちゃぐちゃになるほど泣いた…」
ククールは酒を舐めると、続けた。
「どんだけ泣いたんだろ…オレは人の気配を感じて顔を上げた。そしたら…あいつがいた。」
ホント、誰よりも遅くベッドに入るくせに、誰よりも早起きだからやんなっちまうよな。
ククールはぼそぼそと愚痴ると、酒を一気に呷り、そして空になったカップを握り締めた。
「オレと視線が合った瞬間…あいつは薄ら笑った…オレは多分、どうしようもなくひどい顔をしていたけど、あいつはそんなオレに、ただ冷笑しか向けやしなかったんだ…」
ワシは、あいつ、ことマルチェロの、あの酷薄な笑みを思い浮かべた。
母親が違うとはいえ実の弟が、顔をぐちゃぐちゃにして泣いているというのに、理由も聞かず、もちろん慰めもせず、ただ、その苦悩する姿をせせら笑うとは…
「そしてあいつは、すぐさま踵を返した。その背中は振り向く気配すらなくて…ああ、オレはそん時思ったよ。
“オレは間違いなく、今、世界で一番不幸だ”
って。
“世界には、オレを愛してくれる人なんて、もう誰もいないんだ”
って…」
ほう
ククールはため息をついた。
「ほら、オレって美麗すぎるからよ。“どーせ遊び人でしょ”とか“カッコいいオトコを連れ歩きたいから”とか、割とその手の台詞はよく聞くんだ。いや、聞くのはいいんだけどさ…どうして女の子って、オレみてーな美形はみんな不誠実だって決めたがんのかな…ゼシカだって、オレにチョコすらくんねーし…」
ワシは立ち上がると、馬車の奥を探った。
「なんだよオッサン、ヘソクリでもオレにくれんの?…なに、この黒い物体?」
ワシが渡した“物体”を、ククールは不思議そうにみつめる。
「信じられんかもしれんが…」
「が?」
「それはチョコじゃ。」
ワシが重々しく告げると、ククールは目をぱちくりさせた。
ワシは語ってやった。
バレンタインの前の晩、皆が寝静まった後、ゼシカが宿の台所を借りて密かに奮闘しておったことを。
じゃが、その魔術の腕の反比例して不器用なあの娘は、結局、“黒い物体”しか作りだせず、半泣きでラッピングごとそれをゴミにしたこと。
あまりに不憫に思ったワシがそれを密かに拾い上げ、綺麗に拭いてとっておいたこと。
ククールは神妙な顔をして聞き終わると、一旦はゴミ箱に捨てられた“黒い物体”を齧った。
「…苦っ…」
ワシは、そう言いながら顔をしかめるククールの、なんとも切ないその行動に、涙すら零れそうになった。
「…愛とは苦いモンじゃぞい。」
「知ってるよ…」
ククールはもう一口、齧った。
「けど、時には甘かったりするんだ…」
噛み締めるようにそう言うと、ククールは、その澄んだ青い瞳を下に向けた。
「うむ、愛とは甘いものなのじゃ。」
「見た目じゃねーよな…」
そして、そう呟いた。
終
2007/3/6
愛餓男なククールです。
どうしてウチのククールは、美形なのにこんなに可哀相な子なんだろう。
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