しんねんのほうふ
元拍手話。タイトルがタイトルなのに、二月も中旬まで拍手になってたのはナイショ♪
今年のお正月は、トロデーンのお城は静かです。
毎年は、年始の挨拶をするお客で目が回るほどなのに。
どうしてか、ミーティアは知っています。
この国の王妃さまが
つまり、ミーティア姫のお母さまが、亡くなったからです。
「ミーティアよ。」
だから、いつもはお正月は忙し過ぎてミーティアを構う余裕のないトロデ王も、ミーティアに話しかけてくれます。
でも本当はそれは、母親を亡くしてしまった娘への、精一杯の気遣いだったと、ミーティアも分かっています。
だからミーティアは、
にっこり
と微笑みます。
「なんですの、お父さま。」
「おうおう…」
話しかけはしたものの、我が娘の健気さに涙しそうになるトロデ王です。
「…何をしているんじゃ?」
「ミーティアは、考えていました。」
「ほう…何をじゃ?」
「今年の、ほうふ、です。」
「抱負?」
びっくりした顔のトロデ王に、ミーティアは大真面目に答えました。
「ええ、ほうふですの。ミーティア、今年のほうふをきちんと守って、もっと立派なミーティアになりますわ。」
「えらいのう、ミーティアは本当にえらいのう。」
トロデ王は、そう言って何度もミーティアの頭を撫でてくれました。
「では、決まったらワシにも教えておくれ。」
「もちろんです。」
ミーティアは力強くトロデ王におへんじしました。
「お父さま。」
ミーティア姫がにこにこ笑顔で、見知らぬ黒髪の少年を連れて走って来たのは、それからしばらくしてからのことでした。
「お父さま、ほめて下さいな。」
彼女があまりに笑顔だったので、トロデ王は少年の素性を聞く前に、ミーティアに対応することになりました。
「姫や、いったいどんな良いことをしたのかね?」
「ミーティア、もう今年のほうふを叶えましたわ。」
「また、えらく早いのう。」
「でもお父さま、
『ノルマのクリアは早い方が良い』
って、えらい方がおっしゃってましたわ。」
我が娘の、あまりにしっかりした物言いに、トロデ王はちょっと気おされました。
でもそれはそれとして、きちんと娘に向き合う立派な父親であるトロデ王です。
「…で、ミーティアや。今年の抱負が何だったか教えてくれんと、ワシはほめてやれんぞい?」
トロデ王の言葉に、ミーティア姫は真面目な顔になりました。
「きょねん、ミーティアのお母さまは女神さまのおひざ元に行かれてしまいました。」
「そうじゃのう…」
それだけで、思わず涙ぐみそうになるトロデ王です。
「でも、しんぷさまがおっしゃいました。
『人に別れはつきもの。だから、一人を失ってしまったら、もう一人と出会いなさい』
って。だからミーティア、今年のほうふをこうしましたの。
『新しいおともだちをつくる』
って。そうしたらきっと、お母さまがいなくなってしまったさびしさを少しずつなんとかできますわ。」
「姫…」
もう涙がこぼれそうなトロデ王です。
「だからミーティア、さっそくおともだちを探しにいきましたの。」
「ミーティアは行動派じゃのう、エラい、エラいぞーっ!!」
鼻をすすりながら、トロデ王は我が娘の頭を撫でます。
「そしたら、すぐに見つけましたわ。」
「おお、姫のけなげな心を女神が嘉し給うて…」
そこまで言ったところで、ようやくトロデ王は気付きました。
「もしかして、姫が連れて来たその少年が“おともだち”かのう?」
「もちろんですわ。」
ミーティア姫は、自信満々に頷きました。
「名前は何と言うんじゃ?」
トロデ王の問いに、少年はちょっと困った顔をしました。
そしてすかさず、ミーティア姫が言いました。
「おともだちの”エイタス”ですわ。」
「ところで、どこの子かのう?」
トロデ王の問いに、少年はまた困った顔をしました。
更にすかさず、ミーティア姫が言いました。
「裏の森ですわ。」
「ミーティア姫や、あんなところに村はあったかのう?」
「まあお父さま、村はありませんわ。」
「では、この子はどこから…」
「森に落ちていたんですわ。」
ミーティア姫は、自信満々に返答しました。
ミーティア姫の話を総合するとこうでした。
今年の抱負を「新しいおともだちをつくる」に決めた彼女は、さっそく、遊び場の裏の森に行きました。
誰か子どもが遊びに来ていたりしないかと思っていたからですが、そこには遊んでいる子はいませんでした。
ただ、途方に暮れた顔で
ぽつん
と立ち尽くしているこの少年だけがいたそうです。
名前を聞いても、住んでいる場所を聞いても
「分からない」
とだけ答える少年の肩には、なぜか案じ顔に見えるネズミだけがとまっていました。
「ねえ、お父さま。だから、今年のほうふを叶えたほめて下さいな。」
「ミーティアや、お前の話を聞く限りでは、エイタスと会ったのはさっきではないんかのう?」
「ええ、ついさっきですわ。」
「なら、まだ“おともだち”にはなっていないのではないんじゃないかのう?」
「まあ、へんなお父さま。」
ミーティア姫は
にっこり
と、天使のように微笑んで、言いました。
「おともだちになりますわ。」
「…」
姫のあまりに自信満々の笑顔に、トロデ王は姫に何も言えなくなりました。
ですから、ミーティアに、エイタスと“名づけられた”少年に言いました。
「というわけで、姫をよろしく頼むぞい、エイタス。」
どうやら全ての記憶を失っているらしい少年は、あまりにあまりな急展開の中、それでも強くきれいな笑顔で、答えました。
「はい。」
それが、全ての伝説の始まりだったと知る人は、まだ、いません。
終
2009/2/12
主姫話で、「主人公とミーティアの出会い」編。
ウチのミーティアはこんくらい強引です。姫様ってのは、「たおやかに見せかけて芯が強い」のが基本萌えみたいですが、ウチのミーティアはただの
傍若無人
かもしれません。
だって緑眼だしね?(え?)