冬の小片
元拍手話。
体は冷たくても、心が温かくなる恋人たちのお話集。
何よ、別にあたし、あいつのために、ちょっと女の子らしいコトしてお株上げようなんて思ってないんだからね。
だいたい、手編みでなんか作ろうとか、そういう定番すぎるコト、あたしが好きだなんて、あいつだって思ってないわよ。
そもそもさ、あいつってば修道院育ちだしね、あの体にピッタリしすぎた聖堂騎士の制服のどこに、毛糸製品身につけられるって言うのよ。
毛糸のパンツなんて穿いたら、モコモコで一瞬でバレて、あのどこでもイヤミに何言われるんだか分かったもんじゃないんだからね。
「ゼシカ、どこまで編めました?」
「…ちょっと。」
「まあ、何て言葉通りのこと。まったく、女の子らしいことを全くせずにきて、この冬になって唐突に毛糸で手編みをしたいなんて殊勝なことを珍しく言いだしたかと思えば…」
「ちょっとだから、ちょっとって言っただけじゃない。」
「自分でしたいと言ったのですから、きちんと手を動かしなさい。先ほどから見ていましたけれど、ぶつぶつと口ばかり動いていて、手はお留守でしたよ。」
「はーい。」
「返事は短く。」
「はい、お母さん。」
だいたいね、あいつ、きっとこーゆー手作りプレゼントとか貰いなれてるに決まってるのよ。
だってタラシだもの。
あームカつく、何よ、ちょっと顔が女神さまレベルにいいからって。
中身はあんなのなのに、あいつに惚れるなんて、みんなバカばっかり。
あーもう、なんで編み物ってこんなに進まないのよ。
こんなに進まないんなら、プレゼントの約束期限なんて切るんじゃなかった。
お母さんの指導は厳しいし。
仕方ないじゃない、手作りマフラーなんて初めてなんだから。
ホントはセーターとか編みたかったのよ、でも、難度高すぎたんだから仕方ないじゃない。
「ゼシカ、編み目の数は合ってますか?」
「えっ…あっ!!」
「ああもう仕方がない。」
「いいわよ、自分で解くから…」
まったく、またやり直しだわ。
いつになったら完成のメドが付くのかしら。
もうっ、ここまでして喜んでもらえなかったら、あいつ、絶対メラゾーマの刑よっ!!
「はい…プレゼント。」
あたしが手編みのマフラーを手渡すと、ククールは、ものすごくにっこり笑った。
「うっわー、嬉しいー。」
あんまり嬉しそう過ぎて、あたしは不安。
「編み目とかガタガタだけど…」
「それがまた、愛情手作り感満載でイイんじゃん。わー、あったけー。うれしー。チョー嬉しい。」
なんか、その台詞がものすごく言いなれた感満載で、あたしは不安。
「…その台詞言うの、あたしで何人目?」
ククールは、ちょっと目を瞬きさせた。
「ちょーど、150人目。」
「…」
「いっやー、オレモテるからさ。」
あたしは、メラゾーマの準備をする。
今なら、連発出来るわ、多分。
「…でもさ。」
「…何よ。」
ククールは、笑う。
「いっちばん実感込めてて、いっちばん嬉しいのは、今回が最初。」
ニヤっ、て。
「…このタラシっ!!口ばっか巧いんだからっ!!」
あたしが怒鳴ると同時に、抱きしめられた。
「ちなみに、巧いのはおクチばっかじゃねーぜ?試してみるかい?」
「バーカ!!」
夢の中でも、こうやって会えて、ミーティア、とてもうれしいです。
とっても寒くなったわね、風邪などひいていない?
そう、大丈夫、でももう雪が降りそうね。
雪と言えば、ねえエイタス?いつかの冬のこと、覚えている?
そうそう、あの雪のお山のお話よ。
お城の人で雪かきした雪で作った雪山。
もう温かくなり始めていたから、みんなで「いつまで残っているだろう」って話していたわよね。
みんなは、あと2週間くらいだとか言っていたけれど、ミーティアだけは
「絶対、1か月もちます。」
って退かなかった。
みんながそんなことはないって口々に言ったけど、ミーティアは断固として退きませんでした。
ワガママでしたのね、わたくし。
だからみんなに
「だったら1カ月この雪山が溶けずに残っていたら、みんな、ミーティアに『ごめんなさい』って言いなさい。」
って、そんなことまで言ってしまって。
ミーティア、それ以来、雪山が気になって気になって仕方がなくてね、雨が降りませんようにって、毎日女神さまにお祈りしていたのよ。
ミーティアの祈りを女神さまが聞き遂げて下さったのか。
3週間経っても、雪山はまだ残っていました。
ミーティアは嬉しくて嬉しくて。
明日で1カ月経つって夕方には、明日、みんながミーティアに「ごめんなさい」って言うのだと想像して、なかなか寝付けなかったくらいです。
そして翌日、朝早く目が覚めたミーティアが見に行った時には…雪山は跡形もありませんでした。
おかしいと思って、ミーティアは大騒ぎしましたわ。
だって、まだ前の日には溶けちゃわないくらいの量がありましたもの。
そのうち、ミーティアがあんまり大騒ぎしすぎたものだから、お父さままで出ていらして。
そしたら、あなたがホウキを持って現れて言いましたね。
「ああ、すいません。ついうっかりして、雪、片づけちゃいました。」
うふふ、ミーティア、それはもうすごく怒っていましたね。
せっかく今日が1ヶ月目だと言うのに、なんで片付けてしまうのだって。
お父さまだって、
「まあ、事実、残っていなかったのじゃ。仕方あるまい。」
なんておっしゃるし。
ミーティア、大暴れして…あなたをぶったりしていたかもしれませんね。
結局、雪山がいつまで残っているかという賭けは、勝者なし。
ミーティアは、とっても不服でしたわ。
あなたのせいで、勝てなかったって。
ねえ、今だから白状します。
ミーティア、後でお父さまに呼ばれて叱られましたのよ?
あなたは、うっかりでなく、わざと雪を片付けたんだって。
一国の姫ともあろう者が、つまらない意地から始めたつまらない賭けで人に頭を下げさせるようなことは、ミーティアの為にならないと考えたからだって。
ミーティアはお父さまにそう言われても納得できなくて、今まであなたに謝っていませんでした。
遅くなりましたけれど、謝りますわ、ごめんなさい。
馬に変えられて、この旅に出て、ミーティア、いろんなことに気付きました。
でも、一番よく分かったのは、あなたがとても素晴らしい人だということ。
お父さまやミーティアのことを自分よりも考えていてくれるということ。
ミーティアは、もちろん馬の姿でいることは嬉しいことではないですけれど、でも、そのことに気付けたことはとても良かったと思っています。
ありがとうエイタス。
そして、これからもよろしくお願いします。
ええ、ふつつかなミーティアですけれど。
「何かアタシの顔についてるって言うのかい?そんなにジロジロ見てさ。ええおい、ヤンガス、言いたいことがあるならハッキリお言いよ。」
「…ゲルダ。」
「何だよ。」
「そのカッコ…冷えねえか?」
「はあっ!?大きなお世話だよ。このカッコはねえ、アタシのポリシーなんだ。アンタみたいな着たきりスズメにとやかく言われたくないねっ!!」
「でもよ、もう大分と寒くなって来てるんだぜ?そりゃこのアジトにいる時ぁいいかもしんねえが…」
「うっさいねえ、じゃあ何かい?あんたが何か着るものでもくれるって言うのかい?」
「ああ、何だ着るものが欲しいのか。そうか、そうならそう言えよ。」
「ジョーダン、誰があんたなんかからプレゼントなんて…ちょっと、おいヤンガス、どこ行くんだい?人の話は最後まで…チッ、耳の遠い男だねェ。何さ、あんたからのプレゼントなんて…別に…」
「は?何?ヤンガスから届いたって?ハン…で、そのヤンガスは?はーん、大したもんじゃないからって、言付けて返った…なんだ、帰っちまったのかい…あ?ああ、いいさ、せいせいする。あんな気の利かない男の顔なんて見たくないねっ!!で、その小包は…とっととおよこしよ。中身中身っと…何くれたんだろう…え?ええっ!?毛糸のパンツっ!?な、手紙?
『女は腰冷やしたらマズイって店員が言うから、これにした』
はあーっ!?よりにもよって、人によこすのに、毛糸のパンツはないだろっ!?まったくヤンガスはいっつもいっつも…え?処分するかって?トーゼン…いや、いいさ。あんた達の手を煩わすまでもないよ。こんなモン、自分で叩き捨ててやるからねっ!!さ、さっさとあっちへ行きなよっ!!」
「な、なんだよジロジロこっち見て。アタシの顔になんかついてるのかい?は?そのスカート姿は、イメチェンしたのかって?あ…ふざけんなっ!!コレはその…アレだよ、ちょっとした気分転換ってヤツさ。何だよ、似合わないっていうのかい?あ?似合う…じゃあいいじゃないか。何だい、そこ、クスクス含み笑いなんかしてさ。アタシのスカートの下が何かおかしいとでも…いや、何でもないよ…ああ、もうっ!!野郎ども、こんな所でボヤボヤしてんじゃないよ!!さっさと次のお宝でも探してきなっ!!」
終
2011/2/27