はじめに その三
「…三ヶ月?」
それって、ストーカーって言わない?
ククールはそう言い切る事が出来ませんでした。なぜなら、ゼシカがマダンテ発動モードに入ってしまっていたからです。
「ぜ、ゼシカっ!!いいからちょっと落ち着いて…」
「うふふふふふふふふ、大丈夫。暴走した魔力が大爆発を起こすだけだから♪」
「それは大丈夫っていわねー(泣)!!」
ククールが必死でゼシカをとどめている間も、マルチェロは話を続けていました。そう…昔から彼は、一旦自分の世界に入ると、周りが見えなくなる人だったのでした。
「世界を滅ぼしかけた私には、畜生の姿こそふさわしいと暴れ牛鳥の皮をかぶってな…(遠い目)」
「…」
マルチェロの発言と遠い目に、テンションが一気に下降したゼシカは、涙目でククールを見上げました。
お願いククール、あの生物を神の御許に送ってやって。
ゼシカの澄んだ瞳は、どんな言葉よりも雄弁にそう語っていましたが、ククールはとりあえず気付かなかった事にしました。
「あ、兄貴…その…」
「そして私は知った。お前とそちらの、瀕死の私にとどめ代わりにマダンテをブチこんでくれたお嬢さんが結婚を考えるほどの深い愛情で結ばれているとな。」
「ゴメン兄貴、ゼシカがマダンテ覚えたばっかでつい、試し使いの標的に使っちゃって…」
だって兄貴弱かったんだもん…とはさすがにククールは口にしませんでした。
「気にすることはない。今となっては弟の成長は喜ぶべきことだと分かる。なんせ、聖職者のお前が地獄のいかずちを召還できるほどに腕を上げていたと分かったのだからな」
「兄貴…もしかしてホントはオレに嫌がらせしようとしてる?」
「いまさらお前に嫌がらせをする気はないが?」
そう答えた兄の眼には、まったく曇りがなかったのが、逆にククールを不安にさせました。
「気持ちはすげえ嬉しいんだけど…」
背後ですごい目で睨んでいるゼシカに気を使いながら、ククールはなんとか、この場を和やかにしようと言葉を挟もうとしましたが。
「気にするな。たった二人の兄弟ではないか。」
ずっと聞きたかった…でも、今はあんまり嬉しくない台詞に黙らされました。
「そちらのお嬢さんの…ご両親に挨拶をしに行くのだろう?」
「あ、ああまあ。」
「ならば、私も同行してやろう。」
「来るなー!!」
ゼシカの心底からの絶叫は、ククールにはむしろ遠くから聞こえるような気がしました。
そのくらい、激しい衝撃をうけたのです。
それがどのような衝撃であったかを説明するのは難しいのですが…ええ、言うなれば、画面いっぱいに出てきたメタルキング全てに、開始ターン冒頭で逃げられたようなそういう気持ちといえば、少しは伝わるでしょうか。
「正式なご挨拶といえば、両親が同行するのが筋目だろう?だが、この場合は仕方なかろう。なあに、気に病む必要はない。私はお前の幸せのためなら、骨身を惜しむまいと神に誓ったのだ。」
やたらとウキウキとした兄に引きずられるようにして歩きながら、ククールは、地獄へ引きずられていく罪びとのような気分でありました。
もうすぐ、リーザス村です。
空はあくまで青く、風は爽やかで、鳥は唄い、牛はのんびりと草を食む、そんな昼下がりです。
ようやく「はじめに」が終りました。
次はようやく、リーザス村に到着し、アローザお母様が登場します。なんかこう…兄貴って、敵に回しても、
味方でいても、どっちみち被害を加えてくる人だとしみじみ実感しました。