絶叫 その一




この一回目前のヤツで「ネタがないからこれっばか書いてる」とか言いながら、気付いたら二十日ぶりくらいのこのシリーズです。
いやあ…ネタは突如湧いてくるからねえ(しみじみ)
という訳で、昨日の作品タイトルとおそろのサブタイです。向こうで叫んでいるのは…ですが、今回は…?













ククールは、 自己防衛本能 から我知らず、呪文反射の魔法マホカンタを唱えていました。




こきーん





マダンテの呪文を跳ね返した、そんな小さな音の後、



皮を破り、肉を裂き、骨を砕く、歴戦のククールでも耳を塞ぎたくなる様な音 が地を削り取る音の中に響き渡り、そして、あたりはとても静かになりました。








「…」

ククールはしばし呆然とすると、眼前の 自分の婚約者だった物体 を認め、




「ゼシカーっ!!」




と、血涙を流しながら絶叫しました。





まあ、ここで

「お前が呪文を跳ね返してんやろがっ!」

と、一見小粋なツッコミを入れるのは、実はヤボというものです。


なにせ、 自己防衛 の為の行為なのですから。

自己保存行為 というものは、全てに…そう、婚約者への愛よりも優先されてしまうものなのです。






が、まあ。
やってしまったものは仕方ありません。

そもそも、村のど真ん中で極大呪文を炸裂させようとしたのは彼女なのですし、もしその行為を止めなければ、更に多くの無辜の人々の命が犠牲となっていたでしょう。


ククールは

「バカ野郎…オレっきゃザオリク使えねえんだから、オレを殺そうとしてどーするよ…」

と泣きながら、ゼシカの無残な残骸にザオリクを唱えました。






いろいろ凝視したくない復活光景…ええ、 あたりに飛び散った肉片が死体に寄せ集まり、じわじわと神経や臓腑やなんやらが再生されていく凄惨な 光景ですが、壮絶な冒険の最中に何度もお目にかかった光景です。ですからご安心下さい。婚約者のそんなものをもう一度見たくらいでは、 ククールのゼシカへの愛情は、僅かばかりの揺らぎすら見せません。



「ククール…」

元通りの、知的かつ肉感的な美貌を取り戻したゼシカは、そう、婚約者の名を呼ぶと、ゆっくりと立ち上がりました。




「ゼシカ…」

ククールも微笑み、婚約者を受け入れるように、その長い腕をゆっくりと広げました。








「何で止めたのよーっ!!」

ゼシカは、 ククールの喉首を締め上げながら もう一度叫びました。





「ぐえっ…!」

そう叫んで事切れそうになったククールでしたが、なんとかゼシカの腕をほどくと、言葉を返します。




「んな事言ったって…君はまさか、村ごと滅ぼす気じゃなか…」

「滅ぼす気だったわよっ!!」

ゼシカはキュートな涙目で、そんなおっとろしい台詞を吐きます。




「だって…だって…お母さんが…お母さんが…あの… あのMデコと付き合ってる なんて… 世界が滅びた方がマシだわっ!!」


そして、彼女は堰を切ったように、母とマルチェロが付き合うことが 如何におぞましいか をククールに話し…というか、叩きつけ始めました。






「…」
ククールは黙ってそれを聞きながら、

「ゼシカは兄貴を嫌ってるって思ってたけど、こんなに嫌いなんだー。」

と、半ば他人事のようにぼんやりと考えました。



そりゃあ確かに、自分の母親が自分の父親が死んだ後に、他の男と付き合うという事は、微妙に心にひっかかかりを感じる出来事ではありましょうが、なにせ、彼女はもう十八です。 生まれ育った村を灰燼に帰させる ほど嫌がらなくても良いようなものではないでしょうか?


兄貴だから…オレの兄貴だからこんなに嫌がってんのかなあ?

ククールは思います。


確かに兄貴は 電波で、世界を滅ぼしかけて、ついでに今は法王庁から特級犯罪人として追っ手がかかってる 身だけど、 見た目は男前 だから、そんなに嫌がんなくてもいいのになあ…


ククールは、自分が相当高レベルの美形なので、 美形特権を激しく過大視する 傾向がありました。


…まあそりゃ、そんな男が自分の母親と付き合ったら、誰でも嫌がるでしょう。







「…そして…そして…お母さんが、あのデコ団長の子どもなんて生んでしまったら… 婚約者の母親の違う兄が自分の母親の間に作った子どもなんて、なんて呼べばいいのよーっ!!」


そしてゼシカは、泣き伏しました。




「…ゼシカ…」


そんなに悩まなくても、それは 妹または弟…も少し正確に言おうとしても、異父きょうだい って呼べばいいだけの話では?


ククールはそう続けようとしましたが、 次の瞬間、頚骨を蹴り折られ そうだと直感したので、やめました。





しかし、どうして村の宿屋のおばさんの

「アンジェロさんは、奥様の恋人よね?」

という台詞だけで、生まれた子どもの呼称の心配まで始めてしまうのでしょうか?

軽いシャレだと、どうして流せないのでしょうか?


ククールには不思議でしょうがありません。



しっかし、兄貴とアローザ奥様の子か…そりゃあ男女どっちでも、

アタマが良くてカオが良くて優雅で気品があって魔力が強くて潔癖症で

キョウッレツに頑固で独善的で好戦的で

デコがチャームポイント

の、とっても可愛らしい子どもに違いありません。



「…ヤだなあ…オレみてーな美青年捕まえて、『おじさん♪』はねーだろ。そりゃ、叔父さんは叔父さんだけどさ。ここは一つ、『ククールお兄ちゃん』って…」




ククールは、楽しい想像が過ぎてちょっと独り言を言い始めそうになりましたが、ゼシカが冷たい目で睨み上げてくるので、そこで言葉を止めました。





そして、ククールはなんとかゼシカに


「もう、リーザス村でマダンテは放たない」

と約束させ、彼女を連れて屋敷に戻りましたとさ。




2006/9/25






…マダンテって特技扱いだから、マホカンタじゃ跳ね返せなかったっけ…?まあいいや、魔法だった事にしよう…てか、拙サイトでは魔法な事にしたっ!!(今決定)
アローザ奥様も、キュートで知的なおデコをしていらっしゃるので、生まれた子はさぞや可愛いおデコの可愛いお子様になるのではないか…と想像すると楽しいですよね?




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