絶叫 その三




拙サイトのマルチェロの年齢は三十。ククールは二十一。つまり二人は九歳違い。
ゼシカは十八。サーベルト兄さんは五つくらい上。つまり、ククールよりサーベルトの方が年上な設定です、はい。
という事前提でお読み下さい。













ゼシカは力いっぱい泣きながら、サーベルトに訴えました。

サーベルトは、優しくゼシカの肩に手を置いて…残念ながら、その手の感触を感じることは出来ませんが…ゼシカの話に頷いてくれました。




ゼシカが心のうちを全てぶち撒けると、サーベルトは在りし日の彼が妹に向けていた優しい目でもって、ゼシカをじっと見つめました。



「…ゼシカ…」

「サーベルト兄さん…」

「僕はお前になんて言ったか…覚えているかい?」


「兄さんはあたしに言ったわ。 自分の信じる道を進め って…」

「そう、覚えていてくれたんだね。…だったら…いいじゃないか?」

「…え?」

ゼシカが兄の言葉を呑み込みかねて口ごもると、サーベルトは、優しくも強い言葉で、言いました。




「母さんが、マルチェロさんと付き合ったって、いいじゃないか?」

サーベルトは、激しく爽やかな口調で断言しました。








え゛?








思わず硬直したゼシカに、サーベルトは 草原を風が吹き抜けるように爽やかな 弁舌と口調で、次のように語りました。




「いいかい、ゼシカ。父さんは、お前がまだ小さいうちに亡くなって、母さんは僕とお前を一生懸命育ててくれたんだ。そうだよね?」

ゼシカは、頷きます。



「そして…僕は残念ながら母さんより早く女神様の所に行く事になってしまったけれど、お前はククールさんという、とても素晴らしい人ともうすぐ結婚する…」

ククールが“とても素晴らしい人”かどうかは微妙ですが、ゼシカはとりあえず頷きました。



「じゃあね、もう 後は母さんの人生じゃないか?」

ゼシカは頷きませんでしたが、サーベルトは続けます。



「ゼシカ…僕も分かるよ?母さんが他の人を好きになったら、父さんの事を忘れてしまって…そして、僕やお前のことも忘れてしまうんじゃないかと不安なんだろう?」

「違うわ兄さん、あたしはそうじゃなく、相手がMデコ団長だってコトを問題に…」

「母さんは父さんとはやくに死に別れてしまった。それはとても悲しい事だったと思う。でも、母さんはまだまだ元気で、そして、 父さんの思い出を大事にしながらも、他の人を愛する事だって出来る人だよ。」

ゼシカは兄の表情に、一片の偽善も見つけることが出来ませんでした。



ええ…

サーベルトは激しく本気でそう思っているようです。

なんて立派な見解を持つ青年でしょう…ただ、こんな青年を間近にすると 世間の汚さを知る前に死んで良かったね? と、思わず言いたくなるかもしれませんが。







「兄さん…」

法王庁を筆頭とする、汚い大人を割りとたくさん見てきたゼシカは、あんまりにピュアな魂を持つ兄になんとも言いがたい感情を抱いてしまいました。




「…サーベルト兄さん…でもね…この世には、いわゆる 世間体ってモン があるのよ?だいたい、お母さんはよそからお嫁に来た人だから、アルバート家に関係ない人を勝手に屋敷に引き込むのはどうかと思うし、てか、思われるし。だいたい、あのMデコは特級犯罪者なワケだから、あいつがお母さんと付き合うと、いざあいつの存在が法王庁にバレた時に、アルバート家としての責任問題に…」



言いながらゼシカは、 なんかあたし、お母さんとケンカして家を飛び出した時のお母さんみたいなコト言ってる… と思いました。




ゼシカはようやく悟りました。

世間体って、やっぱり大事だわっ!!







サーベルトは、彼女がいつもお転婆(死後)が過ぎて、母親と喧嘩した後で、兄に愚痴聞きと慰めを求めに行った時のような微笑を浮かべました。




…サーベルト兄さんはとっても頭のいい人だから、分かってくれるっ!!




ゼシカは、なんの慰めにもならない根拠を元に、兄が自分のこの 押さえがたい嫌悪感 を理解してくれるはずだと信じました。




「ゼシカ…お前は優しい子だから、本当はもう分かっている筈だよ… マルチェロさんはきっと、母さんを幸せにしてくれる人だよ」



ゼシカは愕然としました。


ええ、頭の良し悪しと、人の気持ちを推し量る能力とは、また微妙に違います。そうでなければ、 庶子から法王まで成り上がるだけの知能を持った兄 をもった赤い銀髪の某さんが、あれだけ Discommunicationに泣いた 訳がありません。






ゼシカは叫びました。




「あの電波鬼畜がお母さんを幸せになんか出来るハズないじゃないっ!!」


だってあいつは鬼畜で電波でイヤミで傲慢でジコチューで独善的で人使いが荒くて拷問が趣味でしかも異端審問室にはあやしげな薬が置いてあって弟は強度のブラコンだし守銭奴だし…




ゼシカは必死でマルチェロの短所を並べ立てます。ええ、これは悪口ではありません。 れっきとした事実 です。



サーベルトは哀しそうに微笑みました。

その姿は、妹のゼシカですら ドキッ としちゃいそうな、憂愁の美青年です。




「だって…あいつ…あいつ…法王暗殺犯よ?」

うっかりその威力に気おされて、 一番致命的な欠点 を言う声が小さくなってしまいました。



サーベルトは、悪いことを自覚した少女のような表情になった妹を慈愛深く見つめ、言いました。


「そう、もう分かったねゼシカ。人の悪口を言ってはいけない…それは、お前みたいな可愛い子を、とっても醜く見せてしまうよ。」

「…ごめんなさい…」

でも兄さん、アレ全部、めっちゃ事実なの…


そんなゼシカの内心の言葉には気付かず、サーベルトはとびきりの笑顔を浮かべて言いました。


「じゃ、ゼシカ。約束してくれ。もう、母さんやマルチェロさんと喧嘩しないって。」


サーベルトの 破壊的な威力すらある微笑 にやられて、ゼシカは


こくん

と頷きました。




サーベルトは満足そうに頷くと、とびきり優しい声で言いました。


「じゃあ、もう大丈夫だね。ちゃんとマルチェロさんを 『お父さん』って呼べるね?」




反射的に頷きかけたゼシカの脳裏に、走馬灯のような光景が浮かびました。







「お父さーん♪」

その声に振り向いたマルチェロは、その声の主にちょっとだけ笑みを向けます。


「お父さん♪」

抱きつく子どもの頭を撫で、マルチェロは視線を横に向けます。



向けられた先では、母アローザが優しい笑みを返し、なにやら編み物をしています。



「お母さん♪はやく毛糸の帽子編んでー。頭が風邪ひいちゃうー。」

可愛らしい声でまとわりつく子どもに、母は、

「あとちょっとお待ちなさい…」

そう答えて、編み物をする手を早めます。



マルチェロに抱きついた子も、そして母の近くの子も、また、床で一心に遊んでいる子ども達も、とぉっーっても幸せそうでしたが…




みんな、秀でた額の持ち主でした。









「…」

「ゼシカ…みんなの幸せの為に…」


「い…いや… そんな幸せ家族は嫌ぁあああああああああああああああああああああああっ!!」






そして彼女の暴走した魔力は、リーザスの塔を呑み込みました。




2006/9/27






という訳で、もしサーベルトが生きていたら(それじゃあ暗黒神は復活してないじゃないか?というツッコミはさておいて)多分、こんな事を言ったとおもいます。だって、サーベルトの台詞はつまりは
「自分がいいと思ったら、そうしろ。人の目やら世間体やらは気にするな。」
って事ですから、良家の未亡人が法王崩れとイチャラブしようが、別に構わないってコトですもんね。
でも、あんな完璧な青少年に、なんの裏も嫌味もない口調で
「だから、これからは母を貴方が幸せにしてあげてください、“お父さん”」
と言われたら、兄貴は激しくムカつくと思います。素直じゃない育ちで、素直じゃない性格の、素直じゃない人ですから。
だいたい、弟より年上の“息子”ってどうよ?とか、色々複雑だと思います。
ちなみにべにいもは、サーベルト兄さんは「女神に愛されすぎた、魂に一片の穢れもない純白の青年」だと思っています。だから早死にするんだよ、アンタ。




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