パルミド良いトコ一度はおいで その三




筋肉って基礎代謝が高いから、筋肉質な人は暑苦しいみたい









汗臭くも漢臭い一団は、 バラの香りのする美青年 たるククールには耐え難いほどの汗臭さを撒き散らしながら、さして狭くもない浴室に充満しました。




「…兄貴…」

とりあえず、 漢臭くはあるかもしれないけれど、汗臭くはない 兄の横に避難します。


「なんだその顔は。何か不快な事態でも起こったのか?」

意に介する風もないマルチェロに、ククールは小声で訴えます。



「兄貴…兄貴は 不快 じゃねえの?」

「だから何がだ。温泉は適温だし、打ち身擦り傷などの裂傷に効くとあるし、私は快適そのものだが?」

「いや、その、だからさ…せっかく温泉に来たのに、 ナイスバディーのぴちぴちギャル じゃなく、 筋骨が無駄に逞しすぎる成人男子 に囲まれて風呂に入ってる事がさ…」

「そうか?」

「そうだよ…ヘンだよっ!!」

ククールは、 健康で健全な青年 としては、割と理解し易い訴えを兄に投げかけますが、兄は怪訝そうな顔をして返答しました。



「普通だろう?」

「普通じゃねえよっ!!」

ククールは力いっぱいツッコミましたが、兄は続けます。


「お前は何を言っている。そもそも 聖堂騎士団は筋骨逞しい成人男子の集団 ではないか?」




「…」

ククールは沈黙します。


ええ、確かに聖堂騎士というのは、僧侶でありながら戦士である輩の集まりであり、当然、 集団構成員の筋肉含有量は世間標準より遥かに高い のは事実ですし、かく言うククールも、団長であったマルチェロも、じゅうっぶん!!筋肉質な体格をしています。

していますし、確かに、筋肉質な集団に慣れてはいますが…



「慣れてたって、暑苦しいモンは暑苦しいだろっ!?」

ククールは血の涙を流さんばかりに絶叫しましたが、兄は分かってくれませんでした。




仕方ない事かもしれません。

なんせ、ククールが生まれてすぐに修道院に入り、そこからククールの年と同じ年月だけ、 抹香臭い坊主 だの 筋骨が無駄に逞しすぎる成人男子 に囲まれて育ち、働き、命令を下して生きてきたのがマルチェロなのです。

付き合う女性といえば、 金ヅルとしての貴婦人自分の“肉体”目当ての奥方 か…そりゃあ、こんな環境で育ってきたら、 女性と“普通”のお付き合いをすることなんて、とても出来た相談ではない でしょう。




ククールは、兄を 可哀想な人を見る目 で眺めました。


「なんなんだ、その目は。私に何があるというのだ?」

そして、 自分が可哀想な人 だという自覚すら出来ない世にも可哀想な兄を、

オレが必ず幸せにしてやろうっ!!

と強く心に誓ったのでした。








「いやあ、黒髪の兄さん、いいカラダしてるなあ。」

「いやいや、仮面の貴兄こそ、労働者として望ましい肢体の持ち主だ。」



ククールの思いやりなどは完っ全にムシして、兄は、 パルミドで健康を追求する漢の会 のむさ苦しい漢たちと、世間話など始めていました。



「ハッハッハ、そりゃ土方だからよぉ。兄さんは、そのカラダつきからすると、戦士だね?」

「ま、似たようなモノだな。」

「おおそうかい。じゃ、カラダが資本だろ。どうだい、健康には気を使ってるかい?」

「元より頑健な質なのでな、特に留意してきた覚えは無いが…」

「おっと、そりゃあいけねえな。そりゃ、兄さんみたく若いウチはそれで少々の無理も効くだろうが、も少しするとガタが来るぜぇ?」

「うむ…確かにそうかもしれんな。私も三十路に突入してしまったし、最近はデスクワークばかりで、少々運動不足気味だ。」



「兄貴…そんな 中堅サラリーマンみたいな会話 を、そんな奴らと和やかに交わすなよぅ(泣)」

ククールは泣きましたが、もちろん、兄は気付きません。



「戦士のクセに運動不足かい…ま、戦士ったって、年がら年中、魔物をどついてる訳でもねぇか。しかし、そりゃあいけねえな。 筋肉はすぐに脂肪になっちまう からな。見たトコ、鍛え上げたいい筋肉してるが、それが全部脂肪になっちまったらエラい事だぜ。」

「うーむ…確かに、そろそろ 中年太り なんぞという忌まわしい単語と他人のフリは出来んかもな。」



「いやだよう…兄貴が…オレの ゴージャスでパーフェクトに兄貴が中年太りとかなんとか、 うらぶれたオヤジみたいな会話してるのはイヤだよう…(泣)」



「よっしゃ!!ここで会ったのも何かの縁だ。兄さん、オレたちのクラブに招待してやる!!」

「クラブ?貴兄は、何かのクラブ加入者なのか?」

「聞いて驚け、 悪徳の街パルミドで健康を追求する漢の会 の幹部よ。なぁに、金なんざ取らねえ。ただ一緒に、 特製サウナでいい汗流そうじゃねえか!!」


漢の誘いに、マルチェロは

「成る程… それは素晴らしい提案だ。是非。」

なんぞと返答しました。




「兄貴ー(泣)!!!!」

ククールは号泣して止めようとしましたが、



「なんだ、ククール。お前も 泣くほど行きたい のか。…ご迷惑かもしれんが、弟も同行させて構わないか?」

「おう、弟だったのか。似てねぇ兄弟だな。」

「よく言われる。」



もちろん、兄にはまるきり通じませんでしたとさ。


2006/11/22




一瞬、中年太りした兄を想像してしまい、とっても嫌な気分になりました。
でも彼は無駄にキッチリと計画性溢れた人なので、中年太りするほど暴飲暴食したり、高血圧になるほど酒を呑んだりはしない…と信じたいです!!




ハッテン場@パルミド その一


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