ハッテン場@パルミド その一




一月ぶりくらいの新作。短いからいつでも書けると思うと、なかなか書かないモンです。









ククールとマルチェロという、 規格ハズレにゴージャスで逞しい兄弟 は、狭いせまーい 四畳半の物置で、肩を寄せ合い、同じ布団に包まって 寝ようとしていました。



「しくしくしくしく…」

「何故泣く?」

「うう…オレと兄貴のゴージャスでリッチなはずの旅行なのに…」




話は、兄マルチェロが パルミドで健康を追求する漢の会 のむさ苦しい漢たちと意気投合し、


「特製サウナでいい汗流そうじゃねえか!!」


という誘いに、うかうかとのってしまったところから始まります。



筋骨が無駄に逞しすぎる成人男子 に拉致られた兄弟は、例の井戸の底の秘密クラブに連れて行かれ、 漢の汗の臭いほとばしる蒸気に存分に蒸され ククールはついに眩暈を起こして倒れてしまいました。



パルミドで健康を追求する漢の会 の漢たちは、親切にも(そしてククールにとってはいい迷惑にも)

「会員達の秘密宿所に泊まって行けばいい。外はサムいが、なんせ会員の漢たちは、アツいからよっ!!」

と申し出てくれましたが(そして兄もそれを承諾しかけたのですが)ククールの、


「オレ、婚約中だから、そんなおムコに行けなくなるようなコト出来ない!!」

という涙ながらの訴えにより、却下になりました。




そして、紆余曲折の後、いくら何でもこの寒さで野宿は出来まいと、心優しき パルミドで健康を追求する漢の会 の漢たちが提供してくれたこの 物置 で夜を過ごすことになったのです。





「まったく…相変わらず貴様は、 泣き言が多いな。」

リッチなバケーションになる筈の旅行を叩き潰した張本人 (宿泊するはずのホテルをフロントで罵って宿泊不能にし、謎の筋肉男達とつるみ 等)に一喝され、ククールはさらにしくしくと泣きました。



「寒い…兄貴… 心が寒々とするようっ!!」


薄い布団に涙の跡をつけるククール。

マルチェロはそれを聞くと、ククールに密着して言いました。



「なら、これで少しはあったまるか?」

「…兄貴…?」

かつての兄からは想像も出来ない優しい台詞と行動 に、ククールはどぎまぎしました。


さすが筋肉質な男だけあって発熱量が多い兄は 密着すると、物理的に温かでした。




「うん、兄貴…あったかいよ…」

ククールはこれ幸いと、 兄をぎゅっと抱きしめ ました。



「…マイエラの孤児院にいた時を思い出す…あそこは昔から予算がなかったからな、私のような孤児たちは薄い布団一枚で厳寒期を過ごしていた…」

「分る分る、あんまり寒くて仕方ねー時は、ガキ何人かで抱き合って寝てたもんなっ?」

「そうだ…狭苦しくて、押し合いへしあいしたものだが…」

兄は、ふっと笑いました。



「やはり、人肌は温かかったものだ…違うか、ククール。」




ククールは、じんわりと心に広がる、 兄の優しさという温かさ を、ゆっくりと噛み締めました。



兄と彼は、同じ孤児院育ちです。ええ、年が離れていますから、孤児院で共に過ごしたことはありませんが、運命の導くままに、同じ聖堂騎士の道を選び、そして…哀しい戦いも経験し、ようやく分かり合えた兄と、同じ体験を共有しているということは、ククールにとっては喜びでした。


何より、あの兄が、その体験を共有していることを自ら語ってくれることが、更に大きな喜びでした。




「兄貴…その…そんな時さ、やっぱ…兄貴が昔過ごした親父の屋敷の、あったかいベッドを思い出したりしなかった?」

それでもククールは、聞いてしまいます。思い出さなかった訳はない…そう思いながらも。



「…お前は孤児院で、お前の父親の屋敷を思い出さなかったのか?」

兄は、問いに問いで答えました。



「…思い出したよ。ふわふわのベッドに、あったかい羽根布団のコト…どうしてオレは今、こんな寒い思いしてんだろって思った…」

「私も同じだ。」

兄の返答はしかし、決して冷たい物言いではありませんでした。


「人は、一度味わった快楽は忘れられん。だが、忘れられずとも、今更味わい返す事も叶わぬ事もあるだけの話だ。確かに私はその時、お前とお前の父親を恨んだが、今、同じ事を繰り返したとて、その時の寒さの記憶が失せるわけでもあるまい。」

「兄貴…」

ククールは、じーんとしました。

あれだけ自分を憎んだ兄が、 八つ当たりが昂じて、自分を殺そうとまでした兄が!! こんな優しい台詞を吐くようになったなんて…ククールは、さっきまで兄の仕打ちにシクシク泣いていた事はケロリと忘れ、 物置で兄貴と寝ることになって良かった♪ と、心底思いました。




「兄貴…でもさ、オレ、こうやって兄貴と一緒に寝るなんて初めてだよ。」

「アルバート家では、同室に寝起きしているではないか。」

「ちがうんだって!!こうやって、おんなじ布団かぶって寝るっ意味だよっ!!ほら…オレと兄貴が、ちゃんと“フツーの兄弟として”育ってたら、もっとガキの時にしてた筈じゃん…」

闇の中で、兄のちょっと優しい失笑が聞こえました。


「互いにいい年をして、今更そんなコトを喜ぶか、お前。」

「だって…だって兄貴、オレと兄貴は、ほら…いろいろありすぎたからさ…今更全部ナシには出来ない。けど、今から色んな事、兄弟としてやり直す事は出来るじゃねーか…だから…」

「だから、幼児期からやり直しか…」

マルチェロは、小さく笑って、 優しく言い捨てました。


「勝手にしろ…」




「じゃ、勝手にするっ!」

さりげなく外された兄の体を、ククールはもう一度ぎゅっと抱きしめようと、そっと体を起こしました。










「何奴だっ!!」


ぶぎゅうっ!!




突如跳ね起きた兄の肘が、 まともにアゴにキレイに入り ククールは、のたうちました。




「さすが悪徳の町パルミド…こんな所まで物盗りか?痴れ者がッ!!」

兄は そんなククールの苦悶など気にも留めずに 地獄のサーベルを構えると、勢い良く物置の戸を開けました。


2007/1/2




アホノーマルのくせに、微妙にホモくさい…とか思わないで下さい。そう思ってしまった人は、思ってしまった人の脳みそが、一番ホモくさいのです。




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