あーる・えー・ぴー・いー? その一

今回のタイトルの意味?アルファベットで表記してみてください。
それでも意味が分からない人は、辞書でひいてみましょう。

ま、義務教育課程を終えた人なら、知らないハズはないでしょうケド。









「マルチェロさま…」

名前だけお呼びになって、奥様はそれ以上、言葉を失いました。




マルチェロも、何も言いません。

もちろんゼシカも、こんな状況で言葉なんて発せません。








ものすごく気まずい沈黙








奥様は、態勢を立て直そうとして、そして




「マルチェロさま、 会話の立ち聞きをなさるなんて、紳士のなさることではありませんわ。」

かなり最悪レベルの高い切り込み をなさいました。




マルチェロは、 能面のような無表情 で、一礼して言いました。


「これは失敬、マダム。 そもそも紳士などではございませんで。」




「…」

ゼシカは、何も口を挟めません。


客観的にこの状況を見れば、 奥様はプリンセス・ローブ をお召しになっていらっしゃいますし、 童貞ならばぴったりフィットの、カッコよさ100のプリンス・スーツ を着ています。

つまりこの二人は、フツーにまったく状況を知らない人が見たら、 結婚式直前のカップル なワケです。



なのに、 結婚マーチ がかかっていそうな二人の今のテーマ曲は 葬送行進曲 なワケで…








「…ですが、マルチェロさまは元は聖堂騎士…」

「更にその前は、私は孤児でした。ええ、父に生家を追い出され、母には死なれた孤児です。 貴女のように、御両親に愛され、淑女として御立派に御育てになられた方とは違いましてな。」

トゲありまくりの言葉です。


「孤児院で、私は少ない教育の機会を必死で掴み、そして私は聖堂騎士見習いとなりました。さらにそこでも必死で鍛錬して、正式に聖堂騎士となりました。そして副団長となり、団長となり…私の人生は、常に自己鍛錬と共にありました。常に向上することと共にありました。ですから私の人生には、他のものなど入り込む隙などありませんでした。 常に高みを目指すことでしか、私は私を証立てられなかったのです。」

「…ですがマルチェロさま、貴方は魅力的な殿方です。 どんな方…も、貴方を愛しなさったでしょう?ええ、どんなお美しいお嬢様でも、貴方に愛を捧げ…」

「色恋など、私の人生には何事の価値もないっ!!」

「…」

マルチェロは、そして哀しく笑いました。


「そう、私は思っていた。女の尻ばかり追う…失敬、淑女に使うには不適切な単語でしたな… どこかの赤銀の生物 など、 人生の浪費家 だと、思っていた…」




マルチェロは、 その緑の瞳をまっすぐ上げ、 奥様を見据えました。




「…」


「賢者にも千慮に一失有り、 愚者も千慮に一得有り と古人も言っておりましたが、 あの赤銀の生物 の指摘も、今回は正しかったようです。自分でも意識はしていなかった。まさか違うとは思っていた。しかしマダム、貴女が貴女の御夫君の事を仰るだけで、 私の心は痛いほど掻き乱された!!」

「マルチェロさま…」














「貴女が好きです…貴女を愛しています、マダム・アローザ。」















アローザはショックを受けている。

























奥様は、ある意味、 待ち望みすぎた台詞を、待ち望みすぎた形で、ド真ん中で受けて しまい、混乱なさってしまいました。




ちょっとコレは、 乙女の奥様 には 刺激が強すぎる告白 でした。










































「まあ まるちぇろさま もちろん わたくし も マルチェロさま の こと が すき です わ。」

アローザはこんらんしている。


「なにせ さーべると も なくなって おんなで ひとつ で こまって いる とき に おたすけ くださった でしょう?」

アローザはこんらんしている。


「ええ さーべると より は としうえ です けれど なんだか むすこ が できた よう で うれしかった です わ」

アローザは、非常にこんらんしている。






あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ…

ゼシカは声にならない叫びを漏らしました。


もちろんゼシカには、母が、 心にもなさ過ぎる言葉を吐いている ことはよく分かります。

分かりますが、 世界最強のKY男 たるマルチェロが、そんな状況を読み取っているでしょうか?







ちら

ゼシカは、いくばくかの希望を込めて、マルチェロの表情を窺いましたが、








ゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴ

当然、 すさまじい殺気 しか感じ取れませんでした。











「…私が欲しいのは、貴女からの母としての愛ではない…」

そして、青い風のように奥様のうなじを抱き…










「ちょっとー、兄貴ー、いくらオレが世界をも悶絶させる永遠の美青年だからって、ちょっと最近、気軽に燃やしすぎ…」






















!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



























ゼシカと、そしてグットだかバットだか分からないタイミングで入ってきたククールは見てしまいました。



























時間としてはほとんど一瞬だったのですが、ゼシカにも、ククールにも、そして当然アローザ奥様にも、 永遠にも等しい時間 に感じられました。
















「私が欲しかったのは、貴女の…」




ですが奥様は、 マルチェロをも凌駕するほどの優美かつ迅速なステップでマルチェロから身を翻しなさいました。

と。





バシーンっ!!!!





静寂の支配する部屋に、そんな平手打ちの音が響きました。








マルチェロは、ゆっくりと平手打ちを喰らった頬に手を当て、そして奥様に瞳を向けました。





「それは獣の所業ですっ!!」

奥様はハシバミ色の瞳でまっすぐその瞳を見据え、きっぱりと言い放ちました。










マルチェロは、ゆっくりと頬から手を離すと、皮肉な微笑を浮かべました。












「罵声を浴びせられる事にも、拒絶されることにも、私はとうに慣れている。」




そして前とは違い、今度はゆっくりとした足取りで、踵を返しました。




2008/8/11




コメントなんて、いらないよね?




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