Lovers その二

「恋人たち」という響きは大変美しゅうございますが、罪の理由が「金のため」なら許されない所業でも、「愛のため」なら許されてしまうのは、かなりどうかと思います。

あ、拙サイトの主人公の名は「エイタス」であります。









「うわー、お腹おっきくなったわね。予定日いつ?」

「うふふ、実はゲルダさんとほとんど一緒ですのよ。」

「えー、奇遇。でも、そりゃヤンガスが喜んでたでしょ?」

「ああ、そうなんだ。そりゃあもう、大喜びでね。

『アッシの子どもが、アニキのお子さまと誕生日がほとんど一緒になるなんて…こりゃまさに、 アッシと兄貴は運命の赤い糸で結ばれてるとしか思えないでガスっ!!』

って言って…」

「ゲルダさんてば、すごい勢いでお怒りでしたのよ。

なんでソコで、エイタスと運命がつながんだよっ!!』

って。」


「そりゃゲルダさんらしいわね。」

「ヤンガスがこぼしてたよ。

『ゲルダのヤツ、ガキが出来てから ますます凶暴になりやがる』

って。」


「当たり前よー。女って、子どもが出来ると、いろいろと精神不安定になるんだから。ミーティアは大丈夫?」


ゼシカの問いに、ミーティアは、 甘えるようにエイタスにしだれかかる と言いました。


「ねえ、エイタス。ミーティアは凶暴になりましたこと?」


エイタスは、 優しくそっとミーティアを抱きしめ て、答えました。


「いつものまんまだよ。」



「もうっ!!新婚さんなんだからっ!!!」

ゼシカは、 思わず彼女が顔を、その髪と同じ色に染めて ほとんど叫ぶように言いました。




「まったく、あたしたちだって、もうすぐ結婚するんだからね。なのに、ぜんぜんラブラブしてないっていうか、聞いてるの、ククール…」

と、ゼシカは振り向きましたが、気付くとククールはエイタスの腕をひっぱって、なにやら木陰へと隠れていました。




「ククール?」

声をかけようとしたゼシカの腕を、今度はミーティアが引っ張ります。



「ねえゼシカ。ミーティア、このリーザス村に来る事を楽しみにしていましたのよ。お母さまにもお会いしたいし、村の人たちや、ミーティアはあの時、馬だったからお会いできなかったリーザスさま。そうそう、お手紙にあった孤児院の子供たちにもあいさつしたいですわ。」

「ああ…そうね、ミーティア、女王さま修行で忙しいんだもんね。たまには息抜きしないと。じゃ、まずはお母さんに紹介するわね。」

「まあ、嬉しいですわ。」


ゼシカは、ミーティアと手をつなぐと、屋敷へと向かいました。



そしてミーティアは、


そっ

と、彼女の最愛の“夫”を振り向くのでした。






















「…で、ぶっちゃけ、お前は何を監視しに来たんだ?」

木陰にて、旧友への言葉としては少々険悪に、ククールは切り出しました。


「やっぱり気付いた?」

相変わらずの、少女のように優しい面ざしに、やれやれという微笑みを浮かべ、エイタスは答えました。



「言わなくても分かってると思うけどな。」

「兄貴だろ!!」

「…他にある?」

そして、険のある目つきで睨みつけるククールを、穏やかだけれども、靭い瞳で見返しました。




「トロデ王は兄貴と話した。」

「知ってる。」


「ヤンガスと会ったってコトは、ヤンガスから兄貴の話だって聞いてるだろ?」

「聞いてるよ。」


「じゃあ二人から聞いたはずだ。今の兄貴のコトは…」

ククールの言葉に、エイタスはうなずきました。


「そう、トロデ王もヤンガスも、口をそろえて言ったよ。

『今のマルチェロは悪じゃない』

って。」


「じゃあなんで、わざわざ予告ナシで来たんだ?」

「忙しくて…」

「いくらなんだって、明日の予定くらい分かんだろ?そして、そんくらいの予告は出来たハズ…」


ククールの言葉に、エイタスはいたずらっぽく笑いました。



「さすがに、郵便屋さんのカッコくらいじゃごまかせないか。」

それに対し、ククールは笑みを浮かべずに厳しい口調で返します。






「そんなに兄貴を警戒してんのか!?」




「ククール、僕は君と長い旅を、生死を共にしてきた。 僕は君を仲間だと、友達だと思ってる」


「ああ、オレだってそうだよ。」


「僕は君と敵にはなりたくないし、君のお兄さんとも、もう刃を交えたくない。」

「だったら、トロデ王とヤンガスの言うことを信じ…」




「あの二人はお人よしだから」

エイタスは、穏やかな笑みのまま、言いました。




「お人良しで信じやすいから、信じないってか?いつの間にか、 猜疑心の強え権力者みてーな…」

「ミーティアが未来の女王で、僕はその夫だ。」

エイタスはぴしゃりと言い放ちました。




「僕も悪いことだけど、ミーティアがチャゴス王子と結婚しなかったことで、サザンビークとの仲は決して良くない。そして、ずっとみんながイバラにされていたトロデーンの復興は、まだ途中。近隣の町や村からの税金を頼ろうとしても、パルミドはそもそも税金なんか望める街じゃないし、トラペッタだって、小さな吊り橋一本でつながっているきり。つまりね、ククール。トロデーンは確かにがんばってるけど、 今、一つの凶事でみんなが悪くなっちゃうような、危ない綱渡りをしているんだよ。」


「…」

「だから僕は、 少しでもマルチェロが危険そうなら、放っておくわけにはいかない。」


「エイタス…」

エイタスは、ククールに続けます。


「僕は父親になるんだ。僕はこの年になるまで、家族の顔すら知らなかった。…ううん、トーポはずっと僕といてくれた。祖父だなんて知らなかったけど。ミーティアもずっと友達で、トロデ王は王さまだったけれど、家族みたいに思ってた。けどね…」


「うるせえなっ!!親がなくて苦労してんのは、お前だけじゃねえよっ!!」




ククールの叫びに、エイタスはなだめるような表情を浮かべました。




「分かってる。君にとって、マルチェロさんが ものすごくツッコミ所は多いとはいえ 今のところ、唯一の家族だってことは。」


そして、笑いました。



「殺しに来た、なんて言ってないよ。本当にマルチェロさんが、トロデ王やヤンガスの言うとおりなのかって、見に来ただけだよ。」

エイタスは笑顔のまま、ククールに言いました。



「だから、マルチェロさんとお話させてよ、ククール。」

ククールは、そのエイタスの要請を断る理由を持ちませんでした。

だから頷きましたが、ククールは気付いていました。








エイタスがさりげなく腰に帯びた剣は、目立たないように身をやつしていましたが、間違いなく 竜神王の剣 だったことを。




2008/9/16




なんか アローザと元法王さまシリーズ じゃないみたいな展開だ。




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