乙女の誇り その一
別館のゲーム2周目も佳境です。
狂ったように1日中やっているので、脳味噌が腐臭を発し始めました。
明日はだから、神戸の
ダンスフェスティバル
を見に行って、美しい踊りで心を癒してきます。
「…こちらがわがアルバート家で運営しております、孤児院でございます。」
もちろん奥さまは淑女なのでおくびにも出しませんが、
心からチャゴスなんて案内したくない
のはありありとうかがえました。
「フン、チンケな建物だな。」
「残念ながら、当家の資力ではこれが精一杯でございます故…」
見ている人々は、チャゴスの発言をまともに聞いていると、
集団で補殺したくなる
ため、
奥さまの麗しいお姿
を見て、なんとか
ほとばしりそうになる憎悪
を抑えていました。
「チャゴス王子、報告書を作成せねばなりませんので、どうかこの孤児院の経営についてのご質問など…」
「フン、めんどくさい。」
チャゴスは、心底うっとおしそうにお付きの者を睨みつけます。
「まったく、我がサザンビークがこんなド田舎に学ぶことなどあるものか。なんで報告書なんて作らなきゃならないんだ。」
「…ククール。」
ゼシカが小声でささやきます。
「…なんだい、
忍耐強いはず
のハニー?」
「証拠を残さなかったら、焼き尽くしていいよねっ♪」
「…」
ククールは思わず、
「当り前じゃないか、ハニー」
と爽やかに同意しそうになりますが、なんとかこらえます。
「あーあー、本当にめんどくさい。フン、まあ父上のご命令とあらば仕方がない。質問してやる、答えろ。」
「まあ、光栄に存じます、王太子殿下。」
見守る一同は、
ホントの本当にチャゴスを集団でボコりたい衝動
を、
耐える奥さまの、凛とした美しい横顔を眺める
ことで、なんとか堪えました。
チャゴス王子は実際、リーザス村には
イヤガラセと八つ当たり
に来たのですが、さすがにサザンビークからの依頼の手紙ではそんな書き方はしていません。
リーザス村に勉強に来た
ことになっているのです。
よってチャゴスはクラビウス王から、
勉強した成果のレポート作成
を命ぜられているのでした。
もろちんチャゴスがそんなことを自分でする訳もありません。
可哀想なお付きたちは、チャゴスが気に入りそうなレポートテーマを考え、提示し、そして却下されを繰り返した揚句、だんだん却下するのも面倒になったチャゴスの
「孤児院見学記?フン、まあそれでいいことにしてやる。ただし、ボクはメモとか書かないからな。お前らでメモをとって、まとめてよこせよ。清書だけボクがしてやる。」
とのありがたいお言葉に胸をなで下ろしたのでした。
もちろん、もっと可哀想なのはリーザス村の人々と、そして孤児院の子どもたちです。
テーマを聞かされたアルバート邸の人々は、
子どもたちに身売りの因果でも含めるように
じゅんじゅんと
何があってもチャゴス王子に殴りかかったり、罵声を浴びせたりしない事
と説き聞かせました。
それでも心配だったのでしょう、奥さまは
高貴な人間の責務
として、自ら案内役を買っておいでになったのです。
ええ、
いざとなれば、自分子どもたちの盾となるためにっ!!
そんな崇高な志に村民たちは
心から感服
し、やはり彼らも、
何があってもチャゴス王子に殴りかかったり、罵声を浴びせたりしない事をこころに誓
ってくれたのでした。
「よし、じゃあ質問だ。ここの小汚いガキどもは、毎日何をしてるんだ?」
いろいろと余計な修飾語がついていますが、まあ社会見学としては無難な質問です。
きっと、お付きの者たちが過保護にも質問集なんかを作成したのでしょう。
「はい王太子殿下、この子たちは年齢によってすることが分かれています。」
奥さまも少しほっとなされたのでしょう、表情が緩まれました。
「本当に小さい子たちの世話は、年上の子どもたちか、それで手が回らなければ村の人たちを雇って見てもらっています。もう少し大きくなると、孤児院の手伝いや、忙しい時には村の農作業の手伝いなどもしています。」
「ふーん。」
「更に、一番心を尽くしているのが、子どもたちの教育です。小さい頃からいる子はもちろん、大きくなってからここに来た子にも、きちんと文字が読めて、書けて、計算が出来るようにしております。」
奥さまはお喋りになりながら、なんだか嬉しそうにおなりになりました。
「ええ、読み書きに計算ができるようになることが大切だとわたくしどもはかんがえています。ここに来た子どもたちは何らかの形で実の親には恵まれなかった子たちですけれども、でも、
この子たちにも、自分が努力しさえすれば、望むものが手に入るという希望を与えることが大事ですもの。」
奥さまが誰の言葉を復唱していらっしゃるかは言うまでもありませんね。
まあ、
どっかの誰かが口にすれば野望溢れる危険極まりない台詞
に聞こえますが、奥さまがおっしゃればまったくそうとは聞こえません。
人は誰も、自らがなにか善き事を成し遂げられると信じられるはずです。
そして、それが希望と呼ばれるものですよ。
ええ。
「そのために…」
と、奥さまがお話になろうとした時です。
「こんな孤児のガキどもに、そんな高尚なものが要るものか。」
誰かが鼻をほじりながら言いました。
2009/8/4
うん、小物で文句の多い悪役って、どっか共通するんだよね、誰とは言わないけどね。
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