愚弟三昧 その一

しばらくロマンチックな(そしてキーボードを叩きづらい)展開が続いたので、 みなさまのご期待通り 愚弟をたっぷり出そうと思いました。









奥さまのお誕生パーティーの翌日。

疲れてグッスリ眠ったゼシカが、いつもより遅く起きてくると、


じゃっこじゃっこじゃっこ

という音が、台所から派手に響いてきました。




「…何の音?」

ゼシカがそっと台所を覗くと、




「おはよう、ゼシカ。」

と、 太陽のように爽やかなほほ笑みを浮かべ た彼女の婚約者が、割烹着と姉さんかぶりで 力いっぱい、米を研いで いました。




「…」

ゼシカは、 あたし、呑み過ぎたかしら と自問自答します。

そもそも朝に弱いこの男が、彼にしては早起きして、どうして台所で米を大量にといでいるのでしょう?

ゼシカは、 白昼夢を見た気分 でした。


「よぉっし、これでちゃんととげたぞ。で、食紅を入れて、っと。」

ククールは手際よく、お米をデカいお釜に入れて、火を起こしました。



「ふー、あとは火加減に気をつけなきゃな。」

「…聞いていい?」

「何だい、ハニー。ハニーの質問になら何でも答えるぜ?」

「朝っぱらから、何してんの?」

「お赤飯を炊いてるに決まってるじゃねーか♪」

ククールは、 世界の全ての幸福が一身にあるかのような天使の微笑み で続けます。


「だって今日は、兄貴のトクベツな記念日、なんだからさっ♪」




ゼシカは、 自分のくさぐさの感想はさておき ククールの体の魔力検知をします。


「…スカラもマホカンタもかけてないのね?」

「何だよ、ここはダンジョンじゃねーんだぜ?」

「あんた、今度こそ2度と復活出来なくなるわよ?」




そう言いながらもゼシカは、 そしたらこんなアホい生物と結婚しなくて済むから、それもまっ、いいカナ? とも思いました。

思いはしましたが、それと同時に、 結婚してもいいと、一時の気の迷いとはいえ思った生物が、実の兄の 童貞卒業祝い をして 決して復活出来ないイベント死を与えられる という結末を迎えるのもイヤだな とも思います。




「何言ってんだよ、ゼシカ。」

ククールは大まじめな顔です。


「何言ってるも何も、アンタ防御呪文ナシでマルチェロのマジギレに耐えられると…」

「オレは受け止めるっ!!」

ククールは、 思わず惚れ直すほどの美しくも真剣な面持ち で叫びます。


「兄貴が三十路にして、ようやく童貞から卒業できた、この喜びを!!弟として!!真剣に祝うためにっ!!」

そして息を継いで、もう一度ゼシカの瞳を 大真面目に覗き込んで言いました。


「オレは一切の小細工ナシで、兄貴の攻撃に耐えるんだっ!!」




「…」

ゼシカはその真剣さに打たれて、 うっかり感激しそうになり ましたが、めでたいことに途中で正気に返りました。




「はじーめチョロチョロ、中ぱっぱ♪」

ククールは、こまめに火加減を調節し、お釜からは 香ばしいごはんのにおい がしてきます。




「あー、兄貴にお赤飯を見せながら

『兄貴ー、童貞卒業ほんとうにおめでとー♪』

つったら、兄貴どーすっかなー? とっさにメラゾーマ かな? それともかまいたち かな?いや、 あの緑の目でオレがすくみあがるほど睨みつけながらテンション溜め してから…」

ククールはそして


「やっぱりグランドクルスだよなー。」

うっとりした瞳 で呟きました。




ククールは、ゼシカの視線がこちらにじっと向けられているのに気付きました。

「どうしたんだい、ハニー?いくらオレが麗しいからって、そんなに見つめられたら…」

「ううん…」

ゼシカは 悲しい瞳 で、かぶりを振ります。


「バカだとかアホだとかブラコンだとか、いろいろ文句は言ったけど…」

「ど?」


「これで見納めだと思うと、やっぱり好きだな、って。」




「あっ、兄貴が起きたー♪」

さすが兄弟というべきか、ククールの マルチェロセンサー が反応しました。


「よーし、いい炊き加減だ。」

ククールはお赤飯をきちんとおしゃもじでかき混ぜると、おひつに移します。




そうこうしているうちに、今度はゼシカにもはっきりと分かる、あの特徴的なマルチェロの足跡が聞こえてきました。

ゼシカは、 婚約者のあと数十秒の命をいとおしむように見守り ます。




「来たっ!!」

ククールは、 自らの命を瞬間的に燃焼させるように、弾む足取り で、お赤飯の入ったおひつを持って、廊下を飛び出しました。




「兄貴ー、童貞卒業おめでとーっ♪」

その 邸中に響き渡る声 は同時に、 ククールがこの世で発した、最後の声 になるはずです。





2009/10/20




ククールとゼシカの掛け合いだと、なんてはやく書きあげられるんだろう。
そして 愚弟を愚弟として書くのって、なんて楽しいんだろう!!
ともかく、べにいもは新鮮な喜びでいっぱいです。

そして結末予測アンケートまだまだ設置してます。
二人の恋の行き方を想像して、べにいもにも教えてください。




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