「…ま、このメンバー水入らずってのも久しぶりよね。」
ゼシカが言って、お茶を一口飲みました。
「旅の間は、ずっとこのメンバーでいて、うんざりしてたのによ。」
ククールが言って、嬉しそうに一同を見回しました。
「バカモンっ!!ワシの可愛い姫がおらんじゃないか。」
トロデ王が、魔物だった時とほとんど変わらない顔で怒ります。
「しっかしまあ…そんな久しぶりってワケでもねえでガスのに…実に懐かしいっ!!」
ヤンガスが、手を嬉しそうに打ち合わせます。
「…ほんと、色々あったもんね。」
エイタスは言って、遠い目をしました。
「エイタスが一番たくさんあったわよね。自分の両親と故郷が分かって、大好きなミーティアと駆け落ちして、結婚して、ついにはパパになったんだもの。」
「…だよね。」
エイタスはもう一度遠い目をすると、感慨深げに言います。
「…でもやっぱりね、
僕の故郷はトロデーンだよ。」
トロデ王は、何か気に食わなさげに言います。
「なんじゃなんじゃ、今更。お前が生まれた場所はそりゃ違うが、お前が育ったのはトロデーンに違いなかろうに。」
エイタスは微笑みます。
「そうなんですけどね。でも、
こうして父親になってみて、改めてそう思う
んです。」
「お、パパ発言でましたー。」
茶々をいれるククールに、エイタスは返します。
「そりゃもちろん今までもトロデーンは大切だったんだけど…なんて言うかな、大事なミーティアとエステルのためにも…」
「…ワシは大事じゃないのか?」
いい年こいて娘ムコにスネるトロデ王
です。
「もちろん大事ですとも。そう、ミーティアとエステルと、そしてトロデ王のためにも、
僕は何をしてでも、このトロデーンを守りたい
そう、改めて思うんです。」
「さっすがアニキ、漢気溢れまくる素晴らしいご発言でガスっ!!」
ヤンガスが、ものすごく嬉しそうに言いました。
「漢ヤンガス、そんなアニキに改めて惚れ直しやしたぜっ!!アニキとトロデーンに仇為す輩は、このヤンガスがアニキに成り代りやして…」
「エイタスとトロデーンを守るのも大事だけど、まず、自分の家族を守らなきゃ、ヤンガス?」
ゼシカの言葉に、ヤンガスは微妙にもぢもぢします。
「そ、そりゃもちろんだがよ、なんてーか…その…」
「ヤンガスの気持ちはものすごくありがたく受け取っておくよ。僕一人でどうしようもなくなったら、ぜひ僕を助けに来てね。」
「もろちんでガスっ!!」
一同は、相変わらずヤンガスの使い方の上手なエイタスに感心しました。
「しっかしよ、さっきから見てっと、やっぱ王族の誕生ってのは大ゴトなんだな。外交使節だらけじゃねーか。」
ククールの言葉に、トロデ王が答えます。
「当り前じゃ、ワシのカワイイ孫が誕生したのじゃぞ?
全世界が祝うに値するじゃろ?」
「トロデーンの未来の女王になるはずだからね。アスカンタはもちろん、サザンビークからもきちんと大臣が派遣されてきたよ。」
「サザンビーク!?」
ゼシカとククールは、思わずハモりました。
「…どうしたんじゃ?」
「あ…はは、なんでもナイ、なんでもナイ…えー…でも、なんか言ってた?」
「ううん、特に何も…てか、ミーティアのことでバタバタしてて聞きそびれてたけど、
チャゴス王子のリーザス村訪問
は何事もなく済んだ…」
「たりめーよっ!!超、マンゾクしてお帰りだぜ、なっ、ゼシカ!?」
「そ、そーよね、ククールっ!?」
かなり挙動不審になった二人
ですが、トロデ王もエイタスも何も追及しなかったことからすると、サザンビークからトロデーンには何も言ってこなかったようです。
「…ってか、サザンビークも人んちのマゴ誕生祝ってるバヤイじゃねーよな?」
ククールはさらっと話題を転換しました。
「そうよね、けっきょくチャゴス王子のお嫁さんは白紙状態なの?」
ゼシカもそれにまんまと便乗します。
エイタスはトロデ王と顔を見合せます。
「…ウチにも大いなる責任があることじゃから、あんまり大声では言えん話じゃがの。」
「かなり難航してるらしいよ、チャゴス王子の花嫁候補探し。」
トロデ王とエイタスがかわるがわる語るには、こういうことでした。
チャゴス当人というより、父親のクラビウス王が我が息子の行き方を憂えて花嫁探しに奔走してるものの、適当な花嫁が見つからずに困っているらしい、と。
「アスカンタにも行ったらしいよ。でも、パヴァン王に子どもはいないし、何よりあの人自体若すぎるしね。妹とかもいないから、遠縁の姫だと身分が釣り合わないとかで、けっきょく不成立になったらしい。」
「というか、パヴァン王がこっそりこう言っとったらしいぞい。
『もしわたしに妹がいたとしても、
サザンビークは遠い
ですし、やはりご遠慮したでしょうね』
と。」
「ああ、
遠い
ね…まあ妥当な断り文句だな。オレがあの王サマだったとしてもよ、
カワイイ妹をあのチャゴスにくれてやるくれーなら、尼僧院に入れる
な。」
「そうよね、どー考えても
不幸になる以外の未来が見えない
ものね。」
「サザンビークに比べたらアスカンタってば小国だしよ。しかもミーティア姫さんより美人ってのもめったにいねーし、
あのチャゴス
に
『なんでお前みたいなのと結婚しなきゃなんないんだ』
って常に言われ続ける未来図とか、
地獄よりなおツレー
もんな。」
これ幸いと
好き勝手罵倒する二人
です。
「かと言ってまさかウチに申し込むわけにもいかず、他に王家もないから国内から探してるみたいだけど…」
「『クラビウス陛下の後添えに差し上げるのでしたら、喜んで』
と言われとるらしいのう。」
「へーえ、国内でもソレかよ。
腐っても未来の王妃だぜ?なりたがるバカ女もいそうなモンなのによ。」
「そーお?だってクラビウス王が生きてる間ならともかく、亡くなったら
国内がめちゃくちゃになるのが目に見えてる
じゃない?そんな分かり切った苦労、しょいこみたくないわよ、そりゃ。」
「何言ってるんだよゼシカ。
あいつがバカだから、傀儡にデキんじゃねーか?大国サザンビークを我がモンにするチャンスだぜ?」
だんだん危険な発言をし始めたククールを、エイタスがやんわりと制します。
「まあまあ。そんな危ない発言はしないの。」
「ま、あの国が大混乱するのはこっちの思うツボだよな。しっちゃかめっちゃかになって向こうが救世主を渇望した時に、
『われこそはエルトリオ王子の落胤』
ってお前が乗り込んで、そしてエステル姫はトロデーンに加えて、サザンビークをも治めることに…」
「ククールっ!!」
ククールは手を上に上げました。
「はいはい、ちょっとチョーシ乗りました、お許し下さいますか、未来の王婿殿下?」
「許してあげないよ?」
「エイタス冷たいー♪」
「でも、本当に困ってるんでしょうね。チャゴスは自業自得だけど、クラビウス王がかわいそう。」
「まああくまでも無責任なウワサじゃが、
『チャゴスが死んで、クラビウス王が再婚して別の後取りを儲けるのがベスト』
なーんて声も出とるらしいからの…」
「いーんじゃね?サザンビークのためにも。」
「王としては賢明な選択肢かもしれんが、
親としてはあんまりじゃ。」
トロデ王は渋い顔をしました。
とんとんとん
ノックの音がしました。
「はい、何か?」
入って来た侍女が伝えます。
「ミーティア姫さま、お目覚めでございます。」
2009/11/12
ウチの設定では、メダル王たちは公式な存在ではないためいわゆる「王家」の中には入っていません。
入ってたとしたら、チャゴスに求婚されるメダル王女とか
ものすごくかわいそうなことになる
し。
しかしそう考えると少ないですよね、王家。しかも
すべての王が男やもめ
というこの恐るべき事態…この世界の王は、
デコい人がわざわざ打倒しなくても自然消滅するんじゃないか
と憂えずにはいられません。
そして結末予測アンケートまだまだ設置してます。
二人の恋の行き方を想像して、べにいもにも教えてください。
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結末予想実施中