十面埋伏 その三

前回の続きが思い浮かばず「まあしばらく置いとこう」とファイルを整理したら、さくっと続きが思い浮かびました。
さすがあまのじゃく!!
と自分に思わず感心です。









「マルチェロさまっ!!」

その絶叫にエイタスも気づきましたが、既に技は発動されていました。

だいたい想像はお付きかと思いますが、こういう場合、 麗しのヒロインは、愛しのヒーローを救うために、敵(と言っても今回は勇者なのですが)とのど真ん中に飛び込んでくる ものなのです。

冷静に考えれば、 他にもいくらでもその対決を押しとどめる手段はありそうなもの なのですけれど、そこはそれ。

美しきかな、自己犠牲の精神よっ!!

という事なのでしょうね、人の子とは不可思議なものです。

まあ我も、 若かりし日には色々ありました けれどね…




ふう




ですが、もちろん マルチェロにしたらたまったものではありません。

何せ彼なら、少なくともこのギガブレイクをまともに食らったとて即死するはずは毛頭ありませんが、か弱い奥さまが喰らいなどしたら…




肉が焦げる、酷く嫌な臭いがしました。




「マルチェロさまっ!!」

レイディに相応しからぬ取り乱した様子で、アローザ奥さまがマルチェロに取りすがります。


「…大事ない事です。」

体から煙を燻らせながら マルチェロは、うっすらと眉間に皺を寄せただけで、奥さまにそう返答しました。


「…」

どうしてアローザ奥さまがここにいるのか皆目見当がつかず、エイタスは竜神王の剣を下げたまま、茫然と二人を見下ろします。

たしかに彼とて、奥さまの姿をみつめた瞬間に力を全力でセーブはしましたが、マルチェロは奥さまを庇うために、 自らの体を楯にして 全力で踏みこんで、剣の勢いを止めたのです。



「血、血が…わ、わたくし…その…ポルトリンクでとても大変で…マルチェロさまにお知らせしなければと…でもマルチェロさまのご様子がおかしくて…マルチェロさまに血が…でもわたくし、わたくし…、ポルトリンクでとても大変で…聖堂騎士が…マルチェロさまがとても大変で…マルチェロさまがひどいおけがを…」

全力でメタパニーマる奥さま を前にして、マルチェロは眉間に更に皺を寄せ、エイタスを振り向きます。


「エイタス君、ご婦人が動揺していらっしゃる。なんとかし給え。」

「え、ええっ?僕が?」

困惑したエイタスですが、さすがに悟りの早い彼のこと、マルチェロにしがみつく奥さまの傍によると、


「ベホマっ!!」

と治癒の呪文を唱え、


「ほら、治りましたよ、アローザ奥さま。もう平気ですから、落ち着いて、ね?」

と宥めにかかりました。


「あ、マルチェロさまのお怪我が…」

奥さまはようやく 幼子のように無邪気にお喜びになり ます。


「…」

マルチェロはしばらく眉間に皺を寄せて、何度も何度も肩を動かしていましたが、奥さまがまた心配そうなお顔をなさると、笑顔を作りました。


「ええ、ご心配かけて申し訳ない。もうすっかりよろしいですよ、マダム?」

「え、ええ、でも…」

奥さまは不安そうにエイタスを振り向きます。

「ご心配なくっ!!」

ですがマルチェロが奥さまの肩を抱いて、力強くそう断言すると、奥さまはようやく安心なさったようでした。




しかしまあ、何時の間にやら、 人目もはばからぬ恋人っぷりですこと。

まったく、 若いって本当にいいものですね

あらあらいやですね、 ついつい慳貪な物言いになってしまいましたねっ♪




閑話休題、マルチェロは穏やかな口調で、でも先ほど奥さまがおっしゃった「聖堂騎士」という単語が気になったのでしょう、少しばかり早口になって、奥さまに問います。


「ええそうですわ、大変なのです、マルチェロさま。弟のククールさんが…」

「あの愚弟などどうなろうが、私はいっこうに『大変』とは思いませんが。」

「ポルトリンクで聖堂騎士に拘束されたのですっ!!ええ、容疑は、マルチェロさまを匿ったということでっ!!」

「…何ですと?」

マルチェロは、 常人なら石化しそうな視線 でエイタスを睨みつけます。


「…僕じゃない。」

その黒い瞳が驚きで見開かれています。


「…その表情が偽りだとしたら、君も大した役者になったという事だがな。」

厭味な言い方ですが、マルチェロはエイタスは無関係と感じたようでした。


「…マダム、その聖堂騎士どもはその情報をどこから得たと言っていたのですかな?」

「わ、わたくしも確かには知らないのです。ゼシカがこっそりとリーザス村まで戻って知らせてくれたことだけですから。でも、確か パルミドで見たと…」

「…」

マルチェロは目を閉じて考えました。


「ふん… 小娘と侮らずに斬り捨てておけば良かった。」

「え?」

奥さまのその問いには答えずに、マルチェロは問いを発します。


「という事は、手はもうリーザス村までは回っていますな。」

「む、村の者には決してあなたのことは話さぬよう、きちんと申しつけてあります。」

「でも、手がここまで回るのは時間の問題ですね。」

エイタスが、少し青ざめた顔で言いました。


「マルチェロさま?わたくしの乗って来た馬がありますわ。それで…」

「馬で逃げ切れるとは思いません。」

「私も同感だな。」

そしてマルチェロは、エイタスを ギラン と一睨みします。


「エイタス君、 君はまんまと嵌められたのやも知れんぞ?」

「…」

黙りこむエイタスです。


「ともかく、さっさと君の仲間のヤンガスに知らせた方がいい。パルミドではあの男にも世話になっているからな。子どもが生まれたばかりだというのに、拘束されるのは気の毒というものだ。」

エイタスは、少し目を閉じて、そして覚悟を決めたように言いました。


「あなたの巻き添えを食うのは迷惑です。」

「…」

そして、続けます。


「あなたをここから消し去ります、マルチェロさん。」

「え、エイタスさん?」

奥さまが、再び戦闘が始まるのではないかと危惧なさってマルチェロとの間に再び割り込もうとなさるのを、マルチェロが制します。


「その、リーザス像の後ろに立って下さい。 バシルーラの呪文で、あなたをどこかへ飛ばします。」


マルチェロは冷笑します。

「前のベホマズンといい、今回のベホマといい、引き続いて此れか。 君は本当に『優しい男』だなエイタス君。」


「あなたと一緒に仲良くこのリーザス像の塔にいるのを発見されたら、こっちとしてもたまったものじゃないだけです!!」

エイタスは怒ったようにそう言うと、マルチェロをリーザス像の後ろに立たせました。


「ホントはルーラしか使えないんですからね?バシルーラは応用として使えるかもってだけで、どこへ行くかはまったく保障しませんよ?」

「御心配は無用だ。 氷河のど真ん中に飛ばされようが、私は生き延びる男だ。」

「知ってますけどっ!!」

そしてエイタスは目を閉じ、全力で集中します。




バシルーラっ!!





そしてエイタスは、 お約束再び な光景を目にしました。

ええ、こちらも、 覆水盆に返らず です。




「…」

憤懣やるかたない悩める青年は、とりあえずその怒りを床に拳の形で叩きつけて、叫びました。

「あの話聞いたら、ついてったらどういうことになるか分かるものでしょっ!?どうして衝動で行動するかな、女の人ってっ!!」



















「…」

そして、同じ感想を持った男は、地の果てならぬ 地の中心 に立っていました。


「わ、わたくし…」

マルチェロはため息すらつかず、少し哀しいけれど優しい眼差しで辺りを見回します。


「偶然…いや、違うな、これも運命の巡り合わせというものかもしれんな。」

「ま、マルチェロさま?人が一人もおりませんけれど、いったいこの廃墟は…」

愛という衝動のもとに行動してしまった女性 の問いに、マルチェロはその瞳のまま答えます。


「我が罪の地ですよ、マダム。」

そしてその瞳のまま、 奈落へと続く深い深い穴 を見つめるのでした。






2010/1/17




迷惑と理性では分かっていても…という定番の展開です。
ええ、このシリーズは 定番 を目指していますから。
婚前旅行行き先:元聖地ゴルド になっちゃいましたね。

そして 結末予測アンケート まだまだ設置してます。
二人の恋の行き方を想像して、べにいもにも教えてください。




尋問 その一へ


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