被昇天 その二

夏が終わりました。
空が青いです。









「生きてたん…」

「生きていらしたのですねっ!?」

ククールの兄への叫びをかき消すばかりに、奥さまは絶叫なさいます。




「兄貴…」

「マルチェロさまっ!!」

再びククールの兄への叫びをかき消すばかりに、奥さまは叫ばれます。





貴婦人としては、少々はしたないなさりようではあるような気もしないでもありませんが。




ククールは、マルチェロへと 猛ダッシュ を開始しましたが。




どげしっ!!





なかなか情け容赦のないそんな音がして、 奥さまが先んじられ ました。





ええもちろん、その場の人々は奥さまの あまりに真摯であるが故に、神々しいまでに美しいお顔 に感動すら覚えていたので、 どげしっ!! という音が、如何なる理由如何なる人物の所業によって理由 立つことになったかなんて、考えるどころか、見もしていませんでした。





「奥さまのばかーっ。」

小さく叫ぶ赤銀の生物は限りなくさておき、アローザ奥さまは どっかの代物を突き飛ばしてまで猛ダッシュ なさっておきながら、マルチェロの前まで辿りつくと、 目元にうっすらと涙すらお浮かべになり ながら、立ちつくします。





「ほ、本当に…本当に…良うございました。」

必死で微笑もうとなさる奥さまは 思わず抱きしめたくなるくらいお可愛らし く、見ていた者たちの胸を


きゅん



とさせたのですが、当のマルチェロだけは棒のように立つばかりです。




「わ、わたくし、本当に、本当に…嬉しいのです。生まれてから一番嬉しいかもしれません。 あなたが生きていて下さって。」

マルチェロは、いつもの眉間の皺を、 いつもより更に深める と、何か言いたげに彼にしては珍しくもごもごと言い淀みました。





「うれしー、オレうれしー!!オレもちょーうれしーもんね。兄貴が生きててくれて、 今まで生きてきた中で一番嬉しい もん♪」

沈黙の中で、どっかの赤銀の生物がじたばたと暴れますが、 超軽快にみんなにスルー されました。




しかし、マルチェロは無言です。

あまりにマルチェロが黙りこむので、奥さまは非常に心配になられました。




「マルチェロさま?お怪我でもなさったのですか?」

マルチェロはやはり黙りこくり、そして、もう一度奥さまが心配そうに口を開かれそうになる直前に、ようやく口を開きました。




「怪我は無い。」

奥さまが安堵のお顔になられると、マルチェロは渋い顔の深い皺を更に深くして そして、重々しく口を開きます。




「もっとも、怪我の有る無しなど、 今と成り果ててはどうでも良い事 なのですがな。」

「マルチェロさま?」

奥さまがマルチェロの真意を量りかねて、非常に怪訝なお顔をなさるのに、マルチェロは意を決したように言いました。





「マダム、貴女は私を『生きていて嬉しい』と仰ったが、だとしたら、貴女が御喜びになるのは間違いだ。」




は?




ぽかん

と、奥さまにしては少々はしたなく、でも先ほどから奥さまはいろいろとはしたないなさりようをなさっていますけれど、ともかく奥さまは茫然とマルチェロの顔を見つめます。









「私はもう生きてはいないのだ、マダム。」

マルチェロはそう 断言 しました。










2010/8/31




「お前はもう、死んでいる」
という展開です。誰だよ、北斗神拳の使い手わっ。




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