雍歯封侯 その一
前回から2週間ぶりの更新。
あ、今回はちゃんと「ぶり」だ。
「止めますか?」 唐突に、サザンビーク国王付き秘書官長が言いました。 「?」 意味を悟りかねたクラビウス王に、 かつてとは別人のように聡明になったチャゴス が言います。 「マルチェロが、あのアルバート夫人を女神のお膝元へ連れて行こうとしたら、父上、我々はそれを止めますか?」 「あら、本当にご聡明になられたんですね。 やっぱりニセモノじゃないんですか?」 レベッカの冷たい一言も何のその、クラビウス王は我が子の手を握りしめ、 「さっすが我が息子、お利口さんじゃのうっ!!」 と、 ぶわっ と噴き出す様な感涙に咽びました。 「…あの、父上、僕の質問には…」 「今の陛下には何を言ってもムダですよ、チャゴス王子。」 レベッカは、クラビウス王に冷たい視線を向けてから、一人呟きます。 「いいから来いっ!!自分が付いてるっ!! って手を握って連れて行かれるのって、 ある意味、乙女の夢なんですけどね。」 けど、呟きの割にはけっこう大きな声でした。 さて。 チャゴス王子は感涙に咽びまくる我が父の姿(かなり息子として見るに堪えない)を見ながら、 この程度のことで父上を感激させてしまうなんて、かつての僕はなんて駄目な生物だったのだろう と、改めて 激しい自己嫌悪 に陥りましたが、それはそれとして、この事態を看過はできませんでした。 まったく、本当に、 チャゴス王子とは信じられぬ所業 ですね、我もビックリです。 ともかく、チャゴス王子は父王が握りしめる手を慇懃に(でもあっさりと)振りほどき、ニノ法王の元へ駆け寄ります。 「ニノ法王、マルチェロがアルバート夫人を女神のお膝元へ連れて行こうとしたら、聖下はそれを止め…」 ニノ法王は、チャゴスを一瞥すると、目を軽く閉じます。 「儂は女神の僕である。」 目を開き、ニノ法王は口にします。 「女神は望まれた、マルチェロの死を。 そしてマルチェロは死んだ。 まあ、あんな姿じゃがな。僅かな時の後には、地上には既に無き身、であろう?」 唐突に振られたものの、マルチェロは静かに、 「然り。」 と応答しました。 「儂は女神の僕である。」 ニノ法王は再びそう口にして、そして、アローザ奥さまを一瞥してから言いました。 「女神が御定めになった事に、嘴は挟まぬ。全ては御心のままに。」」 「おいおい、いきなりソレは無責任じゃねー?」 ククールが言葉を挟みました。 「ニノ法王、このゴルドを見ろよ?聖堂騎士だの、近衛兵だの…そもそもアンタやクラビウス王が話でっかくしたんじゃねーか!!絶対殺すとかゆっといて、後は 『女神さまにお任せしまーす』 ってよー、ソレって法王さまの言葉かよ!?」 それに続いて、 激情を押し止めかねたかのような チャゴス王子の声も響きます。 「若輩者ながら、ボクも申し上げます。確かに、女神に創られた我々人の子は、女神の御心に沿うべきものでしょう。ですがっ!!この世で起こる物事は、全てが女神の定め給いて、変えられぬものなのですか!?だとすれば、マルチェロが為した悪事も女神の運命、先の法王聖下が弑され給うたのも運命となるではないですかっ!!」 「チャ、チャゴス。いつの間にか本当に賢そうなことを言えるようになってさすが我が最愛の… もがっ!!」 場に似合わぬ親バカトークをまたしでかしそうになったクラビウス王を、レベッカが割と力ずくで止めました。 「運命などであるものか。私の意志だ、全てはな。」 マルチェロは重々しく言い返しました。 さすがに超当事者だけあって、 この賢そうなコト喋ってる生物はホントにチャゴス王子? って素振りは少しも見せませんでしたよ。 「ならば、貴方は、アルバート夫人の意志を尊重しなければなりますまい。貴方は力ずくでアルバート夫人を、いくら女神の御許とはいえ連れて行ってはいけない。何故なら…」 「あーっ!!オレが言おうとしてたカッコ良さげなセリフ全部取られたーっ!!」 「え…?」 「なんだよーっ!!せっかく 兄貴の前で オレがカッコよくステキなセリフでビシイッってキメて 兄貴のハートを鷲掴み にするはずだったのにーっ!!アホ王子めーっ!!よくもオレのジャマしたなーっ!!」 ジタジタバタバタ サザンビーク及び、聖堂騎士団の前で あり得ない程見苦しくダダをこねる赤銀の生物 を前にして、ほとんどの人間は眉を顰め(もちろん、当のマルチェロは眉を顰めるごときじゃ済んでませんけど)ましたが、ただ一人、エイタスだけは ホッ と 安堵のため息 を洩らしました。 「良かった、やっぱりククールはククールだった♪」 そして、 スキップにも見えるような軽やかな足取りで ククールに歩み寄ると、 「ごぶばっ!!」 ククールに、どっから聞いても ザコキャラの止めを刺された断末魔 にしか聞こえない声を上げさせて、黙らせた後に、 「さっ、チャゴス王子、お続け下さい。」 と、にこやかに促がしましたとさ。 2010/12/12 |