人は見た目が九割五分 その一
少年少女漫画においては、分かりやすさが求められます。よって、いい人は良い外見。悪い人は悪い外見なのです… 2006/8/27
つまり、実世界に生きる我々の認識レベルって、漫画並みなんだなーと、あの本を見て思いませんでした?
「おうよ、久しぶりじゃのう、ゼシカ、ククール。元気にしとったか?」
激しく私服な上に王冠も当然のっけていませんので、パッと見には
どこのおっちゃんだよ!?
というカンジですが、もちろん二人が見間違えるはずはありません。
「トロデ王ー!!」
嬉しさのあまりゼシカは抱きつきます。
「こりゃこりゃ、若い娘が無闇と抱きつくでない…」
といいつつ、照れるトロデ王です。
「それと、『トロデ王』と呼んではいかん。ワシは今お忍びじゃからの。
トロちゃん
と、フレンドリーに呼ぶのじゃ♪」
「んじゃ“トロちゃん”あんた、こんな所でフラフラしてていいのか?腐っても王様だろ?」
「だぁれが“腐っても”じゃ。ワシは腐ってても、王様じゃし、そもそも腐ってないわい!!」
「ねーねー“トロちゃん”エイタスとミーティアは元気してるの?
新婚生活満喫中♪
でしょ?羨ましいー♪」
ゼシカの言葉に、トロデ王は
可愛くテレる
と、言いました。
「それがの…」
「?」
「ワシはもうしばらくしたら、おじいちゃんになるんじゃ…」
「えーっ!!」×2
いい年こいて、激しく可愛くテレながらトロデ王が話すところによると、ミーティア姫はただ今妊娠三ヶ月ということでした。
トロデ王は孫が生まれて一息ついたら、ミーティア姫に王位を譲ってもいいかなと思い、とりあえず、エイタスに女王配偶者職務の練習をさせるために、ちょっと城を留守にすることにしたのだそうでした。
「でも、ミーティアも初めての妊娠で大変でしょ?スパルタね、トロちゃんも。」
「うむ、じゃがのう。王様というのは、なかなか大変な仕事なんじゃ。この程度でヘバられては、ワシも可愛いミーティアをエイタスと結婚させた甲斐もないわい。」
「ま、エイタスなら巧くやるだろうさ。あいつ真面目だし、度胸もいいしな。」
「うむうむ、ワシもこれでもあやつを信頼しておるのじゃ…お、ちなみにこの話はまだ二人にはナイショという事になっておる。だから…の?」
いい年こいて、ナイショ♪の仕草がやたらとキュート
なトロデ王に、疲れた心が癒されていくのを感じる二人でした。
「んで、ゼシカよ。本気で妊娠中じゃったりするのか?」
「やっだー!!
(べしっ!!)
まだ早いわよー、トロちゃんのえっちぃ♪だって、ククールはまだ、ウチのお母さんに挨拶して、
ウチに同居してるだけの仲
だものー♪だいたい、ウチのお母さん相手にククールが
『出来ちゃったから、結婚しまーす♪』
なんて言おうものなら、
二秒後には、『ククールだった消し炭』
に成り果ててる上に、まあお母さんは堕胎には反対する人だから、子どもは
生存を許される
だろうけど、その子が大きくなって
『お父さんは?』
って聞こうものなら、穏やかな笑顔で
『まあ、この子ったら。
赤ちゃんは、女神のお使いのはぐれメタルがお母さんのおなかに運んでくるのよ。』
って言って、
ククールは、その存在すら子どもに伝えてもらえない
に決まってるわよー♪ね、ククール?」
ククールは、
色々と思い出して、体内の血が音を立てて引いていく
のを感じ、色々無知だった自分に
避妊方法含めいろいろと、手取り足取りナニ取り教えてくれた
礼拝先の奥様方に、
女神の限りないご加護
を祈りました。
「ほうほう、ワシもちょっぴりデリカシーのない事を聞いてしまったのう。」
「ううん、ある意味命拾いしたかも、オレ…」
「しかし、なら何故さっさと結婚せんのじゃ?おぬしらは好きあっておるし、そりゃゼシカの母上も最初は反対なさるかもしれんが、これだけの時間があれば説得も出来ておるじゃろ。なんの障害もない、おうおう、万が一
おぬしの行方知れずの兄がのこのこと顔でも出さん
限りは…」
!!??
二人は顔を見合わせると、ククールがトロデ王をひっつかんで、人気のない荒野までルーラを唱えました。
「な、なんじゃいなんじゃい…まさか
ワシが可愛いから、猥褻目的の誘拐じゃなか…」
「トロデ王…トロデーンにも“アレ”来てた?」
「は?アレ?」
「あれよ、アレ!!あいつの指名手配書よ!!」
さすが自称“ずのうめいせき”なトロデ王、それでピンと来ました。
「おお、マルチェロの指名手配書じゃな?おう、確かに来ておる。じゃから、まだ捕まってはおらんようじゃの…それがどうかしたのか?」
ククールは、
ずい
と、トロデ王に顔を近づけます。
「な、それでさ。トロデ王は、逮捕のために領内探索とかしたワケ?」
「ん、そりゃあワシも王さまじゃからのう。領民の安全のためにゃ、やらねばなるまいと思うて、行ったぞい。まあ、見付からんかったがのう。」
「じゃあさ、もし見付かったら…トロデ王は、兄貴を法王庁に引き渡したのかい?」
「うーん、一応、王としてはそうせねばなるまいが…ククールよ、まさかおぬし、兄の居場所を知っておるのか?」
「知ってたとしたら…どうする?」
ククールの表情を見てトロデ王は、うーんと顔をしかめましたが、やがて言いました。
「分かっておる、ワシは王じゃが、王としての義務よりも、父親として娘の幸せを優先させた男じゃ!!おぬしが兄をかくまいたい気持ちもわかる!!何も言わん!!」
ククールは思わずトロデ王に抱きつきました。
「トロデ王…オレ、オレ
初めてあんたの事、ソンケーしたよッ!!」
「はっはっは…
初めてとは何じゃい、初めてとはっ!!」
トロデ王はちょっぴり怒りましたが、やがて真面目な顔になると言いました。
「じゃがの、条件がある。」
「なになに!?ゼシカのぱふぱふ!?」
ククールがどつかれているのを見ながら、トロデ王はシリアス顔で続けます。
「ワシはトロデーンの王じゃから、領民の安全を守る義務がある。じゃから、危険人物を野放しにする事は出来ん。」
「兄貴はもう、危険人物じゃないよ!!」
「そうよ、今は危険人物じなくただの電波よ!!」
「いや、電波は充分危険じゃと思うが…ともかく、居場所を知っておるのなら会わせろ!!」
「…兄貴に?」
ククールは激しく嫌だと言いたかったのですが、
「ワシがこの目で見て、判断する!!」
とまで言われては、嫌とは言えません。
そして二人は、トロデ王を連れて、リーザス村に飛びました。
お屋敷に戻ると、ちょうどアローザ奥様がいました。
「あら、お客様?」
アローザ奥様は、少し不思議そうです。
「うんお母さん、紹介するわ。この人が、あたしたちの旅の間ずっと一緒だった…」
アローザ奥様は、さすが聡明な方でした。
最上級の礼で跪くと、
「ご尊顔を拝すの栄に浴し、光栄でございます、トロデーン国トロデ国王陛下」
と、素性まで見抜いたのでした。
「ほっほーう、ご慧眼ですな、お母上。いかにも、ワシがトロデーンのトロデ王じゃ。しかし、紹介もナシに一目で見抜かれるとは…
やはり身はやつしても、国王オーラがバシバシ出てしまうかのう、はっはっは…」
ゼシカとククールは、なんで分かったんだろうと思いましたが、そういえば、旅の話をしていた際に
トロデ王はカエルにそっくりなのよ
と言った事があるのを思い出しました。
「では陛下、このようなあばらやにお越しくださり、真に恐縮の念に耐えませんが、せめてものおもてなしを…これ、お客様にお茶をお出しして。」
「いやあ、はっはっはー、お忍びじゃから、
いくら見たら王様と分かってしまう
にしても“陛下”はよしてくださらんか。可愛く“トロちゃん”と…」
二人は、
これは言わない約束にしようねっ♪
と目と目でうなずき合いました。