ワルい子




このシリーズでは、オリキャラの半分くらいしか出番の無いククールが急に哀れになったので、書いてみる気になったククール話。
でも、アホククも可哀相ククも書き飽きたので、たまには「ワルい子」なククを書いてみようと思います、はい。

ホモくはありませんが、いろいろいろとインモラルではありますよ、はい。





















オレのドーテイ喪失話にゃ、ロマンもドラマも、なぁんもない。




礼拝に行った先の色っぽい未亡人が、お祈りの後でオレに酒を勧めてきた。

何も考えずに飲んだワインは、甘くて、そしてキツかった。



ほわわんとして、

いい気分で、

でも足元がフラついて



ソファーに横になってたら、未亡人がなんやかんやと触ってきて、そして、触る場所がだんだん際どくなって来て




気付いたら、そーゆーコトになってた。








驚いたけど、スゴく気持ちよくて、一回じゃ足んなくて、も一回って言ったら、彼女は言った。






「イヤシいんだから、ワルい子さん。」

そして、も一回と言わず、もっとヤらせてくれた。






そしてオレは、「ワルい子」に開眼した。












すぐにオレは、


オレは女にモテる

って事実に気付いた。



いや、もちろんそれまでも自分の顔の良さは分かってたケドね。

ちょっと可愛い笑顔で笑いかけるだけで、礼拝先の奥様方はすぐにオレをベッドに連れ込んでくれた。

そして、


「オレ、修道院育ちだから、女性に慣れてないんですぅ」

って、ドーテイぶってみたら、



「じゃあ、ワルい子にしたげる」

って、思いっきり、気持ちヨクしてくれた。


そんだけじゃなく、寄付金まで弾んでくれた。






サイコーじゃん。

気持ちヨクて、金まで貰えて



オレはハマった。

ワルい子に、ハマった。











艶のある、バリトン。

聖堂騎士副団長サマのお説教は、


「聞いてるだけでヌレちゃう♪」

って、オレの客も言ってるくらい、なんだかエロっちい。



喋ってる内容は、快楽への耽溺の戒めなのに、な。




オレは、大真面目な顔でお説教を聞きながら、内容なんて耳素通しで、兄貴ばっか眺める。


この人は、動作の一々が優雅で、そしてそれがエロっちい。

媚びてるわけでも、意識してそうしてるワケでもなく、天然なんだろ。


きっと兄貴だって、オレみたくちょっと笑いかけるだけで、女はベッドに誘い込んでくれるに違いない。




「ケド、ドーテイなんだよな。」

オレは、隣にも聞こえないくらい小さい声で呟く。

ちょっとした、嘲りを込めて、呟く。




戒律だかなんだか知らないケド、こんな気持ちイイ事を体験しないなんて、




「お子ちゃまだなあ、兄貴ってば。」

その声はさっきよりちょっと大きかったから、隣にも半分くらい聞こえたかもしれない。













「ねぇ、来ないの。」

オレはベッドの中で、女のそんな囁きを聞いた。


「?ナニが?」

この女とは、もう何回かヤったけど、そん時はもう一発ヤる事でアタマがいっぱいで、女の言葉は半分くらいしか耳に入ってなかった。


「月にいっぺんの、ア、レ。」

それでも反応が薄いオレに、女は仕方なさそうに説明を付け加えた。



「生理が来ないの…ナニが言いたいか、分かるでしょ?」

「は!?」


そういや大人の女には、生理とかいう、月にいっぺん、アソコから血がでるって、よく分かんないモンがあるらしい。

兄貴が、「だから女は不浄だ」って言ってた。


言ってたけど、そういやなんでケガもしてないのに血か出るんだ?

病気の一種かなんかなのかな?




オレがさっぱり状況を理解していないと見るや、女は途端に怖い顔になって言った。




「生理が来ないってコトはね、妊娠してるって事なのっ!!」

「…え?」


オレのアタマは真っ白になる。




女は言った。

「責任とって下さいね、ククール?」
















どうやってマイエラ修道院に戻ったか、よく覚えてない。

けど、寄付金はちゃんと持ってたオレは、若いのにプロ意識をしっかり持った立派な聖堂騎士だと思う。




「御苦労、聖堂騎士ククール。」

副団長サマの声が、いつもより怖い。

だからオレは、視線をまともに合わせられない。


翡翠色の瞳が、オレの内心まで見透かしているような気がした。

オレはだから、逃げるようにその場を離れた。









何が怖かったって…


そりゃ、兄貴にバレるのが怖かった。




聖堂騎士は、騎士誓願を立てる際に、貞潔を誓う。

そりゃ、それを文字通りに守ってるヤツばっかじゃねーけど、それでも、女を妊娠させちまったなんてバレたら…



間違いなく、聖堂騎士をクビになっちまう。




オレは、この修道院を追い出される恐怖に怯えた。

五歳の時に両親が死んで、この修道院へやられて、オレの世界はここだけなんだ。

それなのに、ここを追い出されたら。


ああ、そしてオレを追い出すのは、他の誰でもない、オレのたった一人の兄貴なんだ…




兄貴のあの翡翠色の瞳は、オレを追い出すことになんの抵抗も感じないだろう。

絶対正義のような峻厳さで、

でも、瞳の奥底に残忍な喜びを抱いて、



「オレ、他に行く場所なんでないんだ、兄貴、オレはワルい子だけど、オレを追い出さないでっ!!!」









「見張り番で寝ぼけるのは、頂けませんね、ククール。」

気付いたら、辺りは真っ暗で、そしてオレはマイエラ修道院の入り口の門に立ってた。




「アントニオ、オレ…」

同僚のアントニオは、オレの顔をじっと見詰めた。


「さっきから、何を言っても上の空だと思っていましたが…何か心配事でも?」

オレは別にこいつとは仲良くない。

つーか、兄貴と親しいらしいこいつとはほとんど接点がない。

うかつに何かを喋ったら、兄貴にバレ…



「ご心配なく。君とは今まで仲良くする機会はありませんでしたが、同じ聖堂騎士として、悩み事には相談に乗りますよ。」


にこっ

と、笑顔が向けられた。


信用ならない。

オレは直感した。


オレは、悪い直感だけはよく当たるんだ。


けど、オレはこうも直感した。




でも、”今の事態を何とか”はしてくれそうだ。






オレは躊躇ったが、とりあえず目先のことを何とかするのが先だった。

副団長どのには言わないで

と前置きして、オレは言った。




「客の女を、妊娠させちまったかもしれないんだ。」




その時、アントニオは、なんだか楽しそうに笑った。












「してませんでしたよ。」

例の女のトコへ、「出張礼拝」の名目で行き、戻ってくるなり、アントニオは言った。



「それマジ!?ウソとかじゃなく?」

「ええ、こんなつまらないウソをついてどうなると言うんです。」


そしてアントニオは、妊娠初期の首筋の腫れがどーとか、生理周期がどーとか、色々言ったけど、オレにはよく分からなかったし、理解する気もあんまなかった。

ただ、これでマイエラ修道院を追い出されずに済んだと思い、


ただ、


ホッ

とした。




「あのご婦人は、前もこんな事を言い出していましてね。ああいう常習犯には気をつけなさいな。」

そしてアントニオは、オレの瞳を覗き込んだ。


「”マルチェロ副団長殿に”叱られたくなければ、ね。」

そう言うアントニオの顔は(オレにゃトーゼン負けるけど)美形だったんだけど…


なんか…


イヤな顔をしていた。




オレの良心は、「こいつにあんまり関わるな」って言ってたんだけど、でも、アントニオの次の言葉が、オレにはとても魅力的だった。





「”もっと上手いやり方”を、教えてあげましょうか?」





そしてオレはアントニオに、女のカラダについての色々について教わった。


女の生理とか、妊娠の仕組みとか、避妊のやり方とか…堕胎とか。




「でもアントニオ、、『母親の腹に身ごもられた瞬間から、胎児には魂があるものと看做す』って第…何回かは忘れたけど、法王教書で出されてるよな?それって、ワルい事じゃねえの?」

「ええ、もちろん。」

含み笑うアントニオ。


「立派な殺人ですよ”公然となったなら”死刑になってもおかしくないくらいの、ね?」

「なら…」

「”公然とならなければ”誰も罰せませんよ。どこの女子修道院でも、庭は胎児や新生児の白骨でいっぱいです。でも彼女らは女神に祈っている…」

「女神さまは、お怒りにならないのか?」

「さあて、お怒りの天罰が雷の形となって下ったという話は、とんと聞きませんね。」

「…」

オレたちは、”女神の僕”

だのに、アントニオの言い草はまるで…




「ま、いざとなったらそういう手段もあるということですよ。ですがまあ、最初から作るつもりはないなら、出来ないにこしたことはない。我々は女神の花婿、聖堂騎士ですからね。俗界の女性と婚姻は結べない。婚姻の外に生まれた子どもは”悪魔の子”となってしまう…生まれながらに女神の恩寵から離れてしまった、でも、女神に反逆する事が可能な者に…」

アントニオの言い草は、とてもオレには不快だった。

なんか、オレが兄貴の弟だって知ってて、いたぶってるみてーな言い草じゃんな。




オレはだから、ここでアントニオの話を聞くのを止めることだって出来たけど、アントニオはまた見透かしたようにこう言った。




「と、まあ。理論はここまでにしましょうか。さて、今まで教えてあげたことを”実践”出来るようになりたくありませんか?」

「…」




拒絶出来ないオレ。


兄貴にバレて追い出されるのは怖いけど、バレなくて済むなら、あの”気持ちイイ”をまだまだ体験したいオレ。

アントニオのことは信用できねーけど、その言うことに魅力は感じるオレ。




ふふん

アントニオは笑った。


鼻で笑った。




「ワルい子、なら、ワルい子なりに、上手くやればいいんですよ。」


それで誰が傷つくと言うんです?



アントニオは、悪魔みてーに囁いた。









ああ、そうだな。

今までイイ子だったけど、どうせ兄貴は褒めるどころか、目すらくれてくんなかった。



だからオレはワルい子でいよう。









楽しいじゃん、ワルい子!!




















「あら、アントニオ。本当にキレイな子を連れてきたわね。」

そう言ったのは、一見地味ーなお姉さんだった。

どっかの貴族のお屋敷に仕えてる侍女ってカンジの、お姉さん。



「紹介しますね、彼女の名前はエマ。」

先にお姉さんを紹介されて、いちおー騎士なオレは、慌てて自己紹介する。


「なーアントニオ、”実践”って、もしかしてこのお姉さんと…」

オレが問うと、アントニオの代わりにエマさんが頷いた。


もしかして、このお姉さんは、あんまりそれっぽくないけど「娼婦」とかいうお仕事の人か?

オレはまだ、その手の女とはヤった事がない。

けど、聖堂騎士とか、修道士とかが、たまに話してる。

そして


兄貴のお説教では、そのお仕事の女に対する罵倒が、さんざ出てくるので、オレはそういうお仕事の女にゃ、けっこう偏見バリバリだし、なんかビョーキとか怖いから、ヤリたくないんだけど…


「もしかして、ワタシのこと、『娼婦』だとか思ってる?」

やっぱり顔に出たらしく、エマさんが言った。


「え、なんつーかその…」

「いやねえ、ワタシ、お金をいくら積まれたって…あんまりすごい大金を積まれたらちょっと自信ないけれど…嫌いな人とエッチするような女じゃないのよ?」

そしてエマさんは、なんかエロっちい目でオレの目を見る。


このお姉さん、見た目は地味だけど、仕草とかなんかエロい。



「アナタとは初対面だけど、ワタシ、キレイな子は大好きなの。よろしくね。」

エマさんのそのスマイルを受けた頃には、もうアントニオはいなかった。






部屋は、地味だった。

エマさんもさすがにすぐにベッドには引き込まず、椅子を勧めて、飲み物を出してくれた。



「緊張しなくていいのよ。別に、強制するわけではないし、ワタシも、いくらキレイな子が好きとはいえ、さすがに見た瞬間襲い掛かるほど餓えてないからね。」

お茶菓子まで出てくる。


ちょっとした、雑談モードになった。




「でもエマさん、『娼婦』じゃないんだとしたら、どうしてオレに”実践”とかしてくれるワケ?オレとは、まるで初対面なのに。」

「あら、可愛い騎士サマ。礼拝先の”初対面”の奥様方とは”実践”してないの?」

「だってアレは仕事だし。エマさんは仕事じゃないんだろ?」

エマさんは、アーモンドのクッキーを摘んだ。


「そうね、まあボランティアみたいなものかな。何より、アントニオの頼みだしね。」

「エマさんて、アントニオの…コレ?」

オレは、ちょっと通ぶって、小指をちらちらさせてみる。


エマさんは、笑った。



「自分のカノジョに若い男を紹介する人と付き合うような趣味の悪さはないわよ。」

「じゃ、アントニオとは?」


エマさんは、ちょっと考えてから言った。


「師匠と弟子、かな。アントニオの方が年下なんだけど、ま、あの人のおかげで体売らずに済んだ恩もあるしね。」


エマさんは割と話し好きらしく、オレはしばらくの間、エマさんが田舎から出てきて、男に騙されて一文無しになり、体を売る寸前まで追い詰められたところで、アントニオに「救われた」という一部始終を拝聴することになった。


どうやら、アントニオも聖堂騎士らしく人助けくらいはしたことがあるらしい。




「じゃあエマさん、なら今、エマさんはどんなお仕事をしてるの?」

エマさんは、もう一度笑った。



「貴族サマの、侍女。」

「なんだ、見たままじゃん。」

オレは、予想通りすぎてちょっちつまんなかったけど、エマさんは続ける。


「でも、通い。しかも、いろんなトコに通ってるの。」

「…貴族サマの、通いの愛人とか?」

ソレって娼婦と変わらねーじゃん。前に「高級」ってつくだけで。



「勝手に早合点しないでね。ワタシが仕えてるのは、殿様の方じゃなくて、奥様方の方だから。それにワタシ、高級娼婦になれるほど器用でも、教養があるわけでもないし、なにより顔がイマイチだから。」

「そんなコトねーよ、エマさん美人だよ。」

「アリガト。」

エマさんはそう言うと、オレにしだれかかってきた。




「じゃ、そろそろ本題に入りましょうか。その前に問題、じゃあ、ワタシが奥様方にする『仕事』って何でしょう?」

オレはいろいろ答えたけど、本気で正解する気はあんまなかったし、エマさんにも当てさせる気はなさそうだった。




「時間切れー。じゃあ正解ね、ワタシのお仕事は『シアワセ』を奥様方に差し上げること。つまり、アナタ方聖堂騎士と一緒ね。」

「『シアワセ』?」

オレも子どもじゃねーから、オレたちが奥様方に(売って)差し上げてる「シアワセ」が何かってのは分かる。

分かるけど…


「エマさんって、女じゃん?」

オレの言葉に、エマさんの瞳が、更に妖しげになる。



「男が女に出来て、女が女に出来ないコトなんて、子どもを仕込むことだけよ。後は、女の方が、女のコトをよく知ってるモンよ?」

「…それって…」


オレは、兄貴のお説教で言う「同性愛」という言葉を思い出す。

女神様に叱られることだ…修道院内でもよくあるコトだけど、でもアレは野郎同士だしな、悪いとかいう以前に、基本、汚らしい。。



オレは、エマさんと貴族の奥様が、「そーゆーコト」をしている光景がアタマに浮かんで、ドキドキした上に、股に来た。




「もっとも、ワタシのは、アントニオにほっとんどを教えてもらったから、あんまり説得力ないんだけど。でもおかげで、どこの奥様方にも重宝してもらってるし、お給金も弾んで貰えてるのよ。」

「アントニオに?なんでまた?」

「知らない。年下なのに…あの人に最初に会った時なんて、あの人、十代も半ばよ?…やったらと詳しいのよ、びっくりしたわ。よっぽど女遊びしてたのかしらね、騎士サマなのに。」

オレは、ちょっとまたアントニオにうさんくさいものを感じたが、それはそれとして、股に来たモノが、さらにキてる事の方が重要だった。




「ともかく、ベッドに行きましょ?」

すぐさまベッドでコトに及ぼうとしたオレだったが、やんわりと制された。



「ダメダメ、まずは脱がせるトコからきちんとしないと。ガツガツしてばっかりだと、女はすぐに飽きてしまうのよ?」

オレは、その”特別授業”をしっかりと受けるために、まずは「正しい脱がせ方講座」から受けることになった。




エマさんの体は、脱いだほうがスゴい、エロいボディだった。












「…よしよし、ちゃんと外に出せたわね。」

オレが、エマさんのおへそ(ちなみに、ソコもかなりキュートだった)に瀉すと、エマさんはそう言って褒めてくれた。



「いい?奥様方が一番怖がるのは、妊娠なんだからね。きちんと考えなきゃダメよ?危ない日はきちんと外すとか、あと、”お帽子”をきちんと使うとか。」

「”お帽子”?」

エマさんが言うには、ナニに被せる、羊の腸を薄くなめしたものを”お坊さまのお帽子”と言うのだとか。


「ほら、お坊さまが”女友達”とナニする時に使うから…なんだって。それさえ付けてしまえば、中で瀉してしまっても平気でしょう?」

「オレ、ンなモン見たことねー。」

「そうね、結構高いからね。」

「それに、なんか感触悪そう。」


コトの後でも、エマさんはきちんと「復習」させてくれた。



「これだけ出来れば、もっと安全に寄付金も頂けるわよ。」

「でもよ、だったらエマさんの『お仕事』が繁盛しなくなるぜ?」

「いいのよ、きちんと住み分けは出来てるんだから…」

エマさんの含み笑いに、オレはなんとなく、彼女とアントニオの”共生関係”を読み取った…気がした。





「またエッチしてくれる?」

オレが聞くと、エマさんは、手のひらを、ひらひらと振った。


「じゃあ、今日の『講座』を元に、お仕事頑張ってね、可愛いキレイな生徒さん。」


オレは、即座にフラれた。





外に出ると、アントニオが戻ってきたところだった。

今日は、出張礼拝に行くって口実になってたから、アントニオはきちんと『お仕事』をこなしてたんだろ。





「どうです、”実践”は上手くいきましたか?」

「ああ、バッチリ。」

でも、そんだけで終わらせるのは、なんかこいつの手のひらの上で転がされてるようで面白くなかったので、付け加える。


「なあ、アントニオ。エマさんとは何回ヤッたの?」

アントニオは、微笑んだまま答えない。


「なー、エマさんいい女じゃん。何回ヤッたのか、教えてくれたっていいじゃん?」

やっぱりアントニオは答えない。



オレはムカつく。


「なー、アントニオ。あんたってマジ上手なんだってな。どうやって身に着けたの?やっぱ、女とヤりまくって?」

それでも返答しないアントニオに、オレはもっとムカついた。


「女のコトは女のほうがもっとよく知ってるらしいからな。あんた、男相手に『女役』とかしてるワケ?はは、確かに女装したらそのまま高級娼婦でイケそうだもんな。」

「ま、とりあえず。」

アントニオがようやく口を開いたので、オレはちょっと身構えた。



「今の台詞、そっくりそのままお返ししときましょうか。”銀髪の女神のように美しい”ククール。紹介して欲しければ、そっちの方が好きな人を、いくらでも紹介出来ますよ?」

「…」


オレはやっぱり、こいつが嫌いだ。




けど、役に立つことは、よく分かった。









修行を積んだオレは、更に「売れっ子」になった。


聖堂騎士になったばっかなのに、寄付金集めの実績は超・優秀で、聖堂騎士団長からのお褒めの言葉も頂いた。




副団長ドノからは、一っ言もなかったケドな。




もちろん、ソレばっかやってたワケじゃない。

オレの剣の腕だって、相当なモンだよ。

少なくとも同期じゃ、オレに敵うヤツなんていなかった。









聖堂騎士副団長マルチェロどのの、剣術のお稽古の番が、ウチの隊に回って来た。




「この隊で、一番腕の立つのは誰かね?」

その答えに、オレの名が上げられると、副団長ドノは、


なんだ貴様か

ってえ冷たい視線でオレを見た。


見たが、だからと言って拒否ったワケじゃなかった。






オレは、剣を抜く。

うん、真剣。



聖堂騎士の稽古は、結構、真剣を使う時もある。

いざとなりゃ、みんな回復呪文を唱えられるってのもあるから。




それでも、副団長ドノのお稽古は、


”十人は一撃で殺されてる”

って名高い代物だった。



もっともご当人曰く

「”まだ”殺し”ては”いない」

らしいケド。










副団長ドノも抜く。

優美だけど、一切の隙のない動作。




この人は強い。

本当に、強い。





「よろしくお願いしますっ!!」

オレは、その声と同時に、突っ込んでいた。







最初は、副団長ドノは様子見。

だけど、オレは精一杯。

一瞬でも気を抜くと、マジ死ぬ。




「意外と保つな。」

ぽつり

と、兄貴が言った。



褒められた!?

オレの心臓は、嬉しすぎて、バクバクする。


だから、兄貴の顔を覗いたが、そこにあったのは、




「カラダを売っている男とは思えん。」


冷笑。





オレの気が、抜ける。

そこを、兄貴は情け容赦なく、突いた。





まともに、腕を抜けた。











「マルチェロ副団長!?」

周りの騎士達が騒ぐ。



やりすぎです。

大丈夫か、ククール。



そんな声が聞こえてくる。




オレは反射的にホイミを唱えたが、それで塞がるほどの傷じゃなかった。


脳天突き抜けるほど、痛い。






オレは、腕を押さえて、兄貴を見上げる。

いくら鬼の異名を持つこの人とはいえ、ちょっとやり過ぎだ。

オレの傷を癒してくれたって、「聖堂騎士副団長として」おかしくはないだろう。


そんな気持を込めて、恨めしげに見上げる。




「…」

その視線を感じたのか、兄貴はオレの側に歩み寄る。


「あに…」

オレの傍らにかがみ込んだ兄貴に、思わずオレはそう呼びかける。



「貴様と半分でも血がつながっているかと思うと、ゾッとする。」

兄貴は、囁くようにオレに言葉をぶつけた。


「女神に貞潔を誓いながら、女に色を売る、汚らわしい男妾め。貴様がどうやって寄付金を集めているのか、私が知らないとでも思ったか?」


オレの目には、涙くらい滲んでいた…かもしれない。


「貴様の爛れた倫理観は、あの悪魔と呼ばれた父親そっくりだ。忌まわしい淫獣め。私の剣が貴様の心臓を貫かなかったのを有り難いと思え。」




オレに、手すら触れなかった。

オレは、兄貴にとって触れることすら拒みたい存在なのだ。




「”誰か”回復してやれ。腕に傷を負った騎士など、飯炊きの用にも立たんからな。」

言い捨てて去る「副団長ドノ」。




ホイミは”誰か”によって唱えられたが、オレには痛みが残った。














オレは、ざーとらしく腕に包帯を巻いたままだった。



「稽古で怪我をしちゃったんですぅ。」

そう言うと、みんな労りの言葉をくれた。


「可哀相に、痛かったでしょう。」

礼拝先の奥様方は、そう言ってオレの腕にキスしてくれた。


さらに、オレが寄付金貰いに言ってるのに、オレがマグロでも大サービスしてくれた。






なんだ、怪我人、サイコーじゃん!!










痛い、ケド。












オレは、とある”かなりマニア”と評判の金持ちの未亡人の家に、アントニオと二人”ご指名”された。



オレは、心からアントニオとは喋りたくなかったが、仕事とあれば仕方ねー。




邸に行くと、神妙でそ知らぬ「忠実な侍女」な顔をしたエマさんが、オレとアントニオを案内してくれた。



そーゆーコト、らしい。




「まあー、アントニオ、また来てくれたのね。」

未亡人は、昔はたいそうな美人…だったらしい、そろそろ五十近いオバサンだった。

育ちがいいクセに、下卑とギリギリラインの色気を振りまく。


もっとも、スタイルは良かったから、そこはマシだった。




「貴婦人様には御機嫌麗しゅう。またお会いできて光栄です。」

アントニオが、礼儀正しく挨拶する。


未亡人は、今度はオレに秋波をビンビンに送る。



「それにしても、本当にきれいな子ね。ククール、こちらへいらっしゃい。」

近寄ると未亡人は、オレの顔をまさぐる。


「本当に、大理石みたいなシミ一つないお肌ですこと。若いっていいわねえ。」

「貴婦人様も、凝脂のような艶かしい御膚でいらっしゃいますよ。」

こう言ったのはアントニオ。



もういいから、はやくヤるならヤろうよ。

あんま好みじゃないけど、仕事だからガマンするからさ。


しかし、二人呼んだってコトは、3P?

マジ?オレ、それはさすがに初体験なんだけど…



「ねえ、可愛い子、オバサンの趣味を教えてあげるわ。オバサンね、見られてないと、ダメなのよ。」

硬直。



未亡人は、アントニオを振り向く。

「ねえ、アントニオ。ちょっと変態かしら?」

「いえいえ、獣と違い、人の行為は文化ですから。」

アントニオが何を言ってんだかはかなり分からなかったけど、お愛想なのだけは分かった。



未亡人は、鼻の穴を膨らませる。


「ああ、こんなに可愛い若い子に見られながらなんて、想像するだけで興奮するわー。」




オレは、反応に困って、思わずアントニオを振り向く。


アントニオが鼻で笑った、気がした。




「では貴婦人様、私がお相手いたしましょう。ええ、貴婦人様のような熟女を相手にするには、ククールではまだ荷が重いでしょうから。」



むっ

オレは軽くプライドを刺激される。


こいつは何なんだ?

前からずっと、オレに嫌がらせをしたいのか?


こーゆーコトにしても、そして




兄貴のコトにしてもっ!!





「痛っ!」

痛んだ。






「あら、ごめんなさい。つい興奮して掴んでしまったのね。可哀相に、怪我をしているの?」

オレは、その言葉に対して、アントニオの前を遮るように進み出る。


「貴婦人様、オレに見られるのもいいでしょうが、オレがお相手するのはもっといいですよ、アントニオより!」

とびきりの、営業スマイル。



未亡人が、


とろん

とした表情になった。




落とした!!





「あーら、そう?」

オレは、ちょっとした勝利感に酔う。

アントニオは薄く笑ったまま。



「なら、侍女殿を御呼びしましょうか。」

「へ?」

けど、オレが何か言う間もなく、エマさんが滑るように入ってきた。







スカートさえまくり上げちまえば、目的地はすぐ目の前。

オレはそこを唇と舌でクンニしながら、そっと上目遣いでエマさんを見る。


手馴れた捌きで、未亡人のおっぱいを愛撫する彼女。



こーゆー3pもあるのか。




「ああん、イイわ、坊や、本当に上手ね。」

そう言って未亡人は”最後”を急かすけど、困ったことにオレのアレは、まだそんなに勃ってない。


未亡人は気付いてねーけど、見てるアントニオの目が、冷たすぎるどっかの誰かの目に見えちまって…


勃たない。




「仕方ないわねー。」

エマさんが小声で呟くと、


ぺろん

と、おっぱいを出してくれた。



ぱふぱふ




「どう?元気出た?」

「…ああ…」




四の五の考えたって、仕方ないじゃんな。

とりあえず、目先の気持ちよさに立ち向かうってモンさ。






絶頂の瞬間、また、オレは痛みを感じた。












寄付金は弾んでもらった。

聖堂騎士団長からはお褒めの言葉を頂いた。


すげえ疲労したオレが宿舎に戻ろうとする途中、アントニオと歩く副団長ドノの姿を見た。






翡翠色の、冷笑。




オレはそれで、またダメージを食らった。

















オレは、可憐で美しい貴族令嬢の告解を受ける。

ピアノ教師かなんかと、「あやまち」を犯してしまったが、女神サマは許してくださるかという、涙ながらの訴え。



「お嬢さん、彼との”あやまち”は、どのように為されたんですか?」

オレは、問う。


令嬢は、顔を真っ赤にして、答えられない。

それは構わず、近寄って彼女の体に無遠慮に触れる。


「こうですか?それともこう!?」

「いえ、そんな…」

彼女は半分くらい抵抗するけど、オレは止めない。


叫ばれたら、止めたけどね、後が面倒だし。




そうされなかったので、結局、最後までいった。






もうすぐお嫁に行くのに、処女を失っただけじゃなく、二度目もこんなことに…

彼女は泣きながら、でも、オレに縋るような、少しうっとりした目で見上げる。



そうだよな、オレ、すげえ美青年だもん、一回ヤっただけで、世間知らずのおぜうさまなら、恋に落ちちまうよな。




「御心配なく。」

オレは、にっこり笑って言う。


「処女でないとバレない、いい方法を知ってるんですよ。」

令嬢の顔が、喜びに紅潮する。


そう、この娘だって、女神様のお怒りより、未来のダンナにバレることの方が怖かったに決まってるんだ。




オレはそれを詳しく教えてあげて、最後に付け加える。

「一度罪を犯してしまえば、二度も三度も同じですよ。」

そして、彼女にキスする。


「バレなきゃいいんですよ、バレなきゃ。」

もう今度は拒まない、令嬢の腰を抱き寄せる。



「それに、バレちまったところで…」





「痛っ!!」

え?

驚きの表情をみせる彼女に、首を振って見せる。










オレは上手くやってる。

オレは寄付金を集められるし、奥様方は喜んで払っている。

オレは気持良いし、奥様方は満足している。


誰も傷ついちゃいねーんだ、女神さまが怒るかよ。








もう、傷は治ってるはずなのに、まだ痛い。

なんだよ、なんで痛いんだよ。



バレたから何だって言うんだ?

オレがどんなにいい子ちゃんにしてたって、どーせ兄貴はなんか口実を見つけては、オレに侮蔑の言葉を浴びせたさ。


クソ童貞!!

自分一人だけ、純粋で清らかな顔しやがって!!



あんたなんか傷つけばいい!

汚されちまえばいい!!




オレよりも、オレの何倍もずっと!!












オレは、だんだん酷くなる痛みを忘れるために、彼女を痛いほど犯した。

酷く、汚した。






2008/7/13




一言感想「爛れた青春」

コレは裏に載せるべきだったかと思わないでもないんですが、「実際に出し入れするホモ」でも「母子相姦」でもないので、表に一応。
ククールの設定年齢15,6。人生で一番ヤりたい盛りの男の子が、ヤりたい放題している話…なのに、結局「カワイそう話」になってしまったのはなんでなのだろう?

結局、コレはホモ話ではないんですが、何をしててもナニしてても、ククールはマルチェロのことしか考えられないという、世にもホモ近親相姦な心理状況にあるんですな。
さて、こうして「遊び人スキル」を叩き上げたククールですが、この後で彼は地獄を見ます。
曰く「超美形のエッチが上手い男が、本気で恋をするはずがない」という Give Me Chocolate of Love で語られる、フラれ地獄に陥るわけです。
人の心を弄んで、報いが来ない筈がないんだよ、ククール?

さて、と言ったら、もっと人の心を弄んでいるアントニオですが…書いてて思いました、病んでるな、こいつ。




童貞聖者 一覧へ inserted by FC2 system