「谷間の百合」の続き。
という訳で、聖地ゴルドの大神殿に来る権利を“体を張って”手に入れた団長は?って話です。
表に置いてる程度ですが
ニノマル
なんでご注意♪
聖地ゴルドの大神殿。
法王だけが昇ることを許される、法王即位式に用いる演台は、とてつもなく高く感じられた。
今回の“高位聖職者会議”に、私、マイエラ修道院院長、兼、聖堂騎士団長マルチェロは、“思い出したくも無い尽力”の末に、ようやく列席を許された。
それも、“高位聖職者の警護も兼任す”という名目つきで。
演台の遥か下の席が、今回の会議の場。
サヴェッラに集う雲霞のごとき聖職者の中でも、えり抜きの高位聖職者しか出席を許されない会議。
私は、そんな“徳高き”聖職者の幾人からの、卑猥で好色な視線を浴び、心の中で幾度、そいつの心臓を貫く事を想像したか知れない。
表面上は涼しい表情を保っていたが、私は、激しい腰痛に朝から苦しめられていた。
警護が迷惑なのをこれ幸いと、配下の聖堂騎士に指示を与える…振りをして、席を立つ。
座り続けていると、ますます腰の痛みが増す。
「いかがなさったのでありましょうか、マルチェロ団長殿?」
小声で、聖堂騎士カルロが問うが、どうもこうも、返答できるような理由ではない。
「大神殿内部で、無駄口を叩くな。」
私が言うと、カルロは口を引き結んだ。
私は、こっそりと伸びをしながら、女神を仰ぐ。
紺碧の空に聳え立つ、穢れ無き女神。
そして、その女神に限りなく近付くことを許されるのは、高い演台の上の法王のみ。
高みにある、女神も、法王も、地にある私のような者は、地を這う虫けら程度にしか、見えていないのだ…
会議は終わり、高位聖職者のお歴々は、大神殿の入口から外へ出る。
意味ありげなにやにや笑いを示してくる輩に、完璧な礼儀で応じながら、私は耐える。
「おおマルチェロ殿、お役目ご苦労。」
ドーリア大司教が、大げさに労うのに、私は完璧な礼儀と完璧な口調で
「恐縮です。」
と答えた。
一同が退席すると、ニノ大司教が私を待っていた。
「議事のお役目、お疲れ様です。」
儀礼上、私がそう声をかけると、大司教は言った。
「なあに、そなた程ではないよ、マルチェロ。“昨晩は”大変じゃったようで…」
そして、私の臀部を撫でた。
怒りで腸が再び煮えくり返りそうなのを押し隠し、それでも押し隠せない憤懣を、私はこの小男にぶつけた。
「大司教…お戯れが少々過ぎたのではありませんか?」
「おやあ、儂はそなたに特に何もしておらんよ。そなたが“紹介状が欲しい”と言うたから、書いてやっただけではないか、のう?」
警護する体勢で、余人に会話が届かないように出口へと向かいながら、私は怒りが言葉に滲み出た。
「しかしっ…!」
大神殿の扉が開き、うんざりするほど眩しい太陽が、私を照らす。
ニノ大司教は、得体の知れない笑みを顔から消し、私を睨みつけた。
「この聖地ゴルドの大神殿は法王様の即位式を行う、聖なる場所。いくら聖堂騎士団長とはいえ、お前のような“生まれの卑しい者”が立ち入れる場所ではない。」
また出た…“生まれの卑しさ”
私は生まれてから幾度、この言葉で貶められたろう。
「よいか マルチェロ。貴様を“警護役として”連れてきたのはあくまで、特例中の特例。」
そう。
私はそして、いつも“特例”だった…良い意味でも、悪い意味でも。
「……わかっておると思うが“次期法王候補”たるこの私が、法王さまに頼み込んだからなのだぞ。」
このサヴェッラでもそうだ。
私はここでは“異端中の異端”
私は、ニノ大司教のような俗物なしでは、言葉を発する事すら許されない身なのだ。
であるから、昨日のような事をされても、一言の不平も述べられない。
奴等の微妙な権力ゲームに、翻弄されるしかないのだ。
だから私は、こう答える。
「……ええ。存じております。ニノ大司教様。」
大司教は、恩着せがましく続ける。
「お前がその若さでマイエラ修道院の院長になれたのも、私の口ぞえあらばこそ。それを ゆめゆめ忘れるな?」
私が聖堂騎士団長として、マイエラで積み重ねてきた功績も、このニノ大司教をはじめとする“生まれの尊い高貴な方々”の前では、“私の生まれが卑しい”という一事のみで、無にされてしまうのだ。
私の剣は。
私の率いる聖堂騎士たちは。
いつでもこのサヴェッラの無能どころか有害な聖職者どもを皆殺しに出来るだけの力を持つというのにっ!!
「私の感謝と忠誠はのちほど、大司教様のご自宅へ届けさせましょう。」
だが私は、眼前の小男など一瞬で焼き尽くせそうな怒りの炎を宿した瞳を、あえてうやうやしく頭を垂れる事で押し隠した。
「……ちょうど先日、旅の商人が、見事な宝石をわが修道院に寄付いたしまして。」
なぜ?と問うか。
当たり前だ、殺してどうなる。
こいつを…いや、こいつらを殺したとて、私は反逆者になるだけだ。私は、こいつら高位聖職者を殺すだけの正統な名目を何も持ちあわせていないのだ。
こいつらを正統な名目で殺せるのは、“いと高き”法王のみ。
「いつもいつもよく気のつくものよ。うむうむ。 ……じゃがな、マルチェロよ。法王様は、潔癖なお方。あのお方にはそのような手は通用せん。よく覚えておけ。」
潔癖なお方…いと徳高き現法王。
慈愛と慈悲に満ち満ちた、聖者。
私は心の片隅に、現法王への怒りが住み着いたのを感じた。
潔癖…法王が清らかでいられるのは、彼が法王という至高の地位にあるからだ。
そして彼は、その地位において誰からも尊崇されるが、その地位に安住し、この世の“清らかでいられない”者たちに何もしない。
私は、穢された。
幾たびも、穢された。
幾度も、幾通りもの方法で、穢された。
だが、私は、誓う。
必ず、もう誰も私を穢せない高みへ上ってやると…
「ここでの用は済んだ。さあ 帰るぞ。 」
ニノ大司教の言葉にふと我に返ると、忘れがたい、麗しくも忌まわしい青い瞳が、こちらを凝視しているのに気付いた。
私は大司教に非礼を詫び、先に行くように言う。
そして、わが人生の“諸悪の根源”に話しかけた。
「……おやおや。これは珍しい顔に会うものだ。髪の毛ひとすじほども、信仰など持ち合わせていないお前が巡礼に来るとは。ふふん。神頼みか?それとも観光気分か?気楽なものだな。」
隣にいる赤毛の、若い娘としての慎みが余りに欠けた服装をした娘…確か、ゼシカとか言ったが、が、不快そうに顔を歪めた。
「…………。」
そして青い瞳の男も、みるみる不機嫌そうになる。
ふん、修道院を追い出された分際で、女連れで聖地巡礼とは、本当にいい身分だ。
修道院に残り、修道院の発展に貢献した私が、どこまでの目にあっているなど、まるで知らない…
貴様の父親のせいで、私が今でもどれほど苦しめられているかなど、こいつは知りもしないのだ!!
血が繋がっていると考えることすら忌まわしい異母弟の、不機嫌に歪められてすら、なお秀麗な顔を見ていると、弟の母親の事を思い出した。
ああ、彼女は美しく、そして毅然としていた。
そんな彼女が、悪魔のような男に犯され、孕んだのがこいつだ!!
そうだ、こいつだ。こいつが全て悪いのだ。
こいつさえいなければ私は…
殺意すら覚えた私だが、廉恥に欠けた格好をした娘の横にいる青年の、冷静な黒い瞳が目に入り、ようやく衝動を収めた。
「……まあいい。私も忙しい身でね。お前なぞに構っている隙はない。」
まったく、うっかりククールなぞ見てしまったから、危うく聖地を血で穢すところだった。
そんな事をすれば、今まで私が積み重ねてきた困苦が水の泡だ。
まったくこの男は、どこにいても私の神経を逆なでし、私の人生を負の方向へ導く。
私は冷静に、そして、笑みすら浮かべてやった。
「では みなさま。ごきげんよう。」
そして、優美に一礼してやる。
「物見遊山もよろしいが、ドルマゲスを追う旅もどうぞお忘れなく。」
そうだ。
奴は院長の仇も討たずに、こんな所でへらへらと物見遊山をしているのだ。
奴には、“育ての親に対する恩”というものを感じる神経がないのか!?
心底忌まわしい…ククールめ…
“悪魔の子”なのは、私ではなく、女好きなのも博奕好きなのも、父親の悪魔に似た貴様だろうが…
私は、心中に燃え広がった怒りを押し隠し、ゴルドの屋敷の地下に設えられた大司教の宿を訪れる。
「おお、早かったのう。で、あの赤い制服を着た聖堂騎士に、なんの用じゃったのか?」
「…躾のなっていないロクデナシに、少々、説諭を垂れていたのです…ご無礼の段、平にお許しください。」
私が頭を下げると、ニノ大司教は笑い声を上げた。
「はっはっは、そうかそうか。…いやあ、働き者じゃのう、そなたは。」
言いながら、また、私の腰を撫でるのにも、私は黙って耐える。
「ふふん…先ほどはつい、ああキツイ物言いをしてしまったがの。儂も少し、ドーリアを調子に乗らせて悪かったと思っておるんじゃぞ?」
「…恐縮です。」
「じゃが、まあいい勉強になったろう。」
大司教は、もっと露骨な部分に手を這わせながら続ける。
「いいか、マルチェロ。世俗の世界では、貴族の子は貴族、下賤のものの子は下賤な者で、それが決して違う事はない。…じゃがの。聖界では…まあ名目上とはいえ、聖職にある者は正式に子を儲ける事は出来ん以上、生まれの卑しい者でも、成り上がる事が出来るのじゃ。」
指が、釦を一つ一つ外していく。
「マルチェロよ。お前の生まれは卑しい…じゃがお前には、余人には及びもつかん剣技も、よく回る頭も、そして…魅力的な肉体もある。」
手招きされ、私は仕方なく、寝台に横たわる。
痛めた腰が、ますますその痛みを増すのは分りきってはいるが…
「大神殿の中の、あの演台を見たじゃろう?…今の法王はご高齢、いつご万歳があってもおかしくは無い…その時は、それよ、儂があの演台に上り、新法王として即位の演説を行うのじゃ…」
私の胸をはだけさせた上で、うっとりと語る大司教。
「その時こそマルチェロ、そなたを取り立ててやろう。ああ勿論、そなたが儂の役に立っていれば…の話じゃぞ?その剣で儂の障害を切り裂き、その頭で儲けた金を儂に流し、そして…その肉体で儂を楽しませるのなら、その時は…」
その時は…また、新たに法王になったこの男への隷属の日々が始まるだけの話だ。
私は無感動に、昨日、さんざいたぶられた肉体を、再びいたぶろうとする掌を眺めるだけだった。
終
2006/10/22
一言要約「ええいククール、空が青いのも、海が青いのも、私がここでロクな目にあっていないのも、腰が痛いのも、全部お前のせいだっ!!」
聖地ゴルドの兄弟会話で、わざわざマル兄がククに絡んでくるのはなぜかと、ずっと考えていました。そして、ふっと思いついたのは
「兄貴はたまたま機嫌が悪かったので、ククに八つ当たりをしたのでは?」
という事。マイエラ修道院にいた頃から彼はククでストレス解消をする人だったので、きっとその癖が抜け切れなかったに違いありません。で、なんで機嫌が悪かったかって言うと…ちゅーのが今回の話。
でも、シリアスの筈が、かなりギャグになったなあ…なんでだろ?兄貴の八つ当たりが、本気で八つ当たり以外の何物でも無いからかなあ?
ED後に兄弟が再会して、
「兄貴ー、なんであん時、オレをいぢめたのさー」
って聞いたら、
「すまんなククール、実はな…」
と謝ってあげれば、ククールはきっと“兄の行為は”快く許してくれると思います。ただ、すぐさま剣をとってどこぞへルーラして、
帰ってきたときには、剣と服に血のりがべったり
って事になる覚悟はいりそうですね。
ちなみにタイトル「悪臭を放つ薔薇」っていうのは、ククールが赤薔薇なんで「お前なんか、見た目は綺麗でも腐って悪臭を放ってるわい!!」という兄貴からの嫌がらせの意味が一つ。
もう一つは、これってニンニクの別名なんですよ。ちなみに最近科学的に解明された?ことによると
「ニンニクは、脱毛と精力減退に効く」
らしいです…
「お兄さま、ストレスたまると、髪は抜けるし、ED(勃起障害)にはなるし、ロクな事ないので、ニンニクをモリモリ食べて、髪がフサフサの、精力ビンビンでいてね♪」
というメッセージです。いやあ、夜の生活が激しいみたいだし(笑)
昼に咲きたい夜顔
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